2012年3月5日月曜日

アグリカルチュラル・アーバニズムの実践

農業を活かした”まちづくり”,”まちおこし”です!

ここに掲載する事例は、ヨーロッパのグリーン・ツーリズムの成功事例を研究し活用して創りだされたアグリカルチュラル・アーバニズムといわれる米国における興味深い成功実例である。

この報告は,戸谷英世(住宅生産性研究会理事長)先生が
実施した「アグリトピア調査結果報告」(2010年1月26日)より転載させて頂いた

「アグリトピア(アリゾナ州フェニックス)」

米国の農業規模はあまり大きすぎて全体を理解することは容易ではないが、此処では基本的なコンセプトとして私の理解したものを説明する。
コミュニティの開発事業は、日本に於いて同じコンセプトで実施をするためには、現地に出向いて検討することが不可欠である。しかもこの事例は、必ず日本の近未来に置いて、日本の都市開発と農業経営にとって重要な参考例となるものと考えられることから、これからの成長を見守っていきたい。

(註:アグリトピア:下記英文と写真は,開発者Joeさんのホームページから)
Joeさん自己紹介)The farm is located at 3000 E. Ray Road in Gilbert AZ and is the geographical center of Agritopia. It is not like a country farm in that it will be in the heart of a fairly dense urban area. This farm is an "urban farm" designed to flourish in the urban setting. Instead of a huge field of one crop, you find a patchwork of numerous specialty crops. The farm has pathways which allow residents and visitors to easily view the crops. The harvest is sold at the Farm Stand, as well as being served at Joe's Farm Grill and The Coffee Shop. All of the produce grown on the farm is grown under the USDA organic protocol.

☆ 新しい都市農業の提案

 米国においても、農業は国際的な競争に巻き込まれていて、決して楽な産業ではない。生き残っている農業は、資本集約的な大規模機械化農業で、中小、零細な農業は生き残ることは容易ではない。
 このアグリトピアは日本のスケールから見ると間違いなく大規模農業であるが、大型トラクター1台でやれる農業は、決して米国の大規模農業ではない。

 アグリトピアの開発事業者のジョウさんは、先代から農業を引き継いだ。しかし、彼自身はスタンフォード大学でポリテクニック(工芸技術)を学び、卒業後新しい農業経営者のあり方を求めて世界を旅行し、新しい事業としてアグリトピアの開発に取り組んだという。その間の調査研究や、今回の都市開発に取り組んだ詳しいことを聞くことはできなかった。

☆ ヨーロッパのグリーン・ツーリズムがヒントに

 アグリトピア開発に採用されたコンセプトは、ドイツにおける「グリーン・ツーリズム経営の仕方を学び、それを彼の農場で読み替えして実践した」ものだと判断することができる。

 ジョウさんが行なった「グリーン・ツーリズムのアメリカの大規模農業への読み替え」とは、農業生産に関しては、自分達の付加価値を増やす方法として、ドイツのグリーン・ツーリズムが実践している「農業生産者が流通を介さないで、直接最終消費者と繋ぐ」ことを学んだということである。

 つまり、大規模農業経営に対して遅れを取った高い生産コストと、農業製品の流通業に奪われる利益を、彼自身の収益として手に入れる方法を考えたのである。

 もう一つの消費者を掌握する方法として、ヨーロッパのグリーン・ツーリズムの場合には、農村の持っている文化を、都市の居住者に提供することが行われた。農村に来た都市の人に、食文化を含む農村の文化総てを魅力あるものとして直接供給したのである。
 そして、農村は都市からのグリーン・ツーリズムによるニーズに応えることにより、結果的に、グリーン・ツーリズムによる農産品購買が増え採算のとれる農業収入を上げることに成功したのである。Joeさんはこれもとりいれた。

☆ 大家族制、大農園経営のイメージ

真ん中が,ギルバート町Agritopiaのセンター ギルバート町は人口約11万人
アリゾナ州最大人口130万人のフェニックス市から約40kmの位置にある

 彼は、都市居住者に対して、都市生活から失われてしまった豊かな農村の生活環境を提供することを考えた。それは,地域や家族で守っている自然と地縁共同体による生活環境全体だった。
 「人々と個人の絆や、家族の絆」を積極的に生かすニュー・アーバニズムの考えに農村の良さを取り込み読み替えて、基本コンセプトをつくりあげた。

 そして、開発時の基本コンセプトを支持する都市居住者の主体的取り組みを通して、大農場経営の田園的な雰囲気を享受するソフトな地縁共同体を創りあげることを構想した。

(参考:ニューアバニズムについての動画:英国・ドイツのまちづくりー3・田舎暮…

☆ 住宅地の居住者と農業生産者とを結ぶモデル農園

 ジョウさんの構想した基本コンセプトは、先ず自らが新しい農業経営者のあり方として、農産物を単に生産する農業者ではなく、ドイツのグリーン・ツーリズムで見たような農産物をエンド・ユーザーの食文化に繋ぐ仕掛けをした。
 父親の代からの農業住宅を、レストランとカフェーと農産物即売所に用途変更して、そこに繫がる農地に果樹園(みかん、桃、りんごなど)と野菜畑を造り、食堂やカフェーで提供する農産物を生産することとした。

 また、その農地に隣接して市民農園を造り、この町にやってくる人たちに農業に対する関心を持たせ、生産者と消費者を農業で繋ぐことを計画した。
 農業愛好者の農園には専門家の指導者はいないが、現在米国には農業に関心のある人の農業をサポートする書物が多数発行されていて、皆は試行錯誤をしながら経験交流を通して、農業生産の実習をしている。

☆ 大家族制の一宅地面積1万平方フィートの住宅集団

 ジョウさんの農園を囲んで、400宅地(1宅地1万平方フィート、約300坪)が取り囲み、1万平方フィートの各宅地には、原則的に、3戸の住宅を建設する計画がつくられた。この3戸の住宅は、できる限り同じファミリーであるとか、その他親密な関係にある人たちの集合となるように計画した。

 「複数家族の人びとの絆に護られて、この住宅地の治安は非常によい」と、ジョウさんご自慢の住宅地である。家族をもう一回り大きした大家族を1万平方フィート(約300坪)の敷地に詰め込むというアイデアは、ネイテイブ・アメリカン系か、ラテン系か、アジア系の生活様式である。ジョウさんの奥さんはレバノンだったか、確か中近東の出身で、考え方は非常に広い許容力のある方のようであった。

☆ 住宅の形を建築面積制限で実現

 住宅地全体はニュー・アーバニズムの計画理論で計画し、「人間の絆」を大切にするとともに、そのアーキテクチュラル・ガイド・ライイン(建築設計指針)としては、各住宅の建築面積は2000平方フィート(60坪)以下にすることで、住宅の塊(マス:ボリューム)の単位として、「小さな住宅」という感じの「住宅集団の形成」をすることが定められた。

 住宅の屋内空間として、大きな容積を希望する人には、「地階、中二階、又は、2階建てまで」の3層までの建築はしてもよいことにしている。その結果、3戸で構成される各宅地は夫々工夫して小さな住宅が3棟、個性的な構成で建てられている。

☆ SOHO(Small Office/Home Office)のある住宅地

 宅地の区画には、見通しの利くフェンスや生け垣を原則とし、高さの低い塀を造るようにしている。そのことによって、隣との関係をお互いが「なんとなしに」分かり合って譲り合うといった「思いやりや、理解をしあう関係」として創りあげている。

 このようなところが「人間の絆」を育てる計画の特色となっている。同じ宅地内の3棟の住宅は、夫々の家族のつながりを大切に計画するとともに、各住戸の独立した生活を考えて、それぞれの住宅には、前面道路との出入りとバック・アレーからの出入りと、両方を利用する選択ができるようにもなっている。

 通常のニュー・アーバニズム計画のコミュニティ開発では、バック・アレー車庫への自動車の導入路として計画した住宅地と、もう一つは、バック・アレーを遊水緑地内の散策歩道としてつくり、自動車は全面道路から宅地の奥にドライブ・ウエイトして引き込むものの2種類があった。

 その1万平方フィートの住宅地の中には、ゾーニングとしてSOHO(スモール・オフィス/ホーム・オフィス)を取り入れることが出来ることにしていて、実際に建築家や写真家、コンピューター・プログラマーで業務用の事務所を構えている人の住宅を訪問した。いずれの居住者も、職住近接又は一体の生活に満足しており、15人の家庭菜園をやっている人の一人にあったときの感想は、満足度の高いものであった。

 これらのSOHOのある住宅の中には、積極的な住宅購入者としてSOHOのある住宅を購入した者もあれば、1万平方フィートの宅地購入者の店子として入居した者もあって、「1万平方フィートの宅地所有者の個人宅地経営」として、定期借地持家や戸建住宅賃貸(定期借家)が行われていた。

☆ 自治団体としてのアグリトピア

 この住宅地開発は、マスター・プランド・コミュニテイと呼ばれる開発技法で造られている。そこには居住区だけの住宅地経営管理協会(HOA)という自治団体のほかに、この敷地内には、私立学校や教会があり、やがて、次の段階で養護老人ホームも建設される計画になっていた。
 これらを総て包含した全体を一元的に経営管理する自治団体としてのアグリトピア都市経営管理協会(HOA)という開発地の自治団体が計画されている。ジョウさんはこの事業経営者であると同時に全体のHOAの理事長でもある。

 つまり、ジョウさんは、「ガーデン・シティ」を始めたエベネツアー・ハワードのように、英国のランド・ロード(土地の王様:貴族)と同じ気持ちで都市経営をやっていた。

(参考:http://ja.wikipedia.org/wiki/田園都市)

 わかり易く考えれば、農業生産にだけ頼っていたランド・ロードが、農業生産物の消費者を囲い込み、これらの消費者に土地を売却して、従前の農地を現金化し、その資金で環境整備をして、豊かな生活を実現できる町を創り上げたのだ。
 結果として,アグリトピアの不動産に対する需要が高まり、住宅購入者の資産形成に大きな貢献をしている。

 都市経営自体が全てジョウさんの事業となっている。かつての農業経営を基本的に続けながら、農業系をはるかに上回る安定的に利益を生む事業になっている。農業と都市経営の融合に成功したのだ。
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ここに掲載した報告は,「アグリカルチュラル・アーバニズム調査研究報告書」のごく一部分です。
全文をご希望の方は下記よりお申し込み下さい。ニューアバニズムも含めて,参考情報を入れたDVDをお送り致します。
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尚,下記ホームページからたくさんの関連情報を見ることができます。
http://www.hicpm.com/

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