2020年12月13日日曜日

農業に規制改革を!

 月刊『農業経営者』12月号に、農業問題を総括できる記事が載りました。
原文は下記から。
http://www.farm-biz.co.jp/

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特集

農業に規制改革を! 前編 72%が弊害ありと
感じた現行の規制と縦割り行政

新内閣の発足に伴い、本誌が長年、取り組んできた農業の規制に関する問題が注目を浴びている。企画を進めるにあたってアンケート調査を行なったところ、200人を超える回答者のじつに72%が農業分野の規制や縦割り行政などで弊害を感じると答えた。今号と次号の2回にわたって改革すべき規制を共有し、実際に改革を促すうねりを作りたい。

調査期間:10月12~26日
調査主体:(株)農業技術通信社
調査目的:
農家を含む農業関係者が農業分野の規制改革について
どのような考えや意識を持っているのかを明らかにする。
調査方法:本誌、農業ビジネスの読者にウェブアンケートを送付
回答数:203件

対 談 積み残されている規制改革と問われるべき中心課題

本間 正義(西南学院大学教授・前内閣府規制改革推進会議専門委員)×昆 吉則
(本誌編集長)
文/清水 泰

【経済的規制が健全な市場の競争を阻む】

昆 本間先生は内閣府規制改革推進会議の農業ワーキング・グループの専門委員を今年8月まで務めました。本日はこれまでの規制改革の議論と積み残した問題等について聞ければと思います。
それではまず、規制改革が叫ばれるなか、確かに規制撤廃・緩和は大事ですが、必要な規制もあると思います。そもそも「規制」とは何か、規制の問題点について教えてください。

本間 規制の問題はまず、「社会的規制」と「経済的規制」の二つに分けて考えてください。社会的規制とは例えば、毒物や安全にかかわる規制、薬物や暴力といった警察が取り締まるべき規制のことで、これをなくすと私たちの日常を危うくするものなので、きちんと維持していかないといけない必要な規制です。
我々が問題にしているのはもう一つの経済的規制です。経済的規制とは、供給が限られたものを限られた人しか行使できないように、参入したり利用したりする権利を権力が特別な人だけに分け与えることでできた規制です。
昆 ヨーロッパには古くから職業規制がありますね。
本間 職業規制として知られるヨーロッパのギルドは、徒弟制度の下で、特定の職人にしか、あるものの製造が認められませんでした。例えば、馬車職人は馬車本体しか作れず、馬車の車輪は別のギルドの職人が作ったものを買わないといけない。そうやって規制することで車輪を作るギルドが保護されます。すると、車輪業界は新規参入がないために進歩が生まれず、健全な競争を阻むものとして経済的規制が機能するのです。こうした供給が限られるものが特定の人に権利として与えられ、そこで得られる過剰な利益等の利権が「レント」と呼ばれます。
経済的規制で活動が制限された産業では、規制にまつわるレントを探し求めるレントシーキングがはびこり、レントを欲しがって政権におもねる人がはびこります。昔なら賄賂を使い、今は政治献金や選挙活動に協力する見返りとして、特定の人に与えられる権利を手に入れようとするのです。こうしたレントシーキングが産業界にはびこると、経済合理性を追求したり、商品技術開発や生産方式の進歩を追い求めたりするよりも、権力に媚びへつらうほうが楽に儲かってしまう構造ができ上がるため、経済が発展しなくなるのです。

貿易がまさにそうで、昔は権力によって貿易のできる商人が決められていたので、貿易商人は利益を独占できました。そのため、貿易できる権利を分け与えてもらうよう権力におもねる。経済的規制の出発点ですね。また、フランスの話だったと思いますが、洋服のボタンを作るギルドは、ギルドに入っていない業者が新型の使いやすいボタンを開発すると、権力に販売禁止の法律を作り、その業者を取り締まるよう求めたといいます。既得権益(利権)の保護が優先され、産業の発展を妨げた事例の一つですね。
昆 かつてあった牛肉の数量規制もそうですね。
本間 海外の安い牛肉を買い付けてそれを国内市場で高い価格で販売する。その差額がレントで、業者はさらなるレントの増大を求め、輸入割り当ての増量を表では政治献金、裏では賄賂を使いながら政府に要求するようになりました。消費者不在のまったくムダな経済活動です。
経済的規制の問題点を整理すると、(1)供給が一定のものを権力者が特定の人たちに分け与えることで“利権(レント)”が発生する。そうするとその産業・業界に(2)技術開発もイノベーションも経営努力も必要としない経済構造が生まれ、経済が進歩・発展しなくなる。これが最大の問題点です。

【規制改革と弱者救済は両立できる】

昆 長年存在した規制がなくなると、これまで何とか従事してきた農家たちが撤退せざるを得ない現実があり、経済合理性の問題だった規制が一気に政治問題化してしまいます。どこまで規制改革は進めるべきなのでしょうか。
本間 昆さんの心配も理解できますが、その言い分こそ経済的規制を社会的規制にすり替える議論です。規制改革を進めたせいで、あたかも農村が疲弊するとか、弱者の農家が退出させられるという言い方をし、本当は経済合理性で判断される経済的規制の問題のはずなのに、社会的規制として残さないといけない、そう錯覚させることで議論をすり替えているだけなのです。
弱者の農家を救い、彼らの生活を守るために今の規制を残すべき、という問題の立て方が間違っているのです。経済的規制の緩和や撤廃の問題は、経済合理性や産業力の強化という視点で判断する。一方で、その影響を受ける弱者の保護については、いろいろある有効な手立てを講じる。ですから、規制改革を進めることと弱者保護や激変緩和措置は両立するものですし、両立させないといけません。
昆 弱者保護を理由に何も改革しないというのは一番質が悪い政策論争なんですね。
本間 規制を残せというのは単に今までのやり方を続けたいということ。変化がないほうが居心地がいいんです。よく言われることがあって、私が既得権益や日本の農業が保護されているという話をすると、「オレたち、こんなに貧乏で儲かってないのに、何が日本農業は保護されているだ!」と食ってかかられます。でも、もし関税がなければ、手厚い保護政策がなければ、そういう農家たちはとっくに別の職業に就いて身を立てていなければならなかったかもしれない。貧農であれ何であれ、農業を続けられていること自体、保護されてきた結果なんですよ。その意識を持たないと、日本農業における経済的規制の本質は見えてこないと思います。
昆 本間先生は農業を敵視しているわけでもなければ、弱者の農家が貧農のままでいいとも考えていないわけですね。むしろ、農業が大好きで、心から日本農業を良くしたいと思っている。
本間 日本農業を良くするためには“いい方向に変化”しなければいけません。それで犠牲が出るならば、その犠牲を和らげるさまざまな手立てがあるはずです。それをちゃんと考えましょうということです。いい方向に変化していかないと、ギルドの例ではないですが、車輪のギルドの職人は一生車輪だけを作って人生が終わってしまうし、新型の便利なボタンが開発されて今よりもいい生活ができる機会も奪われてしまうわけです。変化というのは当事者の生活はもちろん、社会みんなの生活が良くなる方法を考えましょうねということなんです。今は農家や農業に変化をさせないせいで、他の多くの人や私たちの日常生活に大きな損失が生じている状態です。
昆 私は「貧農史観」という言葉をよく使います。規制が撤廃されると農業が滅びるとかいってうごめく人たちがおり、本誌読者のような農業者も例外ではありません。規制改革の影響を和らげる対策をするとなると、そこに新たな利権が生まれ、レントシーキングが始まる。貿易自由化対策など過去にそういうことが結構あり、結果的に必要以上の補助金をもらうケースが少なくないんです。激変緩和措置の基準を小規模農家に合わせると、大規模農家は多額の補助金を受け取ることになります。一旦受け取ってしまうとその利権を手放したくなくなり、それまでの規制改革派から抵抗勢力に立場を変えたりします。
本間 それは弱者を救うための措置が別の人の利権を生むケースで、規制反対派が規制の抵抗勢力になって反対することも実はよくあるケースなんです。だから、規制改革とセットの激変緩和措置は、それを念頭に置いて制度設計をしないといけません。

【戦後農政イデオロギーの温存が農業の弱点に】


昆 日本の農業規制における特徴を教えてください。
本間 生産資源の農地が物理的に限られていることに起因する規制が強いことですね。典型が「農地法」です。生産資源の農地を持つ権利を一定の人に限定する規制で、供給が限られる農地の所有者を限定しているためにレントが発生する余地が大きい。農地法があることで、結果的に土を耕さない人は生産資源の農地を持てず、このことが新規参入を妨げ、農業の発展を阻害する一方で、農家の既得権益を強固に守る機能を果たしています。
昆 日本人は世界の農業の現実を知らないので当然だと思っているかもしれませんが、農地法の規制は世界では非常識ですよね。

本間 農地は農業の生産資源で、農業者はあくまでプレイヤーです。私はこんな例え話をするんですが、東京ドームを所有できるのはそこでいつもプレーする巨人軍の選手だけという規制はおかしいでしょう。農地法の規制はそういうことです。
昆 日本で非常識な農地法ができたのはその成り立ちに起因しますか。
本間 そうです。戦後の農地解放によってそれまでの小作人が自作農となり、彼らの権利を守ることで大地主や封建制の復活を阻止するために制定された法律なんです。経済法なら当然の農地を経営資源として捉える視点が欠けていました。今や大きな小作人が小さな地主からたくさん農地を借りる時代になっているのですから、経済法の視点で農地法を見直す必要があるわけです。
次に、かつての食管法です。米麦等はすべて政府が管理し、供給の元締めとなる。そして、供給から流通を司る人が制限されることで利権が発生し、販売場所の米屋もすべて認可制になっていました。食管法は廃止されましたが、現在も食管法時代に近い形で供給と流通が制限されているのが生乳ですね。近年の規制改革で新たな制度に移行しましたが、これまでは基本的に生乳は指定団体に全量委託し、指定団体に納めない酪農家は加工原料乳の補給金をもらえなかった。これも日本の農業規制の特徴である供給を管理する規制の一種です。
抵抗勢力がどんな理屈をつけようと、実質的に新規参入が阻まれているものはすべて経済的規制と考えていいです。
昆 今も残っている経済的規制は、農地法をベースにした農地解放イデオロギーに縛られているもの、あるいは飢える者にくまなく配り、農家の安定生産を保障する食管法という、ある時期までは機能した制度が時代の変化に付いていけず、本来は改革されるべきはずがそのまま放置されてしまった。しかも、食管法は廃止されたにもかかわらず、減反政策として姿を変えて温存され、それに伴う各種補助金・交付金が提供され続けています。日本の農業規制は、農地解放イデオロギーと食管法時代の延長線上にあるといえるのではないでしょうか。

本間 その通りです。政府が経済活動をある方向に誘導する方法は二つしかなく、法律による規制と補助金による誘導です。農地法は法律で縛る規制ですが、農水省所管の規制のほとんどは補助金を配って法律による規制と同じ誘導をしています。減反政策は経済合理性と市場の需給を無視して主食米の供給を減らし、価格を釣り上げる政策で、食管法時代から現在まで一貫した政策です。もっとも、恩恵を受けているのは乏しい生産資源でも生産と一定収入が保障される小規模農家です。
昆 食管法は超過需要下のモノ不足でこそ機能する法律ですから、その歴史的使命はとっくに終わっています。飽食で需要創出の今は、農業とその規制も新しい段階に進む必要があります。

本間 封建制の復活を阻止するための農地法も不要ですし、経営体力の乏しい小規模酪農家を束ねる目的の生乳の指定団体制度ももはや不要です。だからこそ“いい方向に変化”させる規制改革が必要なんです。
農家が仕事の安定をめざすのは当然ですが、自分の売っているものがどこにどうつながっていて、どのように社会に貢献しているのかをマーケットインの発想で見れば、そうした規制が不要なのは明らかです。しかし、多くの農家には相変わらずプロダクトアウトの発想が抜けずに、「オレたちが苦労して作ったものは高価格で売れて当たり前」だという意識が残っています。
昆 そうですね。
本間 私は「農産物は投票だ」とよく言います。「ウチでこんなコメができました。さあ、消費者のみなさん何票入れますか? 2万円、3万円、それとも5000円ですか」で決まるのが市場システムなんです。理解している人とそうでない人の差は大きいです。
昆 食管法時代の後遺症は日本農業の弱点として残っています。食管法のなかった海外では穀物のマーケットに合う民間育種が盛んですが、日本は米麦に限らず、馬鈴薯まで官が支配していたため、100年以上前の品種がいまだにマーケットの中心です。民間育種が盛んな野菜では世界的な品種が開発されているのに、旧食管法の作物は遅れています。食管法や食管法イデオロギーから派生した各種制度が温存され、日本農業発展の足かせになっています。
本間 コメも同じです。マーケットが縮小するなかで、各地方が税金を投じて一般用主食米の商品開発競争に明け暮れ、結果的に疲弊しています。マーケットが求めているのは例えば、業務用の安価な多収米なのに、針の穴を通すようなニッチな商品開発をして産地間競争に陥っている。もっとマーケットをよく見て、マーケットのニーズを満たす民間主導の品種開発に注力すべきでしょう。政府はマーケットと対立するので、政府主導の品種開発ではマーケットの期待には応えられません。

昆 多収米の開発は品種の段階では農水省も含めて結構行なわれています。ただ、減反政策を進める手前、主食米としては普及させられないので、飼料米として普及させようとしています。食管法イデオロギーが払拭されていれば、もっと自由な動きができるのにと残念に思います。
本間 高いけどおいしいコメというのは農地法とも関連しています。大規模化できない兼業の小規模農家を保護しようとすると、どうしても高価格戦略になってしまう。多収低コストの「みつひかり」などを大規模農地で作るような展開になっていけば、状況も少しは変わってくるのでしょうが、農地は総量が決まっているので、誰かが退出しないと規模拡大できません。生産資源を自力で拡大できる他産業ではありえない制約です。

昆 食管法のコメ、農地法の水田という二つは、農家以外の関連団体・制度である農協、農業委員会、政治家、行政、共済制度といったすべての利権構造に絡んできます。現実の農家は1960年代以前からどんどん兼業化しており、家電を買うように農業機械を買い、農業生産のやり方や生活を変化させてきました。にもかかわらず、既得権益を握っている農業関係者たちがいるために規制改革が進まず、時代の変化に取り残された面もあると思います。

【農地法改正や一度破れた指定団体制度で改革を実現】

昆 本間先生は1995年から25年間にわたって政府の規制改革関連の任に当たってきました。この間の成果でいい方向への変化とは何ですか。
本間 一番大きな成果は、2009年の農地法改正で所有と利用の分離が認められ、株式会社が農地の賃貸借で農業生産への新規参入が可能になったことですね。これは第一次安倍政権下の経済財政諮問会議が先導して議論を進め、農水省もその議論に合わせてきて実現した農業規制改革の大きな進歩でした。
もう一つ大きな進歩だったのは、2017年にようやく実現した生乳の指定団体制度改革です。指定団体制度は、1996年に私が初めて行政改革委員会規制緩和小委員会の委員になって真っ先に取り上げた規制でした。酪農家が自由に集まって自分たちで組合を作り、それを指定団体にして補助金をもらう仕組みを提案したのですが、当時は都道府県に一つずつあった指定団体を全国10に再編する真逆の動きが進んでいたため、断念するしかありませんでした。
それが20数年を経て、頻発するバター不足など状況変化の後押しもあり、指定団体でなくても加工原料乳の補給金をもらえる仕組みに変えられました。その結果、指定団体を介さない生乳の供給が増えてきたりと大きな変化が起きています。

最近では畜舎の建築基準の見直しがあります。国交省の基準で建てることになっていて現場の不満が大きかったのですが、なかなか改善されませんでした。それが2019年に農水省主導の基準作りをすることになり、現場の意見を採り入れながら新たな畜舎の建築基準を策定しているところです。あとは農産物の検査制度改革とかですね。昆さんも専門委員で一緒に取り組んだときは玉砕しましたが、その後復活して攻めている規制も少なくないです。一見すると小さいと思えることでも、一つひとつの規制に穴をあけていくことが重要で、それが大きな成果、進歩につながっていくと思って取り組んできました。

【農協改革の課題と新たな農協作りの好機】

昆 第二次安倍政権下では農協問題にも取り組みましたね。なぜ規制改革で農協なんですか。
本間 農協問題は規制改革と関係ないように見えて大いに関係しています。例えば、全中中心の方針の押し付けは形式上では農協系統という民間組織のガバナンスの問題ではあるのですが、農協法という公的な制度の下で成り立っている公的な組織ですから、国民が納得できる組織でないといけないわけですし、さまざまな特権が認められて規制で守られるためには国民の役に立つ組織である必要があるからです。その意味で、農協改革も規制改革の一環でした。
昆 農家でない准組合員の問題はまだ何も手が付けられていない状態ですね。
本間 そうです。2021年3月末までに政府は准組合員のあり方について結論を得ることになっています。ただ、これまでの農協の幹部の発言などを聞いていると、農協側は2014年当時の問題提起を忘れているように感じます。そのときは、准組合員の利用規制をかけ、准組合員が野放図に農家のための“農業協同組合”を利用するのはいかがなものかという問題意識でした。農協側はJAバンクやJA共済の事業拡充には、員外規制の枠を越えて准組合員を増やす必要があるという戦略を取っていましたが、私たちは「それでいいのか」と問いかけたわけで、経済事業を中心とした農家のため、農民のための協同組合に軸足を移せという明確なメッセージでした。彼らは問題を先送りする形で、全中の社団法人化という組織改革を実行したため、我々もとりあえずは矛を収めた経緯があります。
しかし、それから時間が経過し、我々としては今度こそパンドラの箱を開けるつもりです。准組合員という制度は世界の他の協同組合では例のない歪んだ形の制度だからです。組合事業のユーザーを協同組合の組合員にするからには、何らかの形で組織のガバナンスにコミットさせる必要があり、農協経営に対して発言権と議決権を持たないままでは協同組合の体をなしません。もちろん、地域によって事情が異なるでしょうから、どう組織の運営にコミットさせるのかは地域ごとでしっかりと決めてほしいと思っています。

昆 私が専門委員をやっていたころより、JAバンクやJA共済のテレビCMが増えていませんか。協同組合なのに「まちのみんなのJAバンク」とかおかしいですよね。
本間 経営戦略としても展望がない。JAバンク、JA共済の黒字で経済事業の赤字を埋めるという構図も徐々に崩れてきているので、正組合員か准組合員かに関係なく、すべての組合員に「今後の農協経営をどうするのか」が問われているのです。それも全国組織である前に、地域それぞれが「オレたちの農協をどうするのか」の声を上げないといけません。農業地帯の農協なら准組合員も農家出身者が多いでしょうから、地域全体の問題として考えるのもいい。かつて市町村に一つずつあって、中央の言うとおりにしていれば地域農協の経営が成り立ったのどかな時代は終わっているんです。その危機感をもって改革してくれなければ、ツケを回されるのは各地域の農家と組合員なのですから。

昆 戦後の農協もまた農地改革や食管法イデオロギーの延長線上にあると思います。そのため、農協に本来の協同組合以上の権利を分け与えてしまい、農協自身が自家撞着の状態にあるんでしょう。金融事業の不振もあって自滅しかねない状況で、農家の生産活動にも悪影響を与えかねません。
本間 それこそ農協系統ではない自分たちの経済活動に特化した農協や新しい協同組合を模索する時期に来ています。大規模農家が集まって自分たちのための協同組合を作るチャンスです。
昆 実際、農業経営者たちの意識も高まっており、農協を介さない形で役所とのつながりも強くなってきています。さらには異業種との取引を通じて、カルビーのような食品メーカー、外食産業とのつながりが強化され、健全でより自由な経営を選択できるようになりました。
本間 もはや農業は農業で完結しない。「6次産業化」はあまり好きな言葉ではありませんが、バリューチェーンのなかで農産業を考えると、必然的に現行の制度や規制は変えないとやっていけないことに気づくはずです。土を耕す人の農地所有を定めた農地法があるから、農地をコンクリートで覆うと農地ではなくなってしまう。でも、生産資源と考える農地法に改正されれば、建物を建てようがコンクリートを張ろうが、そこで食と農に関わる事業をしていれば問題ない。農水省も6次産業化を掲げているのだから、認めていいはずなんです。農地を食と農に関わる生産資源としてとらえ、新しい形の法体系と規制に改めるんです。

昆 今のままの6次産業化なら、かつての一村一品運動と同じように失敗するでしょうね。そろそろ農水省も次の段階に進んでいることを自覚し、彼ら自身がいい方向に向けて変化してもらいたいです。
規制改革には痛みが伴いますが、それを乗り越えた先にはどんな未来が待っているのでしょうか。

【減反は20年持たない 規制改革でピンチをチャンスに】

本間 私が案じているのは、小規模農家から突き抜けたり、規模拡大に成功して売り上げが増えた農家が、そこで思考や改革意欲が止まってしまうことです。そこそこの成功で満足して守りに入る、あるいは飼料米の補助金をたくさんもらって儲けていて「今のままでいい」と現状に安住している人が少なくありません。でもよく考えてみてください。こんなおかしい制度があとどれくらい持つと思いますか? 緊急避難措置として始まった減反政策がその後、本格的に導入されてしまい、今の悪農政に至っています。この失敗を二度と繰り返してはなりません。財務省と農水省は減反関連の予算をめぐっていつも揉めています。決して持続可能な制度ではないんです。規制改革の歩みを止めれば、未来の展望どころか予算を止められて突然死するしかないんですよ。
昆 財務省は子実トウモロコシ栽培の支援に予算を付けるくらい現行の減反政策に危機感を持っていますね。だからこそ農業経営者にはポスト減反の準備はできていますかと常に問いたいです。

もう一つ、本誌読者の農業経営者を見ていると、規模拡大して新しい技術体系にも取り組める経営体力が付いてきました。残された大きな課題は“農村経営”だと思います。農村の人口が減って耕作放棄地も増えていくなか、地域の伝統を含め農村を未来にどう残していくのか。村長ではなく、地域の農業経営者たちが農業と同じく異業種を取り込みながら、農村の価値をビジネスチャンスに変換できる存在として農村経営を担う役割があると思っています。私の知る限り、力のある農業経営者はみんな地域のことを真剣に考えているからです。
本間 中山間地をはじめ日本の農村には風景だけではなく、人材や知恵、文化といった無数の魅力があり、それをビジネスに生かさない手はありません。農村の農家は高齢化していますが、じっちゃん、ばっちゃんの持つ食のノウハウ、食材のおいしい活かし方なんかはサービス農業の宝庫だと思っています。そういう豊かな食のノウハウが高齢者と共に失われてしまうのは国家的損失ですから、誰かが受け継いでいかないといけません。

それは必ずしも農村の農家である必要はまったくなく、都市住民や民間企業の社員であってもいいんです。そのためにも農村は閉じずに、積極的に都市住民や民間企業と交流することです。都市住民や民間企業と交流することで活性化している農村がいくつもありますよ。都市住民から見た農村の魅力、価値は農村にいては気づかないものが多いんです。発見されなければ、農村内に埋もれたままやがて消滅してしまいます。
昆 飢えた時代は空腹を満たすためにお金を使いますが、飽食の時代は痩せたり健康になるためにお金を使います。お金を出して手で田植えをすることに喜びを感じるなど、昔は想像もできませんでした。視点や発想を変えるだけで、いくらでもビジネスの種は出てくるのに、役所が変に補助金を出してしまうものだから健全な形で事業化していきません。

本間 福利厚生の一環やボランティア体験的なアプローチだった企業の考え方も、中山間地の農作業体験を持続可能な事業にしたいというように変化してきました。農村や農業経営者にとっては事業化のチャンス到来です。
その意味でも、これからの規制改革の大きな課題になるのはやはり農地法の改正です。今でもどんどん耕作放棄地が出てきて、タダでいいから持っていってくれという農地も出てきています。貴重な生産資源の農地を野放図な状態にするのではなく、農地の利用法や取得権の整備は喫緊の課題です。もはや株式会社の農地取得などという小さい規制改革で事足りるものではなく、農地も農業経営も産業の枠を越えて6次産業化しなければいけません。2次産業、3次産業に農業資源を開放してどんどん参入してもらい、経営能力のある人材が農業経営をしていく。農家や農村は強みである労働力および食と農のノウハウ提供、農業機械の操作などを担いながら、今後の農業や農村経営を担う後継者育成をサポートしてもらう。いわば農業生産体制と農業経営の6次産業化が必要不可欠で、他産業を巻き込むための規制改革、農地法の大改革が急務です。
昆 状況は切羽詰まっているにもかかわらず、減反に伴って何をすれば交付金を多くもらえるのかを見ている農業経営者もいるわけです。
本間 最初に言いましたが、経営努力するより政治家や官僚におもねるほうが楽に儲かり、レントシーキングがはびこる産業は滅びます。
昆 補助金や交付金に頼らない経営こそが持続可能な経営なんですね。
本間 政府からお金が出なくなるピンチこそ能力のある農業経営者にとってはイノベーションや経営革新のチャンスです。

昆 本間先生は今年8月まで内閣府規制改革推進会議の専門委員を務めていました。農業経営者の人たちに「こうしてほしい」ということはありますか。
本間 私たちは産業を外部から見て「こういう経済的規制は不要ではないか」と指摘して議論しますが、内部のことはわからないことも多いのが実情です。ですから、みなさんが現場で不便だと思っていたり、おかしいと感じていることはどんどん声を上げて伝えてほしいです。例えば、トラクターを運搬する際に不便だった道路交通法の規制を改善できたのは現場の声があったればこそでした。これからスマート農業をしようにも規制だらけだと思いますし、我々はなるべく現場の人が使いやすい改革をしたいと思っているんです。

それでもし規制改革以外の方法で解決できる問題なのであれば、農水省の規制改革担当に伝えて解決してもらいます。目的は規制改革のための規制改革ではなく、農産業の発展を阻害するものを取り除き、規制改革でしかできないことは規制改革で進めることですから。
昆 本日はどうもありがとうございました。

[お断り]
『農業経営者』の対談部分だけコピーさせて頂きました。この後ろにより具体的な事例がここにコピーしたのと同じくらいの記事が掲載されています。
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2020年11月30日月曜日

「地域内循環]は、なぜ地域を豊かにするのか?

「地域内循環は、なぜ地域を豊かにするのか?」

1万円を、AさんとBさんで、違う使い方をしてもらいます。

         Aさんは、買い物の場所に拘らない。

         Bさんは、できるだけ地域内で買おうとする。

         果たして、どうなるでしょうか?


[ Aさん ]


                            1万円のうち8千円を地域外のスーパーなどで使う。

                            2千円を地域内のクリーニング店や八百屋で使う。

                            地域で使われるお金は20%(2千円)

Aさんのパターンが続くと・・

                                                 元      地域で使われるお金    

                           ・1巡目  10,000円  ➔  2,000円

                           ・2巡目    2,000円       ➔   400円

                           ・3巡目   400円   ➔     80円

                           ・4巡目             80円     ➔     16円


                               地域内で使われるお金は、 

                              10000円十2000円十400円十80円十16円= 12,496 円




[ Bさん ]


                            1万円のうち8千円を地域内のパン屋や八百屋で使う。

                            2千円を地域外で買い物に使う。

                            地域内で使われるお金は80%(8千円)


Bさんのパターンが続くと・・

                                                 元     地域使われる 累計額

                         お金

       ・1巡目  10,000円  ➔  8,000円  18,000円

       ・2巡目    8,000円  ➔  6,400円  24,400円

       ・3巡目  6,400円  ➔  5,120円  29,520円

       ・4巡目       5,120円  ➔  4,096円  33,616円

       ・5巡目   4,096円  ➔  3,277円  36,893円

       ・6巡目   3,277円  ➔  2,621円  39,514円

       ・6巡目以降(10円の台になるまで)   49,631円


                               地域内で使われるお金は、 

                              10,000円十8,000円十6,400円十5,120円十・・・約 50,000, 円



地域で使われるお金は、Aさんのパターンが12,500円、

Bさんのパターンが50,000円

地域で使われるお金(所得)が約4倍になります。

これが、地域内循環が地域を豊かにする原理です。




考え方を変えてみます。これは仮説ですが、


地域内で売られている全ての商品の80%が地域外からきているものだとします。

買い物のお金の80%が地域外、或いは外国に行ってしまいます。

仮に、東信地域の住民が、全ての買い物を地域内でしたとしても、

地域内に残るお金はAさんのパターンのようになってしまいます。


東信地域の商品販売額の総合計は約8,000億円ですが、

地域内で使われるお金は、

4巡目で、8,000 億円✖️ 1.2496 = 9,996 億円 = 約1兆円です。


逆に、地域内で売られている全ての商品の80%が地域内のものだとすると、

Bさんの考え方で、地域内で使われるお金は、

Aさんの4倍ですから、4兆円となります。


つまり、地域内の所得が約4倍になります。


(これは仮説ですが、大きな的外れでもない気がします

実は、生産物の自給率が判っていないのです。

松尾雅彦さんはこれを50%にしようと提案しました。)



これを、地域内乗数効果 (local multiplier effect)と言います。
ロンドンにある市民団体ニューエコノミックス ・ ファウンデーション
の研究成果のひとつでL M理論」と言います

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2020年11月28日土曜日

仲間になってください!

東信スマート・テロワール を実現するために!




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生産者から、加工、流通、レストラン、施設・家庭消費、そして環境保全・美化まで含めた地域の改革を進める市民運動です。
     
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2020年11月20日金曜日

日本の困った食の事情

日本の農業と食は大変な問題を抱えています。

食料自給率の低下


便利で何でも間に合う日常の食生活を良しとするのは問題です

私たちの日常生活では、食生活に不便を感じたり不満を持っている人は少ないのではないでしょうか。コンビニやスーパーで、欲しいものは何でも手に入ります。食の内容はともかく、生物、レトルト食品、冷凍食品など、時には通販で遠方の名物も手軽に手に入ります。食生活に何の問題もないよ、と思われているかもしれません。

このホームページから私たちの食に関する仕組みがどのようになっているか理解を深めてください。


農水省が政策のために使う日本のカロリーベース自給率では38%(2019年には37%)、生産額ベースでは66%です。ですが、統計にはいろいろカラクリがあるようです。カロリーベースの計算根拠には問題がありそうです。詳しくは農業ジャーナリスト浅川芳裕氏(スマート・テロワール協会顧問)の著書「日本は世界第5位の農業大国」(講談社新書)をご参照ください。自給率だけでなく、農業問題の本質が見えてきます。2010年の出版なので数字に違いがありますが、論旨は今でも有効だと思います。

G7の中でもO E C D加盟国の中でも最低ランクです。異常に自給率が低いという認識を持ちましょう。


🔹 先進国は皆農業国です

この表から読み取りたいことは、先進国は皆食料自給率が高いことです。何と言っても食料は人間生存の基本です。ひとたび戦争や天変地変が起こり食料の輸送が途絶えたら、島国の日本はたちまち餓死者を出すことになります。

因みに、日本のエネルギー自給率は、経済産業省資源エネルギー庁のデータによると、2017年現在で9.6%です。海上輸送が途絶え、備蓄分を使い尽くせば、全てが止まってしまいます。車もトラクターも家の電気も。それでも食料さえあれば命をつなぐことはできます。


 
日本の食料自給率低下の現実(昭和40年⇨平成29年)


🔹 米の消費が半減し、肉と油脂の消費が増えた

カロリーベースの自給率は問題がありそうなので、生産額ベースを使おうと思いましたが良いデータが見つけられず、カロリーベースのグラフを使いましたが、趨勢は変わりません。縦軸は摂取カロリー率で、横軸は自給・輸入率。昭和40年度(左)を見ると、米で45%のカロリーを摂り100%自給できていたことが判ります。平成29年度を見ると、米からの摂取が半分になり、その不足を肉類と油脂類で補っていることが判ります。畜肉の摂取カロリーが米にほぼ匹敵しています。食が和風から洋風に大きく変化したことも一つの要因ですが、農林族議員やJAの都合もあったことでしょう。

ご興味のある方は下記農水省の重量ベースのデータをご参照ください。

https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/zikyu_ritu/attach/pdf/012-6.pdf


🔹 黄色部分は、輸入飼料(餌)によって飼育された畜肉

注目するのは黄色部分(書いてありませんが大部分がトウモロコシと大豆)です。輸入した飼料で飼育された畜産物です。餌(原料)が輸入なので肉も輸入品として計算されます。ソバはこのグラフにありませんが、農水省の統計でみると自給率は30%です。

自給飼料と輸入飼料を合わせた畜肉の輸入比率は84%になります。肉の味は餌で決まります。飼料(餌)の味はその地方の土で決まる筈です。蓼科牛の餌はほとんどが輸入なのでその味は外国の土の味です。信州そばも蓼科牛もテロワールと言うには無理があります。小布施牧場はまだ始まったばかりですが、放棄・荒廃農地を活用して牧草とトウモロコシを作って、この課題を解消しようとテロワール創りを計画しています。(別処で説明)


🔹 農産物輸出入の国際比較 日本は世界一の輸入超過国(輸入額-輸出額)!

世界の主要国は輸出と輸入のバランスが取れている。食品は工業製品と同じで多様だからです。互いに貿易し合っています。日本は農業の競争力をつける努力を怠った結果、輸出が少ない。山下氏は「米を自由化して競争力を付ければ極めて有望である」と強調しています。その通りだと思います。




































◉自給率を下げた要因が環境汚染と食の安全の不安をもたらしている

🔹 耕畜連携の脆弱が環境汚染を生じさせる

上のグラフから見えてくるのは、米以外の穀物(トウモロコシ、麦、大豆)と畜産の飼料の不足です。この事実が環境汚染を引き起こしています。不思議に思われると思います。要点だけ説明いたします。

結論から言いますと、生産、加工、流通、サービス、廃棄物と畜糞の適切な処理、耕地への還元という食に関わる産業の地域内循環がごく一部しか機能していないからです。大きな原因は、外国から輸入してしまうため、還元する畑がないからです。水田に堆肥を入れるのは困難です。結果として、不適切なまま処理されたり、不法に投棄されたりすることにより環境汚染を起こしています。筆者の町では数年前に山中に不法投棄してあった牛糞が大雨で大量に流失し、大きな河川と耕作地の汚染を起こし、県と町が代理執行で1億円ほどかけて対策しました。昨年、水質検査をしましたが、B O D(汚染の度合い)が最悪でした。隣の河川はそのまま飲めるほどでした。


🔹 不適切な堆肥処理が硝酸態窒素(しょうさんたいちっそ)による地下水汚染を起こす

適切に耕地に戻されなかった堆肥から硝酸態窒素が地下に浸透し地下水汚染を引き起こしています。日本中で起きているようです。国内で循環していればまだ良いのですが、海外から持ち込まれた窒素が国土に堆積し、バランスが崩れていくのは問題です。「かつて幼児に対する深刻な硝酸態窒素汚染の影響を受けたEUの環境基準は厳しいものになっています。日本では欧州基準を満たさない畜産集中地域の地下水を使ったミネラルウォーターから硝酸態窒素が検出されています。」


NPO法人食品と暮らしの安全基金(日本子孫基金)

http://tabemono.info/report/report_7_216_2.html


🔹 食の安全は確保できるか

食の安全基準が国により違います。輸送中の品質の保持のためポストハーベスト(収穫後の農薬使用)の問題もあります。入国時の管理は行われていますが、自国の食物より安全率が下がることは避けられないでしょう。何と言っても食べ物は新鮮であるほど美味しく栄養価が高いことも周知の事実です。自給に越したことはありません。

🔹 畑作穀物生産の激減が荒廃耕地を増やした

米以外の穀物生産が激減した結果、畑が放置され、最近は作業効率が悪い中山間の水田が引き受け手もなくて放置され、農村には荒廃地が広がっています。2015年頃、150万ヘクタールの休耕田と40万ヘクタールの耕作放棄地があると言われていましたが増え続けています。東信地域の耕作放棄地面積は2005年の4469ヘクタールから2015年には5511ヘクタールに、1042ヘクタールも増えています。(上田と佐久の地域振興局農政課調べ)
この量は東京ドームにすると222個分です。東信地域だけで、毎年ドーム22個分ずつ荒廃農地が増えたことになります。因みに、転作面積はそれほど変わらず、2015年現在で約4000ヘクタールあります。

別処で説明いたしますが、「スマート・テロワール構想」はこれらの問題も解決します。小さいですが、そのモデルもできています。

農水省が発表している全国の荒廃地面積は平成」26年で2760km2です。これは東信地域2477ヘクタールより少し大きいです。これらの土地が活用されるのを待っています。


◉ 東信地域の中小畜産業が風前の灯火

安い輸入肉がどんどん入ってくる、飼料も地域にないので高い輸入品を買わなければならない。このような状況が数十年続いた結果、中小畜産業は激減しました。当NPOの事務所がある立科町では20戸以上あった養豚業者はゼロに、10戸以上あった肉牛・酪農業者は数戸となり後継者も望めない状況です。これでは耕畜連携(穀物生産農家と畜産農家の連携)による循環型農業は望めません。

ですが、復活の可能性はあります。別処で述べます。


🔹 「佐久広域食肉流通センター」(屠場)の経営継続

2020年9月、佐久広域連合が運営している「佐久広域食肉流通センター」(屠場)の経営継続問題が突然持ち上がりました。この10年来赤字経営が続いていて、佐久広域連合(2市5町4村)からの赤字補填が問題となっていたところに、2021年4月から施行が定められている畜場法による食肉処理施設の衛生基準に適合する施設(HACCP施設:ハサップ)化導入問題が重なり、存続の危機に直面しています。3月までに民間移転ができなかった場合は廃止すると決議されているといいます。

いろいろ難しい問題があるようですが、規模を縮小してでも存続しないと蓼科牛をはじめとするこの地域の畜産物がが「テロワール」でなくなってしまいます。誇りある地域(テロワール)の存在意義がかかっている問題です。ぜひ、広域連合議会で前向きで将来を見据えた深いご検討をお願い申し上げます。

尚、「蓼科牛」のブランド商標はJA佐久浅間のものですし、畜産業者はJA佐久浅間の組合員ですから


佐久広域食肉流通センター

http://www.areasaku.or.jp/gyosei/01kouiki/shisetu/o_shokuniku.html


◉ 零細すぎる中山間地の農地

🔹 中山間地水田の畑地への転換が必要

米は余っています。中山間の米の生産コストがかかりすぎるので、兼業農家はほとんど赤字だと思います。自家用は別にして、そこで生産を続けるのは個人的にも国にとっても損失です。圃場と経営と両方の改革が必要です。米以外の穀物(トウモロコシ、小麦、大豆、ソバ等)の効率生産には大きな畑が必要です。余剰の水田は皆小さいので、そのままでは用をなしません。

米以外の穀物の効率的な生産ができないと、牛、豚、鳥の餌を輸入しなければならないばかりか、糞尿のもって行き場所がないため、前述の環境汚染問題を引き起こします。荒廃地が放置されています。後述しますが小布施牧場では放牧型ニュージーランド方式を取り入れてこの大問題解決の答えを出してくれています。水田転作の大豆・麦の生産がいかに非効率で高くつくかは、下方にある「水田転作の麦、大豆の営農状況」をご覧ください。

因みに、世界の食産業の研究をされている大学教授に、「北米の小規模の大きさはどれほどですか?」とお聞きしましたら、「40ヘクタールくらいでしょう。」とのことでした。


🔹 平野部の大規模農家の米生産コストは7000円〜8000円/60kg、長野県平均の半値

欧米では余剰農地は牧草地にされて放牧が行われているそうです。下図は平成30年度の農水省の米の生産規模別コスト比較のデータです。東信地域は平均すれば0.5ha未満だと思いますが、30ha以上と比べるとコスト差が2.5倍もあります。このグラフにはありませんが、平野部の米所の100ヘクタール規模の大農家では7000円~8000/60kgで作られている筈です。多分、カリフォルニア米に相当する価格だと思います。零細農家が農地を専業農家に使わせてやれば、零細農家は赤字から解放され、専業農家は安価な米を生産することができます。両方が得します。


◉農政の国際比較

下図は、各国の農業に対する補助金が農産物生産価格に占める割合をO E C D(経済協力開発機構)が計算したものです。日本の比率はO E C D加盟諸国平均の2.5倍になっています。




  P S Eとは:《producer subsidy equivalent》生産者補助金相当額。農業保護政策には大別して価格支持と政府補助金の2 種類があるが、共に生産者へ金銭的「移転」(monetary transfer)をもたらして生産を刺激する、という意味では同じなので、この 2つの移転額を合計しPSE という単一指標で表した。(移転=補助)


🔹 水田転作補助金の異常さ

ちょっと古い記事ですが、内容は今でもそのまま通用します。農業評論家の叶芳和さんが書いています。


食料自給率とトウモロコシ国産化の寄与度

https://agri-biz.jp/item/detail/4034


🔹 農家と国民のための農政に転換するべき

キャノングローバル戦略研究所(CIGS)の山下一仁主幹は次のように書いています。農家と国民のための政策論です。2019年、安倍首相の「減反を廃止し、米を自由化する」という政策に対する抗議です。

「表向きは生産調整から手を引いたが、転作奨励金を払って実質的に減反政策を継続し、国民に税負担と高い米という二重の負担をさせている」

これは事実です。下に添付しら記事をお読み頂くと意味がお判りいただけると思います。他人事だと思わないでください。生命の維持に直結している問題です。あまりの現実に驚かれることでしょう。

山下氏の主張と「スマート・テロワール」との違いは余剰水田の使い方にあります。山下氏は日本の米は品質が良いので、競争力をつければ充分輸出できるというものです。「スマート・テロワール」では、中山間の農地ではコストが下がらないので、里山を含めて、畑地と牧草地に転換して米以外の穀物栽培と畜産を振興するが良いと提案しています。山下氏も間違っていないと思いますので、この違いは調整できると考えています。米が日本からなくなることはあり得ないからです。


「日本農業を壊すのは自由貿易ではない」:『農業と経済』2018年4月号

https://cigs.canon/article/pdf/180308_yamashita.pdf

【平成農政を振り返る】減反廃止はフェイクニュース、令和で真の改革を

http://shinshumachidukuri.blogspot.com/2019/08/blog-post.html



🔹 水田転作における麦・大豆の営農実態 国際価格の約10倍の補助金!

下図は、東信地域内にある耕作グループの水田転作営農の実際のデータです。

お断り:シカゴ商品取引所の価格がありますが、アメリカ国の補助金が入っていません。その内容まで調べられませんでしたが、上掲のグラフ「主要国の農業補助率比較」から類推して約20%とすると8円ですが、作物によって違うでしょうから確かではありません。




大豆は、農水省の監督下にある「日本特産農産物協会」が行う入札で民間業者が買い取り市販します。現在の市中価格は250円〜300円/kg。300円/kgで買った人は、税金で負392円/kgを負担しているので、692円/kgの大豆を食べることになります。仮にアメリカの市中価格を60円/kgとすれば、11倍の価格ということになります。

麦も大豆も国は管理貿易を行っています。輸入品の場合、政府は40円で仕入れて223円で販売し、差額は利益になっています。このカラクリは冒頭にご紹介した「日本は世界第5位の農業大国」に詳しく載っています。


🔹 主要農作物の反収(たんしゅう:1反=10アール当の収穫)比較。なぜ、こんな少ないのでしょう?

農水省では、休耕田を使って転作政策を進めていますが、小さな水田に、大型機械で行うべきトウモロコシ、麦、大豆を作らせています。非常に非効率な耕作なのでコスト高となり、2018年度の補助金が3300億円にもなりました。水田は小さいです。零細すぎる農地ではコストは下がりません。更に、水田は湿気るので品質も収量も落ちます。

「グラフ8」を作成しているF A Oというのは、国際連合食糧農業機関( Food and Agriculture Organization of the United Nations)のこと。S T A Tは、statisstics=統計のことです。


「グラフ8」は米、そば、大豆、小麦の反収ですが、10年毎の棒グラフで、一番色の薄いのが60年前になります。いずれも最下位が日本です。何という惨めさでしょう。インターネットで「F A O 農産物の反収」で検索するとトマト、じゃがいもはじめたくさんのデータを見ることができます。真剣に考えましょう。




🔹 世界の食料は人口の増加以上に反収が上がり生産が増えています。

常識に反しますが、世界では食料が余っています。「じゃ、アフリカなどで問題になっている飢餓は何なの?」ですが、それは内紛や他国からの干渉によって行政の機能が麻痺していたり、輸送手段が無かったりするからです。まともな政府があって、手を差し伸べれば、世界は助けられるのだと思います。

「グラフ9」は、1961年を100とした指数で、人口と穀物生産量・他の変化を指数で表しています


下図は、反収と生産量が増え続け、一人当たりの収穫面積は減り続け、収穫面積は微増です。

日本ではこの現象は起こりませんでした。大きな問題です。別処で説明いたします。



◉まとめ

戦後の歴史は工業・輸出立国という戦後復興の政策の結果だと思います。「ジャパンアズNo1」などという成果も達成しました。農村はたくさんの人材・労働力を都市部と工業に供給し大きな役割を果たしたと思います。しかし、バブルの崩壊と共にその時代は終わりました。

昨今、世界で活躍している実業家やジャーナリストの皆さんが日本のバブル崩壊以来40年に及ぶ長期の衰退に大きな警鐘を鳴らしています。「このままでは日本は沈没する!」と。国連やO E C Dが発表する諸データはそれを証拠づけています。今こそ、未来に向かって思い切った改革をしなければならないことは明らかだと思います。


ソフトバンクの孫正義氏は、2019年8月27日のニューズウィーク日本語版で次のように語っています。

「日本の労働生産性は先進各国で最下位(日本生産性本部)となっており、世界競争力ランキングは30位と1997年以降では最低となっている(IMD)。平均賃金はOECD加盟35カ国中18位でしかなく、相対的貧困率は38カ国中27位、教育に対する公的支出のGDP比は43カ国中40位、年金の所得代替率は50カ国中41位、障害者への公的支出のGDP費は37カ国中32位、失業に対する公的支出のGDP比は34カ国中31位(いずれもOECD)など、これでもかというくらいひどい有様だ。」「日本はもはや後進国であると認める勇気を持とう」


食に関連して、過去半世紀の間にいろんな大きな転換点がありました。1960年には日米安全保障条約の改定があり、翌年、農業基本法が制定され、全国で農業構造改善事業(御牧ケ原総合開発、菅平ダムなど)が展開され、稲作中心の農政が推進されました。1980年代のプラザ合意で円高となり輸入品が大きく値下がりし、食品加工原料のほとんどが輸入原料にシフトし、ていきまし小麦、大豆、蕎麦などの生産離れが加速しました。農村は過疎と耕作放棄が進行し里山が荒れてしまいました。

一方、1970年からつい最近まで米余りから減反政策がとられ、農業の保護という大義名分とは裏腹に農業の衰退を招いてしまいました。結果として、食料安全保障を脅かすような主要作物の自給率の低下を招いてしまいました。

残念ながら、自民党とJAと農林議員族が進めてきた農政は誤ったとしか思えません。「グラフ6」にありますように、補助金だけはふんだんに使ってきましたが、一向に農業振興につながらなかった結果を見れば、思い切って政策を転換し、国民の血税の使い方を再検討するべきです。


大幅に足りない農産物があり、一方で余っている農地(休耕、転作、放棄)と里山があるのに、有効活用されていないということ、そして農地は環境の重要部分です。現在の農村構造は60年前の計画(農業基本法)で作られたままです。世界の農業事情も足元の事情も様変わりしています。全ての産業が様変わりしている状況下で日本の農業だけが変わらなくて良い筈がありません。


私たちは補助金が悪いと言いたいのではありません。現状悪化にしかなっていない現在の使い方を、真の農業と農村の振興に繋がる使い方に転換すべきと提案しています。


当NPOは、「スマート・テロワール・農村消滅論からの大転換」(松尾雅彦著学芸出版社)の考え方と指針に基づき、その方策を提言いたします。この提言は決して目新しいものではありません。世界の現実を素直に学び、郷土愛をもって、論理思考で地域振興を研究すれば、農地と山林しかない地方では、自ずとたどり着く当然の帰結です。「スマート・テロワール」などという理屈を知らなかった青年が取り組んでいたことが、「これこそスマート・テロワールだ」と言わしめた事実が証明しております。実証されています。


奇しくも新型コロナウィルス禍に見舞われ、否応なく従来のやり方の転換を迫られています。グローバリズムの行き過ぎを是正し、地域(テロワール)を蘇らせる方向に動いている今が絶好のチャンスだと思います。


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