月間『農業経営者』2021年3月号よりコピーしました。本文は下記URLです。
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ついに、動き出すようです。本来は、減反政策を終了した時に、この動きが始まる筈でした。2019年に当時の安倍首相が「米を自由化しました。」と胸をはりましたが嘘でした。実質的減反政策が今も続いています。国民を騙し続けた米政策がようやく正常化に向かい始めるでしょう。(文中、文字着色は編者)
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もはやニッポンの米は、「神棚」に祭り上げる聖なるものではなくなった。年末の第三次補正予算案をめぐる政府とJA全中との駆け引きで、JA全中が強く求めたコメの緊急買い入れが一蹴されたことは、米もまたマーケットの単なる商品であることを再認識させるものだった。2021年産の転作奨励金は、目一杯出たものの、コロナ禍による消費減退でさらなる米価下落を招くことは確実。「令和の米騒動」ともいえる非常事態に、ニッポンの米がどこに向かえばよいか特集を組んだ。 企画・文/土門 剛
「土門辛聞」特別版 米のマーケット化進行、補助金交付条件に変更も 改革に向けて着実に動き出した米政策
第三次補正の水田農業関連予算案350億円。JA全中と農水省は水面下で、その争奪戦を繰り広げた。余剰米の緊急買い上げを目論んだ全中は、自民党からも梯子を外されて完敗。米政策パラダイムシフトの見えざる現場をレポートする。 (編集部)
昨年の暮れも押し詰まったころ、ひょんなことからJA全中の農政機能が「メルトダウン」との内部情報に接した。政府と米対策を交渉していた事務方トップの馬場利彦専務が、2021年度米対策の財源となる第三次補正予算案決定の前から姿を見せなかったことから、JA関係者から何があったのかと逆質問を受けてしまった。
【JA全中の農政機能がメルトダウン!?】
昨年8月に常務から昇格した馬場専務は、JA組織で農政運動の司令塔だ。農水省相手の初手合わせは、12月15日決着の第三次補正予算をめぐる予算折衝だった。その前から職場には姿を見せず、その情報提供者は「馬場専務は休んでいますから農政対策は機能していないようです」と解説してきた。
情報が寄せられたのはクリスマスイブの24日。季節柄、インフルエンザにでも罹ったのか、それとも例の流行病にでも罹患されたのかなと心配したが、すごく気になったのは、大事なタイミングでの「農政対策、機能せず」のフレーズだった。
そして御用納めが終わった翌29日の新聞に、農水省で馬場専務のカウンターパートだった生産局の佐藤一絵農産企画課長が、1月1日付けで農村振興局総務課長に昇進する人事が掲載されていた。19年7月に就任した佐藤課長が、そのタイミングでの異動は、ひょっとしてという思いが脳裏をよぎり、勝手な想像をマックスにめぐらせた。
かたや「メルトダウン」情報、かたや昇進人事。この商売の悲しい性で、すぐに思い描いたのは、予算折衝でJA全中が負けて、農水省が勝ったというストーリー。久しぶりに聞く農協が抱える余剰米の緊急買い入れをめぐる両者の攻防戦と連想した。断わっておくが、佐藤課長の人事は、そんなゲスな考えによるものではなく、通常の昇進人事だった。
JA全中の言い分も聞かねばなるまいと思い、ストレートに質問を放ってみた。
(1)「緊急買い上げを政府に要請したことがあるか」
(2)「要請したとしたら、全中として正式な組織決定にもとづくものだったか」
(3)「第三次補正予算案がまとまった後、年末まで事務所に出てこなかったという情報がありますが」
質問したのは、1月25日。丁寧にもJA全中から、その翌日に回答があった。(1)に対し、「全中として緊急買い上げを要請した事実はない」、(2)には、「米政策の要望は11月の全中理事会で決定した内容にもとづいて行なっている」という回答だった。
ーー中略
【全中が繰り広げた余剰米買い取り“地下工作”】
「政府に緊急買い上げを要請せず」の全中回答は、真っ赤な嘘。折衝相手の農水省に反面調査すれば、すぐに分かることなのに、よくこんな嘘を平気でつくものだと感心してしまった。その回答ぶりから、政府への緊急買い上げ要請は、すべて水面下での話ということにしておきたかったようだ。その意図は、後に説明するとして、馬場専務が緊急買い上げを政府に認めさせるため展開した“地下工作”を暴いてみたい。
JA全中が、要求を通すのにあえて“地下工作”を展開したのは、政府が進める米政策改革と関係することだ。「平成30年産問題」を覚えておられるだろうか。国による生産数量目標の配分が廃止されたことである。これが持つ意味は、政府がマーケットに関与してはいけないということで、今回のような買い上げや、逆にルールで認められていない政府備蓄米の放出はできないことになった。米も、果樹や野菜などと同じようなマーケット商品となり、国は、市場の価格形成に影響を与えることはできなくなったのである。
JA全中は、このことをよく理解していたからこそ、国への要請が証拠に残らないように、理事会では正式要請せず、“地下工作”を展開することにしたのだ。馬場専務が仕掛けた“地下工作”は、頭隠して尻隠さず。そのお粗末な実態を振り返ってみたい。
ーー中略
第三次補正予算の最終まとめに入った段階で、「JA全中はいい加減にせよ」と、思わぬところから全中を諫める方がいた。誰あろう、自民党にあって農林関係議員を束ねる農業基本政策検討委員長の小野寺五典議員だ。主産地・宮城6区が選挙地盤。衆院7回当選で防衛大臣を2回務めたことがある。防衛族議員かなと思っていたが、いまや農林水産政策に大きな影響を持つ「9人いる党農林インナー」の一人。そして、米政策については党側の責任者でもある。
その農林インナーが予算案の決まる直前に、系統機関誌の農業協同組合新聞の紙面を借りて予算案に関係するJA全中の動きを批判するのは、前代未聞のことである。
その記事は、12月11日付けで配信された。第三次補正予算案が公表されるのは、その4日後。タイミングをはかって、小野寺議員は堪忍袋の緒が切れたと誰でも分かるタッチで、緊急買い入れを執拗に求めるJA全中を厳しく批判したのだ。
「今回、たとえば余剰米と言われるものをかりに買い上げ、それを飼料用米などに償却した場合、来年の作付けはやはり主食用を中心に行われてしまう懸念があります。そうするとまた結果として需給は緩んでしまう、ということにつながります。毎年、需給が緩んだものを国が買い上げ、それを飼料用米などにしていくということは、今の米政策として、やはりなかなか国民の理解が得られない政策になります。ですから、それは難しいということ、これは当初からの自民党としてのスタンスだったと思います」
ーー中略
小野寺議員が呼びかけたとき馬場専務は「体調不良」で戦線離脱したと全中広報は認め、内部情報はその状況を「メルトダウン」という表現を使ってレポートしてきたのだ。
それはさておき、こうしたコメントが、農林インナー(自民党農林族議員の有力者)から出てくることは、政府が目指す米政策改革がかなりのスローペースであるが進展しつつあることを意味する。前段で小野寺議員が示した見解は実にその通りだが、これに補足するとしたら、1兆7000億円もあるマーケット商品に、政府がたかだか数百億円規模の財政資金で緊急買い入れしたところで、需給調整はできるものではないというマーケットの常識がいまだに通用しない全中幹部のお粗末ぶりには呆れてものが言えない。
「国民の理解が得られない」というフレーズは、敷衍すると、過去に緊急買い入れで納税者に多大な迷惑をかけたトラウマがあるということだ。旧食管制度下、農業団体の圧力に負けて国は2度にわたり、緊急買い入れに応じたが、巨額の財政資金を投入させられた苦い経験がある。
1回目は、1968年から70年の3年間で740万tの在庫を処理するため約1兆円。2回目は79年から83年にかけて600万tの在庫処理で約2兆円の純損失を被っている。小野寺議員が、国民の理解が得られないとコメントしたのは、まさにこのことなのだ。
【水田リノベで示された画期的な交付条件】
緊急買い入れ財源としてJA全中がアテにしていたのは、第三次補正予算案での水田農業関係予算だった。12月15日公表の予算案では350億円。これにプラスアルファの財源をめぐる農水省とJA全中の争奪戦という見方もできる。緊急買い入れ財源に使わせようと目論んでいたJA全中は、途中で自民党からはしごを外されて、要求を通すことができず、最後は農水省とも喧嘩別れに終わってしまった。
その350億円は、官邸の強い意向もあって未来志向の転作奨励策として「新市場開拓に向けた水田リノベーション事業」(290億円、略称「水田リノベ」)や「麦・大豆収益性・生産性向上プロジェクト」(60億円)に投入されることになった。この転作奨励策は、その要件を読めば、実効ある転作を目的に、従来のようなバラマキに終わらせないようストッパーをかけている。
メニューは2種類ある。農業者向けに「実需者ニーズに応えるための低コスト生産等の取組支援」(270億円)と、民間事業者向けに「需要の創出・拡大のための機械・施設の整備支援」(20億円)。農業者向けの交付単価は、4万円/10a。転作奨励金としては、かなり奮発した金額だ。
農業者向け対象作物は、▽新市場開拓用米・加工用米、▽高収益作物、▽麦・大豆。新市場開拓用米・加工用米についての具体的な支援メニューは、低コスト生産を目的に、直播栽培、疎植栽培、高密度播種育苗栽培、プール育苗、温湯種子消毒、効率的な移植栽培、作期分散、土壌診断等を踏まえた施肥・土作り、効率的な農薬処理、化学肥料の使用量軽減、化学農薬の使用量軽減、多収品種の導入、農業機械の共同利用、スマート農業機器の活用と多彩。
交付単価も画期的に転換されている。従来の一般的な半額助成という考え方から、転作作物に切り替えた面積に応じての単価設定にした。あくまで取り組みについてのみ支援するという考え方だ。
最後に、水田リノベが公表された直後に、ある地区の農業再生協議会が生産者に配布した文書を紹介しておきたい。
「実需者との契約の有無において、農協に出荷する方は、(申請書類の)集出荷業者等名にJAと記載し、実需者名は空欄として下さい」
着目すべきは、実需者名を空欄としておくよう水田リノベに応募する農協出荷の生産者に呼びかけている点。ただ集荷して全農やホクレンに漫然と出荷するだけで、販売に取り組まない農協を皮肉った内容と読みとれる。
水田リノベの応募期限は年度末。実需者との契約がなくても、とにかく応募だけはしておけと呼びかけているのだ。その間に年度末まで農協が契約相手の実需者を見つけてくれば問題ないが、その実需者契約がない場合、水田リノベの対象にならないということである。極めて無責任。
実需者との契約を条件にしたのは、補助金の目的外使用を排除するためだ。こと水田リノベ事業については、農業再生協議会から、補助金の採択で実質的な権限を奪ったのに等しい。
水田リノベで示された交付条件や交付単価は、米政策が着実に改革の方向に向かっていることを示したものと言える。
著者:土門剛 ドモンタケシ
1947年大阪市生まれ。早稲田大学大学院法学研究科中退。農業や農協問題について規制緩和と国際化の視点からの論文を多数執筆している。主な著書に、『農協が倒産する日』(東洋経済新報社)、『農協大破産』(東洋経済新報社)、『よい農協―“自由化後”に生き残る戦略』(日本経済新聞社)、『コメと農協―「農業ビッグバン」が始まった』(日本経済新聞社)、『コメ開放決断の日―徹底検証 食管・農協・新政策』(日本経済新聞社)、『穀物メジャー』(共著/家の光協会)、『東京をどうする、日本をどうする』(通産省八幡和男氏と共著/講談社)、『新食糧法で日本のお米はこう変わる』(東洋経済新報社)などがある。大阪府米穀小売商業組合、「明日の米穀店を考える研究会」各委員を歴任。会員制のFAX情報誌も発行している。
保護されていた側から見れば改悪でしょう。しかし、零細農家ではほとんどが赤字経営だと思われますので、赤字経営と後継者問題から開放されるので歓迎する向きもあると思います。専業農家は喜び期待していると思います。
結果として、国民は安いお米を食べることができ、農業生産は効率化し、農業・食産業全体を向上させると思います。
そもそも、米どころのちゃんとした経営農家では原価を60kg1万円を切っています。当NPO仲間の花巻市の農家は、約90ヘクタールに、米・麦・大豆・子実トウモロコシを栽培し、米の生産原価は60kg6千円台になっています。なのに、なぜ私達は60kg15000円以上のお米を食べているのでしょうか。
国民全体の豊かさの向上を考えれば、遅すぎた動きだと思います。ただ、犠牲を最小限に食い止める策は打つべきと考えます。
地方創生、日本再生のために、本物の農業構造改善は避けて通れません。
[参考]
水田の畑地転換で、3000億円超の交付金(補助金)をゼロにできるかも!
異常な米政策を解明する!
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