2015年10月24日土曜日

「スマート・テロワール」の根幹

 これは「スマート・テロワール」(農村消滅論からの大転換)の著者松尾雅彦氏がまとめた概念と構造図です。

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365日の需要に対応する・・
        スマート・テロワールの根幹

穀物生産と畜産が連携すると、通年の仕事が確保できるようになる!
農村の貧しさは労働機会(時間)の短さに原因
  果菜類の6次産業化などでは操業期間は2か月程度➡労働者は期間工
  食産業は住民がいる限り、永続する産業➡米国に譲ってなるものか!
製造業が開発したTQCを農産業に導入する
  忙しくなって、品質向上を求める時、「TQCは伝家の宝刀」となる
  高い稼働率・高品質=ローコストが常識になる➡農業が革新される
行政ニーズは、1/3程度削減される
  住民の貧しさやジレンマが行政ニーズを倍加させる➡豊かさの報酬は節税に
  イタリアの美しい村に老人問題はない!これ、本当!

スマート・テロワールは、農村限定 所得倍増論 !

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「長野県人口定着・確かな暮らし実現総合戦略」への提言

 この文章は、長野県が募集している「長野県人口定着・確かな暮らし実現総合戦略」への提言書です。県がどのように対応して下さるかは未定です。
 但し、9/29日号に掲載しました農村自給圏構想(スマート・テロワール)に対しては、既に担当の県職を任命して下さいました。
 「長野県人口定着・確かな暮らし実現総合戦略」と9/29日号のURLを添付致します。

文責 安江高亮

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平成27年10月15日

 長野県知事 阿部守一様

特定非営利活動法人信州まちづくり研究会
理事長 齋藤兵治


「長野県人口定着・確かな暮らし実現総合戦略」のⅣ基本目標の③「地域の資源・人材を活かした産業構造を構築することにより、仕事と収入を確保します。」について、施策を提言致します。

地域の資源の大部分を占めるのが農地と山林です。それしか無いと言ってもいいと思います。その貴重な資源の現状は、水田の約40%は余り、畑地は放棄地が拡大を続け、森林は管理が行き届かず荒廃しており活用されているとは言えません。
また、人材の多くは、生き甲斐を見出せるような産業と職場が少ないため、遠隔地に職を求め不本意な生活を強いられ、地域の将来に希望を見いだせないでいるのが現状です。
これらの問題を解決し、活かされていない地域の資源と人材を活かすにはどうしたら良いのか、が課題だと思います。私達はこの課題を解く仮説が書かれた2つの著書を知りました。一つは昨秋発刊された「スマート・テロワール」(松尾雅彦著、註1)で、他の一つはその30年前に発行された「発展する地域 衰退する地域」(ジェイン・ジェイコブズ著:註2)です。
 長野県が人口減少という「衰退する社会」から脱却するためには、女性の職場である食品加工場を振興することなどが有効であり、その実現の仮説を説くのが「スマート・テロワール」です。食品加工場は女性の雇用を生み付加価値を増やします。長野県は眠っている地域資源を呼び起こし、農産加工業を興し、地域社会の期待に応えることなくしては、「発展する地域」になることは出来ないと考えます。

註1 スマート・テロワール:スマートとは:賢い、利口な、ムダのない、洗練されたという意味。
  テロワールとは、その地域独自の風土・品種・栽培法などが育む「特徴ある地域」を意味し、
  その土地の特徴を生かした賢い地域創生を意味する。
註2 置換がキーワーッド: 自給圏外から購入している物を自給圏内の物に置換えること。

 この考え方に基づき、5つの施策を提言致します。

(1) 農業関係の大学または試験場で耕畜連携・農工連携の「実証展示圃」を開設すること
 これは、農産業関係者に、農産業がやりようによっては、発展可能で有望な産業であることを示すためです。新しいやり方は知識と理論だけでは誰も納得できないからです。
 米国はTPPを推進して日本の農産物市場を狙っていますが、米国の農業が強くなったのは、地域の大学が先導して農産業プラットフォーム(後述)をつくり、「耕畜連携」と「農工連携」の実例を導き出して、地域の農家と商工業者にモデルを開発して提示したからです。
 「スマート・テロワール」の著者は、米国の2つの州立大学で、馬鈴薯に関する農工連携と耕畜連携の実務を習得し、米国が循環型の社会システムに辿り着いていることを知りました。農工連携は、農家と工場間の契約栽培、つまり「互酬の経済」であり、耕畜連携は、畑作物の規格外品や加工残渣が無料で畜産に供給され、見返りに堆肥が農家に循環する。これも「互酬の経済」であることを知りました。
 現状の日本の農家は、コメと果菜類の栽培が主で、それは市場経由で個人戦です。しかし、加工工場への納品では、規格の統一が必要となり栽培法が標準化されることによって、多くの人が容易に団体戦に参加できます。種子・栽培法・品質規格の統一のために地域で標準化することが「実証展示圃」の目的の一つです。
 大企業は、それを自前でします。農家と地域の加工食品のチャレンジャーのために、大学か試験場がその役割を果たさなければなりません。これによって農工・耕畜連携の「互酬の経済」が構築されます。
 アイダホ州でできていることが長野県でできない筈はありません。「実証展示圃」は、難しそうな構造に見えますが、欧米の農産業には普通の仕組みで、9世紀に3圃式農法(冬穀、夏穀、牧草地のローテーション農法)が標準化して以来の社会システムです。
 日本は水田稲作文化であり、明治初年まで畜産が無かったため、豊かになって欧風の食文化が拡大しても供給力がないので、原料は輸入に依存し自給率の急降下をもたらしました。循環型農産業システムの構築がこれを解決します。しかし、社会システムですから、初めは大学か試験場でシステムを実証し紹介しなければ、誰もできないのです。
 大学や農業試験場が地域の商工業者の協力を得て「実証展示圃」を開設して、農工連携と耕畜連携を実証して頂くことを提言致します。

[行うべきこと]
(ア)実証すべき仮説
  1 高品質原料生産=高収量の実現 ➡ 輪作体系の確立と土壌改良
  2 高品質原料 ➡ 加工食品の高品質=ローコスト ➡ 地消地産
  3 契約栽培で非市場経済 ➡過剰は畜産飼料 ➡飼料原価の低減 ➡ 堆肥で還元
  4 作物の余剰・飼料作物・食品工場の残渣➡畜産飼料➡飼料原価の低減➡地消地産 
(イ)非市場経済:契約栽培(互酬)の実務
    (ウ)検証プロジェクト・チームの編成
        1 農家:畑作地帯の耕地・・・1作あたり10a~30a☓4枚
        2 作物:大豆・子実トウモロコシ(畜肉手作り加工品向け)・馬鈴薯・そば・小麦
        3 工場:大豆製品(味噌・豆腐)じゃがいも加工場(実証試験時には青果か飼料)製粉場
        4 畜産:豚・羊(牛はお勧めしない)と畜産加工場
        5 食品小売店・外食サービス店と消費者チーム:
    (エ)実証事項
        1 各作物の品種選定:加工品につて消費者の選好の判断    品種選択の優先順位 消費者の選好>加工特性>栽培特性
        2 各作物の品質規格と標準的な反収量の実現:輪作が1巡する5年目までに    大豆350kg/反 じゃがいも3t トウモロコシ1t 小麦:600kg
        3 「互酬」の交換システムによる価格設定:作物の規格と契約量・価格の体系    農家の収入:大豆・馬鈴薯は標準収量で10万円/反±品質インセンティブ 
        4 加工場の成果:品質・量/歩留・・・最適経営規模    新規投資をしないで、既存の施設で生産し供給すること
        5 輪作における土壌の変化:土壌分析(物理的特性 化学的特性 生物的特性)    土壌の団粒化 
        6 畜産飼料の調達:子実トウモロコシ・作物の規格外品・加工場の残滓    子実トウモロコシ栽培:畑作農家と畜産農家の「手間の交換」(飼料原価ゼロを    目ざす。空いてる手間をいかせば原価はゼロ)
        7 加工品の市場価格:手作りハム・ソーセージ・ベーコンの価格はナショナルブランドと
             等価 その他の地元産売り場はナショナルブランド対比30%オフ
        8 穀物生産と農工・耕畜連携がもたらす雇用と付加価値の増大に及ぼす影響(穀物は保存
             が効くので加工場の通年雇用が可能 耕畜連携により畜産品のコストが下がる)
        9 その他の気づき事項
(オ)インプロビゼーション(アドリブ、気づき):高品質原料を得られれば、住民が臨機応変に 
       創意を働かせて共生的な関係を創り出してゆき、地域は活性化する(発展する地
       域への条件)

(2) 大学や農業試験場が中心となり、農産業プラットフォームをつくること
 上記の「実証展示圃」を推進する為には、農業生産、加工及び流通に係る細切れでない一連のノウハウと研究開発が必要です。そのために、大学や農業試験場が中心となり農業者、農業研究者、食品加工・流通業者も加わり、農産業に関する地域の問題解決・研究を行う必要があります。それが農産業プラットフォームです。
 聞くところによると農業改良助長法によって、大学の農業研究と農業政策の間には交流を阻む壁があるようですが、県政の主導で、縦割りの弊害を排して、農産業関係者が自由に出入りできるプラットフォームを形成することを提言致します。

(3) 農地の適正なゾーニングを行い、良好な畑地・牧草地に転換すること
 長野県の総耕地面積は111,000haに対し、総産出額は2,268億円。内水田の耕地面積は55,000haで、産出額は490億円。内畑地は56,000ha1,415億円です(農林水産省のデータより)。課題は約20,000ha以上あると推測される過剰な水田です。これを県民のために活用し、競争力をつくって大都市部の需要に供することができればその農産物出荷額は約3,000億円になろうと想定します。この数値は、カルビー株式会社の契約栽培面積7,000haから1,200億円のポテトスナックを販売している数値から類推したものです。この過剰・余剰の農地の活用方法を提言致します。
 効率の良い農業生産と4年輪作を行うためには、耕地の整備が不可欠です。現在、中山間の狭小管理費高の田圃は採算に合わないとして、借り手もなくて放棄地が増えています。そのような場所を中心に余剰田圃をゾーニングして大きな畑に造り変えます。更に、田圃と里山の間には、ほとんどが放棄さている細切れの畑地帯がありますが、これも整備して大きな畑と牧草地に転換します。これらの畑で、「実証展示圃」で実証された農工連携、耕畜連携に則り、適切な作物を4年輪作で作ります。余剰の田圃は畑に、余剰な畑は牧草地に転換して活用することを提言致します。
 圃場整備が済んでいる場所の転換工事は、一番金のかかる道路と水路と確定測量が済んでいるので、かつての県営圃場整備事業に比べれば、工事費は格段に安価になると思います。農産業構造転換の基盤を造る第二次県営圃場整備事業を行うことを提言致します。

参考事例:5年前まで国家公務員だった青年が、妻と小学生の子供と共に佐久市の高原野菜地域に移住し、2年間有機栽培農業を研修してから独立し、当初良い畑がなくて苦労していましたが、今では自分達2人を含めて通年雇用4人、臨時雇用6名という体制で営農しており、最近お聞きすると「経営計画通り進んでいます」と自信を持って話してくれました。「ゾーニングして1枚で2〜3haある畑地を整備したら使いますか?仲間は集まりますか?」と聞きましたら、「もちろんです、喜んで。地代も払います。仲間も集まると思います」との返事でした。昔からの兼業農家は「農業はダメ」とすっかり諦めていますが、彼らはただの農家であり農業を知らないからです。

(4) 「スマート・テロワール」構想と「置換」の考え方を広める活動を支援すること
 当NPOは、「東信スマート・テロワール研究会」(仮称)という農村自給圏構想の考え方を住民の皆さんに知ってもらい、実現に向かっての活動を推進するための組織を立ち上げようと計画しております。、東信地域各地で説明会を繰り返し、賛同者を募り、志ある人々の組織とします。会員は各地域のリーダーになり、実行に当ることを目指しています。
 ここで提言している諸施策は、実行に当るのはひとり一人の住民であり、県民です。ひとり一人の住民の理解と賛同なしにはことは進みません。一方では、「実証展示圃」で目にものを見せながら、東信スマート・テロワール研究会では、説明と宣伝と参加を呼びかけます。
 最終的に目指すのは東信地区を対象とした自給圏形成ですから、一市町村だけでは完結しません。40万人を越える二つの広域連合(上小、佐久)4市12町村の基礎自治体が連携して、住民の主導で推進しなければなりませんので、このような活動は重要だと考えます。
 県としては、東信地区をモデルにして、自給圏構築構想を全県に広めて頂ければと思います。そこで、当NPOに限らず、このような活動を行う団体を支援して頂くことを提言致します。支援の内容は、長野県との共催、或いは後援として頂くことや、県の諸広報誌でもアピールして頂くことが考えられます。

(5)県民の食の消費実態調査をすること
 これまで提言してきたことの目的は、農村自給圏(スマート・テロワール)構想を実現するためです。具体的には、食とエネルギーの自給率を上げること。自給率を上げるということは、増え続けてきた食糧とエネルギーの輸入(移入を含む:註3)を地域内自己生産・加工品で「置換」することです。別な表現をすれば、自給圏の貿易赤字を解消することです。結果として、基本目標の③「地域の資源・人材を活かした産業構造を構築することにより、仕事と収入を確保します。」が、農業分野では達成されることになります。
 このための最初の仕事は現状把握、つまり置換すべき品目と数値を明らかにすることです。主要な素材別(米・小麦・畜肉・油脂・野菜・果実・大豆・そばなど)の輸入量と輸出(移出を含む)量を掴み、その差額を目標値とします。
 下記データをモデルにした長野県版(広域版)を作成することを提言致します。

 農林水産省資料:「平成25年度食料自給率をめぐる事情P2
 http://www.maff.go.jp/j/press/kanbo/anpo/pdf/140805-02.pdf

註3 移入、移出:国内で物を移動すること

(参考)別ファイルで、PDF「365日の需要に対応する・・スマート・テロワールの本質」を添付致しました。
以上

お問い合せは:NPO法人信州まちづくり研究会 副理事長・事務局 安江高亮
       〒384-2305 長野県北佐久郡立科町芦田2076-1
0267-56-1033  090-3148-0217
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2015年9月29日火曜日

農村自給圏構想(スマート・テロワール)

2015年9月28日、
阿部守一長野県知事とのランチミーティングに臨み、
大きな一歩を踏み出しました!

      (知事)県庁内部に農村自給圏構想の担当者を置く!


私達NPO法人信州まちづくり研究会では、東信地区に農村自給圏(スマート・テロワール)をつくりたいと計画し、活動を開始しました。

しかし、農村自給圏(スマート・テロワール)という考え方は、現時点では、誰も知らないと言っていい。

従って、最初の仕事は、農村自給圏構想を東信地域の住民の皆さんに知って頂くこと。

そのために、東信地区全域で説明会を開催し、賛同者を募ります。

説明会が一通り終了したところで、正式に「東信スマート・テロワール研究会」(仮称)を立ち上げます。

現在の私達NPOの役割は、「東信スマート・テロワール研究会」を立ち上げること!
この時、難題は「人集め」。そこで、県政との恊働が必要となりました。
そもそも、これは静かな社会革命、最初から最後まで、行政との二人三脚です。

阿部県知事とのランチミーティングの目的は、
私達と県政との恊働を模索することでした。

理事長以下7名で参加しました。

そして、知事から、すばらしい対策と提言を頂きました。

対策1 説明会を、県と共催、県の後援とかでき
    るのではないか
対策2 農政部内にこの問題の担当者を決めて
    対応する
対策3 人集めに協力する
提言1 具体性に乏しい。現在、長野県人口定
    着・確かな暮らし実現総合戦略(案)」
    への意見を募集している。
    この意見書に具体的に提言して欲しい。
    期限は10月15日です。


信濃毎日新聞の記事もご覧ください。
(画像をクリックして拡大して下さい)

ここまで決断して下さるとは予想していませんでした。
そして、私達NPOの責任も問われることになります。
知事とのランチミーティングの後、中島恵理副知事と懇談もさせて頂きましたが、
何と、我がNPOの基本テーマである「サステイナブル・コミュニティ」の研究者でも
ありました。ご自身も、ご主人と共に、八ヶ岳の麓でスローライフ生活を実践して
おられる行動派。知事と波長が合っているのでしょうね。

そもそも、農村自給圏(スマート・テロワール)とは何でしょう。
このブログのアーカイブスにありますので、下にURLを添付します。

農村消滅論から大転換
http://shinshumachidukuri.blogspot.jp/2015/01/blog-post_17.html

「スマート・テロワール : 農村消滅論からの大転換」を読んで
http://shinshumachidukuri.blogspot.jp/2015/07/blog-post_9.html

「スマート・テロワール : 農村消滅論からの大転換」内容紹介
http://shinshumachidukuri.blogspot.jp/2015/07/blog-post.html


ベストは、『スマート・テロワール-農村消滅論からの大転換-』(松尾雅彦著学芸出版社)をお読み頂くことです。
姉妹本が、『里山資本主義』(藻谷浩介・NHK広島共著)です。

「懐かしい未来」を開く里山資本主義
http://shinshumachidukuri.blogspot.jp/2015/08/blog-post.html

そして、我々の仲間になって下さい。
このブログの右サイドバーにある「このNPOについて」に説明があります。

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2015年9月15日火曜日

水害は、こうすれば防げる!

『これは人災だ!』とする当NPO理事長は、
このような緊急の状況に対処できる防災案を考えた!
これなら、日本全国どこでもできる筈だ!


 2015年9月10日から11日にかけて、台風18号の影響による関東地方と東北地方の豪雨により、利根川水系鬼怒川と鳴瀬川水系渋井川の各堤防がそれぞれ決壊した。国土交通省関東地方整備局によると、鬼怒川では茨城県常総市三坂町付近の左岸の堤防が9月10日、延長200mにわたって決壊したという。(nikkeibp記事より)

・想定されている危険箇所をヘリでパトロール監視する
・近くの採石場で、トン袋の土嚢を大量に用意する
・越水の危険性が判明したら、ピストン輸送し現場に積上げる

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2015年8月29日土曜日

「懐かしい未来」を開く里山資本主義

森林資源の活用が、お金の流失を防ぎ、雇用を増やし、
地域を豊かにするという地方創生モデルのお話!!

「里山資本主義」(藻谷浩介、NHK広島取材班共著)
のお話です。

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国際派日本人養成講座 No.914  <<   作成日時 : 2015/08/23 08:00   >>


 里山の資源を有効活用すると「懐かしい未来」が見えてくる。

■転送歓迎■ H27.08.23 ■ 44,102 Copies ■ 4,063,065Views■


■1.裏山の木の枝でご飯を炊く楽しさ

 広島県の北部、中国山地の庄原(しょうばら)市に住む和田芳治(よしはる)さん(70歳)は毎朝の御飯を小さな「エコストーブ」で炊いている。

 ガソリンスタンドからタダで貰ってきた石油缶に、ホームセンターで数千円ほどで買ってきた管を煙突がわりに付けて、手作りしたものだ。裏山から集めた木の枝を数本くべて炊くと、御飯はピカピカ光って旨い。

画像


 訪ねてきた客に食べさせたら、「しもうた」と思わず、漏らした。「つい先日、7万円やら8万円出して、電気釜を買ったのに、あれとは全然違う、こっちの方が旨い」と悔しがっていた。

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 毎回できが違うかもしれないと思って気を遣うこと、いろんな木をくべることも含め、不便だといわれるかもしれません。でも、それが楽しいんですね。結果、おいしいご飯。これが三倍がけ美味しいんです。こういうものを使うことによって、笑顔があふれる省エネができるんではないか。[1,p48]
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 電気代も節約でき、枝を拾うことで放置されていた裏山にも手が入る。

 炊飯器のスイッチ一つでご飯を炊けるというのは便利この上ないが、その陰には、途方もないグローバル資本主義が動いている。中東で採掘した石油をはるばる日本まで運んできて火力発電所で発電し、その電気を日本各地に送る、というグローバルな物流や送電のネットワークだ。どこか一カ所で戦争や天変地異でもあれば、たちまち電気が止まって、毎朝の炊事にも事欠く。

 その一方で、若者は仕事のある都市部に吸い寄せられ、多くの地方の集落が過疎化、高齢化して、いつ消滅するかと先行きを危ぶまれている。放置された森林は荒廃し、耕作を放棄された田畑が広がる。

 グローバル資本主義の不安や矛盾を打破しようと、里山を活用した工夫がいろいろ進められている。エコストーブはそんな工夫の一つである。これを[1]の著者は「里山資本主義」と名付けている。


■2.産業廃棄物だった木くずで発電

 里山の資源活用をより大規模に実現するのが「木質バイオマス発電」だ。バイオマスとは生物由来の有機性資源で、石油など化石燃料を除いたものを指す。

 岡山県真庭(まにわ)市は中国山地のど真ん中にあり、面積は琵琶湖よりも広いが、山林が8割を占め、住人は5万人足らずという典型的な山村である。

 町を支えるのは、林業と、切り出した木材を加工する製材業で、大小あわせて30ほどの製材業者がある。住宅着工の出口の見えない低迷で、どこも苦しい経営を続けている。

 そんな中で、製材メーカーの一つ、銘健(めいけん)工業の中島浩一郎社長は、「発想を180度転換すれば、斜陽の産業も世界の最先端に生まれ変わる」と新しい試みに取り組んできた。

 それが製材の過程で出てくる樹皮や、木片、かんな屑などを燃やして発電する「木質バイオマス発電」だ。平成9(1997)年に導入した発電装置は、高さ10メートルほどの円錐形をしており、24時間稼働して出力2千キロワット/時、一般家庭2千世帯ほどの電力を供給する。

 中島さんの工場で使用する電力はこれですべてまかない、夜間の余った電力は売る。これに従来、木くずを産業廃棄物として処理していた費用も含め、合計年間4億円も得をしている。発電施設は10億円かかったが、わずか2年半で回収した勘定となる。


■3.一般家庭2万2千世帯分の発電所

 ただ、製材工場で出る木くずは年間4万トンもあり、この発電設備では使いきれない。そこでかんな屑を直径6~8ミリ、長さ2センチほどの円筒形に固めて販売することにした。木質ペレットと呼ばれる。

 この木質ペレットを燃やすには、専用のボイラーやストーブが必要だが、灯油と同じように燃料タンクに入れるだけで良い。しかも灯油と同じコストで、ほぼ同じ熱量を得ることができる。

 市の後押しも得て、地元の小学校や役場、温水プールなどに次々と木質ペレット用ボイラーが導入された。個人宅用ストーブや農業用ボイラーにも、行政からの補助金が出て、広く普及するようになった。しかも、水分を蒸発させて熱を奪う、という方式で、冷房にも使える。

 市の調査では、全市で消費するエネルギーのうち、11%を木のエネルギーでまかなっているという。日本全体での太陽光や風力などの自然エネルギーの割合はまだ1%なので、それに比べれば、すでに主要なエネルギー供給手段の一つになっている、と言える。

 この成功例をもとに、出力1万キロワットの木質バイオマス発電所の建設が始まり、本年4月から稼働が始まった。一般家庭2万2千世帯分というから、真庭市全体をカバーできる発電量である。


■4.安心、安全な社会を築く

「1960年代に入るまでは、エネルギーは全部山から来ていたんです」と、中島さんは言う。

 裏山から薪(まき)を切り出し、風呂を沸かし御飯を炊く。山の炭焼き小屋で作られた木炭が、都市部の一般家庭でも使われていた。

 今でも60代以上の人は、子供の頃に、都市部でも七輪でサンマを焼いたり、あんかの炭火で暖をとったり、田舎の祖父母の家に行けば、いろりで薪を燃やして、なべ料理をしたり、という光景を覚えているだろう。それはわずか半世紀前の事なのだ。

 逆に言えば、ガス・ストーブで暖房したり、電気炊飯器で御飯を炊いたり、という生活スタイルは、わずか半世紀間に起こった変化でしかない。その結果として、我々の生活は大いに便利に快適になったが、その半面、グローバルな供給システムで上述したような大きな不安も抱え込むことになった。

 木くずを利用したバイオマス発電は、地域分散型だけに他地域の経済、社会、天候の変動に影響を受けることが少ない。それだけ安心、安全な社会を築くことができる。


■5.若者が帰ってきた

 バイオマス発電は、電気だけでなく、雇用も生み出す。今まで山間に放置されてきた間伐材を受け入れ、細かく砕いて燃料用のチップにする工場「バイオマス集積基地」が平成20(2008)年に設立された。そこにかつて都会に出て行った若者が帰ってきた。

 28歳の樋口正樹さんは、高校を卒業後、地元・真庭市で就職先を探したが見つからず、岡山市で自動車販売会社に就職していた。それが今では、クレーンを自在に操り、間伐材を運んでいる。収入は多少減ったが、木の香りに包まれてする仕事が気に入った。

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 働いてみるといろいろなものが面白い。汗をかいて自然の中で生きるのも、ぼくにはあっているのだと気づきました。木材産業なんて古くさいかと思っていたら、バイオマスって、実は時代の最先端なのだと知り、とてもやりがいを感じています。[1,p44]
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■6.「ありがとう」と言って貰えるうれしさ

 里山資本主義は経済だけでなく、人々の生活そのものにも潤いを与えるという、身近な事例がある。

 冒頭に登場した和田芳治さんの近所に住む熊原(くまはら)保さん。同じ庄原市で、高齢者や障害者の施設を運営している。ある時、デイ・サービスを利用しにやってきたおばあさんが、熊原さんにこう言った。「うちの菜園で作っている野菜は、とうてい食べきれない。いつも腐らせて、もったいないことをしているんです」

 年齢は80を超えるお年寄りだが、自宅では毎日元気に畑に出て、野菜を育てている。何十年も農業をやってきたプロだから、見事な野菜が沢山できるが、老夫婦だけの家庭では食べきれない。

 昔は近所に子供を抱えた若夫婦などもいて、料理したものを「食べんさい」と持っていったりしていたが、今は過疎化で空き家が増え、食べてくれる隣人も少なくなった。

 それを聞いて、熊原さんは膝を打った。自分の施設の調理場で使っている野菜は、市場で仕入れた県外産ばかりだった。市場で野菜を大量に仕入れた方が安くあがる、と考えていたのだが、近隣でお年寄りたちの作る野菜を使わせて貰えば、食材費は劇的に抑えられる。

 熊原さんは「みなさんの作った野菜を施設の食材として使わせてもらえますか?」というアンケートをとった。すると、施設に通うお年寄りを含め、100軒もの家から、「是非、提供させて欲しい」との返事があった。

 試験的に施設で野菜を集めることになって、ある農家に行くと、たまねぎやじゃがいもをどっさり用意して待ち構えている。老夫婦の顔は生き生きと輝いている。「嬉しいですよね。ありがとうと言ってもらおうなんて思ってなかったのに、それくらいのことでたすかるんじゃね」


■7.「張り合いがでました」

 熊原さんは、従来の1億2千万円の食材費の1割を、地域のお年寄りの作った野菜などでまかなう目標を立てた。野菜を提供してくれたお年寄りには、自作の地域通貨を配る。施設でのデイ・サービスや、レストランで使って貰おうというのだ。

 レストランは近くの廃業した店を買い取って、改葬したものだ。客数は見込めないが、近所のお年寄りは時々、ここに集まって、おしゃべりをするのを楽しみにしていた。そんな場所がなくなった、という話を聞いて、レストランの復活を思いついたのだ。

 時々、このレストランに友だちとやってくるのが近所の一二三(ひふみ)春江さん。夫を亡くして、大きな家に一人暮らし。畑仕事に出たついでに、道で誰かと立ち話でもできないかと、あちこち当てもなく散歩する。誰とも出くわさなければ、一言も話せないまま、一日が暮れる。

 今は、時々、友だちを誘って、このレストランにお昼を食べにやってくる。春江さんの菜園で育ったカボチャで作ったグラタンが出されると、みんなが「おいしい」と褒める。会計の時には、貰った地域通貨を使うのも、誇らしい。「また、がんばって仕事をしなくちゃ。張り合いがでました」

 実は、このレストランの隣には、保育園が併設されている。春江さんたちは、時々そこで子供たちと遊ぶ。みな、何人もの子供を育ててきた大ベテランだ。子供たちの輪に入って、昔の童謡や遊びを手取り足取りしながら教える。

 しばらく遊ぶと、子供たちのお昼寝の時間になった。先生が「じゃあ、きょうはこれでおしまい」と告げると、子供たちは「もっと、遊びたい! 次はいつくるの」。

 その場に居合わせたお母さんの一人はこう語る。

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 孤立した私と子どもが、保育園に行って先生に預けて帰るという、ただ単にそれだけの関係ではなくて、周りの人に生かされている、、それがすごく温かい。私もすごく安心しますし、子どもも色々な人との関わりを通して、学ぶものがたくさんあるんじゃないでしょうか。[1,p221]
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 実は、子供を預けている母親の一人は、レストランの調理場で働いている榎木(えのき)寛子(ひろこ)さんだ。子育て中の母親に仕事の場を提供したい、というのも、熊原さんがレストランを開いた理由だ。こういう職場があってこそ、田舎の豊かな自然の中で子育てができる[a]。


■8.「懐かしい未来」

「懐かしい未来」という言葉がある。スウェーデンの女性環境活動家がヒマラヤの秘境の村で伝統的な暮らしを目の当たりにして、21世紀にはこうした価値観が先進国にも必要ではないか、という考えで、唱えだした言葉だそうな。

 前節で紹介した光景は、まさに半世紀前の懐かしい過去を彷彿とさせる。農家は庭先でとれた野菜を近隣の人々と交換し合う。近隣の子供たちは一緒になって、川で魚取りをしたりして遊ぶ。赤ちゃんや幼児は、お年寄りが面倒を見る。

 そんな光景が、わずか50年ほどで失われてしまったのだ。農作物は商品として市場で売られる。大きさや形が揃い、しかも大量に作られるものが買われ、少量の作物は庭先で打ち捨てられる。

 若者は都会に出て行って、農村では子供は数少なくなった。あちこちの家が空き家となり、耕す人のいなくなった田畑は休耕とされる。森林は朽ち果てたままとなる。その一方で、大量の食料やエネルギーを遠い外国から輸入する。こんなグローバル資本主義はどこか、おかしいのではないか。

 本稿で紹介した事例は、いずれも、この矛盾をなんとかしたい、という問題意識から出ている。

 それが、いずれも、わずか半世紀前のわが国の社会のありかたを再現しているのは、興味深い。要は、里山資本主義には我がご先祖の数千年の知恵が詰まっているということなのだろう。

 スウェーデンの女性環境活動家はヒマラヤまで行かなければ「懐かしい未来」にたどり着けないが、美しい自然と豊かな伝統に恵まれた我が国には、すぐ手の届くところに、「懐かしい未来」が待っているのである。
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2015年7月9日木曜日

「スマート・テロワール : 農村消滅論からの大転換」を読んで

 当NPOの正会員池田広君が読後感を書いてくれました。特に重要な感銘を受けた部分を整理してあります。
 この通りにできるかどうかは判りませんが、注目すべき提言がない中で、地方創生にとって、根本的で現実的な提言だと思います。
 是非、本『スマート・テロワール-農村消滅論からの大転換-』(松尾雅彦著学芸出版社)をお求めになって下さい。

http://www.amazon.co.jp/スマート・テロワール-農村消滅論からの大転換-松尾雅彦/dp/4761513446



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隅から隅までよく行き届いた啓発の書でした。

「スマート・テロワール」とは、地域内でのできる限りの自給を目指す地域ユニットのことです。川勝平太静岡県知事は、「美しく強靭な農村自給圏」と言っておられます。
 読み進める中で、いま日本がかかえる3つのムダが浮かんできました。その3つのムダの有効利用が、著者の説く「スマート・テロワール」の実現によって解消に向かうであろうことがよく理解できました。

○「食べ物の13は口に入ることなく棄てられる」ムダ
 1970年代日本は、食料の「供給不足時代」から脱却して「供給過剰時代」になりました。しかし、《我々が食べる量は毎年減っているのに、マーケットに投入されている食べ物の勢いはとどまることを知りません。
 消費カロリーと供給カロリーの差がどんどん広がっているということです。消費されているのはわずか三分の二で、それ以外の三分の一がロスや廃棄されていることを意味します。》(29p

○「100万ヘクタールの農地が過剰状態」のムダ
《全国で水田は270万ヘクタールありますが、その内約100万ヘクタールの水田が過剰で休耕田や耕作放棄地になっており、維持するために莫大な国費をかけています。》(34p
 農業の進歩で反収増加(200kg→600kg100年間)の一方でのコメ需要は半減、過剰水田の有効活用策はなおざりのまま、金に飽かせた補助金づけ。農家はいつのまにかユデ蛙。

○「160万人が『つとめ』を果せない」ムダ
 ニート(若年無業者)数60万人、さらに40歳以上のひきこもり推定100万人とも。
 《食料品の場合、30%が捨てられています。利益の追求を至上目的にしたあげく、労働時間は増えて、休暇も取れず、作った商品は捨てられるという本末転倒な事態に陥っているのです。》(190p)娘が、専門学校時代のアルバイト先(学生食堂)で、食べ残しや売れ残りが惜しげもなく捨てられるのを見て「耐えられない」と辞めたのを思い出しました。
 その娘、義務教育はずっと学校に不適応、「困った娘」でした。ニートの多くは市場経済的利己主義への不適応、今の世の中では役立とうにも役立てない、がんばろうにもがんばれない。

 著者の発想の原点は《未利用資源の活用》(251p)です。三つのムダは見方を変えれば「未利用資源」。解決の方途(みち)が次のように示されます。

 1970年代に迎えた食料供給過剰時代、以来消費者の関心は自身の健康に向かっています。本来日本の農業は、多様な食物を供給することで時代のニーズに応えねばならなかったのです。にもかかわらず日本の農村は「瑞穂の国」の幻想でコメの単作にこだわりつづけました。
 その結果の農村破綻です。著者は断言します。《健全な農業の建設を阻んでいるのは多すぎる水田です。その破壊なくしてアルカディア(桃源郷)はありません。》(206p

 水田は、水の流れを基本にほぼ50%を畑地や草地に転換。水田は低い平地のみ。水はけのよい傾斜地は畑地に。さらに急峻な耕地は牧草地にして畜産へ。日本の食料自給率39%ということは、ひとたび消費地生産主義で自給を目指すや、大きな可能性に転じることを意味します。
 帯に「農村は15兆円産業を創造できる」とあります。《自給圏で水田を畑地に転換するのは、今から、15年程度を目標に進めます。その間に後継者を得られず離農する農家は相当数に上るでしょう。そこを引き取るのは専業農家や都市から帰還した元気な若者になります。》(74p
 畑作物、畜産物の食品加工場と農家の間には生産契約が交わされ、農家は、天候リスクや市場リスクに左右されない安定した経営が行われます。《30年後には加工場が仕事を増やして女性が活躍し、子どもたちの元気な声も聞こえる農村になっています。》(74p

 問題解決のための単なるノウハウ書ではありません。世界を変える思想書であり、世の中のあり方、人の生き方を問う哲学書でもあります。《都市部では経済的な「かせぎ」が多様性を生み、それが活力の源になっています。
 一方、農村部では地域社会のなかでの「つとめ」が活力を生みだします。共同体としての力が、人々を支えるのです。》(246p)《農村に働くのは利他主義であり、互酬に基づく経済です。それを理解せずして、市場経済の利己主義で経営を行おうとしては農村部では成功できません。》(247p

 著者は、われわれが80年代初頭『パンツをはいたサル』(栗本慎一郎)によって知ったカール・ポランニー思想(『大転換―市場社会の形成と崩壊』)紹介の、日本における最先端に位置していたことを「あとがき」で知りました。カルビー株式会社の現在はその思想実践の結果です。その実績をふまえての「スマート・テロワール」構想、夢に満ちた彩り豊かな世界が確実に見えてきます。
NPO法人信州まちづくり研究会 正会員 池田広


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「スマート・テロワール : 農村消滅論からの大転換」内容紹介


当NPOの正会員池田広君が書いてくれました。概要を知ることができます。
この通りにできるかどうかは判りませんが、注目すべき提言がない中で、地方創生にとって、根本的で現実的な提言だと思います。
 是非、本『スマート・テロワール-農村消滅論からの大転換-』(松尾雅彦著学芸出版社)をお求めになって下さい。

http://www.amazon.co.jp/スマート・テロワール-農村消滅論からの大転換-松尾雅彦/dp/4761513446


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待望の著書が発刊された。実業に携わる方が日本農業について本格的な論考を展開したことにまずは敬意を表したい。
 著者はカルビー社の経営に携わりながら、同社のビジネス戦略の要諦である原料ポテトの調達を巡って様々な破壊的イノベーションを繰り返し、その体験を通じて日本農業の抱える根本問題を読み解き、その解決策について実に深い論考を展開して、体系的でしかも極めて具体的な処方箋を描き出した。

日本農業を巡る悲観論の洪水
 日本農業の将来について多くの悲観的な情報が飛び交っている。
 農業の担い手が高齢化し、しかも後継者が不足していること。
 政府の農業政策が長期にわたって稲作を中心に展開され、これがコメの生産過剰をまねき、多くの休耕田や耕作放棄地が政策の失敗の置き土産として残されてしまったこと。
 巨大な農業国である米国やオーストラリアそしてニュージーランドなどが主導権を握るTPPがこれまで以上に農畜産物の市場開放を進めることになり、生産性が低く高価格な日本の農畜産物の敗戦が濃厚に見えていること。
 何よりも巨額の補助金が投下されているにもかかわらず自給率39%の改善が一向に進まないこと。などなど悲観的な要素を上げればきりがない。

難問あまたの日本農業にはたして起死回生の妙手はあるか?
各方面から日本農業改革案が打ち出されている。アベノミクスの規制改革、地方創生策の中にも日本農業の再生に向けて照準が向けられている政策が散見される。
 農協改革、農地委員会改革、農業法人改革などが試行されようとしている。いずれも規模の拡大と農家の経営改革が中心に据えられている。

 しかしこれらの政策はいずれも農業の環境ともいうべき農村の改革を意図したものではない。農村とは切り離された形で農業が独り歩きでき得るという前提でイメージされている。
 しかし農業は農村という環境とともに語られなければ最適解は得られない。農村抜きの改革はすべてが個別最適であっても全体最適をもたらすものではない。
 農村のあるべき姿とともに農業のあるべき姿を設計しなければ農業は立ってもその環境たる農村は荒廃を極めることになる。それは農村に工業を誘致し多くの雇用創出は実現できたものの、農村が荒廃の危機に瀕している状況を経験してきたことから容易に想像可能だ。

 松尾氏の『スマート・テロワール』は農業の再生が農村の再生と一体となって実現するビジョンを見事に描き切っている。そして農業の再生は農家が主体ではなく、農村に立地する食品加工業や周辺都市の小売業との協業なしにはあり得ないことが大前提で語られている。

以下にその要旨を書き出してみよう
 日本を三分割してみる
 筆者は日本の地域を三つのクラスターに分解する。「大都市部」「中間部」「農村部」がそれだ。この3つのクラスターはほぼ4,300万ずつの人口を擁する。もちろん面積は「農村部」が一番多く全体の80%を占める。

 このように3分割してそれぞれのクラスターの比較をしてみると、これまで日本全体を対象に論じられてきたイメージとは全く異なる日本の姿が見えてくる。
例えば出生率は全国平均が1.2で少子高齢化が騒がれる根拠になっている。しかしこれを分解してみると、都市部で1.0に過ぎないが、なんと農村部では2.6にも達するのだ。
 この事実から農村部の人口を増加させる政策が唯一人口をプラスに転換させることが可能になるという論点が見えてくる。

スマート・テロワール
この「農村部」を歴史環境や郷土愛などをベースに地域住民から見て一体感の持てる地域に分解すると100~150の地域ユニットに分けられる。これらのユニットの人口は10万人~70万人、平均では40万人程度になるという。

 こうした地域ユニットをそれぞれの地域を、風土、品種、栽培法などが育む独特の地域特性を持った地域に、知恵の限りを使って実現しようという構想が「スマート・テロワール」だ。

水田を畑地へ転換して作物を米から穀物へ
 地域ユニットの創生は穀物の生産を主体とする農業の構築から始められる。昔から五穀豊穣と言われてきたが、現在は米だけに偏った一穀農業になってしまっている。
 戦後の農政が米だけを唯一の対象にして、モノ、カネの全ての資源を投下し、他の作物や畜産を強制的に止めさせてきたことが一穀物農業という怪物を創ってしまったというわけだ。

 その結果耕作地は水田ばかりになり、水田の総面積は270万ヘクタールに達することになった。しかもコメの生産性はみるみる向上し、一方ではコメの消費量は縮小に向かい、コメの過剰が問題化するに至った。
 いまや100万ヘクタールの水田が休耕田や耕作放棄地になってしまっている。この100万ヘクタールを水田から畑地に転換し、小麦、大豆、馬鈴薯、トウモロコシなどの新穀物を栽培すればいいわけだ。

畜産が農業革命の柱の一つになる
 更に地域ユニットでは畜産も不可欠の産業として育てなければならない。トウモロコシが畜産用の飼料として活用されるからだ。またその他の穀物の皮や茎など廃棄処理されるものも家畜の飼料となる。
 更には家畜の糞尿が堆肥として畑地に利用され、余剰物はバイオマス燃料として活用可能になり、地域のエネルギー源として使われる。こうした循環型の農畜産業の展開によって全く無駄のない資源の有効活用が実現するわけだ。

食品加工業も不可欠のプレイヤーだ
 地域ユニットの構成要素として農業と並んで大事な産業は食品加工業だ。食品加工業と農家が有機的な連携をすることで、地域の州民に向けた食品のうち50%程度は供給可能になり、結果として自給圏として自立が可能になる。
 加工業は消費者の要求する品質規格を農家に示し、品質による格付けによって農産物の価格を変えて、品質向上のモチベーションを農家にもたらすことが可能になる。

 また加工場は多くの女性の雇用を創出し、都市から農村への人口の回帰を可能にする。結果として農村部の出生率は2.5を超えているので、ここでの若年人口の増加は少子高齢化に歯止めがかかり、フランスのように人口増加のトレンドが生まれる可能性を獲得できるようになる。
 そして小売業もスマート・テノワールの創生に大きな役割を果たす。小売業の棚の加工食品の40%程度を地域の農畜産品で品揃えをすることで小売業は、農家と地域住民との連結環になるわけだ。

やがて桃源郷が実現する
 こうした農業革命は農村の景観を大きく変えることになる。一穀から五穀への転換はまず畑地の景観を変える、その上に放牧された家畜の姿も農村にこれまでなかった美しい景色をもたらすことになる。

 かくしてスマート・テロワールが日本全土に出現すると、日本の姿が大きく変わる。
まずは少子高齢化に歯止めがかかり、人口増加も夢ではなくなる。
 続いて食料自給率も現状の39%から67%へと劇的に改善される。これまで輸入に頼ってきた五穀の生産と畜産の増産が効いてくるのだ。

 著者の計算では約15兆円が輸入から自給へと転換が図られる。エネルギーの自給も進み、化石燃料の輸入が大きく減少し、原子力への依存も不要になる。
 そして何よりも農村が桃源郷へと変わる。都市生活者も憩を求めて、おいしい料理や美しい景観や懐かしいコミュニティに触れるためになくてはならない地域に変貌する。もちろん海外からの観光客もどっと押し寄せる。
 まさにバラ色の未来図がここに展開されている。これほどまでに人をわくわくさせる政策論があっただろうか。これを読んで多くの関係者がここに描かれた未来の建設に関わることを望むに違いない。

「スマート・テロワール」実現へのマニュアル
 筆者は各地でスマート・テロワールを実現する具体的なプログラムまで用意してくれている。著者の示すステップを踏めば確実に実現できそうだという気になる。まさに実業に携わってきた筆者ならではの面目躍如たるところだ。

 そのいみで本書は、課題解決のメソッドを体系化し、パッケージとして提供するという、日本人離れした提案までしてくれているのだ。
 まずは地域ユニットの住民がそれぞれの地域の魅力を最大に膨らませるビジョンを描くことから始めなければならない。実行するのは地域住民ひとりひとり。地域住民の自律がこのムーブメントの成否を分けることになるということだ。

追加的に考えなければならない論点
 一つだけ問題点を指摘するとすれば、地域ユニットは自給自足で完結するわけではない。当然ながら他の農村部ユニットや中間部や大都市部との交易も不可欠になる。
 例えば北海道の十勝地方。人口35万人のこの地域は日本全国の消費者や加工業者に向けた農畜産物の巨大生産基地になっている。それだけの農畜産物を生産していながらこの地域の自給率は現状でたった7%でしかない。

 この地域が自給生産圏になってほぼ40%の自給率までになった時に、当然それまで他地域に移出されていた農畜産物の量は減少する。そのときこれまで十勝地方に頼っていた他地域の消費者や加工業者は十勝地方に替わる供給者を探さなければならない。それはどのように解決すればいいのか。
 30年もかかってようやく実現できることだから、徐々に解決が進むというように理解するということで別に不都合はないのかもしれないが問題提起しておこう。

おまけ
 なお本書全体を読み進む方々は、本書を通してカルビー株式会社の強みや成長の成功要因をうかがい知ることもできるという思わぬおまけも愉しむことができる。
という意味で本書は経営書としてもお勧めだ。
 本書は優れた日本農業論、日本経済論、経営戦略論、そして実践経済人類学さらには哲学書として、まさに多様な要素を包含する快著と言うべきだ。

NPO法人信州まちづくり研究会 正会員 池田広

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2015年6月30日火曜日

東信スマート・テロワール研究会へのお誘い

子供や孫達に
誇りに思える郷土を残したい!

東信スマート・テロワール研究会(仮称)へのお誘い
 
◯東信で「スマート・テロワール」構築が可能か一緒にスタディしてみませんか?
私たちは一足先に松尾氏の本を読んで興味を持った人間の集まりです。失礼ながら正直なところまだ半信半疑でして、本当に松尾氏のおっしゃるような事が我々のまちでも可能かを調べてみたいのです。興味のある方、お手伝いいただける方を募集しています。

◯まずは夢を語りあうだけでも楽しいではありませんか
みんな自分たちの郷土がよくなって欲しいんです。このたび松尾氏から「目からうろこ」の「農村にこそ成長余力がある」という提言をいただきました。この元気のでそうな提言をきっかけに郷土の再生や将来の可能性を語りあうことは楽しいと思います。

◯実際の地域のデータにあてはめてポテンシャルを探ってまいります。
人が少し集まれば、分担して我らが地域の生産データ・消費データ、土地利用・空家・空地状況、地域の特性などを調査して現状を把握すれば、より現実味のあるビジョンが描けるかと思います

◯資格など一切ありません。お気軽にお問い合せ下さい。
松尾先生個人や行政ほか特定の団体とは無関係のただの集まりです。ボランティアですので報酬などはありませんがどなたでも大歓迎です。下記までお気軽にご連絡をお待ちしています。


東信スマート・テロワール研究会(仮称)提唱者

NPO法人信州まちづくり研究会 理事長:齋藤兵治
(このNPOについては「信州まちづくり研究会」で検索してください。)

事務所:384-2305長野県北佐久郡立科町芦田2076-1(安江方)
電話・FAX:0267-56-1033 ケイタイ(事務局:安江高亮):090-3148-0217
問合せアドレス:contact@smk2001.com

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2015年4月23日木曜日

”素敵なコミュニティづくり”に参加しませんか!

 現在は寂れてしまっていますが、立科町芦田町区は中山道芦田宿だった由緒ある町です。この町を「永遠に持続可能な町」(サステイナブル・コミュニティ)に創り変えていこうという計画です。
 21世紀の日本のもっとも崇高で価値ある挑戦だと思います。

・・・◇◇・・・

”素敵なコミュニティづくり”に参加しませんか!

 こんなこと言われても意味が判らないよ!と皆さん仰るでしょう。
 しかし、漠然とでも「できることなら自然豊かな田舎で暮らしたい」と、考えている方はたくさんいらっしゃるだろうと思います。そんな皆さんへのお誘いです!

 実は、私も理事の一人であるNPO法人信州まちづくり研究会(平成13年設立)が、このプロジェクトの推進役を務めようとして、昨年からこの取組を始めましたが、現在、ワークショップをしながらコンセプトと推進計画を固めているところです。

 我々NPOのメンバーは、過去十数年世界のまちづくりを視察し研究を重ねて参りましたので、一応の理想像は持っていますが、個別の事象に対する時は、その地域の歴史や社会状況に合った計画をつくる必要があります。もちろん、移住をお考えの皆様の想いを考慮する必要もありますので、ことは簡単ではありません。

 住まう、生活するということは人間にとって一番大切なことであり、人の一生の基盤です。その場所がまちであり、コミュニティと呼ばれるのだと思います。又、まちは人間が造れる最大の創造物でもあり、都市遺跡が世界遺産とされる由縁ではないでしょうか。
 そして我々は、「永遠に持続可能なコミュニティ」づくりを目指しています。サステイナブル・コミュニティと呼ばれています。永遠の芦田宿を創りたいのです。



 決して大ボラなどと決めつけないで下さい。世界にはそう呼ばれているまちがたくさんあります。我々にできない訳がないと思っています。しかし、計画づくりを始めて着手するまでに3年、ある程度の姿になるまで10年、完成には30年はかかるだろうと考えています。次世代に引き継いでいく仕事です。
 

そのために、この4月から、第三土曜定例ワークショップを開始しました。今日はその初日でした。

 皆さんをお誘いしたいのは、このNPOの会員になって頂き、定例のワークショップに参加することです。年会費はたったの6,000円です。詳細は下記ホームページをご覧下さい。結果として芦田宿に移住することがないとしても、「コミュニティ」や「田舎暮らし」や「移住」を研究するためには、最高の場になると自負しております。

右サイドバーの「このNPOについて」をご覧ください。

 もちろん、入会も退会も、会合やワークショップへの参加もご本人の自由です。何の束縛もありません。仲間は皆、気さくで明るい人ばかりです。NPOの家や体験農園の利用などの特権もあります。全くの素人でも、自分のお米や野菜作りをすることもできます。

 本当の豊かさへのアプローチを始めましょう!


・・・◇◇・・・

参加の仕方

 参加の仕方は、ご本人の考え方次第で自由です。ひとつだけ縛りがあるのは年会費を納めて頂くことだけです。次のような形です。

・想いに賛同し、入会し、年会費を納める。・・お金が貢献します。
・いろんな活動に参加・出席する。・・まずは月一回のワークショップ。
・農園体験や田舎暮らし体験をしてみる。・・NPOが管理している施設を利用できます。
・体験移住してみる。・・・家をご案内します。
・現実のコミュニティづくりプロジェクトに参加する。・・今後立ち上げます。
・移住し、芦田の住人になる。・・共に良いコミュニティを築きましょう。

申込書とNPO法人信州まちづくり研究会についての詳細は、
右サイドバーの「♤このNPOについて」の中にあります。

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