2014年5月20日火曜日

オランダとベルギーの街並みと住宅


 この記事は、住宅生産性研究会(HICPM:東京都:理事長・戸谷英世)が発信しているメルマガからそっくり転載させて頂きました。
 理想の”まちづくり”を探し求めて世界を歩き、日本での実現に人生を捧げてこられた戸谷英世理事長ならではの観点から書かれていると思います。
 住宅と全ての建築は人文科学であり、工学ではないという基本哲学が一貫しており、尊敬申し上げております。
 
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HICPM/MM558号(2014年5月6日)

みなさんこんにちは

 ゴールデンウイークはいかがお過ごしでしたか。今回から10回程度オランダとベルギーに出かけて調査したことをお知らせいたします。

 

第1回「オランダとベルギーの街並みと住宅」の
    学習研究報告の連載にあたって


療養旅行で気力回復
 昨年末から体調を崩し、今年になって急激に悪化したことから、病院通いをしながら車椅子通勤をしてきました。予定をしていた国内及び海外研修もキャンセルし体調の回復に努めてきました。
 たまたまゴールデンウイークに入ることになったので、この機会に娘が生活しているオランダに出かけ、日ごろ気になっていた「街並みを楽しんでいる北欧の人々の生活」を、私自身が車いす生活者となった時の目で確かめるチャレンジをすることにしました。
 娘の家で寝たきりに日々を過ごすことも選択肢にありましたが、回復することを期して、療養を兼ねて4月24日から5月5日までオランダとベルギーの街並みと住宅を調査しに出かけました。
 おかげで体は期待以上に回復しました。妻と娘という頼りになる相談相手と現地に精通した案内者があったことがこのたびを成功させてくれました。

世界一自由で豊かな国
 その調査の目的はオランダは世界一自由な国で、人々の違いを最も尊重する差別の少ない国でもあります。デンマークの社会福祉は最高の水準にあるといわれていますが、経済力の高さを考えると、オランダは社会政策もデンマーク以上に充実し、社会住宅では世界で最も普及している国です。
 世界の海を支配していた国だけに多くの世界中にあった植民地から、多数の民族や人種が移住しオランダの国籍をとり何世代も経過し、人権問題を解決してきた歴史の重さを感じさせる国です。
 フランク・ロイド・ライトが優れた住宅・建築・都市は、民主主義の実現であるといったとおり、個人が尊重される民主的な空間こそ、豊かさを感じられる空間です。このような歴史文化を積み重ねてきたオランダおよびベルギーではどのように優れた都市空間を造り、人々がその空間を享受しているかを確かめることが旅の目的でした。
 長い歴史を経て人々によって守られてきた空間は、人々がそれを重要と認識し、守ってきたことで優れた空間を享受できるもので、人々の努力なしに存在することはあり得ないからです。

観光旅行と学習・研修旅行の違い
 日本でも街並みや建築デザインに対する関心が高まって欧米に出かける人は多くなっています。街づくりに関係する人たちが優れた環境を経験することは大切なことです。
 しかし、それらの多くに人たちは、人文科学としての歴史文化に裏付けられた建築教育を受けておらず、環境を工学都市工学や建築工学のように工学の問題と勘違いし、デザインは個人的な感性の問題に矮小化し、自分で気に入ったものを選択したり、時代傾向を先取りすることに走り、「つまみ食いの欧米観光」をデザイン研修と勘違いする人が多いと思います。
 それが日本から欧米にたくさんの観光客が出かけても、日本の街並みが改善しないどころか悪くなっていく理由だと思います。観光客として欧米を町並み観光をして楽しむことも重要です。しかし、目新しいものを発見しようとしたり、それを先進的だと勘違いし、それを日本では「差別化」と言っていますが、それは間違っています。デザインは「差別化の手段」であってはなりません。

デザイン学習は人文科学的方法
 住宅・建築・都市産業関係者として、都市空間を提供する側にいると自覚する人は、観光と同時に、それらを提供する専門的な歴史文化に裏付けされた知識を学ばなければ知識やの能力は高まりません。
 人々にとっての住宅、建築、都市空間に関する歴史文化を空間形成のアイデンティティとして捉えようとしていない限り、住宅、建築、都市の空間文化を体系立てて豊かな人間の生活文化空間として作ることを学習することはできません。
 欧米に出かけ楽しんでくればデザイン能力が高まるわけではありません。観光案内業者や通訳がついていても、異文化を学ぶべき本人が人文科学の知識として目的をもって学ぼうとしない限り、観光では知識は高まりません。
 苦労して努力し空間文化の歴史を勉強をしない限り、優れた空間を創造する能力は高まりません。観光旅行と研修旅行の違いです。

学習を豊かにする歴史文化に対する問題意識
 今回は実質10日間のオランダとベルギーの街並み調査を通して、これまで両国には5回以上訪問しその関連を持っているヨーロッパの国や、元オランダ東インド会社があったインドネシアでも3年間生活したことも、書物で学んだことの確認を含めいろいろな知識や情報が積み重なて今回の旅行の問題意識になっています。 

 人々が豊かさを感じることのできる住宅、建築、都市空間をどのようにして造り、享受しているかということを旅行した都市の訪問順に、私自身の都市理解の旅行記として順次紹介することにしました。

 その視点の問題意識としては、生活する人が豊かさを感じている理由を見つけようとする問題意識があり、それは米国におけるニューアーバニズムの取り組みに刺激された伝統的近隣住区形成と伝統的な文化空間との関係として意識的に考えてみました。

大学都市ユトレヒトは、ユトレヒト条約の締約都市
 大学都市ユトレヒトは、町の中心を運河と自然の河とが流れる落ち着いた大学町です。AD47年この地ユトレヒト(語源:船渡しの場所)に、古代ローマ人がライン川の要塞をマース川をわたったところに街を築きました。そこに古代ローマ人が定住したことが、この街の名前のユトレヒトの由来になりました。

 ユトレヒトの人々はAD8Cキリスト教を受け入れ、長く司教区が置かれ、ユトレヒトは中世の宗教中心地として栄えました。1713年、英国がスペインおよびフランスに対し、米国における利権を巡る争いで、英国がユトレヒト条約でスペインおよびフランスに対し利権を得ました。その戦後の秩序を決めた条約の締結地で、国際的にも重要な位置を維持していた都市です。

個性豊かな建築の多様性の統一
 ユトレヒト中央駅の前面に旧市街地が広がっていて、鉄道駅から徒歩で5分くらいのところに鉄道と平行に「古い運河」が流れています。その運河の両岸に走っている道路には、緑が芽吹く街路樹の立ち並んでいます。鉄道線路から運河までの市街地は、個性豊かな建築様式、ファサードのゲーブル(切妻)飾り、高さ、幅といった建築物としての形も、装飾も建設時代ごとに相違する3-4階建てのレンガ建築が隣地境界線に面して高密度に建築されています。

 その市街地内部には、多種多様な店舗が軒を連ねて立ち並び、とても魅力的な街なみ景観が形成されていてます。その駅前に広がる街並の中に、有名なオルゴール博物館が外観からもわかるような形で建っています。そこにはユトレヒトの目玉観光場所であるため、多くの団体の観光客が集まっていました。

運河と道路のデュアルモード交通システム
 鉄道駅からの街並みの連続面状に市街地は広がり、「古い運河」に沿って街並みが区切られ、そこからさらに市街地が続いて形成されています。町並みの中の「古い運河」は、沿道の道路の路面より水面の高さが、1階分の高さよりかなり低くなっています。
 道路面の下に道路に接する住宅の地下空間が運河の水面に直接接するようにできていて、運河から道路の下部に築造された隣接地の地下工作物の出入り口が設けられていました。そこは運河で運ばれてきた荷物を地下工作物の道路の下部を通って各住宅に荷揚げするところとなっています。

 個人の専用利用できる運河からの荷揚げ場が、運河から直接か、または道路を挟む場合には、地下工作物が道路の直下に設けられている仕組みとなっていました。この運河から直接住宅まで運搬できる方法は、前面道路交通を妨害せず、各住宅から運河が利用できる合理的で面白い方法と思いました。
 このシステムは道路と運河と立体的に交通を住宅に取り入れることのできる3次元の人工地盤インフラの面白い利用例とみることができます。

中世の表通り(運河)と近世以降の表通り(道路)
 そこの地下工作物の中には、「古い運河」に面してテラスがもうけられ、その先に散策路が作られ、そこがカフェーやレストランのアウト・ドア・レストランやアウト・ドア・カフェの一部になって使われていましいた。古い運河沿いに造られた街並みは3階建ての街並みですが、実は地階を含んで4階建ての街並みを形成し、それぞれレンガ建築は、道路側の表の交通と、運河側の表の輸送と、個性的な2段階の交通を取り入れた正面のファサードで、街並み景観を造っていていました。

 運河という水面がユトレヒトの人々にとっての歴史的な玄関になっていたと思います。皆、運画面を眺めることで歴史的な眺めを楽しんでいるように思われました。
 長谷川堯著『都市回廊』の登場する「日本橋で交差する江戸(運河)と明治(道路)の風景を見る思いでした。この街並みの裏側は、通常のヨーロッパの街並み形成と同様、バックアレーに面して勝手口が設けられていました。

ドム教会とドム塔を支える市民文化と路地の機能
 今回訪問した中心の建築物は、街のランドマークであるドム塔とドム教会でした。ドム教会の内部には、ボランタリーの高齢者の教会内部の説明者がいて解説をすることを楽しんでいるようでした。
 一般的には日本人にはよい感情を持っていないいわれるオランダ人が、東洋から来たオランダに関心を持った外国人の私たちに好意を持っていろいろ説明してくれました。この教会が誇る立派なパイプオルガンの由来とともに、ステンドグラスの絵の内容を説明をしてくれました。

 また、こちらが説明者に質問した「祭壇に祭られた棺の主が誰であるか」という質問に関し、それは英蘭戦争のとき活躍したオランドの海軍総督の棺が祭壇に祭られていることを説明してくれました。
 そして、英蘭戦争では英国とオランダが4回にわたって海洋の支配をめぐって雌雄を争って戦ったことを自分の知っている時代のに説明し、祭壇に祭られている提督は、第3回目にオランダの提督であったというオランダ人の誇りであることをこめて説明してくれました。

現代人の生活を豊かにする歴史の宗教建築
 この教会には回廊で囲んで中庭が造られていました。その中庭には高木が植えられていて、その中央には噴水があり、背の低いつげの潅木の若い緑の芽吹いてきれいに伸び始めていました。中庭全体がフランス式の幾何学的な樹形に美しく造園のされていました。

 このドム教会の建築物は、1254年に建設されたオランダ最古のゴシック様式の建築物です。1517年司教区の聖堂となりました。17世紀前半に創設されたユトレヒト大学本部と隣り合って造られていて、全体として豪華な空間を作る形を形成していました。
 ドム教会の前面には、ドム広場と道路を挟んで、鐘楼としてはオランダで最高の高さを誇る高さ112メートルのコシック建築のドム塔がたっていました。昔はドム塔とドム教会がひとつの建築物としてできていたとのことでした。

 ユトレヒトの町はこれらの教会建築や大学の建築物を取り囲んだ形で3階建てや4階建ての建築物がそれぞれの用途に対応した個性的なデザインの建築物として壁を接して造られていて、建築物が空間(無意味な隙間空間)によってぶつ切り離されていることはありません。建物の間に空間がある場合には、ほとんどの場合、それは通路(路地)になってコミュニティ道路として機能しています。

隣棟間空地ゼロの町づくり:欧米の市街地住宅の経済的常識
 今回の街並み調査の中で最も重点を置いて見学してきたことは、人々が豊かさを感じることのできる街並み計画のデザインを発見することでした。
 その中でこれまで半世紀以上こだわってみてきた「建築物間の隙間」に関し特に重点を置いて調査してきました。
 これまでの調査や文献での調査研究でも明らかな通り、ヨーロッパでは市街地建築は基本的に市街地の土地は高価であるため、地価負担を少しでも引き下げるために、土地の高度利用の観点から無駄な土地利用を行わないという原則に加えて、都市は人文科学的に歴史文化を享受できる美しい空間を作ることを最重要視していることです。

 高地価の都市での空間利用として日本の隣等間に無駄に放置されている空地を少しでも有効に利用し、都市な町並み景観に寄与するようにしたらどれだけ良いだろうかと改めて感じさせられました。

常識は国民を貧しくしている日本の戦後のデザイン
 かつて、
1、「歯並びの悪い」顔は醜いことを例に、無意味な建築物間の隙間は街の景観を醜くするという説明を聞いたことがあります。その後、
2、都市の防犯上賊の隠れやすい空間を作らないため無駄な隙間を作るなという説明もありました。
3、隣等間の隙間風が前面道路の歩行者を不愉快にさせることや、
4、隣等間の隙間は都市火災の原因になるという話も聞きました。
5、近年はもっぱらエネルギーロスの問題として連続住宅は独立住宅に比較して50%以上ランニングこそとを引き下げるという説明と、
6、建物の外壁化粧と断熱をする必要がないため、建築工事費を大幅に削減させることができると説明されてきました。

 経済的理由を含め上記七つのどのような観点からみても、「戦後の日本で優れた建築物の設計条件であるかのように間違って行われている4面外壁を作る建築や住宅」は、世界の常識からみて、デザイン的に醜いうえ、機能や性能面からも間違った計画技術であるといってよいと思います。日本でも戦前までは隣地境界線に接して建築物がたてられ、優れた街並みを作ってきました。

次回はゴーダのマルクト広場に出かけた報告です。
(NPO法人住宅生産性研究会理事長 戸谷 英世)

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農楽のすすめ!
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