2012年3月16日金曜日

Ⅱ  3.福島原発事故のあとーラッキー・・4.どうしてこんな誤解が・・

3.福島原発事故のあとーラッキー・茂木情報

 もうひとつ、私の年来の「はてな」を解決してくれた情報源は、茂木弘道氏(「史実を世界に発信する会」事務局長)が送ってくださった新資料である。その数々の学術的情報は、『放射能を怖がるな!ラッキー博士の日本への贈り物』(日新報道、2011年、121ぺージ)にまとめられている。
 以下の議論は、専門家でなければ立ち入れないこともあるので、私のささやかな体験から「そうだろう」と思われるものを上げることにした。専門家の間には反論もあるはずだが、私はここで立ち入らない。もしこれはという反論があれば、私自身の勉強にもなるので、編集部まで寄せてほしい。

 茂木氏が去年の6月1日にアメリカの医学雑誌『Journal of American Physicians and Surgeons』に発表された「電離放射線の生物学的効果i一日本に送る一視点」というラッキー博士(T D Luchey)の論文を読んだのがそのきっかけだとのことである。この論文の冒頭で、ラッキー博士はこう述べている。

 「世界のメディアの大半が放射線はすべて有害であると思い込んでいる。もし日本政府が2011年3月の地震と津波がもたらした福島原発事故への対応にあたって、こうした思い込みに支配されるなら、すでに苦境にあえぐ日本経済が、途方もない無用な失費に打ちのめされることであろう」
ラッキー博士は数々の貴重な研究成果を上げ、アメリカ国内でも国際医学界でも認められている学者である。

 彼は特にNASAに関係して、高い放射線を浴びる宇宙飛行士の健康問題に長年、関与しているので、そのデータには特別の重要性があると考えられる。
 ここで驚くべきことは、年間100ミリシーベルトの放射線は一番体に良いというデータが示されていることである。無害であるとか無視できるとかではなく、「最高に体に良い」というのだ。

宇宙空間での影響
 ラッキー博士は20年前にも訪日して、低線量の放射線が体によいことを日本経済新聞で語っている(92年7月25日)。特に、イギリスの原子力施設で働く9万5千人を調査した結果、非原子力関係の労働者に比べて、ガンや白血病の発生が少なかった、ただ、ICRP(国際放射線防護委員会)がそういうデータを見ようとしないと指摘している。
 それは、原爆の影響の研究には被害のほうにだけ巨額の金が投じられ、低線量の効果は無視されたからだという。だがその後、21世紀に入ると低線量の研究が進んだが、ICRPの基準にはまだ反映されていないのだ。

 地上よりも宇宙で放射線が高いということは常識である。毎時0.045ミリシーベルトを浴びるという。宇宙飛行士の古川聡さんが半年で帰った時は、百八十ミリシーベルトの放射線を浴びていたことになる。女性宇宙飛行士もいて、地球に帰ってからお産をしているが、奇形児が生まれたという話はない。NASAの宇宙帰還飛行士の健康データは、行く前よりも良くなっているという。そうでなければ、アメリカみたいな人権にうるさい国が、継続的に字宙飛行士を送り出し続けることができるはずがない。

 こんな事例を出せばキリがないようだ。ラジウム温泉やラドン温泉はいずれも放射線温泉で、通常の環境の二百倍くらいの放射線量がある。たとえば、鳥取県の三朝温泉地区と全国平均のガン死亡率を比べると、三朝温泉の人たちは半分以下であり、特に大腸ガンは五分の一以下というデータが出されたこともある。岡山大学ではこの温泉のラドンを利用した「三朝医療センター」を作って、研究と治療を行っている。
 三朝温泉の周辺の人たちの場合でも、全国平均より20パーセントから30パーセント、死亡率が低いといわれる。つまり、三朝温良の周辺地域にも放射線があって、住民に良い影響を与えているということになる。また最近、雪崩で三人の死者を出した玉川温泉は、ガンの治る温泉として有名で、予約がなかなか取れないという。

4.どうしてこんな誤解がー量の問題
 原爆による悲惨な被害は、放射線の恐ろしさをすべての人の脳裏に深く刻み込んだ。これは当然である。原爆が怖ろしいものであることには一点の疑いもない。その怖ろしさが前代未聞・未見のものであったから、大きな錯覚をみんなに与えてしまった。
 関東大震災(大正12年)では大火災が起こり、東京だけで約5万7千人が焼死した。特に、被服廠跡の死者の数はすごかった。火事は実に恐ろしく、被害も大きい。しかし、その後の東京の人が「家事そのもの」を恐れたかと言えばそんなことはない。大火は恐ろしいが、炊事や火鉢や庭の焚火などの火は少しも怖くないどころか、有益でありがたいものであることを、人間は太古の時代から知っているからである。

 この前の戦争末期の東京大空襲では、アメリカのB29の焼夷弾による無差別空襲によって、一夜にして十万人もの東京の市民が死んだ。火に焼かれたり、火に追われて川に入って死んだのである。その死者は、広島や長崎の原爆で亡くなった人より多い。大火はかくも怖ろしいものである。しかしその後も、東京市民はコンロや七輪を使って料理し、落ち葉焚きを楽しみ、のちになると石油ストーブやガスストーブも使って今日に至っている。
 つまり、大火は人を殺すが、小さな火は人を生かし、人生を快適にすることを太古から知っているからである。放射線も少量なら健康に良いことは昔から知られていたのだ。ラジウムやラドンの放射線が体に良いことは、ラジウムとかラドンの名前は知らない時代でも、その温泉に保養、健康の目的で人々は行っていたのである。

 マルクスが「量の差は質の差になる」と言ったと昔、教えられたことがある。マルクスは「富」について言つたのであろうが、それは「火」でも「放射線」でも、ほとんど何についても言えることなのである。たとえば、「肩叩き」を考えてみよう。トンと一回叩けば約250グラムだ。トントントントンと4回叩けば、約3秒で1キロになる。30秒で10キロ、1分間で20キロ、10分間で約200キロになる。
 10分も肩たたきを孫にやってもらえばいい気分になるし、健康にもよいだろう。しかし、200キロの重さの物を一時に肩に落とせば、肩の骨は折れるだろうし、たいてい死ぬだろう。 

 その量と質の問題は他の多くのことに当てはまることはこれ以上並べ立てる必要はないと思うが、たとえば「塩」である。塩は人体に絶対必要であるが、「醤油飲み競争」をして死んだ馬鹿がいたと江戸時代の話で読んだ記憶がある。難しく言えば、ワクチンの原理と同じだ。ワクチンは病原と同じものを希釈するという方法でつくる。極めて有害なものでも、少量なら極めて有益という生理現象をホルミシス(hormesisis、あるいはdose-repense)と呼ぶ。
 原子爆弾の残虐死やチェルノブイリの被害者は、一時的に超大量の放射線を被曝したことによるものである。その怖ろしさは本質的に「大量」ということであり、東京大空襲の火災と同質であり、さらに言えば、馬鹿な新入学の大学生が「一気飲み」をやって急死するのと通底するのだ。

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