2017年12月11日月曜日

山形で「庄内スマート・テロワール」収穫感謝祭

 11月28日、鶴岡市内のイベントホールで「庄内スマート・テロワール」収穫感謝祭が行われました。主催は、山形大学農学部と一般社団法人山形県農業会議。参加者は約200名ほどでした。
 山形における自給圏(スマート・テロワール)実証試験2年目の成果と展望が報告・説明されました。大筋の説明と、全部を録画したYouTubeを公開します。

 山形大学農学部(学長他)と山形県農業会議(会長、五十嵐課長他)と鶴岡市(農林水産部長他)から大勢参加されており、確かな連携が強く印象付けられました。長野県からは山下長野県野菜花き試験場佐久支場長(小諸市)さんと井出長野県畜産試験場養豚養鶏部長さん(塩尻市)が参加されていました。

[主催者の挨拶要点]

 小山清人学長挨拶要旨:
農学部は今年70周年。1947年に当時の村山知事が「食糧不足は米一本では無理、農業の多角化が必要」と考え設置された。その考えが松尾さんのスマート・テロワールにつながっている。

 五十嵐直太郎農業会議会長代行挨拶要旨(会長が都合で欠席):
循環型の食と農の経済圏を構築するため、平成28年山形大学農学部と連携協定を締結した。昨年4月改正農業委員会法が施行され、農地利用の最適化の推進が主たる使命となった。
 担い手への農地の集積集約化、遊休農地の発生防止、新規参入の促進が3本柱。この改正農業委員会法の目的は、農業の形態を革新し、美しい農村景観を作り出すという自給圏構築は我々の使命と合致する。
 TPP11大筋合意、EPA交渉大枠合意により、海外との厳しい競争が現実化。まさに今、地域循環型経済圏を構築することは、食の安全と安心をより強固にすることにつながる。地域が有機的に連携することにより庄内が豊かに発展する。農業会議は市町村農業委員会と一体となり連携して力を尽くしていく。

 このお二人のご挨拶は、大学は、庄内スマート・テロワールのプラットフォームを形
成し、農業会議はそのエンジンとなることを宣言したものと受け止めました。

[報告・講演内容]
 続いて下記の順で講演・報告が行われましたが、3遍のYouTubeに納めましたのでご覧ください。いずれも素晴らしい内容ですが、特に、山形県農業会議五十嵐淳農地・営農課長による10万分の1の地図に示された庄内地域のゾーニングとドローンの空撮による景観計画はすごいです。

Vol.1:平成29年度「庄内スマート・テロワール」収穫感謝祭 
・主催者挨拶 山形大学学長:小山清人、山形県農業会議会長代行:五十嵐直太朗
・「寄付講座『実証プロジェクト』の意義」:カルビー株式会社相談役:松尾雅彦

「山形大学が取組む実証プロジェクトの概要」:山形大学農学部浦川修司教授
・「実証プロジェクトで得られた成果の紹介:輪作体系における実証展示圃のこれま
の成果」:山形大学中坪あゆみ助教
・「実証プロジェクトで目指す豚の肥育と畜肉加工品」:株式会社東北ハム帯谷伸一
表取締役

Vol.3:平成29年度「庄内スマート・テロワール」収穫感謝祭
「耕畜連携と農工一体で取組んだ畜肉加工品の紹介」:山形大学農学部松山裕城准教
・「庄内スマート・テロワールにおける農村ビジョン」:一般社団法人山形県農業会議五十嵐淳農地・営農課長(注目は、10万分の1の地図に示された庄内地域のゾーニング・景観計画です。)



[お願い]
 NPO法人信州まちづくり研究会では賛助会員を募集しています。下記ブログに説明があります。ご協力をお願い申し上げます。

https://shinshumachidukuri.blogspot.jp/2017/02/blog-post_27.html

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2017年12月2日土曜日

佐久の自給暦 2018年版発売

下段の「千石の杜」ホームページをご覧ください。田舎の豊かさ満載です。

 そのトップに「自給暦」というボタンがあります。
 2018年版が発売になりました。
 読むだけでも楽しい。とても素敵ですよ。
 購入ご希望の方は、私までお知らせください。

 この主宰者である荻原さんは、「土知の森(力)」交流サロンも主宰しており、
私も仲間にして頂きました。中込の素敵なジャズ喫茶「ぽえむ」で、月例の勉強会
があり、年内に通算100回になるそうです。毎回、とても興味深い内容です。
NPO法人信州まちづくり研究会に、この仲間が5名も入会して頂きました。

[千石の杜の基本理念]
1. 風土とつながる2. 身土不二・地産地消3. 安心で安全 ~食べ物は命その
ものである〜4. 「自給」は豊かな暮らしの宝庫


(私)自給圏(スマート・テロワール)構想の理念に合致します。

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2017年11月18日土曜日

長野大学の「地産地消論」で講義

 去る11月10日、長野大学4号館101教室で「東信自給圏」について、事務局安江が話させて頂きました。1年生から4年生まで学生さんが66名、一般参加が数名でした。
 皆さん、熱心に聞いてくださいました。

 内容は、何故、日本の食料自給率は先進国中最低になってしまったのか、1960年に、農業を良くするための農業基本法ができた途端に自給率が下がり始めたのは何故か、農業生産の国際比較で全ての作物のランキングが非常に悪いのは何故か、食品は加工すれば、10倍〜20倍の付加価値がつくのに、何故原料としてだけ売っているのか、日本人の主食である肉が84%も輸入でいいのか、小麦や大豆を、国際相場の5倍〜10倍ものコストで生産していて良いのだろうか、この状況を打開するために提案しているのが自給圏(スマート・テロワール)構想である。等々。

 アンケートの分析ができました。嬉しかったのは学生さんたちのアンケート結果です。肯定的前向きな回答が多くありました。ご覧ください。


(図をクリックすると拡大します)


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2017年11月4日土曜日

参考文献:自給圏(スマート・テロワール)

スマート・テロワール・参 考 文 献


■ 「スマート・テロワール」(松尾雅彦著 学芸出版社)
■ 「里山資本主義」(藻谷浩介、NHK広島取材班共著)
■ 「和の国富論」(藻谷浩介著 新潮社)
■ 「シビック・アグリカルチャー」(トーマス・ライソン著 農林統計出版)
■ 「大転換」(カール・ポランニー著 野口建彦・栖原 学訳)
■ 「市場社会と人間の自由」(カール・ポランニー著 若林みどり他訳)
■ 「発展する地域 衰退する地域・地域が自立するための経済学」
                  (ジェイン・ジェイコブス著 ちくま学芸文庫)
■ 「日本は世界第5位の農業大国」(浅川芳裕著 講談社新書)
■ 「文明論の概略」(福沢諭吉著 齋藤孝現代語訳)
■ 「サステイナブル・コミュニティ」(川村健一・小門裕幸著 学芸出版社)
■ 「中小企業成長論」(末松玄六著 1961)
■ 「流通革命」(林周二著 1964)
■ 「消費社会の神話と構造」(ジャン・ボドリヤール 野口建彦・栖原学訳)
■ 「草地の生態系に基づく放牧と酪農経営」(エリック川辺 2011)
■ 「なぜイタリアの村は美しく元気なのか」(宗田好史著 2012)
■ 「ゴローバリゼーション 人類五万年のドラマ」(ナヤン・チャンダ著 2009)
■ 「一六世紀文化革命」(山本義隆著 2007)


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2017年10月19日木曜日

自給飼料増産に係る子実とうもろこしの現地研修会報告:農水省

農水省のホームページに詳細が掲載されました。
添付されているPDF資料がとても良いです。
最下段に全文URL。

平成29年9月14日(木曜日)に茨城県境町において「自給飼料増産に係る子実用とうもろこしの生産拡大に向けた現地研修会」を開催し、地元茨城県や関東管内の畜産・耕種農家をはじめ、北海道から九州・鹿児島県に至るまで、行政・研究機関や、機械・種苗関係機関の方々など総勢約220名のご参加を頂きました。
現地研修会資料を公開しますので自給飼料増産の参考としてご活用頂ければ幸いです。


(2) 講 演: (13時00分~17時00分)

  1.情勢報告
    国産濃厚飼料生産拡大に向けた施策について
     講師: 農林水産省 生産局 畜産部 飼料課 課長 犬飼 史郎氏    資料(PDF : 2,016KB)

  2.基調講演

    水田での子実用とうもろこしの生産技術の向上について
     講師: 農研機構 畜産研究部門 飼料作物研究領域 栽培技術ユニット 主任研究員 森田 聡一郎氏    資料(PDF : 8,901KB)

・基調講演では、農研機構 畜産研究部門の森田主任研究員から「水田転作による子実用とうもろこし栽培に向けて」と題して、主に生産段階における技術的な観点から講演が行われました。
・とうもろこしの栽培に当たって地域の気候に応じた品質選定や、ほ場における湿害・排水対策に加え、外来雑草の防除や獣害対策問題などについて、現場レベルでの対処方法など具体例を挙げて講演して頂きました。


 3.事例発表

    ア. 国産子実用とうもろこしの生産実態と展望について
     講師: 株式会社農業技術通信社 代表取締役 昆 吉則氏    資料(PDF : 3,799KB)

・事例発表1として、農業技術通信社(月刊「農業経営者」)の昆代表から「子実用とうもろこしの生産実態」と題して、これまでの取組内容等について講演して頂きました。
・2013年頃から子実とうもろこしの生産に向けて、月刊誌「農業経営者」において特集するなど、これまで全国の先進的経営者らとともに国産子実用とうもろこしの展開を図ってきたことなどの紹介がありました。
・また、「面積当たりではなく、投下労働時間当たりの収益(生産コスト)を重要視すべき」、「水田とは水の張れる畑であり、畑作技術体系を取り入れることが必要。誰でも(子実とうもろこし生産が)やれるものではない。経営力と栽培技術力を持った人材の育成・確保が重要。乾燥貯蔵も簡易な方法が開発されている。」などの提言を頂きました。


イ. 自ら生産する子実用とうもろこしを使った畜産物の高付加価値化について

     講師: 株式会社 塚原牧場 代表取締役 塚原 昇氏    資料(PDF : 1,141KB)

・事例発表2として、収穫実演のほ場提供を頂いた塚原牧場の塚原代表から「自ら生産する子実用とうもろこしを使った畜産物の高付加価値化について」と題して、自らの取組状況について講演を頂きました。
・梅山豚を飼育し、年間1,000頭の生産・直売に取り組んでいる中、エコフィードの活用から更にその先(国産化)を目指し、平成27年から自ら子実用とうもろこしの生産に取り組んできたことの紹介がありました。
・また、将来的な目標として、「耕種農家と連携し、とうもろこし100tを自社栽培し、必要量の約3割を自給したい」との挑戦を明らかにされました。今後の取り組みに注目です!!


ウ. 水田を活用した輪作体系での子実用とうもろこし栽培について

     講師: 小泉ファーム 代表 小泉 輝夫氏  資料(PDF : 3,132KB)

・事例発表3として、千葉県成田市で水稲を中心として経営されている小泉ファームの小泉代表から「水田を活用した輪作体系における子実とうもろしの栽培について」と題して、自社の取組事例を発表して頂きました。


・ほ場のほとんどが中山間地域で谷津田が多く、1区画の平均面積が12aと狭小なほ場の条件の中で、自ら暗渠排水対策を施工、大型機械の通行が出来るよう農道を拡張するなど悪条件下でもどのような作物にも対応できるほ場づくりに挑戦している中、北海道や東北地方で子実用とうもろこしの生産に取り組んでいる生産者らと出会い、現在3haで子実とうもろこしの栽培に取り組んでいることについて紹介がありました。


4.パネルディスカッション

    子実用とうもろこしの生産を都県で展開して行くには
                                               ~都府県で生産するメリット~

・シンポジウムの最終プログラムでは、農業技術通信社の昆代表をコーディネーターとして、「子実用とうもろこし生産を都県で展開して行くには~都府県で生産するメリット~」と題し、演者4名をパネリストとして会場の出席者とともに、講演内容を踏まえ総合的な討論が行われました。
・子実用とうもろこしの生産拡大を図っていくには、ほ場の乾田化・団地化、収量の増加や生産コストの低減、収穫後の乾燥・保管、品種選定、収穫機の改良といった課題にどのように対応すべきか等について意見交換が行われ、コーディネーターから取組が始まったばかりであり総括するような段階ではなく、先進的な取組の知恵を活かし関係者が連携して取り組んでいくことが必要と総括されました。



http://www.maff.go.jp/kanto/seisan/tikusan/morokoshi.html

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2017年10月18日水曜日

住宅建築行政の闇を暴く!

HICPMメールマガジン第742号
みなさんこんにちは
「日本の住宅」展
現在HICPMの会員の方が、YOU-TUBEを使ってHICPMがこれまで行ってきた米国の住宅産業から技術移転したことを送信し始まましたが、私個人としてもそれに対応する取り組みをしています。https://youtu.be/8kHwRSp2X7A
昨日は竹橋の国立近代美術館で開催されている「日本の住宅―1945年以降の建築とくらし」を見学してきました。改めて日本の戦後建築教育の崩壊をしてき た建築家たちの間違いを見る思いでした。悪いことに、この展示会に登場した建築家自身に「日本の建築文化破壊を行なった」という自覚がなく、その弟子たち が現代に日本建築を想像したと勘違いをしていることです。この展覧会は世界を回ってきたということですが、世界に日本の現代建築の恥さらしをしたと言って よいと思います。この展示会をご覧になってください。その展示されている建築が日本の建築文化と言われたら、日本国民にとって、それを侮辱するもので、日 本の住宅建築の歴史文化に泥を塗るものであると言わざるを得ません。「13階段という死刑」の象徴的構成で戦後の住宅を「13の構成」によって破壊してし まったことをパロディにつもりだったのでしょうか。
 『注文住宅』の続きを連載します
今回は国立近代美術館で展示会と重なります。黒川紀章のカプセルタワーは、当初の設計は防災避難上危険であったため2つの塔の 最先端で避難のつなぎを作ってもらって建築することを認めたものです。ここでの展示作品には、丹下健三や、今回登場する2人の建築家(黒川、菊竹)を含 め、政府が日本建築学会(池辺陽)と進めた工業化住宅とモデュラコオーディネイションなど私にとってもいろいろな思い出のあるものでした。
 有名建築士の行政処分
私自身40年ほど前、建設省住宅局建築指導課長補佐(建築士班長)として建築士法の施行担当責任者の職にあったとき、建築士の 業務責任の適正な監督に取り組みました。1964年東京オリンピック後、HPシェル構造の東京体育館の雨漏りが止められず、設計上の欠陥が指摘され、修繕 策が見つからず、東京都は困っていました。設計者(丹下健三)が、「雨のも漏らないような建築など建築ではない」と言ったことが新聞に報道され、メディア は騒ぎ、当時、続発していた有名建築家の設計による建築事故は、丹下健三発言から追い風を得たように有名建築家が開き直った発言と行動を繰り返していまし た。当時、中国の文化大革命の影響もあり、権力への造反には合理的理由がある(造反有理)と風潮が社会的に広まり、権力に従わないことが、進歩的な考え方 である風潮が生まれていました。高度成長期に入って、ただでさえ違反建築が増加しているときに、この傾向に早期に対策を打たなければいけないと住宅局建築 指導課では考えました。できればその頂点にある丹下健三に発言の撤回を求めることも話題になりました。しかし、「猫の首(東京大学建築課)に誰が鈴を付け るか」という話になり、不可能とされました。かつて、戦後の建築行政に大きな影響を与えた東京大学内田教授が住宅局長人事に干渉した例が挙げられ、丹下健 三の住宅局への影響も侮れないとされました。そこで、「丹下健三の影響を受けた有名建築家の違法行為の行政処分から丹下包囲網を詰めていく基本方針」を定 め、沢田光英住宅局長の承認を得、建築士の行政処分が開始されました。とりあえず、神奈川県建築士会長や有名大学建築科教師などの数人の建築士の行政処分 を行いました。そして、建築学会や設計・工事監理業界の反応が、あまりに建築設計業界が乱れていて自己浄化できなくなっていたので、行政処分に好意的に なっていたのを見極め、以下の2つの有名建築家の社会的な批判の大きな事件で、国民の支持が期待される事件に取り組みました。
黒川紀章の寒河江市役所と菊竹請訓の宮崎県都城市民会館の事件は、派手な事件で、建築家たちは反省の色はなく、設計業界も有名 建築家には苦虫を噛み潰し、メディアでも大きく取り上げられ、行政処分を行っても、社会的な支持が得られると判断されました。その事件の概要は以下の通り です。
 (1)  寒河江市役所
寒河江市役所は断面が4m角の大きな4本の鉄筋コンクリートの柱で10mの片持ち梁の床を支持する構造です。4本の構造柱を中 空にし、壁で囲った構造柱を階段室にした建築物です。柱を中実(ソリッド)にしても中空(ホロー)にしても、構造理論上の安全に大差はありません。しか し、10mの片持ち梁の鉄筋を中空柱の壁にアンカーすることは不可能で、建築後床版は撓み、床は振動し、建築物は執務上危険状態と判断されました。話題の 建築で危険な建築であったので全国紙を賑わせました。松井源吾に構造相談をしていました。
 (2)  都城市民会館
都城市民会館は門型の鉄骨針で屋根構造を釣る構造でした。この鉄骨梁を鉄筋コンクリートで被覆していたのですが、コンクリート の亀裂から雨水が侵入し、鉄筋を錆びさせ、門型の鉄骨梁の鉄筋コンクリート被覆は損傷を受け、何の予知現象もなく、穏やかな日に大音響を発して鉄筋コンク リートの門型梁の被覆材が崩壊落脱し、瓦礫の山がつくられ、まさに「青天の霹靂」で全国紙に取り上げられました。振動を受けやすい鉄骨梁を鉄筋コンクリー トで被覆する計画自体が鉄筋コンクリート構造として非常識で、大規模な崩落事故が発生しましたが、幸い人身事故にはなりませんでした。

この2つの事件はいずれも過去の建築構造としては例のない突飛な構造で、建設時点から社会の注目を浴びていました。建築士は自 らの技術力の未熟さを自覚せず、建築士の就業制限規定を勘違いしていました。2人の建築士は私が建築士行政上行なった設計者に自己弁明の機会を与える事情 調査で、2人とも、「建築士には、就業制限業務の建築設計は実施できる能力を建築士試験で審査し、建築士法でその設計する権限を国家が与えている」と権利 の主張をしていました。いずれの事件も「建築士法上あたえられた権力を行使したものであること」を主張するものでした。
彼らは、建築士自身の保有する学識経験を逸脱し、建築士法で禁止している誠実業務(建築士自身の保有する技能を超えない)以外 であっても、「建築士法の就業制限内の業務であれば、それは建築士の権利と勘違いし、その能力の及ばない設計を行った結果」の発生した事件でした。その業 務は建築士の不誠実業務が原因と判断され、調査結果をもとに建設省住宅局建築指導課内での検討の結果、行政処分がまとめられ、住宅局長の決裁を得て案処分 が決定されました。2人の建築士は丹下健三と同じ理屈で事故が発生した建築物に対する建築士責任を認識していませんでした。
 建築士法第18条の誠実業務
米国の建築家法には建築家の倫理規定があり、建築家は自らが過去に実施した技術で検証済みの技術を行使すべきで、安易に未知の 技術を使うことは建築士の倫理規定に違反します。2人の建築士は、「建築士は国家が与えた資格で、建築士資格の行使は建築士の権利である」と見当違いの弁 明をしました。米国の倫理規則が建築士法第18条の「誠実業務」であるとして、行政処分の論理を構成しました。つまり、建築士の就業制限は、建築士がその 資格を理由に設計業務を行ってよい権限を定めているのではなく、すべての建築士資格を有しない人に実施を制限している業務というだけで、その業務能力を認 めている訳ではありません。建築士は実施する業務に関し、その学識経験に裏付けられた範囲を逸脱して行ってはならず、建築士法第18条、誠実業務(建築士 自身の内在的制約:モラル)として、自己の技術行使は、その能力を知っている本人が、自己規制することを、建築士法第18条で「誠実な業務の履行」を求め ています。
 建設大臣による行政処分
2つの事件は、いずれも建築士が、設計する建築物を実現するに必要十分な学識経験を有しないで設計・工事監理業務を行なったこ とで発生した事件でした。彼らは「建築士として設計したものは安全である」と過信していただけで、安全性を説明する根拠はありませんでした。安全な建築物 の工事をするための設計圖書は作成されていませんでした。事故に関する部分の実施設計図書は存在せず、現場での職人任せの工事でした。建設省住宅局では建 築士設計モラルの崩壊と建築士行政の危機とされ、建築士業務を根本的に見直す取り組みとして違法な建築家の行政処分の実施を厳密に行う方針に従い、上記2 名の建築家に対しては、最終的に建設大臣は行政処分として、「業務停止2か月」を決定しました。その処分の実施に関し、建設大臣は中央建築士審査会に行政 処分を実施することを諮問しました。中央建築士審査会は、住宅局の建築士処分の基本方針を了解し、「この2件の事件はメディアを賑わせた事件でもあること を考慮し、有名建築家であるから許される問題ではなく、むしろ厳しく臨むべきである」と建設大臣の行政処分の諮問に対し、中央建築士審査会(会長市浦健) から同意が与えられました。
 中央建築士審査会の同意の破棄
2人の建築家は田中角栄の列島改造委員になっていて、行政処分の中央建築士審査会の同意がなされ、建設大臣の行政処分決定の決 裁が開始されたことを知り、2人の建築士は行政処分の回避を二階堂幹事長に陳情しました。二階堂幹事長は同郷の救仁郷建築指導課長に処分猶予の検討を示唆 しました。住宅局長への昇進を窺がっていた救仁郷課長は、田中角栄の列島改造委員の処分は自らの昇進の妨害になると判断し、私建築士法の施行担当責任者で ある私に隠れて、市浦建築審査会長と謀議し、審査会同意を取り消すことを内定し、その同意やり直しの会議を開催することになった。私は事前にその動きを知り、信頼できる建築士審査会委員にその動きを知らせ、中央審査会の信用のために同意の見直しを行なってはい けないと説得した。中央建築士審査会では、市浦会長が救仁郷建築指導課長と謀議したとおりの筋書きに従って「同意の見直し」が提起された。そこで私は建築 士行政担当で事実関係を調査した行政官として「中央建築士審査会の同意見直しには正当性がない」ことを説明した。その結果、中央建築士審査会は「先の同意 を再確認する」ことになった。そこで、私は中央建築士審査会後、建設大臣の行政処分文書を起案し救仁郷課長の決裁を求めた。救仁郷課長は私の目の前で建設大臣による行政処分決済文書を課長の職務机の引き出しに収め、施錠し、「決裁文書はこうなるのだ」と言い、大臣決裁を妨害しました。
官僚の昇進の「邪魔者は消せ」、そして、邪魔者は「苛め抜け」
中央建築審査会の判断を尊重し行政処分を実施した私は、救仁郷課長から人事異動で、「君は業務に精励したので3等級に昇進し、 政令職、大臣官房技術調査官にする」と辞令が内示され、大臣官房技術調査室に配属されました。しかし、私の人事は「課長の意向に楯突く邪魔者」と建築士行 政の職務から外され、住宅局から追い出され、部下のいない大臣官房の閑職に配属されました。その後の人事で大臣官房付けでJICA門家としてインドネシア 政府に3年派遣された。帰国後、建設本省には戻せないと言い、付属機関の建築研究所に新設ポストをつくって配属し、その後は地方経験をさせろと言って愛媛 県に派出された。その後行政改革を前提で、宅地開発公団に合併し、住宅都市整備公団に派遣した。そこには救仁郷副総裁として建築部担当で就任し、私には都 市開発計画部の調査課長であったが、影響を及ぼし、私をルーティン業務をやらせない閑職にした。
そこで業務上都市開発調査は手が付けられなくて、私は「大都市圏の宅地の20年後の需給予測調査」や「高齢者社会における公団の取り組みを調査研究」をす ることにした。当時宅地不足と政府は言っていたが、私の実感としては宅地は過剰であり、この事実はどうしても明らかにしなければと考え、国土地理院がラン ドサットを使って調査した。そして、宅地の現状と建設省計画局が組織的に集めた宅地開発計画の基礎データをもとに20年後の4大都市圏における宅地の需給 調査を実施した。この結果は非常に高い精度で宅地過剰を予測したものであったため、志村総裁は日本の宅地問題の基本認識として重要であると判断し、私に、 建設省にその調査結果を報告するように指示された。
そこで公団の宅地部門の監督下である計画局三井幸寿宅地課長に報告した。ところが三井課長はその調査結果を聞くなり、その立場を見失ったように怒り出し、 「こんな事実が表に出たら、建設大臣は国会で立ち往生させられる。一体誰がこんな調査を行なえと言ったのか」というので、「3年間にわたって毎年調査の事 業計画は建設省計画局の三井課長にも説明し、その許可のもとに実施したもので、三井課長自身が承認した調査である」と説明したところ、「経緯はどうでもい い、この調査は部外秘扱いにせよ」と言い、私の面前で住宅都市整備公団の宅地担当理事久保田誠三を呼び出し、電話口で私に行ったと同じ内容で怒鳴り付け た。宅地供給が社会的に問題に取り上げられ始めていた時代であった。
 建設省人事というもの
私は住宅都市整備公団で5年働いたことになるが、公団への出向は5年が限度で、それ以降は建設省に戻す途しか残されていない。私はその与えられた職務の中で国民にとって必要な仕事を行ってきたため、その業務に非を見つけて馘首することはできない。そこで、建設省の設立した㈶国土開発技術研 究センターに派出された。その直後、建設省人事で大阪府の建築部長に派遣されていた人事が、共産党支持の黒田知事との関係で、存続させられないということ で本省人事は不要ということになった。しかし、建設省としては、大阪府に人事拠点を維持が必要ということで、「ともかく、誰か」を送り込もうということ だったが、だれもしり込みをして大阪に行く者はいなかった。私は行政事務に戻れるということで誰も行きたがらないところでしたが行くことにした。私が大阪 府庁に行き、建築部長に面会したとき、大阪府庁舎の建築部が置かれていた第2別館は、1階から6階までエレベーターホールには床から天井までの紙に大きな 文字で「戸谷英世は大阪府に来るな」と書かれていた。私に面会した建築部長は申し訳なさそうに、「労働組合との合意ができていないので、組合との合意がつ くまで、あなたの机も椅子も用意できない」ということであった。その2週間後に団体交渉があり、私は労働組合からの質問には積極的に応え、むしろ、私の人 事は既成事実として、業務に取り組む姿勢で臨んだため、組合は、「もう出てきちゃったから受け入れざるを得ない」ということになった。しかし、私の席は、 建築部の部長次長という管理職の部屋とは逆の位置にある入札室の中に小さな応接セット付きの部屋が造られ、そこには総務を中継しないと接続されない電話が 一本繋がっていた。完全な監視下に部下なしの部屋に押し込まれました。私の業務は建築部長特命のいかの2つの仕事で、これまで大阪府建築部が何年も取り組 んで何もできなかった仕事でした。
  • 大阪の木賃ベルト地帯の解消
  • 関西国際空湖周辺都市の整備を地区計画による整備
この2つの仕事はそれだけの大きさがあり面白い仕事として、その後の2年間大いに楽しむことができたため、建築部長が私に2年 の契約の任期延長を求めてきたが、仲介に立った建設技監が私が部長に重要視されることを煙たがり、大阪で継続的に勤務することを妨害した。しかし、私には 2つの民間企業から入社の誘いがあり、一つは海外勤務、もう一つは輸入住宅関係の国内企業でしたので、これ以上官僚人事で振り回されていても仕方ないと考 え、ちょうど2×4工法を活用した輸入住宅の仕事ができるので、退官を決意し、官僚でできなかった夢を住宅産に出かけることにした。私が退官後、30年以上経過し決裁文書は決済不能のまま放置され、住宅局で成仏できないでる大臣による行政処分の決裁文書のことを審議官から聞かされ、決裁文書の処分で、処分をしても、しなくても自分の利益にならぬ処分に手を貸さなかった官僚世界を再度見る思いでした。
有名建築士の行政処分で課長と対立し、建設本省を追い出されてから、建設本省には1日付で戻し、即日別の外部機関に派出する繰 り返しを、15年間にわたり合計8回の配置転換と昇給差別をさせられていたことになる。配置転換先ごとに救仁郷は住宅局の影響力を人事に発揮し、派出先の 人事権者に私をルーティン業務から外させる業務干渉しつこく繰り返し、私の官僚として住宅政策業務への復帰の希望を絶たれました。私が人事差別を受けてい たことを何も知らなかった私の娘が山崎豊子の小説を紹介してくれた。どの著作も著者山崎豊子の思い入れがあって、『不毛地帯』『大地の子』『二つの祖国』な ど全巻を一気に読みました。その中で『沈まぬ太陽』(日航労組)の10年間の人事差別物語に出会ったとき、私自身のことが小説化されているのではないか と、主人公にように錯覚しました。私は小説を読みながら、官僚社会での自分の経験をあらためて思い出していました。
私は退官し官僚人生でできなかった日本の住宅産業にかける「ストックの住宅」の実現に取り組むことにしました。この取り組みは国民が住宅を取得することで 資産形成をさせる仕事でした。それが現在のNPO法人住宅生産性研究会の「欧米の住宅産業に倣う仕事」に繋がっています。
建築士法の立法趣旨と現実の矛盾
有名建築家の行政処分の根拠の解明と建築家の業務是正のため、住宅局建築指導課では日本建築家協会の会長経験者ら指導的な役割 を担っていた前川国男、圓堂政嘉、市浦健、大江宏と建築士行政の担当責任者(救仁郷建築指導課長と建築士班長の私)が会合をもちました。その会合では違反 建築を撲滅するために建築家協会の協力を求めるとともに、現行制度の問題を検討しました。そこでは、建築士法制定時の経緯と現状のずれの総括、米国の建築 家法と建築教育と設計業務とそれに対応する建築士法に規定する建築教育と建築設計・工事監理業務、並びに、建築士法違反者に対する行政処分を、官民のトッ プの共通認識を図る目的で行いました。それは2人の有名建築士の行政処分が決定され、中央建築審査会の同意を得た直後で、建築士行政と建築設計・工事監理 業界との信頼関係を維持するため、建築士の行政処分に理解を求め、相互理解を強めるために開催されました。その後に2人の建築士が列島改造委員になり、救 仁郷が自分の身を守るために行政処分を覆そうとしたのですが、この時は行政処分で合意されていました。
住宅局建築士行政と日本建築家協会のトップ間での協議の結論は、日本と欧米の建築設計・工事監理業務は、その基本の建築学教育 自体が別で、異質であるから、日本の建築士は米国の建築家と同質の設計・工事監理業務を求めることはできない。それは建築士法が前提にしている米国の大学 の建築教育と米国の設計・工事監理業務経験は、わが国では行われておらず、設計・施工一環の建設業界と結びついた公共事業の利権構造により、現行の設計・ 施工業務を米国のように変えられず、建築士に設計・工事監理業務を排他独占業務として行わせることには無理があるという結論になりました。その上、建築士 に資格を担保する学識・経験はなく、必要な設計・工事監理能力を自己規制する倫理規定がなく、その技術能力を確認する制度がないことが指摘されました。そ して、官民双方が協力しない限り建築士の業務は改善できないので、目に余る建築士の業務違反に行政処分を行なうことは、設計監理業界としても理解するとさ れ、設計・工事監理業者にも分かり易い形で建築士法第18条に求めている誠実な業務を「設計・工事監理の業務基準」として明らかにすることが求められまし た。建築指導課ではその要求を受け、その後、行政部費で「設計及び工事監理の業務基準」を予算計上しました。結局、その業務基準はまとめることができませ んでした。そこで住宅建築業の業務に関し、設計者、施工者、行政官に2年以上にわたる検討をしてもらい、その成果の一部を、『住宅建築業の手引き』(井上 書院)に取纏めました。
その30年後、私が住宅生産性研究会を設立し、全米ホームビルダーズ協会(NAHB)と相互協力協定を締結し、NAHBが発行 している住宅専業経営管理技術(CM:コンストラクションマネジメント)のテキストの翻訳解説本を作成しました。そのとき、建設業者が高い生産性を上げる ためには設計業務として、CMを行なえる実施設計図書が不可欠と記載されていました。NAHBのCMテキストは『住宅建設業の手引き』で取り上げたことの すべてが、詳細に説明されていました。米国のCMは、住宅建設業者に必要な建設業経営管理の技術を体系的にしたもので、現在の欧米の建設業経営では共通の 経営学として大学教育で教育している内容です。この本では建築士の設計・工事監理業務と建築士が作成した実施設計図書に基づく建築施工(工事管理)に取り 組んだわけですが、欧米では大学の建設業経営管理学部の教育になっていました。そしてCM教育を学校教育で学べなかったホームビルダー(住宅建設業者)の ために、米国では全米ホームビルダー協会(NAHB)の教育研修機関であるホームビルダー・インスティチュウト(HBI:住宅建設業研修機関)がホームビ ルダーの研修を行なっています。CMのテキストとしてNAHBプレスから発行されたテキストを翻訳し解説を加え、NPO法人住宅生産性研究会は井上書院か ら出版しました。その作成の過程でCM教育が欧米の大学の建設業教育として教育され、日本だけはCM教育が、学校教育でも職業教育でも行われていないこと を発見しました。CM技術が米国で建設業経営学部として学校教育の軌道に乗ったのは1960年代以降の新しい分野です。
(NPO法人住宅生産性研究会 理事長 戸谷 英世)
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2017年10月3日火曜日

スマート・テロワール通信4


カルビー(株) 取締役相談役 松尾雅彦
4 20171002

スマート・テロワールとは中核となる地方都市と農村からなる自給圏の構想である。 そのコンセプトはサステナビリティ(持続可能性)を目指し、 「田畑輪換を畑作輪作へ転換する」「地域に女性の職場の食品加工場をつくる」 「住民の地元愛で地元産の食品を応援する」という3つに取り組むこと。 実現すれば、21世紀の社会において農村が最も元気になる。

山形大学農学部「実証展示圃」で畑作と畜産の循環システムを検証中
山形大学農学部附属高坂農場に設けられた実証展示圃での検証は今年で2年目になる。今年はジャガイモ(トヨシロ)、大豆(里のほほえみ・エンレイ・シュウリュウ)、トウモロコシ(TX1334)、緑肥(ヘアリーベッチ・エンバク)を作付けしている。緑肥の後、秋以降に小麦(ゆきちから)を播種する。
現在、日本の畜肉消費は飼料や生肉で米国農業に依存している。実証展示圃では国内で飼料供給体制を開発し、米国と競争できることを実証する。そのために規格内品の収量目標数値を達成し、規格外品を畜産に提供し、畜産の堆肥を畑に投入する。
規格外品を畜産業に無料で提供することにより、従来の畜肉生産コストでは50~60%におよぶ飼料コストを現在の1/3に削減するという仮説を検証する。食品加工業との契約栽培の場合、一般的に収量全体の20~30%が規格外品になる。
また、規格内品の収量の目標数値を達成するため、穀物の輪作体系を組み、堆肥投入による土づくりをする栽培法を検証する。輪作体系はジャガイモ→緑肥→大豆、大豆→トウモロコシ、トウモロコシ→緑肥→小麦、緑肥→ジャガイモ。ポイントは3つ。(1)家畜の飼料にするトウモロコシの栽培経費をできる限り抑える。マメ科の根粒菌による窒素固定で地力を上げ、収穫残渣をすき込んで翌年のトウモロコシの減肥につなげる。(2)秋まき小麦の播種前に、土地の有効活用と土づくりのため緑肥を作付けする。マメ科のヘアリーベッチで窒素固定を、イネ科のエンバクで有機物を投入する。(3)緑肥の後の土壌リセットと有機物の投入としてジャガイモを栽培する。収穫後も緑肥を栽培してすき込む。こうして「畑作と畜産の循環システム」を実証していく。
11月28日に「収穫感謝祭」を開催し、市民にも取り組みを報告する。

北海道の放牧養豚を視察
スマート・テロワール協会×農村経営研究会
(株)アレフが運営する「えこりん村」(北海道恵庭市)では、畜産業を営んでおり、放牧した豚を出荷している。 
子豚のうちは平場で放牧している。春夏は生後約25~30日、秋冬の雪が積もる時期は屋内で肥育後、遅くとも生後3カ月後には放牧を始める。現在約100頭の子豚が駆け回りながら肥育されている。 
生後4カ月になると母豚候補は山林で放牧する。8カ月経つと母豚を決 
め、他は出荷される。母豚候補は電気柵で囲まれた山林で自由に動き回り 
ながら過ごしている。子豚と母豚は好きなときに自由に餌が食べられるように、放牧場の一角にそれぞれ濃厚飼料の給飼場が設けられている。 
このようにストレスが少ない環境で豚を肥育しているため健康状態が良好だという。

視点
【放牧養豚の意義】 

7月31日~8月1日、私は北海道の放牧養豚場や害獣対策の現場を視察しました。恵庭市にある「えこりん村」では、山林に電気柵で囲った放牧場を作り、ストレスの少ない環境で豚を肥育しています。 
畜産はスマート・テロワールの要になります。食料自給率を上げるには、飼料を作らなければなりません。日本人は、コメより肉を食べる欧米型の食生活になったからです。現在は、豚肉加工品のハムやソーセージの大部分は原料に安い輸入品が使用され、国産の肉も飼料の大部分が輸入品です。地域で畑作と畜産の循環型農業を成立させれば、飼料代が抑えられ、国産の豚で畜肉加工品を作ることができます。 
地域のなかで畑作と畜産の循環型農業を成立させるには、畑作穀物の加工場ができ、規格外の作物と加工残渣が飼料として活用されることが重要です。堆肥は、畑の土づくりに必要な有機物です。 
また、畜肉加工場、大豆や小麦、ジャガイモなどの加工食品の工場は、周年操業の作業場になり、女性の職場になります。 
畜産業を「放牧」で行なうことも重要なポイントです。地域の土地利用を考えるとき、平野には水田、傾斜地には畑、そして山際では畜産を営むのが理想的です。コメ余りのなかで、無理に傾斜地や山際の水田を維持する必要はありません。家畜を放牧すればよいのです。もともと畜産は放牧でした。山際の耕作放棄地も有効活用でき、獣害を防ぎ、さらに餌に抗生物質を混ぜなくても免疫力がつき病気になりにくくなります。

先般、EUとのEPA交渉で、動物福祉の観点から日本の豚肉のEUへの輸出が阻まれました。EUでは動物福祉に政策的に取り組んでおり、EU加盟国の最低基準として「EU法規」が設けられています。これは単に感情的な問題だけではなく、工業的な畜産への反発があります。家畜の病気や薬品の多用、環境汚染などの問題から、食品安全性や畜産物の品質に対する懸念からくるものです。 
放牧養豚に取り組む人々の話を聞くと、放牧している豚は病気になりにくく、ロスが少ないというメリットがあるそうです。放牧は、持続可能社会の機運の高まりのなかで動物福祉を支持する世界的な流れにも合致しています。 

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2017年9月23日土曜日

『戸谷の言いたい放題』序章ー住宅デザインと資産価値ー

 住宅生産性研究会の戸谷英世理事長が素敵なYouTubeをリリースしました。 
下に添付したブログのデータと見比べると、日本の住宅政策の問題点がよく判ります。
住宅の投資額と資産額の日米比較
http://shinshumachidukuri.blogspot.jp/2016/12/blog-post_30.html

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2017年9月16日土曜日

自給飼料増産に係る子実とうもろこしの現地研修会

9/14日、比田井会員と安江が、茨城県猿島郡境町まで視察に行ってきました。
事務局のミスで、実演がほんのちょっとしか見られませんでしたが、刺激たっぷりの
有意義な研修会でした。参加者は150人ほど。

農村再生の扉が開かれた気がする研修会でした。現物、現場を見る効果でしょうか。

要領は、以下の通りです。
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主催:農林水産省関東農政局生産部畜産課、茨城県農林水産部畜産課、
   一般社団法人日本草地畜産種子協会

目的:農林水産省は、飼料自給率を平成37年度までに40%とする目標を掲げており、自
飼料増産に向けた取組を行っているところです。
関東管内ではコントラクター等の飼料生産組織を活用し、稲WCSや飼料用米等水田を有効
活用した自給飼料の増産に向けた取組が行われていますが、近年、一部の地域で子実用と
うもろこしの生産・利用拡大の可能性がみえはじめたところです。
このため、関東地域の水田地帯において子実用とうもろこしの生産拡大と需用者である畜
産農家の利用拡大を図るため、生産圃場にて収穫実演を実施するとともに、管内における
子実とうもろこしの生産現場での課題や波及可能性等について研修会を開催します。

プログラム:
(1) 実 演:(10時30分~11時30分)
    子実とうもろこしの収穫実演
    協 力:クボタアグリサービス株式会社
              ヤンマーアグリジャパン株式会社


(2) 講 演:(13時00分~17時00分)
  (ア) 情勢報告(13時15分~13時30分)
       「国産濃厚飼料の展望について」
       講 師:農林水産省生産局畜産部飼料課 課長補佐(飼料生産計画班) 太鼓矢 修一氏
  (イ) 基調講演(13時30分~14時15分)
       「水田での子実とうもろこし生産の技術向上について」
       講 師:農研機構畜産研究部門
       飼料作物研究領域栽培技術ユニット主任研究員  森田 総一郎氏
  (ウ) 事例発表(14時15分~16時00分)
    (a)「国産子実とうもろこしの生産実態と展望について」
        講 師:株式会社農業技術通信社代表取締役  昆 吉則氏
    (b)「自ら生産する子実とうもろこしを使った畜産物の高付加価値化について」
        講 師:株式会社塚原牧場代表取締役社長  塚原 昇氏
    (c)「水田を活用した輪作体系での子実用とうもろこし栽培について」
        講 師:小泉ファーム代表  小泉 輝夫氏
  (エ) パネルディスカッション(16時00分~17時00分)
       「子実とうもろこし生産を都府県で展開していくには
               ~都府県で生産するメリット~」
(3)パネル・ディスカッション
◆コーディネーター:昆  吉則氏(株式会社農業技術通信社代表取締役)
◆パネリスト:
  太鼓矢  修一氏(農林水産省生産局畜産部飼料課課長補佐(飼料生産計画班))
  森田  総一郎氏(農研機構畜産研究部門飼料作物研究領域栽培技術ユニット主任研究員)
  塚原  昇氏      (株式会社塚原牧場代表取締役社長)
  小泉  輝夫氏   (小泉ファーム代表)

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パネルディスカッションの概要:

・「国産濃厚飼料の展望について」:太鼓矢 修一氏
現在飼料自給率は27%、これを平成37年度までに40%にする計画。
特に濃厚飼料は現在約8割輸入。その代表が子実とうもろこし。 
そのための水田活用の推進。

・「水田での子実とうもろこし生産の技術向上について」:森田 総一郎氏
専門の研究員の詳細の発表があった。トウモロコシの性質、利用の仕方、栽培技術、
雑草対策、獣害対策等。たくさんのPPTデータがあります。

・「国産子実とうもろこしの生産実態と展望について」:昆 吉則氏
子実用とうもろこし生産の仕掛け人である昆吉則さんの講演はさすがに説得力があり
気迫がありました。諸データから考えてこの通りだと思います。以下、要点:
「水田とは水のはれる畑である」、「子実とうもろこしの投下労働時間当たりで考えれば
水稲より収益性が高い」、「子実とうもろこしへの財政負担は飼料米の4ぶんの1」、
「誰にでもできることではなく、経営能力と技術を持った彼に未来を託す」、「畑作技術
と子実とうもろこしが水田農業を救う」。

・「自ら生産する子実とうもろこしを使った畜産物の高付加価値化について」:塚原 昇氏
1990年にエコフィードの製造販売を始めて、2002年から梅山豚(メイシャントン:中国
の豚)の生産をはじめた。この方の畑が子実とうもろこしの収穫実演会場でした。
(エコフィード:食品製造副産物(醤油粕や焼酎粕等、食品の製造過程で得られる副産物)や売れ残り(パンやお弁当等、
食品としての利用 がされなかったもの)、調理残さ(野菜のカットくずや非可食部等、調理の際に発生するもの)、
農場残さ(規格外農産物等)を利 用して製造された家畜用飼料)
梅山豚は国内に100頭しかいない幻の最高級豚肉だといいます。

・「水田を活用した輪作体系での子実用とうもろこし栽培について」:小泉 輝夫氏
一人で(臨時1人)42haの栽培。内訳は、水稲30ha、大豆9ha,子実とうもろこし3ha.
千葉県成田市の湿地帯なので、谷津田が多く、排水工事を行い乾田化に取り組んでいる。
まるでこの地域の中山間地という感じの場所もあり、すごい取り組みで感動しました。
どの作物にも対応できる圃場作りを目ざしています。

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感想:
昆さんが初めて子実とうもろこしの栽培に取り組んだのが2011年。今年で7年目。この数
年、50%位づつ作付け面積が増え、そして今年、初めて農水省が子実とうもろこしのた
めの予算要求を出したのです。昆さんが感無料と仰っていました。

参加者全員の共通の意識は、稲作依存への危機感だと思います。だから「どの作物にも対
応できる圃場作り」を目指す。子実とうもろこしの需要の大きさと採算性の良さへの魅
力。そして省力化のための機械化。

昆さんの次の言葉が正しいと思います。
「稲作の呪縛から離れること。畑作技術と子実とうもろこしが水田農業を救う」

農水省が国産の本格的畜産飼料の生産に、やっと重い腰をあげたという感じです。しかし、
農業政策全般から見れば、飼料米やWCS(ホールクロップサイレージ)とバッティング
する気がします。省内調整が難しいでしょうね。

農業経営者である塚原さんと小泉さんの取り組みは本当にすばらしく感動しました。
特に小泉さんの谷津田への取り組みをみれば、どんなところだってできると思います。
我々は泣き言ばっかり言っていて不甲斐ないと思わされました。
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2017年9月9日土曜日

緊急提言:農振農地への太陽光発電は阻止するべき

農政に関わる全ての皆様
特に 農業委員会の皆様

 農地転用した畑と畑地のままの太陽光発電について予々問題だと思っていましたが、平成29年度になってから、農地転用しない水田にも太陽光発電ができるようになり、一段と深刻になりました。

 ご承知のように、今までは農地転用するのが基本でしたので、それが展開のブレーキになっていました。ところが9月初旬、上田市塩田平に、かつて圃場整備事業を行なった優良田んぼのど真ん中に、稲の上に太陽光発電が設置されているのを確認しました。


 その数日後、買取と借地の対象の中に田が入っている新聞折込チラシを見てまたビックリです。その価格が法外です。添付の通りです。この条件では、どんどんと水田にも太陽光発電が出現するでしょう。


  都会の感覚では理解できないと思いますが、中山間地の農地はほとんどタダ同然です。それを坪20007000円で買い取るとか、耕作地としては年坪15円~30円ほどにしかならない賃貸料を200500円払うとい書いてあります。みなさん跳びつくでしょう。

 田園の破壊が起こります。田園の中に虫食い状態に太陽光発電が出現するでしょう。中山間ほどこの状態が進むと思います。農業を辞めたいと考えている農家がたくさんあるからです。

 これは大変なことになります。一度設置されたら、最低20年は動かせませんし、その後撤去されるかどうかも判りません。

  当NPOが推進している自給圏構想(スマート・テロワール)は、ほとんど輸入に頼っている穀物生産と畜産の振興が原点です。そのためには、余剰の田んぼと耕作放棄畑の再整備が必須です。

 そのために農地のゾーニングと再整備が必要ですが、その中にひとつ太陽光発電があれば、それを含む全体がダメになってしまいます。農業改革に影響するだけでなく、美しい景観と農村文化も大きく毀損してしまいます。この政策を大至急阻止しなければなりません。

 農地の再整備と農畜産業の振興なくして農村の再生はあり得ません。

 関係の皆様の御賢察をお願い申し上げます。


NPO法人信州まちづくり研究会
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スマート・テロワール通信 3

この記事は月刊誌『農業経営者』8月号からのコピーです。毎月掲載されます。


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長野も発進 スマート・テロワール構築に本腰
カルビー(株) 取締役相談役 松尾雅彦
3 20170901

スマート・テロワールとは中核となる地方都市と農村からなる自給圏の構想である。 そのコンセプトはサステナビリティ(持続可能性)を目指し、 「田畑輪換を畑作輪作へ転換する」「地域に女性の職場の食品加工場をつくる」 「住民の地元愛で地元産の食品を応援する」という3つに取り組むこと。 実現すれば、21世紀の社会において農村が最も元気になる。

長野も発進
スマート・テロワール構築に本腰

山形県に続き、長野県がスマート・テロワール構築に挑む。長野県は2017年度新設事業「地域食料自給圏構築」(5カ年計画)を開始した。阿部守一知事は重要政策課題に「地消地産」を掲げ、松尾雅彦を「食の地消地産アドバイザー」に委嘱した。今年7月14日、長野県農政部(主催)と松尾雅彦(主催者)は長野県野菜花き試験場佐久支場(小諸市)の見学会を開催し、計画の全容と現状を初公開した。
【実証実験計画】
地域内自給圏の実現に向け、地域内循環システムの実証実験を行なう。
1)畑作輪作・耕畜連携実証。ジャガイモ・小麦・トウモロコシ・大豆の畑作輪作試験。
2)農産物加工・地域内消費実証。民間業者と連携した畑作物・豚肉の加工試験。消費に結びつける実証。
【作付計画】
全7500平方m12区画に分割し、4作物を連作区・無堆肥区・堆肥区で作付けし比較する。4作物は、小麦(ゆめかおり)・大豆(ナカセンナリ)・ジャガイモ(トヨシロ・男爵薯)・子実トウモロコシ(スノーデント108)。
1)連作区:4作物をそれぞれ連作。化学肥料のみ使用。
2)無堆肥区:4作物をそれぞれ輪作。化学肥料のみ使用。
3)堆肥区:4作物をそれぞれ輪作。堆肥・緑肥・化学肥料を使用。

山形大学農学部、
自給飼料で豚を肥育

山形大学農学部で進行中の豚の肥育試験は、現在2回目の出荷を間近に控えている。前回の肥育試験と試作加工の結果を踏まえ、より美味しい加工品として9月中を目標にロースハム、ソーセージ、ベーコンとして市販される。現在、肥育豚数は18頭。110kgを出荷の目処としている。7月中旬現在80kg前後で発育は順調だ。 
飼料の組成は9割以上が自給生産のトウモロコシと大豆、ジャガイモで、特にジャガイモはフスマと混合してサイレージ(発酵飼料)に調製して給与している。なお、今年から栽培を始める小麦を収穫後、自給のフスマを利用する。 
今回の肥育試験では、主にジャガイモサイレージの配合割合を0%、15%、30%に3段階に設定し、ジャガイモの配合割合の違いによる発育速度の評価および肉の品質評価を行なう。 
将来的に庄内地域の生産者が自給飼料を主体に肥育する場合、作物の収穫時期や収穫量によって飼料組成を変えざるを得ないことを想定してのことだ。大学ではエネルギーとたんぱく質を一定に維持すれば組成を変えても発育に差はないと仮定している。現在までにジャガイモの配合割合の違いによる発育の差は出ていないという。 

視点

松尾 雅彦(スマート・テロワール協会会長 元カルビー社長) 

長野県の阿部知事は、1982年に農水省が提唱した地産地消の政策を否定して、「地消地産」を経済政策に据えています。私は昨年、阿部知事から食の“地消地産”アドバイザーの委嘱を受けました。拙著『スマート・テロワール』の仮説の通り、長野県でもまず実証展示圃づくりに取りかかりました。 
農山漁村を蘇生するには「地消地産」が原則です。地域再興の原資を国家の財政に依存するのではなく、地域の消費活動をベースにすることが「地消地産」です。農業に限らず、林業でも水産業でも共通の原則です。国家の財政に期待しても、全国すべての地域の要望に応えようとすれば、スズメの涙ほどの配分にしかならず役に立ちません。政治家の選挙の具になるだけです。一方、住民の消費活動は、住民がいるかぎり途絶えることがありません。 
「地消地産」はかつて社会システムとして存在していました。しかし、19世紀の産業革命以降に盛んになった分業が海を渡って拡大し、それに伴って仲立ちする商社の事業も増大すると「地消地産」は崩壊しました。そして、現代は「重商主義」全盛の時代になっています。農山漁村の再興を図るには、「重農主義」の旗を立て、地消地産から復活の槌音を響かせること。それ以外に道はありません。

これは復古趣味ではありません。たとえば、山の手入れが行き届いていたころを懐かしんでも無駄です。昔は人々の多くが農村に住み、人手があったからであって、現代は事情が異なります。 
今の時代に合った山や農地や海などの資源の活かし方を開発しながら「地消地産」で需要を掘り起こすこと。この作戦は現代だからこそ有効です。21世紀は「サステナビリティ」が重視される時代だからです。人は皆、生態系の中で生かされています。農山漁村を捨てた人にお金で地域の蘇生を依頼すると、生態系を壊しかねません。地域の人々が手間のかかることを厭わずに、地域の生態系を起点に「地消地産」のシステムを創れば、地域社会の「サステナビリティ」が可能になります。 
このとき地域の基本の単位となるのが「テロワール」です。農業も林業も水産業も、テロワールで成功することができるはずです。「地消地産」は「地産地消」ではありません。念のため。 

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