2012年3月13日火曜日

ヴィレッジ・ホームズ(サステイナブル・コミュニティのモデル)

 1973年の石油危機のときに成長の限界が指摘され、その経済環境に応える取り組みは、自己完結型の開発(スモール・イズ・ビューテイフル)と言われた。「緑の宇宙船:地球号」という言葉も登場し、地球資源の有限性を現実問題として認識されるようになった。

 その主張を実践したプロジェクトが、カリフォルニア州サクラメント・カウンテイのデービス市で、マイケル・コルベットが始めた「ビレッジ・ホームズ」であった。
 24ヘクタールに240戸の住宅が建てられ,1982年に完成した。4年間で240戸という驚異的な人気で販売された

(NPO法人信州まちづくり研究会では,平成13年に現地視察を行った。その時,サクラメント市内のコウハウジングや,TND開発で有名なフロリダのシーサイドも視察している)

 マイケル・コルベット氏は,サステイナブル・コミュニティの原則となっている「アワニー原則」(註3)の策定に参加しており,その原則の原型がここにある。


 この開発の目的を次のように述べている。
第1 生態学的に持続的に存在可能なコミュニティ(Ecological Sustainable Community)の建設。快適な人間の暮しと豊かな自然との共存をめざし,自然と人間とがより密接に係わりを持てるようなコミュニティをつくる。


第2 強いコミュニティ(A Strong Community)の建設。住民が自分が住んでいる地域に対して強い一体感と帰属意識がもてるようなコミュニティをつくる。連帯感を持ち,犯罪を抑制するコミュニティをつくる。このためのいろんな工夫がされている。


(註3:アワニー原則:1991年,ピーター・カルソープ他5人が作り,ホテルアワニーで発表された町づくりの原則。


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 この開発にはニューアーバニズムの考え方が採用されており,建築設計指針(アーキテクチュラル・ガイドライン)として10の住宅基本タイプが定められており,住宅地全体の管理運営をするホームオーナーズ・アソシエーションが組織されている。


 その後の研究によって,ヴィレッジ・ホームズの犯罪率の低さと子供たちの進学率の高さが立証されている。強いコミュニティの結果であろう。


 エネルギーに関しても太陽熱(パッシブ・ソーラー)、地熱等の自然エネルギーや,樹木・植栽・土・水・風によるエネルギーの力を最大限活用し,農業と住生活とを有機的に繋いだ自己完結型の開発計画である。

 ビレッジ・ホームズの都市開発事業は、居住者同士の絆を大切にして、生活に必要な食糧自給を拡大し、居住者が主体性をいかしてコミュニティづくりに取り組むというコンセプトのまちづくりとしては、現代のアグリカルチュラル・アーバニズムの考えを先取りした取り組みでもあった。

 このビレッジ・ホームズ・プロジェクトは、その後の時代の変遷を経て、住宅不動産自体の資産価値(取引価格)も建設当時の10倍以上に上昇し、現在でも、多くの人びとの憧れの住宅地として、入居待ちしている人は多い。
 開発以来40年弱の年月を経過した現在においても、「現在から未来における都市の抱える問題に対して、貴重な解決の糸口を提起しているすぐれた都市・農村住宅経営事例」として、全米のみならず、世界の環境問題の関係者から評価され、世界中から引きもきらない見学者が集まっている。

 都市と農村を融合させたサステイナブル・コミュニティの開発事例として、カリフォルニア大学デービス校もこの開発をエコロジカルな人間環境実現のための調査研究の対象として、学生をビレッジホームズ内に居住させて、実際の生活実験を継続している。
 エネルギー問題に端を発した実験は、都市と農村との基本問題の研究に発展しようとしている。


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1.ビレッジホームズの取り組み


 1973年のオイルショック後,レーチェル・カーソンによる「サイレント・スプリング」(邦訳書名「沈黙の春」註5)に書かれた農薬汚染が問題視され、当時の米国大統領J・F・ケネディの連邦政府を動かし、内務省が裏付け調査を実施し、その事実を検証したことで社会的に大きな影響を受けた。
 ビレッジ・ホームズの取り組みに当たっては、カーソンの指摘と並んで、日本の水俣(熊本県)における有機水銀の問題も大きな影響を与えていた。


ヴィレッジ・ホームズの構造
真中,点線で囲まれた部分はコモン(共有地)
(註5:沈黙の春』(ちんもくのはる、Silent Spring, ISBN 978-4102074015)は、1962年に 出版されたレイチェル・カーソンの著書。DDTを始めとする農薬などの化学物質の危険 性を、鳥達が鳴かなくなった春という出来事を通し訴えた作品。 半年で50万部も売れた

 このような状況下で,当初に記載した二つの開発目的ができ,それを達成するため,「内部循環を基本とする自己完結型開発」として取り組まれた。

 この開発は、当時米国で実践されていたと同じ開発密度(1戸当り面積)で計画されたものであるが、個人の専有敷地を最小限化し、道路幅員を最小限化し、住宅地内の移動は歩行によるか、又は、自転車を中心にし、両側に緑地のコモンエリアをもったパス(小径)を充実させた。それらの結果生み出された土地を共有地として,個人が農業に取り組めるようにしたり,様々な共有施設(貸しオフィス,グランド,幼稚園,集会所等)を造り込んだ。


 ヴィレッジ・ホームズには,ゲートがなく誰でも自由に入ることができる。


宅地内の小径(パス):車は入れない
 コモンエリアは全体の40%に達し,ホームオーナーズ・アソシエーション(住宅地管理組合 略してHOA)が所有している。

 住宅地全体を一つの宇宙船とみなした考え方に立ち、生ゴミを堆肥とし農業の肥料として使い、家庭からの下水排水を上水や中水として循環するという計画の下に取り組まれた。しかし、し尿は人間の体内を通過するときに胆汁が混入し黄色となるが、その色は水質浄化のプロセスでは消滅しないことが判明して、実験段階で中止された、と下水道の文献にあった。

 この住宅地の中には、降雨した雨水は総て住宅地内に湛水又は地下浸透するように計画されているため、雨水は、季節によって貯流域が変わるようになっていて、中央の公園は、雨季には大きな池に変身する。
 住宅地には四季を反映して植物には芽吹き、花が咲き、果実が実り、紅葉になり、落葉することで、人びとはそこに生活しているだけで、季節を楽しむ生活が出来る。

雨期に水を貯める遊水池
 住宅地は徒歩又は自転車で移動する方法が最速・最短の交通ネットワークとなっていて、住宅地の広がりごとに共同管理する共同土地(コモン)が決められ、そこはこの住宅地で決められたルールに従って果樹栽培など権利運営されている。
 収穫はそれぞれ自由に行うが、その製品を収穫した人が、それぞれの判断で、ワインを作ったり、ジャムを作ったりして自家用に使用したり関係者に配ることになっている。十分大量に収穫できるため、昔、人びとが自由に野山から収穫したと同じやり方となっている。


2.農業には専門化のサポートが必要

 住宅地の周囲には、住宅地を囲む形で農地と林が形成され、1農地当たり300平方メートルを超える耕作地もあり、そこでは、農業に関心のあるの居住者が、自由な耕作をするようになっている。

ヴィレッジ・ホームズの畑
 ホームオーナーズ・アソシエーションが農業の専門委員を設けるとともに外部から3人のガードナー(農業専門家)を雇って住民の耕作に対する指導や共有農地の管理に当たっている。
 このヴィレッジ全体に樹木が多く植えられ,そのほとんどが果樹である。ヴィレッジ・ホームズ住民の果物とワインは全部自給できている。

 ここの住民は、農業を生活の中に取り入れることで、健康と絆を育み、太陽熱と地熱と緑樹を利用したエナジー・コンサベイション(エネルギー保存)によりエコロジカルな生活を実現している。

 ビレッジ・ホームズの住宅地の取引価格は、建設後30年でほぼ10倍に上昇し、居住者は住宅を持つことで資産形成を実現したため、当地への入居希望者は高いウェイティング状態になる。少ない数ではあるが、毎年居住者は入れ替わっており、この地区に居住したことは、転居することで資産形成が出来ているという実績が住宅市場で評価されている。

 当地のデベロッパーはこの住宅地経営の成功を知っているが、「このような内容の事業は、きわめて特殊で、容易に実現できるものではない」とも言っている。
 つまり、ビレッジ・ホームは、マイケル・コルベットの思想に共感した居住者達の総意(コンセンサス)を住民一人一人が主体的に取り組むことで育てられてきたコミュニティである。


 マイケル・コルベット氏自身は,成功の理由として「自然の生態系と人間の快適な生活との共存を実現したからである」と述べている。

 生活している人は、コミュニティの取り組みに極めて積極的で、ビレッジ・ホームズの良さは、そこに生活している人たちの生活態度によって築き上げられている。つまり、コミュニティに生活している人たち自身が、コミュニティの資産価値を形成しているのである。


 このヴィレッジ・ホームズはサステイナブル・コミュニティのモデルとして,フランスのミッテラン大統領はじめ世界の著名人が多く訪れている。


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