2020年5月26日火曜日

『食べる時に屠殺する時は複雑な気持ちがするよ。』

『都市を耕す』

庄内スマート・テロワールで活動している清野さんからお知らせがありました。
北野収先生(「シビック・アグリカルチャー」翻訳者、獨協大学外国語学部教授pH.D.)からの情報だそうです。

多種多様な農業の形がありますが、これは古くて新しい取り組みです。
素晴らしいです。食の問題を真剣に考えさせてくれます。
当NPO とは、方法論は違いますが、理念と取り組み姿勢は同じだと思います。
下段に動画を添付します。ぜひご覧になって下さい。

場面は、アメリカのサンフランシスコ。
「新しいアイデアではありません。1943年、サンフランシスコで行われていました。」と、解説者は語り、サンフラシスコ市庁舎の前の畑の写真が現れます。そして今・・・


この動画の根本テーマは;「人類が直面する最大の挑戦は、社会の基盤をなす自然界を壊すことなく、どう食料を生産するか?」

下記引用は、飼っている動物(動画ではうさぎ)を屠殺する場面で、本人が語っています。真実は厳しいです!

< 食べる時に屠殺する時は複雑な気持ちがするよ。すごく悲しい。
同時にその動物に対する敬意と責任を感じる。動物との絆を感じるんだ。
いつも緊張するし辛いよ。動物をリラックスさせ落ち着かせる。そして・・・。

多くの肉好きの人は、動物と強いつながりを感じながらも、「食べる」と聞くと驚き、「自分には絶対無理だ」という。今の社会を象徴する一言だ。
食から切り離され肉の素性を知らない。世の中の不正を見て見ぬ振りをすることがある。肉に関する無関心さも共通するものがある。肉は食べたいが、素性は知りたくない。これは間違っていると思う。

肉を食べる者として、僕には肉の素性や生産方法について人々に伝える役目があると思う。

このウサギも食用だ。子やぎたちも肉になる。それが肉の素性なんだ。
これに目を向けたくないならベジタリアンになるべきだ。

自然界は酷で優しい。美しくて醜くもある。
生き残るには自然が必要なんだ。>

最後のまとめのところで次のようなことも言ってます。
<良い農家になるだけでは不十分だ。
活動規模の重要性に思い至った。草の根が大きくなるには、牽引力が必要だが、もう限界です。なんども限界を感じ、そして気づきました。政策こそ重要だと。
持続可能な農業のための僕らの活動は、機能はするが持続可能な小さな島の出来事に過ぎない。今以上の抵抗力や回復力を持ち、より持続的で、富をよく分配し、より多くの人を養い雇用をもたらしても、食のシステムが民主化されなければ何の変化も産まない。

良い農家になるだけでは不十分だ。提唱者であり、活動家でなければならない。変化を起こす政治的意思が必要だ。民衆だけが変えることのできる大きな社会運動だ。>

まるで当NPOのために言ってくれているようで嬉しいです。
「都市」の農業を語っていますが、変革に挑む精神と考え方は「スマート・テロワール」と同じだと思います。大事なことは科学的に変革することです。
では充分集中して下記URLからご覧ください。

Edible Media  チャンネル登録者数 527
期間限定無料公開(6/21/2020 夏至まで)
https://www.youtube.com/watch?v=E61YhjXRQuI&feature=emb_logo



ーーーーーーーーーーーーーーー

給付金10万一律支給、どうして日本では混乱するのか?

【Vol.327】冷泉彰彦のプリンストン通信 
からコピーしました。
とてもスマートなメルマガで勉強になります。


冷泉さんは、次のように結論づけています。
このままでは経済も国家も消滅してしまう、
そのぐらいの非効率であり、バカバカしさであると思います。

アメリカと日本の違いを分析しています。
要約すれば、合理性の違いです。文明の違いとも言えます。
やはり、この遅れは、日本は文明国とは言えないと思います。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

▼「給付金10万一律支給、どうして日本では混乱するのか?」

 個人向けの「特別定額給付金」の支給が上手く行っていないようです。ア
メリカでは、所得制限をかけるなど条件付きでやっていますが、とりあえず
最速で制度決定から4週間でカネが届き始めて、6週間でほぼ完了していま
すが、日本では市町村ごとに、かなり混乱しているようです。

 勿論、アメリカ式が100%良いとは言えないのですが、どこに違いがあ
るのかを検証しておくのは意味があると思います。

 まず、支給金額ですが、日本は成人だろうが子どもだろうが一律10万円
とシンプル。一方でアメリカは、とりあえず成人は1200ドル(12万9
千円程度)、子どもは500ドルと差をつけています。

 またアメリカの場合は所得制限があります。つまり、単身世帯では年収7
5000ドル以下で満額、75000を超えると徐々に減っていって、99
000ドルを超えるとゼロになります。つまり、日本のほうがずっと単純で
す。

 手続きですが、日本はネットもしくは紙で申し込みます。一方で、アメリ
カは原則として「何もしなくていい」という対応です。

 つまり、アメリカの場合は何もアクションは起こす必要はなく、それで自
動的に自分の銀行口座に1200ドル(単身者)、3200ドル(夫婦と子
供2人)、といった金額が振り込まれたのです。ちなみに、現在はこの「第
2弾」を行うかどうかの議論が進んでいます。

 事務仕事ということだと、アメリカの場合は実にいい加減で偉そうで、し
かも非効率・・・そんなイメージがあります。一方で、日本の場合は迅速で
正確な・・・はずでした。ですが、この給付金に関しては、日本の方が金額
は一律で所得制限もないなど、はるかに単純であるにも関わらず、手続きは
複雑になっており、かなりトラブっているようです。

 一体どうしてなのでしょうか?

 まず、アメリカの場合は、原則として居住者は全員が確定申告(タックス
・リターン)を行います。また、確定申告は原則として電子申告。また申告
の際の還付金は銀行振込、追徴金は銀行引き落としです。

 ですから、国税庁(内国歳入庁=IRS)は、原則として全ての納税者の
毎年の課税所得と銀行口座を知っているわけです。今回は、これを利用して
「課税所得額」を根拠に、所得額のチェックを行い、また持っている銀行情
報に振り込みの手続きを行いました。ですから、何の申請も必要はなく、し
かも迅速に振り込みがされたのです。

 また個人の特定には、ソーシャルセキュリティー番号という一種の国民総
背番号があり、これで特定をすることが可能でした。というのは、この番号
は本来は年金番号なのですが、大昔からこれを個人向けの納税者番号として
使ってきた蓄積があるからです。

 勿論、所得の低い人、社会保障年金(ソーシャルセキュリティー)だけし
か収入のない人など、例外もありますが、その場合はネットで情報を入力す
ればいいことになっています。また、小切手で受け取るとか、銀行口座のな
い人はプリペイドカードでもらう選択もできますが、その場合は受け取りは
遅れて完了は今月中旬になっていました。

 一方の日本の場合は、全く違う制度になっています。まず、国民全員が確
定申告を行うということはありません。確定申告の場合も、勤務先を通じた
年末調整の場合もマイナンバーとの紐付けがあるようですが、100%徹底
はしていません。銀行口座も同じです。

 ですから、今回のような給付の場合は全国一律で、「全員に全ての必要な
情報をインプット」してもらう必要が出るわけです。

 そうではあるのですが、現時点では各市町村で膨大なエラーチェックが発
生しているようです。本人が自分と家族の名前と、銀行情報を出すだけなの
に、どうして膨大なエラーが出るのでしょうか? また、オンライン入力の
場合はエラーだらけになるので、郵送のほうが速いというような報道も出て
いますが、仮にそうだとしたら何故なのでしょう?

 それは、オンライン入力というのが厳密に言うと「システムへのオンライ
ンでの入力」ではなく、「システムに入力する元データをオンラインで作
成」するだけだからです。つまり、入力時にはエラーチェックがかからずに、
何でも通ってしまうのです。

 例えばですが、入力時に住民基本台帳との照合ができて、おかしなデータ
はエラーで弾くとか、正規の情報に自動修正されるのならいいのですが、そ
んなことはなくて、何でも通ってしまうわけです。また銀行情報の場合、オ
ンラインバンキングの場合は、全銀協のDBを見に行って「正しい支店・口
座・名義人情報」に誘導されるのですが、それもありません。

 その背景には「プライバシー問題があるので、正規データにアクセスでき
ない」という問題、そして「正規データにアクセスできて、しかも情報の機
密性が守られるようなシステム設計をするカネもノウハウもない」という問
題があるわけです。

 一方で、やたらに厳格な事務作業の「美学」があるということも問題です。
例えば、東京都のA区のBという住所に住民票のある「高田C」という人が
申請をしたとして、その「高田」を「ハシゴ高」つまり真ん中の口の部分が
上下にくっついている「異体字」なのか、それとも一般的な「高」なのかと
いうのは、「本人特定にはどうでもいい」問題です。

 そのCさんの親が、やたらに「はしご高」にこだわって、戸籍をそうして
いたが、Cさん自身は「こだわりがない」ので、「高田」と記入したが、住
民基本台帳とは相違になった、そうすると「目チェック」でエラーにしなく
てはならない、というのは、全く意味がないと思います。それで不正支給や
二重支給になることはありません。ただひたすらに役所の「書類は正確でな
くてはダメ」という美学、もしくは前例に従ってやっているだけです。

 銀行口座の姓名の間の「一字アケ」というのも、これも意味がないわけで、
「サイトウ ジロウ」さんのことを「サイトウジロウ」としたからといって、
誤支給にはならないはずです。この辺は、役所というより銀行サイドの問題
もある思いますが、そうした意味のないエラーチェックというのは、誰のト
クにもならないと思います。

 アメリカの場合ですが、例えば銀行口座の場合は本人が死亡した場合は口
座閉鎖になるので、行き違いはまずないのですが、小切手の場合は死亡した
人の名義で届いてしまうことはあります。その場合は「返送してください」
という運用で済ませているようです。また、IRSの把握している銀行口座
とは別の口座にもらいたい場合には、オンラインで口座変更もできるように
なっています。

 とにかく、オンラインで入力する際に、何のエラーチェックもかからず、
役所ではそれを紙にプリントしてシステムと照合、エラーを弾くための膨大
な作業をしている、しかもそのエラーの多くは「誤申請、二重申請」につな
がるものではなくて、形式要件のみというのは、バカバカしいを通り越して、
全く理解不能です。最近は「日本人はITが苦手だから仕方がない」という
言い方もあるようですが、このままでは経済も国家も消滅してしまう、その
ぐらいの非効率であり、バカバカしさであると思います。


ーーーーーーーーーーーーーーー

2020年5月15日金曜日

「世界人口が増え、食料危機が起きる」のウソ

この記事はキャノングローバル戦略研究所(CIGS)の山下一仁氏が、
20187月に WEBRONZA に掲載した記事です。
これを読めばこの主張を納得せざるを得ません。山下氏の主張の元は明快です。
「ファクトを見よ」です。

FAO(国連食糧農業機関)のような機関でもこういうことが起きるんですね。
何を信じたらいいのか判らなくなります。

――――――――――――――――――――――――――――

-世界中の農業専門家が作り上げたフェイクニュースの実像に迫る-


農業専門家たちが振りまく「世界的食料危機」

 世界各地で開催される農業や食料の国際会議で、決まって言われることがある。
 2050年には世界の人口は現在の74億人から96億人に約3割増加する。さらに経済発展で一人あたりのGDPが増加し、都市化も進展するので、穀物をエサとして生産される肉や乳製品など畜産物への需要が高まる。これは穀物の需要を大きく増加させる。総じてみると、世界の食料生産を60%程度増加しなければならない――というものだ。
 このような見解を広めたのはFAO(国連食糧農業機関)であるが、日本の農林水産省も同じような見通しを公表している。日本だけでなく世界中の専門家たちが同じようなことを言うので、私もそうなのかなと思っていた。
 今年オランダで開かれた会議で、このような意見を紹介した大学教授に、素朴な疑問をぶつけてみた。
「あなたは、発表の中で世界の人口が今後35年間で74億人から96億人へ22億人増加すると言ったが、過去35年間に人口はそれを上回る30億人も増加している。過去に対応できたことが、なぜ今後もできないのか?さらに、2050年に突然人口が爆発するのではない。人口が段階的に増えていって食料危機が起きるのであれば、穀物価格も今から徐々に上昇を続けているはずである。ところが、穀物の実質価格は過去1世紀半ずっと低下している。これをどう説明するのか?」
 彼は答えられなかった。答えられないはずである。これは、FAOや農林水産省など世界中の農業関係者によって作り上げられたフェイクニュースなのだ。

食料危機と価格高騰は「短期的」に起きる

 食料危機が起こるとどうなるのか?
 日本で起きた大きな食料危機は1918年の米騒動と終戦後の食糧難だ。共通しているのは、米や食料品価格の高騰である。供給が需要を満たさないので、価格が上昇した。輸出の急増、生産の大幅減少という一時的、突発的な事由による出来事であった。
 世界で起きた食料危機としては、1973年、2008年の穀物価格高騰が挙げられる。これも、世界の穀物生産の減少やソ連の大量穀物買い付け、アメリカの政策変更によるトウモロコシからのエタノール生産の増加という一時的な事由によるものであった。
 これらの食料危機は、いつもは穀物や食料品の価格が低いのに、天候不順などの何らかの突発的な理由で需給のバランスが崩れ、価格が急騰するというものである。これは、槍のように突出することから、"price pike"(pikeは「槍」の意味)と呼ばれている。

農業専門家が叫ぶのは「恒常的」な食料危機

 これに対して、2050年にかけて生じると言われる食料危機は、恒常的に供給が需要の増加に追い付かないという構造的な理由から、価格が上昇していくというものである。これまでの食料危機が一時的、一過性のものであったことに比べると、恒常的なものである。
 2008年には、米の輸入が減少したフィリピンでは、配給を受けるために多くの人が行列を作った。このような事態が、毎年続くというわけだ。
 このとき、穀物や食料品の価格は一時だけ高くなるpikeではなく、恒常的に高くなる。この説が本当なら、人口や所得の増加は2050年に突然起こるのではなく徐々に増えていくのだから、穀物や食料品の価格は2050年の高い水準に向けて、今から上昇しているはずである。
 ところが、事実は逆だ。
 下のグラフ1は、アメリカ農務省作成による、物価修正をした、トウモロコシ(Corn)、小麦(Wheat)、大豆(Soybeans)の過去約100年間の国際価格の推移である(トウモロコシの価格が1.5倍になったとしても、一般的な物価水準が2倍になっていれば、トウモロコシの実質的な価格はむしろ下がっている。物価修正というのは、インフレやデフレという要素を除いて実質的な価格を見ようというものである)。一時的なpikeはあるものの、これらの価格が傾向的に下がっていることは間違いない。この間の人口の増加は4倍を超える。これこそ人口爆発と呼んでよいのに、恒常的な食料危機は起きていない。

180709_yamashita_fig1.png
グラフ1

 次のグラフ2は、トウモロコシ、米、小麦について、1960年を100とした国際価格(物価修正をした実質価格)の推移である。1985年ころから2005年ころの20年間は1960年の半分くらいの価格水準であり、それ以降も1960年を上回るのは例外的な年だけである。穀物価格は長期に低位安定していると判断すべきであろう。長期的に起こると言われる食料危機の匂いすら感じない。

180709_yamashita_fig2.png
グラフ2

人口は2.4倍、穀物生産は3.4倍

 理由は簡単である。食料供給の増加が人口や所得による需要の増加を上回っているからである。
 次のグラフ3は、1961年の数値を100とした世界の人口、米・小麦の生産量の推移である。人口は2.4倍だが、米、小麦とも穀物生産は3.4倍である。このような穀物生産の増加が、穀物価格が低位にある理由である。

180709_yamashita_fig3.png
グラフ3

 食料危機を煽る人たちは、世界の農地面積の増加が期待できない中で、単位面積当たりの収量の増加が鈍化しているので、農地面積に単位面積当たりの収量を乗じた世界の穀物生産の伸びも期待できないと主張してきた。
 しかし、上のグラフからは、そのような傾向は見当たらないし、それが本当であれば、穀物価格にすでに反映されているはずであるが、そうではない。むしろ、ICTやAI、バイオテクノロジーなどによって、単位面積当たりの収量はこれまで以上に増加する可能性がある。
 さらに、世界には、ブラジルなど農地面積の大幅な増加を期待できる地域がある。日本の農地は450万ヘクタールに過ぎないのに、ブラジルではセラードと言われるサバンナ地域(アマゾンではない)だけで1億ヘクタールほどの利用可能な農地があるという。
 2008年川島博之・東大准教授がこのような見解を発表した時、いくら農地があってもそこから港湾などへの輸送インフラが整備されなければ、食料供給は増えないのではないかと考えていたが、近年ブラジルではインフラが急速に整備されてきている。

食料危機説の本音

 食料危機が起きる可能性は少ないのに、なぜFAOや農林水産省などは食料危機を煽るのだろうか?
 食料危機で最も利益を得るのは農家である。餓死者も出た戦後の食糧難時代、農家はヤミ市場に農作物を売って大きな利益を得た。飢えに苦しんだ都市生活者は農家の庭先に出かけて、高飛車な態度をとる農家から、貴重な着物と交換に食料を貰い受けた。着るものが箪笥からだんだんタケノコの皮を剥ぐようになくなっていくことから、"タケノコ生活"と呼ばれた。インフレで減価する円よりも農産物の方が、はるかに購買力があるという不思議な時代だった。
 農家にとっては一時の繁栄だったが、この時の農家の対応を今も根に持っている人は少なくない。食い物の恨みは消えない。ちなみに、輸入がないので、このときの食料自給率は100%である(今は38%)。
 これからも分るように、食料危機への対応や食料安全保障は本来、消費者が主張することであって、農家や農業界が主張することではない。これらの目的のために食料の安定供給という義務を課されるのは農家である。終戦時のように、増産や政府への供出という不利益処分を強制されるかもしれない。
 食料危機の際には政府によって最も不利益な扱いを受けるはずの農業界が、最も声高に食料危機への対応を求める。このような不思議なことがなぜ起きるのだろうか?
 理由は単純である。日本の農業界だけでなく、FAOに代表される世界の農業界にとって、食料危機を叫べば、生産を増やすべきだということになり、農業保護を目的とした彼らの組織への予算の増加が期待できるからだ。
 農業界とは、国際機関、農林水産省などの国の組織、大学農学部などの試験研究機関、農業団体だけではない。農業経済学者、農業や食料問題の専門家と称する人たちも、こぞって食料危機を唱え、マスコミもこれに便乗する。食料危機は起きないという記事は売れないが、起きるという記事は売れる。不安を駆り立てられ、真偽を判断する材料を持たない一般の人たちは、これらの"専門家"を信じるしかない。
 こうして作り上げられたのが、2050年食料危機説である。

まして日本では起きない食料危機

 なお、農業界の主張通り、万が一世界に食料危機が発生し、穀物価格が高騰したとしても、日本では食料危機は生じない。
 世界の穀物価格が3~4倍に高騰し、途上国の多くの人が食料配給の長い列に並んだ2008年、我が国の食料品の消費者物価指数は2.6%上昇しただけだった。飲食料品の最終消費額に占める農水産物の割合は15%、うち穀物を含めた輸入農水産物は2%に過ぎないからである。
 このとき食料危機を感じた日本人はいないはずだ。穀物価格高騰という食料危機が発生しても、フィリピンのような国では食料危機が生じるが、所得水準、経済力の高い日本では、痛痒を感じることなく輸入を継続できる。国際市場で日本が"買い負ける"という報道を見かけることもあるが、一部の特殊な高級食材で買えないことが起きたとしても、よほど日本の経済力が低下しない限り、穀物などのコモディティーを買えなくなるようなことは起きない。
 日本に起こる食料危機とは、軍事的な紛争等によりシーレーンが破壊され、外国の船が怖くて日本に近づけないような時である。東日本大震災で生じたように、食料への経済(金銭)的なアクセスではなく、物理的なアクセスが途絶するケースである。
ーーーーーーーーーーーーーーー

2020年5月8日金曜日

実践5年目を迎えたスマート・テロワール

月間『農業経営者』5月号 より

スマート・テロワール通信

実践5年目を迎えたスマート・テロワール

  • 第31回 2020年04月27日
松尾雅彦氏の著書『スマート・テロワール』の理論の実証実験が始まってから5年目を迎えた。現在、4県でスマート・テロワール論に賛同する取り組みが進行中だ。新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、残念ながらスマート・テロワール協会の総会や各地の報告会の中止や延期が続いている。
しかし、この状況下でも食料供給のために生産活動は続けられており、実証実験も続けられている。今回は、スマート・テロワールに関わる各地の動きを紹介する。

庄内スマート・テロワール

山形県では、2016年4月に始まった山形大学農学部寄附講座食料自給圏「スマート・テロワール」形成講座を機に取り組みを始めた。
現在、庄内スマート・テロワール推進協議会(以下、協議会)が山形大学農学部内に事務局を置いて推進活動の運営をしている。役員には山形大学農学部長、皆川治鶴岡市長、東北ハムの帯屋伸一社長、主婦の店鶴岡店の大川奈津子社長、ト一屋の荒木洋一社長、顧問に中田康雄が就いている。

現場では、農学部がハブの役目を担いながら、生産者、加工事業者、小売事業者、飲食店、(一社)山形県農業会議、鶴岡高専、鶴岡市などが5年目の実証実験を続けている。今後、市民を巻き込んだ社会実装にもつながりつつある。これまで水田の畑地化、耕作放棄地の活用、飼料の豚への給与、畜肉加工品や味噌の加工・販売、学校給食や飲食店への食材提供などを展開してきた。昨年19年は市民の間で「スマート・テロワール」が広く知られるようになった。
今年20年は、特に小麦の加工や販路拡大に力を入れている。昨年に続きラーメン店や、ピザを提供するレストラン、うどんづくりをする庄内農業高校などに小麦粉を提供するなどしながら、地域内に関わる人々を増やしている。実証実験の様子などはFacebook(「山形大学農学部スマート・テロワール」で検索)で日々伝えている。また、19年に立ち上げたウェブサイトでは、市民を対象にスマート・テロワールの意義や活動のニュースを伝えている。ぜひ参照してほしい。
【庄内スマート・テロワール協議会URL】
https://shonai-smartterroir.com/

長野県農政部・東信・北信

長野県では、行政と長野大学、2つの民間団体が活動中だ。長野県農政部と試験場は17年に地域食料自給圏実証実験事業をスタートし、今年4年目に入った。畑輪作の実証実験のほか、豚への給与試験を行ないながら、地域の食品事業者らと一緒に加工試験を続けている。長野大学は消費実態と意識調査を行ない、市民の意識改革の必要性を提唱した。

東信地域では、NPO法人信州まちづくり研究会が東信スマート・テロワール研究会を開催し、市民の機運醸成に努めている。今年は、研究会の会員でもある立科町で焼き肉店「蓼科いっとう」を経営する角田大徳氏が、子実用トウモロコシの栽培を始める。作業は、研究会や機械メーカー、地域の生産者の協力で進めているところだ。収穫した子実は父の敏明氏が経営する牛舎で肥育牛に給与し、その肉は焼き肉店で提供される予定である。
北信地方では、前回号で紹介したように、小布施町を拠点に活動が始まった。スマート・テロワール協会と北信地域の産官学が協働する取り組みで、食料自給圏のほか、インフラや人材育成にも取り組んでいる。

山口県・鹿児島県

山口県では、『スマート・テロワール』の共著者でもある浅川芳裕氏の提案で、山口市がスマート・テロワール論をもとにした取り組みを展開している。また、各地で取り組む人々にとって、鹿児島県志布志市にある(株)さかうえの坂上隆社長の経営そのものが、スマート・テロワールのモデルになっている。

スマート・テロワール協会

非営利一般社団法人スマート・テロワール協会は、全国に100のスマート・テロワールをつくることをビジョンに掲げている。先行して始まった山形県と長野県の実証実験や、各地の取り組みを支援するための団体だ。事務局は農業技術通信社内に置いている。スマート・テロワールと協会の活動はウェブサイトで公開している。会員は随時募集中。
【スマート・テロワール協会URL】
https://www.smart-terroir.com/

中田康雄の気づき

【新型コロナウイルス大流行による国民国家回帰】
「このウイルスの世界的な大流行が終息すれば、極端な移動制限は解除されるだろう。しかし国民国家が復活しつつあり、ウイルス発生前のグローバルな世界に完全に戻る可能性は低い」(3月30日日本経済新聞朝刊)
この理由として次の3つが挙げられている。
「緊急事態下では人々は国民国家に頼ろうとする」「グローバルなサプライチェーンが脆弱だとわかった」「危機の発生前から顕著だった保護主義や生産の自国回帰、国境管理の厳格化を求める声がより高まった」
家電や自動車、衣料品、マスク、人工呼吸器までもが中国のサプライチェーンの寸断によって供給量の減少に追い込まれた。そして人の命に関わる医薬品の大半を輸入に頼らざるを得ない状況が赤裸々になりつつある。このような状況がこのまま放置されるとは考えにくい。

【食糧・エネルギー資源の自給率向上に本腰を入れるとき】
各国が雪崩を打って自給自足を求め保護主義に走ったとき、日本の国民は窮地に追い込まれることになる。食糧資源とエネルギー資源を海外に依存し続けることが困難になるからだ。いまこそ、食料資源とエネルギー資源の自給率向上に本腰を入れるときだ。
2025年までの農業政策の方向性を示す「食料・農業・農村基本計画」で、食料自給率の目標は50%から45%に引き下げられた。米粉需要と大豆生産の目標達成が困難だったからだ。
しかし、いまあえて50%の食料自給率を目指そうと言いたい。自給率を上げるにはどうするか。もちろん米飯食に戻すのが近道だ。しかし、食生活の回帰が起きるかと言えばそれは考えにくい。自粛生活のなか家庭で食事することが増えたにもかかわらず、「巣ごもり需要」ではパンや即席麺や麺類が伸びている。終息後も食生活は変わらないだろう。
自給率を上げるには輸入依存の穀物を生産することが必要だ。小麦や大豆と飼料用トウモロコシの耕作地の拡大と単収を上げ、増産体勢をつくることが自給率向上への道である。

(参考)
下記から「庄内スマート・テロワール」のことが判ります。
山形大学農学部寄付講座「スマート・テロワール」形成講座

ーーーーーーーーーーーーーーー

2020年5月7日木曜日

人間として自然界に貢献できるのは知性である


東京市ヶ谷法曹ビルに事務所を構える
賛助会員高井伸夫先生の機関誌から、原稿を頂戴いたしました。
松尾雅彦さんの理念・思想と同じものを感じました。

「このようなアカデミズムの崩壊が目前で行われているにも関わらず、
日本の知識人は無言を貫いています。」
という記述がありますが、その頂点にいるのが東京大学です。
Noblesse Oblige  の欠如です。
日本衰退の根っこにあるのがこの事実ではないでしょうか。(安江)

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

高井・岡芹法律事務所発行「Management Law LetterNo.116 2020年 春風号より
  
人間として自然界に貢献できるのは知性である
株式会社ぷらう 代表取締役社長 石川祐一

因果関係論という法律の概念が用いられたのは、いつの事でしょうか。因果関係論を用いず、世の中の出来事はすべて偶然の連続であるということを前提とした社会では、弁護士という職業はなくなると思います。因果関係論を用いていない社会は西欧近代文明の影響を受けていない社会で、その地域では基本的に因果関係論の虜になっている人間はいません。その地域では、因果関係論に依拠した、法に基づく刑の情状酌量等はないはずで弁護士の活躍する場面も限られることでしょう。
人間は、日々起こる出来事を、その事象と事象をつなぎ合わせて考え、一つの法則をつくることが、動物との違いであると考えています。一方、人間は連続して経験をするとその出来事がまた起こるという錯覚に陥ります。つまり経験が因果関係論を生み出し、それが絶対真理であると誤解します。しかしその錯覚は人間による妄想と考えられます。人間は、因果関係の存在を思考の中心に置いてしまうと、自ら将来を予想できるなどと僭越至極な錯覚に陥りがちです。人間が自然界で雪崩を予想できるのは、その経験値から因果関係を基にした思考により予想するものです。しかしながらこの予想は哀れなもので、冬山で雪崩によって遭難する山男の数は過去から枚挙に暇がありません。春先、雪解けの山中では動物の雪崩による死骸はまったく見ることはありません。動物はなぜ雪崩に巻き込まれることなく冬山で過ごすことができるのでしょうか。因果関係論に勝る理論を動物たちが、備えているのでしょうか?被害に遭わないということは、人間より優れた何かを持ち合わせていることに違いありません。
人間と動物の違い等を議論すること自体、西洋キリスト教文明社会の中ではタブーと思われます。動物と人間が違うという前提で、人間中心の自然科学万能の近代文明が出来上がっていることは間違いありません。動物と人間との違いをあえて述べれば、それは理性・知性・感性のうち、知性と感性に違いありません。理性は動物も人間も大差はありません。理性が人間の最大特性であると述べ続けられ、近代文明は発展してきました。しかしながら、理性は冷静に考えれば、人間も動物も大きな違いはないと考えます。睡眠欲・食欲・子孫保存欲に大きな違いはありません。また感性は、雪崩の実例を見るまでもなく、動物が人間に優っている特性であると確認できます。一方、知性を磨き、さらにその知性を基にした因果関係の論法を以てしても、雪崩の予想に関しては、動物に劣ることは間違いないようです。理性では同等・感性では負け、知性において何とか動物を凌駕する可能性があるのが人間です。人間が動物より優れているということは危うい事実に基づいているように思います。
動物に勝るため、尚一層磨かなければいけない知性に関して現代社会の中では蔑ろにされていることは、大学のアカデミズムの崩壊の現場を見るにおいて顕著です。学生諸君の在学中の最大関心事は、アルバイト・クラブ部活動・就職活動であり、学業はその中に含まれていません。また教授をはじめとする関係者の給与水準が低く、研究費も十分ではなく、優秀な人材が大学に残り研究者・教育者として将来大学でアカデミズムを発揮する環境にはありません。政府の予算も大学支援に対しては消極的、いや寧ろ積極的に予算の削減を行っています。このようなアカデミズムの崩壊が目前で行われているにも関わらず、日本の知識人は無言を貫いています。私は知性を基にした因果関係論が、人間本来の感性を阻害していると考えていますが、一方、人間として自然界に貢献できるのは知性であると確信しております。大学の卒業証書は、生涯学習を約束した者に手渡す始業証書であり、大学では一生涯に渡り勉学するものを見出す場所であると考えます。我々は生まれながらにして社会人であり、大学を卒業したら社会人になるのではなくプロフェッショナルになる訳です。プロフェッショナルは、生涯勉強し続けることを約束して成り立つものであるということが社会一般の常識となるよう、生涯学習の重要性を喚起すべき時と考えます。




株式会社ぷらう
代表取締役 石川裕一

当社は、設立以来、北海道の良好な自然環境を次世代へ伝えるべく自然との共生を第一義的に考え不動産事業を展開してまいりました。
北海道は大陸と陸続きの時代にヒトがやってきて以来の連綿とした歴史がその風土の中にあります。どこまでも続く地平線、広大な森林に囲まれた山並み、そして滋養に満ちた海に囲まれる自然が本来の北海道です。しかしながら札幌をはじめとした各都市は、既にその自然を感じさせる環境はなくなってしまい、東京を模写したありふれた地方都市の姿しか認められません。北海道には美しい大地、これまでの人の手で育てられた恵まれた風土や文化がありますが、現在、自然界の生態系の破壊から発する環境問題をはじめ解決しなければならない問題点も多々あります。私どもが生きている現在は、太古から続く北海道の歴史のほんの一瞬です。当社はその一瞬を認識して事業展開を進めております。
当社は、このような既存の北海道の資源である土地と人材を活用し、北海道から世界へ不動産事業を通じてさまざまな問題解決に貢献する新しいビジネスモデルの創造を目的として事業を続ける所存でございます。

ーーーーーーーーーーーーーーー