2020年3月28日土曜日

地方の危機の実態と改革の提案

「日本はもはや後進国である!」とか、「いや、衰退途上国だ!」などと言われる実態が国連やOECDのデータから明らかです。驚きです。いくつかの項目で韓国にも負けています。

いい加減に変わらなくてはいけない。「ジャパン アズ NO1」の余韻から目を覚まさなくてはいけない!

クリックすると、画面が大きくなります。































ーーーーーーーーーーーーーーー




2020年3月22日日曜日

リケジョが変える農業

やさいバスの開発者であるエムスクエアラボ(M2ラボ)の加藤百合子社長の日本経済新聞に連載された記事です。

加藤さんの求めているのは、やはりサステイナビリティです。
その理念の上に展開される人間の知性と科学が生み出すものはスバラシイです。
農業の未来が明るくなった気がします。

来たる28日の第5回東信スマート・テロワール研究会には、
加藤さんのブレインである長谷川晃央さんが講演して下さいます。
テーマは「やさいバスシステムについて」。

クリックすると画面が大きくなります。
それでも小さかったら、フルスクリーンにしてください。



ーーーーーーーーーーーーーーー

2020年3月8日日曜日

第5回 東信 スマート・テロワール研究会

スイマセン!
新型コロナウィルスのため、この企画は延期となりました。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
やさいバス って、 知ってますか?
 

3月28日(土)
 PM2時より
 食のことですから、
 全住民の問題です。
 入場無料


佐久平プラザ21 にて    りんごのシードル は?
  
仲間の成功体験を
聞いて、
討論を行います。

農業のこと=
地域経済のことです。


きたやつハム は?

プレゼンテーション
◾︎「やさいバスシステム」
 による地域内流通を考える
  やさいバス(株) 長谷川晃央
◾︎りんごによる地域振興への
      取り組み
 たてしなップル 小宮山尚明
◾︎「放牧養豚」のススメ 
  きたやつハム株式会社 渡邊敏
           
            長者原の野菜(Farmめぐる)

理解して頂きたいのは、
畑と牧場が出発点ですが、
改革しなければ
ならないのは、
実は、加工と、流通と、
私たち消費者です。

講師の皆さんは、
当NPOの会員です。



今回の研究会は、地元の経営者の取り組みを勉強し、どうやったら、地域に広げて行かれるか、研究します。

私たちが目指すのは、東信スマート・テロワール(循環型自給圏)の実現です。言葉は難しそうですが、内容は単純明快です。
  
お気軽に、お出かけください!

お申し込みは、
下記 メールか、ケイタイで、安江までどうぞ。
yasue@smk2001.com
   
090-3148-0217  

17時に終了後、講師を交えた懇親会があります。
ご希望の方はお申し込み下さい。会費4,000円です。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ここから下は、参考情報です。お時間のある方は開いてみてください。

◾︎ 食と農を地域に取り戻す
         スマート・テロワールの提唱者松尾雅彦氏の論説
  https://shinshumachidukuri.blogspot.com/2018/04/blog-post_15.html

◾︎ テロワールとはNHK クローズアップ現代 2019年11月より  

◾︎ 理想の経営者株式会社さかうえ(農業法人)視察リポート
  https://shinshumachidukuri.blogspot.com/2019/03/blog-post.html

◾︎  なぜ、スマート・テロワールなのか、そしてお願い!
  https://shinshumachidukuri.blogspot.jp/2017/02/blog-post_27.html

◾︎ 日本の農業の実態:FAOのデータより
  https://shinshumachidukuri.blogspot.com/2019/10/fao.html

◾︎ 地消地産は地域の経済成長につながる論拠

◾︎ いまこそ地方からこの国を再建する地域政策を
  https://shinshumachidukuri.blogspot.com/2019/11/blog-post.html

◾︎ NPO法人信州まちづくり研究会 活動経歴
  https://shinshumachidukuri.blogspot.com/2019/09/blog-post_6.html

ーーーーーーーーーーーーーーー

ネットにあふれる農業と食の不安を考える

 講師の 公益財団法人 食の安全・安心財団 理事長、東京大学名誉教授 唐木英明氏は的確に答えてくださっています。(編者)

農村経営研究会 NEWS KETTER 2020年2月号 より

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「ネットにあふれる農業と食の不安を考える
 ~どのように対処すべきか?」

農業技術通信社は2020年1月30日、新年会を開 催しました。記念講演の講師を務めた唐木氏は農学博 士で獣医師でもあり、食品安全の第一人者としてBSE 問題などに対処してきた人物です。
 いまネットにあふれる農業と食の不安に、どのように 対処すべきなのでしょうか。冒頭で唐木氏は次のよう に述べました。 「答えはリスクコミュニケーション(以下、リスコミ)をき ちんとやることだ。リスコミは相手が信じていることを覆 すリスコミは戦いだ。戦略と戦術と訓練がないと失敗す る。実践を通して教訓を得ることが大切だ」
 唐木氏は、BSE 問題をきっかけに始めたリスコミの 経験を踏まえ、リスコミのために必要な4つのポイント を挙げました。人の本能を理解することは農村経営で も必要な場面があります。以下、概要を紹介します。

不安の程度を知る ―知識と行動のギャップ 
 リスコミは、まず相手の不安の程度を知ることから 始めなければならない。 食品安全委員会のアンケート調査(2018年)では、 食品の添加物が「とても不安」と答えた人は 44%、残 留農薬が「とても不安」と答えた人は 49%に上る。一方、 消費者庁の調査では無添加表示を気にしている人は 約半数で、常に無添加食品を買うと答えた人は約1割、 無農薬野菜を買うと答えた人は6%にとどまる。つまり、 アンケート調査と消費行動にギャップが生じている。
 人間の社会行動は、多くの人がどう考えているか、 自分がそれと違うことを言ったら批判されるのではな いかという心理が働く。そのため、アンケート用紙で 「怖いか」と聞かれると「怖い」と答える。それが調査と 行動のギャップに現れる。知識レベルの不安が大きい が、消費レベルでは不安が小さい。しかし、知識レベ ルの不安がいつか消費レベルに進むことがある。その 前に不安に対処することが重要だ。

不安の原因を知る① ―社会の変化による強まる利己主義
 不安の原因は何か。それを知るには、社会の変化と 人間の本能を捉えておきたい。
 社会の急速な変化によって何が変わったのか。そのひとつはリスクの種類だ。古くからある食中毒菌、腐敗、 異物などのリスクは五感で認識できる。しかし、工業社 会で生まれた新しいリスクの化学物質、放射性物質、 遺伝子組換え、BSE のプリオンなどは五感では認識で きないもので、専門家が科学技術を使って初めてわか る。この新たな非常に厳しい管理で被害者が少ないに もかかわらず、わからないものには不安を感じる。ドイツのウルリヒ・ベッグが著書『危険社会』の中で、『被害 はすべての人に平等に現れ、将来世代にも影響を与 え、すべての人を不安に陥れる』と語っている。
 もうひとつは情報技術の変化である。かつては新聞 やテレビがフィルター機能を持ち重要な情報だけを伝 えていたが、SNS によって情報発信は民主化されフィ ルターがない時代になった。情報過多で処理困難に陥 った。それによって何が起きたか。人々は同調する情報だけを選択し、インターネットは同調する情報だけ提供するようになった。匿名性によってフェイクニュース や陰謀論が増え、利己主義や排他主義が強まり、自 分が正義だという風潮が生まれた。
 さらに変化したのは司法、立法、行政の対立と混乱 である。たとえば、文科省の学校給食衛生管理基準に より学校現場では無添加食品を使用する動きが出て いるが、厚労省では、添加物は100%安全だとしてい る。また立法は化学肥料、農薬、遺伝子組換えを使用 しない有機農業推進法を定めたが、農水省は3つを許 可している。国民は科学者や政府は真実を伝えている のかという疑問を持ち、何を信じてよいかわからない時代になったのである。

不安の原因を知る② ―危険に敏感な人間の本能 
 技術が進歩し社会が変わっても、人間は変化に対応 できない。狩猟社会、農耕社会、工業社会、情報社会、 そして日本は Society5・0の未来社会を目指すなかで 人間の本能は工業社会にも対応できていない。
 社会が変わるなかで、変わらないのは人間の利己 主義だ。これは生き延びるための動物的な生存本能 である。人間がつくった社会では利己主義を抑えない と生きられない。しかし、かつての地域社会のような利 己主義を抑制する仕組みが薄れ、現代は利己主義が 強まっている。2つの大戦後、排他的部族社会で多様 化を認めない時代から、グローバリズムによる多様性 を認める時代になったが、生物学者の観点では、この 時代は人間の本能に反する。いま再び他者や多様性 を認めない時代になりつつある。
 人間は本来、少ない努力で直感的に結論を求めよう とする。これをヒューリスティックと呼ぶ。危険から逃れ るための動物の本能である。恐怖も不安も危険なものから逃げるための感情だが、恐怖は対象がわかるも のに対する感情で、不安は対象がわからないものに対 する感情である。遺伝子組換えや添加物、農薬など、 わからないものを拒否するのは人間の本能なのである。
 また自分の命を守るために「危険」や「不安」という情 報は聞き逃さない。一方、「安全」という情報には注意 を払わない。これが危機回避のバイアスである。する と、情報にアンバランスが生じる。危険を伝える情報は あっても、安全を伝える情報が少ないのはこのためだ。 危険を伝える媒体より安全を伝える媒体は売れない。
 さらに人間は信頼する人に依存する本能を持っている。進化の過程で、知識と経験があるリーダーの言う とおりすることで危険から逃れてきたからである。現代 は、メディアから SNS のスーパースプレッターが信頼 する人になりつつある。
 しかし、危険回避バイアスをひっくり返すものがある。 認知バイアスである。そのひとつが「利益」である。車 を運転するのもリスクがあるにもかかわらず、便利さと いう利益があるので楽観バイアスが働き運転する。年 間3000人以上が交通事故で亡くなっているが騒がれ ず、食中毒で2、3人が亡くなると騒がれる。また繰り 返し聞く危険情報に「慣れ」ることや、自分に対する社 会の「評価」も危険バイアスを変えてしまう。
 このような人間の本能によりどんなことが起きるのか。 厳しい規制で安全が守られている食品添加物、残留 農薬、遺伝子組換え食品、中国産食品に対しては健 康被害のリスクが小さいにもかかわらず不安が大きい。 一方、個人の責任による食中毒や過食、野菜不足、喫 煙、飲酒、いわゆる健康食品など健康被害のリスクが 大きいものには不安が小さい。このように多くの場合、 安全なものを危険と感じ、危険なものを安全と感じる。

不安をつくるメカニズムを知る③ ―ラウンドアップの風評を例に 
 人間に恐怖感を植えつけるのは簡単で、安心感を与 えるのは難しい。したがって、恐怖感をあおるビジネス が生まれるのである。
 たとえば農薬のラウンドアップの例で見てみよう。ラ ウンドアップは1974年に発売されてから優れた農薬 として世界に広まったが、1996年、遺伝子組換えの 反対運動に巻き込まれてしまう。さらに2015年、国際がん研究機関が「おそらく発がん性がある」グループ2 A に分類して発表したことが大きく影響した。
 この背景には2人の無責任な行動がある。 2012年にセラリーニがラウンドアップの危険性を 伝える論文を発表した。しかし証明がごまかしだった のことがわかり論文は却下された。セラリーニはモン サントの陰謀だと主張したが、2013年には論文を撤 回し、17 年、グリホサホートに毒性はないと発表した。 同時にラウンドアップの特許を使用した商品に添加さ れている界面活性剤が問題だとしたが、ラウンドアップ に触れなかったため科学者の間で信用を無くしている。
 2014年、国際がん研究機関は「おそらく発がん性 がある」と結論づけた。米国の AHS は2013年からラ ウンドアップは発がんと無関係という論文の準備を始 めたが、国際がん研究機関の委員長のブレア博士は 故意に AHS 論文の発表を遅らせ、2015年に「おそら く発がん性がある」として記述した。このことはブレア博 士自身がロイターの取材で認めている。
 セラリーニの論文を宣伝する映画と、国際がん研究 機関の記述によりラウンドアップ(グリホサホート)は危 険だという風評が世界に広まったのである。
 すると米国の弁護士が不安をあおるビジネスを展開 した。米国では約4万人がラウンドアップを訴える事態 となっている。これまで行われた裁判では、裁判官や 陪審員たちに対して、事実よりも感情に訴えた原告側 が賠償金を勝ち取った。勝訴した弁護士は、後にモン サントを脅迫して高額の企業弁護士契約を迫り、逮捕 されている。

リスコミでできること④ ―正しい情報に加え信頼関係を 
 BSE 問題、福島原発の問題、中国産の問題、添加 物、残留農薬、遺伝子組換えなど、食品安全の問題は 安全対策とリスコミの2つで解決できる。
 リスコミは、正しい情報をたくさん伝えることが効果 的だ。米国のテレビ番組で遺伝子組換え推進派と反対 派が討論したところ、反対派が 32%から9%に減った。
 また食品安全委員会でモニターを対象に2年間の 調査を比較した結果、残留農薬に対して不安と答えた 人が約8割から5割に減っている。添加物も遺伝子組 換えも数値は減っている。しかし、細菌やウイルスの問題など、実際に起きている問題については減ってい ない。つまり正しい理解が進んでいるということだ。
 前述のように、相手は早く判断することを求めている。 発信する側は、正しい情報をどんどん伝えることが効 果的だ。すると相手は論理的で科学的な判断ができる ようになる。それにはメディアの協力が必要だ。現在、 食品安全委員会では毎月メディアと意見交換し、誤解 を解けるよう科学的な情報を出す努力をしている。
 しかし、科学的に正しいことを伝えても理解してもら えないこともある。低線量放射線はリスクが低いという 科学的に正しいことを言った専門家は訴訟を起こされ た。ターリ・シャーロットは著書『事実はなぜ人の意見を変えられないのか-説得力と影響力の科学 』で「人を動かすには感情に訴えるしかない」と語っている。
 リスコミの最大の課題は、本能としての先入観と確証 バイアスである。自分の先入観と一致する情報だけを 集め、異なる情報は無視したり反発したり別の解釈を する。これが確証バイアスである。同じ先入観を持った 人たちがグループをつくって対立する。人間は狩猟時 代から変わっていないのだ。
 では事実とは何か。合意がなければ事実は意見の ひとつにすぎない時代になっている。もうひとつの手段 は感情的なアプローチである。「理屈はわからないけ ど、あなたが言うなら私は信頼する」と言ってもらえる ような信頼を得ることが最終手段である。

最後に ―企業はリスコミをやるべきか?
 人間の本能を悪用した不安ビジネスが横行している。 情報戦争時代のなかでは、フェイクニュース対策が必 要だ。間違った情報が出たら、すぐに違うと否定しなけ ればならない。企業は商品名や企業名を出されて誤報 されても、次のネタにされることを恐れ反論しない。こ れが週刊誌を増長させ、モンスター客を養成している。 企業はリスコミをやるべきである。(談)

ーーーーーーーーーーーーーーー

食料自給率のわな

これは、本当のことです。
「減反政策廃止」は嘘です。
巨額な税金が、この嘘のために使われています。
このようなことが白昼堂々と行われている国には
どのような人たちが住んでいるのでしょうか?(編者)

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

キャノングローバル戦略研究所(CIGS)
記者:研究主幹 山下 一仁
日本経済新聞夕刊【十字路】2020年2月19日に掲載



 2000年に閣議決定された食料・農業・農村基本計画は、食料自給率(カロリーベース)を当時の40%から10年間で45%に引き上げる目標を立てた。以降、政府は20年間もこの目標を掲げているが、目標に近づくどころか実際には37%へ下がっている。
 今年は基本計画の5年ごとの改定を迎える。実は自給率目標には農林族議員から、否定的な意見が出ている。これだけ時間をかけても目標が達成されず、地元有権者から批判が出ているからだ。
 もちろん農協や農林水産省は自給率目標を下ろしたくない。食料自給率は同省にとって最高のプロパガンダである。食料の60%以上を海外に依存していると聞くと国民は不安になり、農業保護への支持が高まる。逆に自給率が高くなると困る。これはわなだ。閣議決定までされた目標を達成できなくても、省内にうなだれる職員などいないし、責任をとった幹部も皆無だ。
 食料自給率とは国内生産を輸入も含めた消費量で割った値だから、飽食といわれる今の消費を前提にすると自給率は下がる。飢餓が発生した終戦直後の自給率は、輸入がなく国内生産が消費量に等しいので100%だ。金額ベースでも同じだ。食料自給率は食料の安定供給の指標として適切ではない。
 自給率目標が正しいとしてもこれを下げたのは農政だ。1960年以降、米価を上げ麦価を据え置いた。国産米の需要を減らし、輸入麦が中心である麦の需要を伸ばす外国品を優遇する政策をとれば自給率は下がる。今では米を500万トン減産する一方、麦を800万トン輸入している。戦前、農林省の減反案を陸軍省がつぶした。減反は食料安全保障に反するからだ。減反を止めて国内消費以上に生産して輸出すれば自給率は上がる。本気で自給率を上げたいなら減反をやめるべきだ。

ーーーーーーーーーーーーーーー

2020年3月7日土曜日

日本の農薬使用に関して言われていることの嘘

(編者感想)
 農薬を推奨している訳ではなく、有機農業を否定しているのでもなくて、
 人間の健康維持にとって、整合性のある考えだと思います。
 許される範囲の農薬使用で、最大限の人類の生命を救おうという理念だと思う。
 あえて、絞り込むならば、要点は下記の3点になると思います。

・農薬の使用基準は、多大な時間と予算をかけて、研究実施されている。
生きている限り、ゼロリスクは不可能だということを知る必要がある。
・人の健康に対する農薬のリスクは、
 野菜や果物の摂取不足によるリスクよりはるかに低い。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


『農業経営者』3月号
2020年02月28日


日本の農薬使用に関して

    言われていることの嘘

農薬と聞くと拒否反応が出てしまう――。過去のさまざまな報道からそのような捉え方をしてしまう人は少なからず存在する。しかし、その報道自体がそもそも嘘だったらどうだろう。「日本は世界有数の農薬大国」と言われるのも事実ではない。こうした農薬を取り巻く問題はヨーロッパでも起こっている。そこで今回、本誌にたびたび執筆している浅川芳裕氏と紀平真理子氏に客観的な視点で切り込んでもらった。ちまたには嘘がはびこり、その嘘が原因で民衆はあらぬ方向に向かってしまっている。


本当に日本の農産物が農薬まみれか徹底検証する/浅川芳裕

【「世界3位の農薬大国」日本は巧妙な統計操作によるもの】

最近、“国際的に見て日本の農産物は農薬まみれで危険”といった主張がメディアでよく目につく。果たして本当か検証してみた。たとえば、こんな内容だ。
「FAO(国連食糧農業機関)の統計によると、日本の農薬使用量は中国並みで、世界有数の農薬大国。日本の農業は長期間の『鎖国』で、すっかり農業後進国になってしまった」(拓殖大学国際学部教授・竹下正哲「『国産が一番安全だ』と妄信する日本人の大誤解 日本は世界トップレベルの農薬大国」PRESIDENT Online、2020年1月21日)
「あまり知られていないが、日本は世界3位の農薬使用大国なのだ。1位は中国、2位は韓国、3位の日本もじゃんじゃん使う」(堤未果『日本が売られる』幻冬舎新書、2018)
「日本の農産物の安全基準は世界最悪」(食の安全に詳しい内海聡医師)
「日本の耕地面積当たりの農薬使用量は、中国、韓国に次いで世界で第3位だ。(中略)しかし“大本営化”(御用メデイア化)したマスコミはこうした基本的データすら伝えず、『日本の農産物は安心・安全』という情報を垂れ流しているのだ」(日刊SPA!ニュース、2016年2月22日付)
いずれの記事も、FAOの統計をもとに「日本は中国、韓国に次ぐ世界3位の農薬使用量」との数値を引き合いに出している。それを根拠に日本は「農業後進国」だの「安全基準は世界最悪」だの言いたい放題だ。
まず、彼らが根拠とするデータは実在するのか。元ソースからチェックしてみた。
表1と表2をご覧いただきたい。引用した文献『日本が売られる』および『日刊SPA!ニュース』に記載されているグラフだ。たしかに日本は中国、韓国に次ぐ3位となっている。表3がまったく同じ出典から筆者が作成した表である。両者を見比べてほしい。日本の正確な順位は3位ではなく、11位である(最新統計の2016年版では16位となっている)。
一体どういうことか。多くの国々を除外し、農薬が危ないイメージのある中国や韓国を併記することで、日本を「世界3位の農薬大国」に仕立てあげる巧妙な統計操作を行なっているのだ。れは完全に虚偽であり、罪深い。もっともらしい国際比較で日本の農家があたかも農薬を滅茶苦茶に使い、国産農産物が農薬漬けのようなデマを蔓延させているからだ。れにしても、異なる2人の作者(堤氏と内海氏)がデマを流すために、たまたままったく同じ統計操作を施すことがあり得るだろうか(大学教授の竹下氏は中国並みというだけで、表さえ示していない)。普通は考えられない。
実は、同じネタ元から単純にコピペしているだけなのだ。なぜそう確信をもって言えるのかは簡単だ。表1の注釈を見ればわかる。2人とも統計にアクセスした日として、まったく同じ2013年8月4日と記しているからだ。そんな偶然の一致などあり得ない。
そこで、デマの元ネタがないかどうか探してみた。書籍の全文検索サービス「Googleブックス」で調べたところ、「田中裕司氏著『希望のイチゴ』扶桑社、2016」がヒットした。
その中の第3章に「日本は世界第3位の“農薬大国”」という項目があり、堤氏の『日本が売られる』とまったく同じグラフ(表4)が登場する。統計処理法、表題、脚注、そしてその誤字(正しくはFAOSTATをFAOSTALと誤表記)まで一式まったく同じだ。つまり、堤氏のグラフは『希望のイチゴ』からの丸パクリなのだ。

堤氏はその剽窃(ひょうせつ)したグラフをもとにして自分で調べた真実のようにこう語る。「1位は中国、2位は韓国、3位の日本もじゃんじゃん使う」―日本の農産物に対する不安を煽って終わりだ。本文中で、その統計が何を示しているのかさえ、一切説明しない。
いや、できない。日本農業を貶めることだけが目的で、もともと農業に対する知見もリスペクトもないデマゴーグたちだから仕方がない。
筆者が代わりに解説しよう。
このFAO統計が示しているのは「国別・耕地1ha当たり農薬使用量(有効成分の重量)」である。各国の農薬使用量を各国の耕地面積で割って計算される。もっともらしいが、面積当たりの農薬使用量は作物の種類や栽培方法、期間、病害虫の種類、密度などによってまったく違う。
以上の条件を一緒くたにして、この統計が示すのは各国の耕地面積1ha当たりの農薬使用量の平均値である。この平均が曲者である。それぞれの国の耕地において、果物など病害虫に弱い作物や施設園芸など狭い場所で密植する野菜面積の比率が高ければ平均値は上がり、それに比べ病害虫被害が少ない穀物面積比率が高い国の値は低くなる。
その証拠に最新統計(2016)の表5を見てほしい。面積当たり農薬使用量が上位に来る国は病害虫被害に遭いやすいトロピカルフルーツなど果物の生産が盛んな南の小さな島国が多い。
次に多いのはイスラエル(8位)、台湾(15位)、日本(16位)のように国土が狭く海に面した高湿度の農業先進国だ。施設園芸が盛んで、年中野菜を作っているから平均使用量は上がる。湿度が低く、冷涼な国でも、施設園芸の盛んなオランダ(19位)の順位は高く、日本とあまり変わらない。
ちなみに、冒頭で引用した拓殖大学の竹下・農業コース教授は、この農薬使用量比較で、イスラエルやヨーロッパ農業を礼賛し、「日本の農薬使用量は中国並み」「日本は農業後進国」「最先端技術を駆使したイスラエルの農法を学べば、日本の農業問題はほとんど解決できる」と豪語するが、支離滅裂だ。まず農薬使用量がイスラエル(8位)の方が日本(16位)より多い時点で自説が矛盾するだけではなく、さらに中国(10位)より低い時点で崩壊している。そもそも、この統計から各国の農業技術の優劣を比較している時点で農業の素人と言わざるを得ない。
一方、面積当たり農薬使用量の下位に来るのが仏・独・米などだ。作期が長く、農薬を年中使う果物や温室野菜と比べ、短い作期かつそもそも農薬使用量が比較的少ない穀物の面積比率が圧倒的に高いから平均は低くなる。

他方、穀物比率が高くても、二毛作ができる温暖な国では冷涼な一毛作の国より平均は高く出る。もっと言えば、面積当たり農薬使用量統計でさらに下位に来る国々は北欧や砂漠の国などだ。病害虫が越冬しづらかったり、乾燥地帯でもともと病害虫の密度が低いから農薬が少量で済む。
最下位層の国々になると気候もほとんど関係ない。そもそも化学農薬が入手できなかったり、使っても商品作物として価値が生まれない開発途上国が大半を占める。
国別の作物の種類、作り方、気候や経済状況を無視し、農薬平均使用量を国際比較しても意味がない。読者に正確な情報を伝えたいなら、国別の平均値ではなく、国別かつ作物別単位面積当たりの使用量を集計すべきだ。同じ作物別なら基準がそろい、ある程度は国際比較の意味が出る。
作物別なら同じコメ作りでも、たとえば日本、米国、中国の稲作比較で、どの国がどんな農薬を使っているのか。理由は何か。病害虫の種類やそれに応じた散布時期や方法、成分の違いは何か。たとえば、同じ成分でも国別に農薬の使用量や回数が違うのはなぜか。各国のコメの残留農薬基準はどうなっているのか。データを用い、ファクトに基づきながら、建設的な議論ができる。消費者に対しても説明可能である。
ここまで書いても、日本農産物の危険を煽るデマゴーグたちはおそらく理解できない。それ以前に、彼らの面積当たりの農薬使用量の大小だけで、その生産国の農産物の危険度を判定する論点がいかに雑かおわかりいただけただろう。



【人が摂取する残留農薬への言及はない】

そんなに日本の農産物の危険性を訴えたいなら、圃場での使用量ではなく、実際に人が摂取する残留農薬について言及すべきだが、それはしない。
筆者が彼らに代わって解説しよう。
そもそも農薬の使用基準は、「健康への悪影響が生じない」よう定められている。具体的には、農薬の対象作物ごとにメーカーから申請された使用方法で使った場合、どれだけ残留するのかを調べ、その値が残留基準値を超えないようにその農薬の使用基準が決められるのだ。
残留農薬値の設定にあたって日本では、食品衛生法に基づき「食品中に含まれることが許される残留農薬の限度量」を厚労省が設定している。具体的には「健康への影響を判断するための指標が二つ」設けられている。
「農薬を長期間(生涯)にわたり摂取し続けた場合に、健康への影響がないかの指標:一日摂取許容量(ADI)」(脚注1)および「農薬を短期間に通常より多く摂取した場合に、健康への影響がないかの指標:急性参照用量(ARfD)」(脚注2)である。

注1:ADI(Acceptable Daily Intake):ヒトがある物質を毎日一生涯にわたって摂取し続けても、健康への悪影響がないと推定される一日当たりの摂取量。
注2:ARfD(Acute Reference Dose):ヒトが24時間、またはそれより短時間の間の経口摂取によって、健康に悪影響が生じないと推定される摂取量。

食品を通じた農薬の摂取量がこれらの指標を下回ることを確認し、残留基準が設けられているのだ。
でもどうやって、人体が摂取する残留農薬を計算しているのか。それが「TMDI:理論最大1日摂取量」である。これは、「残留基準値×あらゆる食品の平均摂取量」で試算される。その意味するところはこうだ。
まず、残留基準の設定により、各食品に農薬がその基準いっぱいまで残留していると仮定(最大値)する。そのうえで食品ごとに当該農薬の摂取量を算出し、その値を全食品で積み上げることにより推定する値である(注:ちなみに、厚労省は日本におけるありとあらゆる食品の摂取量を調査。国民平均のTMDIのほか、幼小児、妊婦、高齢者といった集団ごとも調べている)。
ポイントは、その総和がADIを超えていないかどうかだ。
人の健康によって肝心なのは、消費される食品全体を通じた農薬摂取量であり、ADIに基づく残留農薬のリスク管理の視点である。
そうはいっても、上記の数値は理論上の推定量に過ぎず、実際に我々が日々の食生活で摂取している実際の農薬摂取量はもっと多いのではないか、という反論もあるかもしれない。
その疑いに対する回答は簡単だ。農薬のリスク管理制度は3点セットで、理論と実際が検証される仕組みになっている。
一点目がすでに解説した「農薬の残留基準値の設定」、もう一つが「残留農薬のマーケットバスケット調査」、そして3点目が「残留農薬のモニタリング検査」である。
マーケットバスケット調査では残留農薬の一日摂取量を調べる。市販の様々な食品を組み合わせ(各食品の国民の平均摂取量に基づく)だけではなく、食品に応じて煮る、焼く等の調理を加えたものをサンプルとして、残留農薬の検査を行うもの」(厚労省)だ。この調査により、「理論最大摂取量(TMDI)による推定に比べ、食事を通じて人が摂取する農薬の量をより実態に近く推定することが可能」(同上)となる。
毎年行なわれているが、これまでの調査結果を見ると、我々が実際に摂取
している残留農薬はADIの約100分の一程度であることがわかる。

ここから、残留基準値を超えないよう定められた農薬の使用基準によるリスク管理の仕組みが全体として機能しているといえる。
それでも、個別の農産物や輸入野菜等で残留農薬を超えるものもあるのではないか、という危惧を表明する人もいよう。この懸念に対応しているのが、まさに3点目の「残留農薬のモニタリング検査」である。
厚労省や自治体が輸入食品や国内流通食品に対して、残留農薬の抜き打ち検査を実施している。ニュースや地元でそうしたケースを見聞きしたことがあるだろう。残留基準違反は公表や廃棄等の措置が取られる。
そうした公的検査に加え、農産物の生産や流通に携わる業界では「残留農薬の自主検査」を行なったり、その前に生産者は防除暦を記録し、取引先に提出したりといったことが一般に行なわれている。
以上のような官民の努力を一切無視し、“国際的に見て日本の農産物は農薬まみれで危険”を主張する輩たちは皆、我々日本農業界にとって、信用棄損者であり、営業妨害者である。
今後もデマを続けるようなら、農業界が一丸となって抗議し、お詫びと主張の撤回を求めていくべきである。

もし世界に農薬がなくなったら? ヨーロッパにおける農薬危険情報の裏側と、求められる農薬の使用禁止への対抗レポート/紀平真理子

日本国内に限らず、ヨーロッパを含めた他国でも農薬に関する危険情報が主にインターネット上にあふれ、消費者による農薬への不信感が煽られている。具体的にどのような例があるのだろうか? さらにヨーロッパでは昨今、NGO団体や消費者から農薬の使用禁止が求められている。それに対して、欧州議会調査サービスが農薬に関するレポートを公開した。これをもとに農薬がない未来について考えてみる。

【「オランダの店頭に並ぶ農産物の5分の1から残留農薬」との報道に不安になる人々】

オランダにおける農薬に関する危険情報は「人に対して危険」という点より、「環境に悪影響を及ぼしている」という点で語られることが多い。しかし、人に対して危険だという噂がないわけではない。記憶に新しいのは、昨年12月にオランダの全国紙Trouwが、「オランダで販売されている野菜や果物の5分の1には、内分泌撹乱を起こす農薬が残留している」と報じたことだ。一部オランダ産への指摘もあったが、主にEU外からの輸入品と、スペイン産の農作物がやり玉に挙がった。同紙はこの残留農薬は、ホルモンバランスに影響を与える可能性があり、不妊症、先天性欠損症、肥満、糖尿病、ADHD、自閉症などあらゆる病気に影響があると述べた。さらに、記事の最後には、妊娠中の女性や赤ちゃんは有機野菜に変えるよう推奨している。この情報がオランダ語のみならず、オランダ在住者向けの英語や日本語のニュースサイトにも掲載された。面白いことに、オランダ人は比較的冷静であったが、オランダ在住の外国人消費者がこの情報で不安に陥った。

【Trouw紙記事の不可解な点】

(1)圧倒的に少ないサンプリング数
この報道には不可解な点がいくつかある。第一に同紙は、委託した調査と分析により、この事実が明らかになったと述べているが、具体的な委託機関は明示されていない。また、調査方法やサンプリング方法に関しても十分とはいえない。公表しているデータを見ると、たとえば最も危険だと指摘されたスペイン産ネクタリンは、67%から残留農薬が検出されたとあるが、サンプリング数はわずか12だ。少ない作物だとサンプル数5というものまである。また、残留基準値を超えた割合のみで、どの程度超過したか記載はない。NVWA(オランダ食品消費者製品安全庁)が行なった調査では、50前後のサンプル数で、総数5000以上。小売、加工、輸入機関など様々な市場セグメントからサンプリングをしたNVWAの調査と比較しても、総数が圧倒的に少ない。また、どこからサンプリングしたかも明記されていない。

(2)NVWA(オランダ食品消費者製品安全庁)のデータに模した形式
次に、NVWAの情報を参照したように見せた点である。同庁は2017年1月から2018年12月に「農産物の残留農薬調査」を実施した。Trouw紙はこの結果に基づいて調査を実施したと記事の中で触れているが、そもそもNVWAの調査目的は、主に輸入相手国とその農産物の組み合わせで残留基準値を超えていないか、また市場セグメントごとに注意するべき点を把握することで「リスクに基づいた管理のための注意点」を明確化し(表1)、必要があれば輸入時の規制強化を行なうためである。
NVWAはTrouw紙に対して、オランダ国内およびEU諸国の農産物の残留農薬は比較的少ないこと、Trouw紙の分析結果も確認できず、残留物質が内分泌撹乱物質であるかどうか測定はしていないと述べている。

ちなみに、ヨーロッパでも残留基準値(MRL)は日本と同様に、安全係数が使用され、100分の1で設定されている。そのため、見つかった残留農薬レベルがMRLの100倍高い場合でも、慢性的な影響はないとされている。

(3)出典の半分以上が反農薬団体の情報
Trouw紙の記事は半分以上が、60カ国以上600のNGO団体のネットワーク機能を司り、農薬反対キャンペーンや抗議を取りまとめるPANヨーロッパ(Pesticide Action Network/農薬アクションネットワーク)の発言や情報である。この団体の情報が引用されていることも、調査自体が偏っている可能性を否定できない。

(4)新聞の購読者層に求められる情報を提供
さらに、Trouw紙は、第二次世界大戦中に抵抗新聞として設立されたプロテスタント系の新聞であることにも注目したい。徐々に宗教色は消えていったが、今なお宗教、哲学を主軸にし、その他持続可能、自然、ヘルスケア、教育、科学を取り上げ、背景と意見に重点を置いて報道している。
オランダでは農業と宗教は密接に関係している。1920年前後に社会的、社会経済活動の側面においてカトリック、プロテスタント、世俗的の3つに分断されていた。当時発足したのが養豚や養鶏が盛んな南部と南東部に多いカトリック系の「knbtb(カトリック農民と園芸家連合)」と、畑作と酪農が中心の北部と中部、また施設園芸が盛んな地域に多いプロテスタント(改革派)系の「ncbtb(プロテスタント農民と園芸家組織)」だった。1800年代にオランダの農業部門の正式な代表機関として発足した「nlc(オランダ農業委員会)」と三分してこれらが「中央農業組織」となった。これらは「スタンドオーガニゼーション」と呼ばれ、同じ社会的課題と階級を持った農家を結びつける「階級ベースの圧力グループ」と見なされていた。
しかし1960年以降、国民の宗教離れが進んでいく。2015年のオランダ統計局(cbs)の調査では、カトリック信者が多い地域は「バイブルベルト」と呼ばれ、今もなお約半数が教会に通い続けている。先述のknbtbの地域はバイブルベルトに含まれる。一方で、プロテスタント信者は近年教会に通う人が減少している。農村部でも同様の動きがある。政党に関しても農村部の中高年層に支持されているカトリック政党とプロテスタント政党が合体したキリスト教民主アピール(CDA)やキリスト教連合(CU)は連立与党には入っているものの、近年は環境政党の緑の党(GL)やリベラル系政党の民主66(D66)が都市部の若者から支持を集め、得票数を伸ばす中で苦戦を強いられている。
新聞の歴史的背景や購読者層、近年の宗教離れを考えると見えてくることがある。従来の購読者層と、潜在的な新規購読者層が求める情報を提供したのではないかと考えてしまう。

(5)残留農薬が多いライバル国スペイン
同紙の購読者や支持者に多いであろう農家を批判するような記事は、一聞すると辻褄が合わないように思う。しかしこの記事では、店頭に並ぶ農産物のうち、主に「EU域外から輸入される製品」に残留農薬が多いことを指摘している。また、EU内のスペインもやり玉に挙がっている。「オランダの店舗で販売されているスペイン産のネクタリン、ブドウ、モモの約半分には、栽培中に散布される農薬による内分泌撹乱を起こす物質が含まれている」と言及されている。不思議なことに調査した32作物のうち、スペイン産の農産物が10を占める。NVWAもEU域内で、自国オランダとスペインの農産物のみ調査を実施しているが、残留基準値を超えた農産物の割合は2国間に差がない。低迷して苦しんでいるオランダ農家に対して、好調なスペイン農家。この報道は偶然なのだろうか?

【農薬がない未来のシナリオ】

オランダでの報道のような「農薬は危険」を根拠にした「農薬の使用禁止」を求める声がヨーロッパでは高まっている。それに対して、欧州議会調査サービスは2019年3月に「Farming without plant protection products-Can we grow without using herbicides, fungicides and insecticides?(植物保護剤なしの農業―除草剤、殺菌剤、殺虫剤なしで栽培できるのか?)」というレポートを公開した。このレポートから抜粋、要約して「農薬がない未来」について考える。

【変わる農薬の開発と重要性】

■農薬の開発やリスク評価にかかるコストも期間も増加
農薬などの植物保護剤の導入は非常に厳しく規制されていることはもちろんのこと、農薬を散布する技術も上がっており、環境への影響も使用者のリスクも低減している。農薬関連の活性物質ごとのリスク評価にかかる費用も、1995年の4100万ドル(約450億円)から7100万ドル(約780億円)に上昇している。それだけリスク管理がきちんと行なわれており、過去と比較しても、安全でかつ食品への残留を含めて厳しく管理されていることがわかる。また、農薬の開発コストも、厳しい規制に対応するため、1995年と比較して約2倍になり(図1)、開発期間も1995年の8.3年に対して、現在は11.3年を要する。

■農薬を使用しない場合の作物の損失
作物の損失は、主に雑草や病原体、ウイルス、動物の害虫によるものだ。農薬などを使用せず、作物を保護しない場合の作物損失の総量は「潜在的損失」と呼ばれる。また、「実際の損失」は農薬もしくは代替手段が使用された場合の損失をいう。世界的な潜在的損失と実際に起こっている損失は、作物や地域によって異なるが、潜在的損失はコメと馬鈴薯で80%、大豆で60%、小麦で55%である。実際の損失は、コメと馬鈴薯で約40%、小麦が30%、大豆が26%だ。図2を参照してもらうとその差は明らかだ。さらに、気候変動により、世界の平均損失は10~25%増加すると予測されている。
欧州議会調査サービスは、作物の損失から考えると、農家の収入安定と食料の安全保障のため、皆が食べ続けていくためには農薬を禁止する
ことは現実的ではないと結論づける。農薬の使用削減においても、管理が難しくなり、リスクが増加することも考慮する必要がある。将来的に農薬削減を実現する場合、精密農業の確立、耐性品種、モニタリングの改正、予測モデルなど手段が必要だ。

【消費者が信頼する情報は何か?】

■メッセージを単純化しすぎるNGO
レポートではNGOについても言及している。「一部のNGOはメッセージを単純化しすぎており、農薬は人間の健康と環境に対して『定義上』悪いと信じている一方で、農薬は農産物の品質や量を失うことなく、簡単に回避できると信じている」と指摘し、この単純なメッセージを受け取った消費者は「なぜ農薬が禁止されていないのか」理解できていないという。
グリホサートに関しても、EFSA(欧州食品安全機関)とECHA(欧州化学機関)は発がん性がないと結論づけたが、100万人を超えるEUの消費者は、欧州委員会にグリホサートの使用禁止を求めた。面白いことに、この運動の最中、ベルギー市民はグリホサート関連製品を買いだめし、庭で使用を続けていたという。

■科学者や規制機関よりNGOからの情報を信頼する消費者
この背景には消費者が「誰の発言を信用しているのか」が影響している。1999年にEU内5カ国で実施した調査では、消費者の40~60%がNGOから発信される食品安全に関するメッセージを信頼していた。一方で、科学者を信頼する消費者の割合は、29~49%と低かった。また、規制機関の信頼度は9~27%と低く、農業、農薬業界は消費者の2~6%しか信頼されていなかった。

【消費動向と小売業者から考える農薬との付き合い方】

■「農薬は危険」コミュニケーションはオーガニック製品の購入を誘引せず
消費者は農薬の使用削減や禁止を求める。しかし同時に、農産物の見た目や品質にこだわる。調査において、見た目が良くない農薬不使用の農産物は、割引された場合のみ完売するという結果が出た。購入意欲の変化のための要因の一つは情報であり、農薬に関する危険情報が出た後に、消費者はオーガニック製品を購入する意思を表明するが、結局のところ第一選択はやはり味だ。ヨーロッパにおいて、一般的にオーガニック製品の市場価格は約2倍である。支払う意思がある価格と、現実の価格のギャップを埋められないことも、オーガニック市場のシェアが5%未満と小さい理由である。「農薬は危険」というコミュニケーションは必ずしも、オーガニック製品の購入を誘引できるわけではないということを覚えておく必要がある。また、このコミュニケーションによって、反対に消費者が農産物自体を購入する量が減少してしまう可能性もある。



■小売業者の独自基準は倫理的、農学的に疑問

また近年は、小売業者により残留農薬の法外要件が追加されるケースが多い。これは、小売業者が追加基準を定めることで、差別化を図ろうとしているためである。スーパーマーケットは野菜や果物の流通の70%を占めるため、農家は要件を満たそうとする。しかし、リスクを農家がすべて負うことは倫理的にいかがだろうか? 数カ月間貯蔵した際、農薬を使用しないがために病気に感染して販売できない場合の責任は、すべて農家にあることになる。また、現在の残留農薬分析で検出されないマイナーな農薬を繰り返し使用するリスクもある。これは、消費者にとってもネガティブな影響が出るため、避けなくてはいけない。

【農薬がない未来はどうなるのか?】

■1人が食べていくために必要な圃場面積は技術の進歩とともに減少
万が一近い将来、農薬の使用が禁止されたら、どのようなことが起こり得るだろうか? 同レポートでは、農薬がなければ、収量は小麦で19%、馬鈴薯で42%減少することが報告されている。そうなると、農薬がない未来では10億人が食べられなくなる。
では1人を食べさせるためにどの程度の圃場サイズが必要なのだろうか? 1960年には、約12億8000万haの農地で30億人を食べさせていた。つまり、1人当たり0.43ha程度かそれ以上の圃場が必要だった。しかし現在は、技術の進歩で収量が上がり、約17億5000万haで75億人の人々を食べさせることができるようになった。これは1人当たり約0.23haで、1960年の約半分の面積だ。ゲノム編集などの技術をさらに活用すると、2100年には平均0.16haで1人を食べさせることができるようになる。レポートでは、この状況の中で農薬の使用を禁止し、収量を減らしてしまうことは得策ではないとしている。

■有機農家にとって考えられる最悪のシナリオ
昨今、有機栽培に転向する慣行農家が増加傾向にある。その背景は、慣行農家が農産物の販売価格が低すぎ、十分な収入が得られないことを理由に有機栽培に切り替える場合が多い。しかし、需要と供給のルールをきちんと把握する必要がある。ヨーロッパにおけるオーガニック市場はニッチであり、ニッチ市場への供給が満たされると、価格が慣行栽培と比較すると「低収量」で「高廃棄」だという点をカバーできないレベルまで低下する。これが現在の有機農家が恐れているシナリオだ。

■低所得者層が野菜や果物を食べられなくなるリスク
さらに農薬の使用が制限、禁止されたとしたら、食料価格が上昇することが予想される。価格が上昇すると、低所得者が購入できなくなり、果物や野菜から安価な高脂肪分や砂糖食品に切り替わる可能性がある。人の健康に対する農薬のリスクは、野菜や果物の摂取不足によるリスクよりはるかに低い。

■人生にはリスクゼロは不可能
ヨーロッパではALARA(合理的に達成可能な限り低い)原則に従っているが、科学的には「ゼロリスク」は存在せず、「許容可能なリスク」に分類される。ゼロリスクを求める人が農薬禁止を主張するが、「道を歩くリスク」「微生物汚染の可能性がある食べ物を食べるリスク」「野菜や果物の代わりに砂糖や脂肪を食べるリスク」はどうなのだろうか? 生きている限り、ゼロリスクは不可能だということを知る必要がある。
しかしながら、農薬や現代の技術を活用して収量増加を求めると、表層水の富栄養化、酸性化、生物多様性の損失など環境に対しての副作用もあることは忘れてはいけない。食料供給を安定して行なうと同時に、環境に配慮し、また食品ロスなどを考慮しながら、「その環境で最適な栽培」と、「実際に行なわれている栽培」のギャップを埋め、収量を上げる「持続可能な緑の革命」が必要となる。そのためには、農薬はもちろん、肥料、かんがいシステム、新品種、栽培技術と育種技術を組み合わせて活用していくことが重要だ。
これはヨーロッパに限らず、全世界に共通する課題である。

参考資料
Trouw: Groenten en fruit zijn vaak vervuild met hormoongif
https://www.Trouw.nl/duurzaamheid-natuur/groenten-en-fruit-zijn-vaak-vervuild-met-hormoongif~b14bcc2c/
Residuen van gewasbeschermingsmiddelen op groente en fruit/Overzicht van uitkomsten NVWA-inspecties januari 2017 ? December 2018
Five centuries of farming ? A short history of Dutch agriculture 1500-2000/Jan Bieleman

ーーーーーーーーーーーーーーー

2020年3月2日月曜日

テロワール:日本酒が「世界酒」に!

テロワールというのは、
もともとワインを作るためのブドウ畑のことを言います。

ブドウ畑は、天候、土壌、水はけ、有機成分などによって
ワインの味が大きく左右されます。
NHKのクローズアップ現代では、
テロワールを次のように説明していました。

原料づくりから醸造まで同じ土地で行なっている

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

NHK クローズアップ現代 2019年11月14日(木)

日本酒が「世界酒」に!~SAKE革命~


日本酒が世界で作られるようになり、驚きの進化を始めている。和食人気が広がるアメリカでは、SAKEを醸造するクラフトバーがニューヨークで人気を集め、コメも水もアメリカ産にこだわった新しいSAKEが。フランスでは、ワインの作り方を取り入れた、こだわりのSAKEが。世界で始まったSAKE革命ともいえる動きを追い、日本酒の可能性に迫る。

出演者

  • 田崎真也さん (ソムリエ)
  • 武田真一 (キャスター)

熱血蔵元が挑む アフリカにも日本酒が!

赤道直下の国、アフリカのウガンダ。
躍動する、こちらの日本人男性。岩手県にある老舗酒蔵の5代目蔵元、久慈浩介さんです。
今、新たな発想で、世界中にSAKEの魅力を広げようとしています。
南部美人 蔵元 久慈浩介さん
「日本の岩手県から来ました。日本の北部です。とても寒い場所です。純米吟醸。“吟醸”とは、とても洗練された酒という意味です。」
「とてもいいですね。味わいが豊かで香りもすばらしく、滑らかでした。」

南部美人 蔵元 久慈浩介さん
「最高に手応えを感じました。ウガンダで、日本酒が広まらない訳がない。絶対に広がっていく。」
現在、国内での消費量がピーク時の3分の1に減少している日本酒。海外での需要を増やそうと、久慈さんはこれまで、46の国と地域に日本酒を輸出してきました。
更に、世界各地で現地生産にこだわった“新しいSAKE”を生み出す取り組みも始まっています。

米も水も酵母も…NY生まれの新しい酒

南部美人 蔵元 久慈浩介さん
「ニューヨークに来ると、『ただいま』という感じですね。」
久慈さんは、自らの酒造りの技を惜しみなく現地の人々に伝授しています。
南部美人 蔵元 久慈浩介さん
「酒のいいにおいがする。」
この日、去年から酒造りを教えている酒蔵を訪ねました。
ここで杜氏を務めるのは、元科学者の男性。経営者は、元金融マンです。2人は日本を旅行した際、日本酒の魅力に魅せられ、一緒に酒造りをすることに決めました。
ブルックリン・クラ 杜氏 ブランドン・ドーンさん
「日本の酒蔵で、出来たての日本酒をいただく幸運にありつきました。びっくりするほど、おいしかった。アメリカでも、同じようにおいしい酒を造りたいと考えるようになったんです。」
酒造りに必要な設備は、自前で用意。原料となる米や水、酵母も全てアメリカ産。その土地ならではの風味を生み出す“Terroir(テロワール)”を大切にしています。
醸造途中のSAKEを確認しに来た、久慈さん。発酵のスピードが遅く、甘すぎると感じました。
南部美人 蔵元 久慈浩介さん
「発酵が弱いかな。(発酵が)遅いのかな。」
発酵のための酵母をうまく作用させるには、糖分を薄める必要があると指摘しました。
南部美人 蔵元 久慈浩介さん
「糖が濃糖状態だと、酵母がエイ!といけない。これを薄めてあげると、追い水なんかで薄めてあげると、バランスがとりやすいかなと。」
ブルックリン・クラ 杜氏 ブランドン・ドーンさん
「なるほど、分かりました。」
ニューヨークの酒蔵で、柑橘系の爽やかな香りが特徴の“新しいSAKE”が生まれました。
ブルックリン・クラ 杜氏 ブランドン・ドーンさん
「久慈さんは、アメリカの寓話の主人公・アップルシードのよう。アメリカ建国当初、アップルシードは国中にリンゴの種をまいて回った。久慈さんは、まさに“SAKE版アップルシード”。世界中で酒造りの種をまいてくれる久慈さんは、私たちの大きな道しるべです。」
南部美人 蔵元 久慈浩介さん
「遠い先か、近い未来か分からないが、(外国産の“SAKE”が)僕らの酒のレベルまで、それを超えていく時代が来るかもしれない。そういうときが来たら、僕は初めて『日本酒って世界で認められるんだな』と言える。」

ワインの本場 フランス生まれの酒

ワインの本場、フランス。
ここで、“Terroir(テロワール)”を追求した新たな酒造りが始まっています。
萬乗醸造 代表 久野九平治さん
「もう田んぼだよ。もう用意してある。」
江戸時代から続く酒蔵の15代目代表、久野九平治さん。
久野さんが米を栽培しているのは、フランス最大の米産地カマルグ。品種は酒米に向いた性質を持つ、「マノビ」を選びました。広大な土地で田植えをするフランスでは、トラクターを使って種をじかまきします。マノビの種は、鳥に食べられたり、風で飛ばされたりしないよう、鉄分で赤くコーティングされています。
久野さんが現地の米にこだわる理由。それは、ワインの本場フランスで“Terroir(テロワール)”が重視されているからです。
萬乗醸造 代表 久野九平治さん
「フランスでとれたお米だよ、あなたたちの国でとれたお米だよ。原料からアプローチのかかっているものじゃないと、すんなり受け入れてくれない。」
久野さんは今、試験的に日本で酒造りを始めています。しかし、味を左右するポイント、米を磨く精米作業で、思わぬ事態が発生しました。久野さんは日本の酒米の場合、50%から60%まで削り、雑味をそぎ落としています。ところが…。
萬乗醸造 代表 久野九平治さん
「もう、これ限界ですね。」
「(機械を)止めたいぐらい。」
マノビは日本米に比べてもろく、精米の途中で割れてしまう米が予想以上に多かったのです。
そこで久野さんは、米をあまり削らないことにしました。その方が、フランス米の個性を引き出せるという逆転の発想で、新しいSAKEを造れると考えたのです。
萬乗醸造 代表 久野九平治さん
「日本だと、50%ぐらい(米を)磨く。逆にフランスの米は磨かないほうが、フランスの米の個性が出る。どれくらいお米を磨いたほうがいいかを見つめるためのいい機会になった。」
こうした試行錯誤を経て完成したのが、このお酒。
果たして、現地の人の口に合うのでしょうか。
久野さんが向かったのは、フランスを代表する5つ星ホテル“リッツ・パリ”。このホテルのトップソムリエがテイスティングし、認められれば置いてもらえることになります。
リッツ・パリ ソムリエ エステル・トゥゼさん
「カマルグの米のお酒ですね。とても興味深い。日本の米で造ったものとは香りが全く違います。ミネラル感があり、後味に土壌の塩気が残る。フランス米のお酒は、爽やかで、ヨーロッパやフランスの人にとって、とても飲みやすい。フランス最高の米の産地のお酒ですから、受け入れられて当然でしょう。」
今夜はスタジオに、世界各地のTerroir(テロワール)を反映したSAKEをご用意。
一体どんな味がするのでしょうか。

ソムリエ田崎真也さん 新たな酒の魅力を語る

ゲスト田崎真也さん(ソムリエ)
武田:こちらはVTRにもありました、フランスのお米で造ったSAKE。音がいいですね。では、頂きます。
田崎さん:頂きます。
武田:あっ、これ独特ですね。
田崎さん:リッツ・ホテルのソムリエの女性が言っていたことが、よく分かりますよね。香りは米由来の香りと、中に少しバナナとか、洋なしとか、ほんのりライチのような香りが感じられたり。あとはグリーンのメロンのような香りが感じられるんですが、そのあとに酸味もフレッシュに感じるというよりは、溶け込んで、バランスよくなっています。全体が同じようなバランスで、甘みを感じながら、そのままやわらかく滑らかで、ずっと余韻まで持続をするという感じですね。
武田:さあ続いては、こちらいきましょう。ニュージーランドで造られたSAKE。これ「全黒」っていうんですけど、なんで「全黒」という名前か。
田崎さん:え~。米が黒米なんですか?
武田:違います。ニュージーランドで全黒。
田崎さん:ん?あ、オールブラックス。
武田:オールブラックスということで、全黒というふうに名付けられたそうなんです。
田崎さん:へえ~、難しいですね。そっちの方が難しい。
武田:いかがですか?
田崎さん:香りは華やかな印象と、穏やかに感じる米由来の香りとか、非常にバランスよく調和しています。ニュージーランドでもよく食べます、大きいロブスターを、そのまま特に何もつけずに塩味だけでボイルしたものを食べて、このふくよかでクリーミーなうまみで、さらに味を引き立てる、みたいな味わいですね。
武田:すばらしい表現ですね。私は、本当にひと言、うまいとしか言いようがないんですけれども。
田崎さん:でも、それはまず大事ですね。まず、おいしいっていうのが大事だと思いますから。
武田:VTRでは、Terroir(テロワール)という言葉が出てきましたが、こうして味わってみますと、それぞれ個性がありますよね。
田崎さん:そうですね。実際には、お米は同じ品種の、例えば山田錦でも、いま日本ではかなり各地で作られていますけど、作る場所によって、米の性格や性質が、最終的には品質が変わってくるわけですね。そうすると、米にもやっぱりTerroir(テロワール)があって、そして、日本酒造りって、水の性質も大事なので、その出来た米の場所で造ったとすると、そこの水質が味に影響するし、造ってる最中の気候なんかも非常に影響を与える。つまり、米と造った場所が同じであると、出来た酒はやっぱりTerroir(テロワール)を表現してるというふうに言えるんじゃないかということです。

世界で造られ始めたSAKE。アメリカやヨーロッパだけでなく、SAKEの醸造所が誕生しています。
武田:田崎さんは、こういった動きをどういうふうにご覧になってるんでしょうか。
田崎さん:すばらしいことだと思いますよね。先ほど、日本の酒蔵の方がおっしゃっていたように、もっともっとどんどん造っていくべきだと思いますね。もし世界中でこのSAKEが飲まれるようになると、日本国内で造る生産量では圧倒的に足りなくなる時代が来ますよね。それと、SAKEの面白さっていうのはTerroir(テロワール)にもあるんだということが理解され始めますと、それぞれの違った気候風土で育った米で、そこの水で、そこの気候で造られたSAKEの味というのが比較されながら、いろんな食卓で、いろんな形で提供されるようになってくるのではないかと思いますので、すごくいいことだと思いますね。そのお酒が、どんどん品質がよくなるに従って、日本の酒も同様に進化していくんじゃないかと思いますし、消費者にとっては面白みがものすごく広がってくるんじゃないかと思いますからね。
日本酒が世界で人気を集める理由の一つが、「うまみ成分」。ビールやワインに比べて、うまみ成分のグルタミン酸が多く含まれています。
武田:日本酒の中に「うまみ」って感じるものですか?
田崎さん:最初にまず甘み感じますよね?で、飲み込んだあとに舌全体、特に舌の両サイドに意識集中して頂くと、何か塩味を含んだような味わいが残ってますでしょ。
武田:ちょっとこう…よだれが出てくるような…。
田崎さん:あんまりいい表現じゃないかも…まあまあそんなような感じです。その味が「うまみ」です。
武田:これが「うまみ」か。
田崎さん:このやわらかい甘みを感じるような「うまみ」と、日本酒の中に含まれている糖分というか、甘みがうまい具合に調和して、いろんな食べ物の甘うまみをそのまま引き立ててくれるというので、合わないものはないっていう…。例えば、フランスで昔から、卵料理にワインは絶対に合わないというふうに言われてるんです。卵食べたあとにワインを飲むと、苦みを感じたり、ちょっと異様なにおいが出てきてしまったりとかで、卵料理は合わないといわれているんですが、日本酒というのは、卵の味をそのままふくよかにクリーミーに、香りも華やかに引き立てるというような点があったり、レタスとかキュウリとかトマトも含めた生野菜を食べるときもワインは難しい。でも日本酒を合わせると、全部の野菜の自然な甘みを引き立てながら、キュウリの香りも、ある意味メロンのように華やかな印象として引き立てるとか。
武田:日本酒は万能なんですね。
田崎さん:万能なんですよ。
武田:こんなにおいしいんですもんね。本当に世界中に広まってほしいなと思います。
さあ、各国でSAKEの現地生産が活発化する中、世界的に有名な、あのお酒を手がけてきた巨匠も日本酒造りに挑戦。これまでにない日本酒が生まれようとしています。

“ドンペリ”の巨匠 常識を破る酒造りに挑む

世界を魅了する高級シャンパン、ドン・ペリニョン。通称“ドンペリ”。長年、このドンペリを手がけてきた世界的巨匠が、日本で酒造りを始めることになりました。
リシャール・ジェフロワ氏。ドンペリの最高醸造責任者を、およそ30年にわたり務めたシャンパン界の帝王です。
ジェフロワ氏は今、日本人にはなかった発想で、新しい日本酒を生み出そうとしています。
「純米吟醸です。」
パリの一流すし店で、日本酒を楽しむジェフロワ氏。ドンペリのPRで日本を訪れた際、日本酒の虜になりました。
“ドンペリ”元最高醸造責任者 リシャール・ジェフロワ氏
「力強い香りですね。気に入りました。地球上のすべての人々に、日本酒の魅力を伝えたい。」
“人生の最後は、日本酒造りにかけたい”
ジェフロワ氏はフランスを離れ、富山県立山町を自らの酒造りの拠点に決めました。酒米を造る農家や、地元の酒蔵などが全面協力。町を挙げた巨大プロジェクトが動き始めています。
“ドンペリ”元最高醸造責任者 リシャール・ジェフロワ氏
「立山が、世界の中心になる。」
ジェフロワ氏は、ドンペリ時代に培った技で日本酒を造ろうとしています。
ドンペリを世界屈指の地位に押し上げたのが、フランス語でブレンドを意味する「アッサンブラージュ」の技。複数の酒を混ぜ合わせて、究極の味を生み出してきました。
“ドンペリ”元最高醸造責任者 リシャール・ジェフロワ氏
「アッサンブラージュ(ブレンド)によって、味や香りが異なる酒を混ぜ合わせ、対立させたり、補い合わせたりすることで、すばらしい調和が生まれるのです。」
アッサンブラージュによる酒造りを実現するため、ジェフロワ氏は3年かけて下準備を進めてきました。
まず、ブレンド用の日本酒を富山県の老舗酒蔵に特注。原料となる米の品種から酵母の種類に至るまで、全てジェフロワ氏の指示どおりに造られ、今年の春ようやく完成。ジェフロワ氏は、その中から15種類の日本酒を厳選。
“ドンペリ”元最高醸造責任者 リシャール・ジェフロワ氏
「この2つはナッツのような味で、舌に残る特徴があります。」
味の特徴を見極め、およそ半年、試行錯誤を繰り返し、ブレンドの配合が決まりました。
“ドンペリ”元最高醸造責任者 リシャール・ジェフロワ氏
「これまでの日本酒は、飲んでしばらく経つと、味や香りが徐々に弱まっていくのに対して、私の酒は、人々がその酒を口にすると、味や香りの特徴がどんどん強くなり、ふくらみを増すのです。」

独自の味や香り…日本酒に新たな可能性

武田:複数の異なるお酒をブレンドする、アッサンブラージュするという発想なんですけど、これは、今までの日本酒の世界にはあまりなかったことなんですか?
田崎さん:日本酒の世界では、ほとんどなかったと言えるんじゃないかと思います。1+1から3を生み、1+1+1から10をも生むみたいなイメージなんですね。
武田:ジェフロワさんとは田崎さんは長年親交がおありで。
田崎さん:そうですね。もちろんドン・ペリニョンを通じてですけど。
武田:実は、昨日お電話をされたということですけれども。どんなお酒になるというふうにおっしゃってましたか?
田崎さん:日本酒の全てのよさを持ちながらも、ハーモニーを築いていく酒を造ってるんじゃないかと思います。例えば、オーケストラのようなイメージで、それぞれすばらしい演者じゃないといけないわけで。でも、それぞれ違った音を出してるわけですから、それらをうまい具合に調合することで、一つの音楽を作り上げていくというようなイメージなんですね。最後に、スポイトというか、注射器で1滴ずつ垂らしながら加えてましたよね。
武田:あの一滴には何の意味があるんですか?
田崎さん:あれは、料理人さんがソースを完全に仕上げていくようなイメージ。特にはっきりと個性を持ったものを半分まで使ってしまうと、その個性に寄っていってしまう。そうではなくて、この強い個性を持った酒は、出来上がってある程度まとまったものだが、最後にこしょうをちょっと振った方がいいかなと思うような量をちょっと加えることによって、全体が、より芳じゅんに華やかになりながらも、ハーモニーを築くことができるという感じ。
武田:じゃあ、これはこしょうの役割だぞと言って一滴たらすと。
田崎さん:でも、それを食べた結果、こしょうが出過ぎちゃ駄目なんですよね。わぁこしょうが利いている、じゃ駄目で、こしょうを入れたことによって、全てがまとまるというような調合をしてるので。まさに、それはもうドン・ペリニョン、シャンパーニュで培った。シャンパーニュというのは、まさにアッサンブラージュありきの飲み物ですので。
武田:こうして見てきましたように、海外や外国人の人たちによって育まれている新しい日本酒の姿。これ、私たちが古来持っていた日本酒の魅力に、改めて海の向こうから気付かされたような気がするんですけれども。これから日本酒ってどう変わっていく可能性があるんでしょう。
田崎さん:まさに今おっしゃられたように、昔から日本人が日本酒を飲むというのは、フランス人が食卓でワインを飲むように、食事をもっとおいしく食べるためにワインを選ぶというのではなくて、日本酒を飲みながら適度に酔って、心地よくなって、コミュニケーションツールとする会話が弾んで、というふうにするSAKEが中心であった飲み方だったんですね。でも、ヨーロッパやアメリカなどで、自分たちが食べてきた食事と共に飲むことによって、食中酒として日本酒が認められたということになるわけなんですね。
武田:食中酒?食事中に飲む?
田崎さん:食事中に。その食中酒というのは、つまり食事がメインで、食事をよりおいしくするために、最後に口の中で調和することができる調味料とか、ソースのようなものということなんですね。ですから、肉で赤ワインを飲むのは、このアルコールの作用ではなくて、赤ワインにある苦みや渋みというのがスパイスの代わりとなって、肉をおいしく食べられる。魚に白ワインを飲むのは、酸味が強いですから、レモンをかけるようなイメージで、魚料理の白身魚の味がおいしくなる、というような意味合いです。日本酒は、フランス料理にもイタリア料理にも合うというふうなことになると、それが、海外から日本に戻ってきた時に、改めて日本人が日本食と日本酒のペアリングって実はどうなの、というふうなことに気付かせてもらえるかもしれない。そうすると、日本の食文化も海外から逆輸入された形で変わってくる可能性はありますよね。
武田:今、日本酒っていうと、一番高級なのが、純米大吟醸というのがありますよね。そういった、この日本酒のヒエラルキーと言いますか、体系。どうなんでしょう。日本酒の世界もやっぱり変わっていくんでしょうか。
田崎さん:そこが頂点ではなくて。ずっと下に純米酒があるということではなくて、大吟醸も吟醸酒も純米酒も本醸造も普通酒も、タイプであるっていうふうに。そこに、さらに熟成した古酒があったり、甘い日本酒の貴醸酒というお酒があったり、日本酒っていろんなタイプがあるということにしていった方がいいと思いますね。
武田:ますます、豊かな食とお酒の世界がどんどん広がっていく。
田崎さん:ものすごく広がってくる可能性を秘めてるということですね。

独自の味や香り…新たな酒が続々誕生

フランスで、また一つ新たなSAKEが生まれようとしています。
今年、日本人が初めてパリ郊外に酒蔵を建設。フランスの米を原料に、水も現地のものを使います。さらに、酒造りに必要な酵母も、ワインの醸造に使われるフランス産にこだわろうとしています。
「私たちはテロワールを反映させたいので、フランスの土地に合った酵母を探しています。」
究極のテロワールを目指しているのです。
WAKAZE 杜氏 今井翔也さん
「(フランスの)考え方も思想も技術も、日本酒の文脈に取り込みながら、新しい伝統を作っていく。」

さらに、アメリカでは、英語で酒造りを教える講座も。これまで、世界各地からおよそ2,000人の受講生が参加しています。
受講生
「ブラジルで、自分の酒を造ってみたいわ。」
世界で巻き起こるSAKE革命。
今後もあなたの想像を超える、新たなSAKEが生まれるかもしれない。
そんな未来に乾杯。
ーーーーーーーーーーーーーーー