2021年5月3日月曜日

水素、緑も青も総力戦 50年に全エネルギーの16%に

 日本経済新聞ウェブ版からです。

水素、緑も青も総力戦 50年に全エネルギーの16%に

第4の革命・カーボンゼロ Hを制する(1)

低品位の褐炭から水素を製造する(豪南東部ラトローブバレー)

原子番号1番、元素記号H。「水素」が温暖化ガス排出を実質的になくすカーボンゼロの切り札に浮上した。宇宙の元素で最も多い水素は枯渇せず、燃やしても水になるだけ。究極の資源Hを制する競争が始まった。

オーストラリア南東部のビクトリア州ラトローブバレー。日本の発電量240年分に当たる大量の低品位石炭、褐炭が眠るこの地で1月、水素の製造が始まった。

採掘したての褐炭を乾燥させて砕き、酸素を注入して水素をつくる。1日あたり2トンの褐炭から70キログラムの水素ができる。年内にはセ氏マイナス253度で液化した水素を専用船で日本に運ぶ。

川崎重工業の子会社、ハイドロジェン・エンジニアリング・オーストラリアの川副洋史取締役は「製造、液化した水素を海上で大量輸送する供給網をつくるのは世界初」と話す。2030年代の商用化後は水素製造時に出る二酸化炭素(CO2)を約80キロメートル離れた海岸沖の地底に埋める。

脱炭素の王道は太陽光や風力など再生可能エネルギーによる電化だが、大型飛行機は電気で飛ばすのが難しい。高温で鉄鉱石を溶かす高炉も電気では動かない。水素は燃やせばロケットを飛ばせるほどのエネルギーを生み、CO2も出さない。カーボンゼロの最後の扉を開くカギとなる。

英石油大手BPは「カーボンゼロならば50年の最終エネルギー消費の16%を水素が占める」とみる。「世界でも安い水素の供給源は限られる。もたもたしていると他国にとられる」。水素を成長事業にすえる千代田化工建設の森本孝和フロンティアビジネス本部副本部長は焦りを隠さない。

世界はすでに総力戦に入った。世界の関連企業でつくる「水素協議会」によると、1月までに世界で200以上の事業計画が公表された。投資額は合計3000億ドル(約33兆円)を超す。


無色透明の水素を専門家は製法で「色分け」する。石炭や天然ガスなど化石燃料から取り出すと「グレー」。いま流通する工業用水素の99%がそうだが、CO2は削減できない。豪州の例のように化石燃料由来でも製造過程でCO2を回収すれば「ブルー」。そしてCO2を出さない再生エネの電気で水を分解してつくる「グリーン」だ。

欧州連合(EU)はグリーン水素に傾斜する。30年までに水を電気分解する装置に最大420億ユーロ(5兆5千億円)を官民で投じ、日本の30年目標の3倍超の年1000万トンをつくる。いまの製造コストはブルーより高いが、再生エネと電解装置の値下がりで将来は逆転するとの見方もある。


ロシア、カナダなど資源大国はブルーに前向きで、サウジアラビアや豪州のように両方をてがける国もある。ブルー水素に生き残りをかけるオイルメジャーの思惑もからみ、水素の「規格争い」は一筋縄ではいかない。

コストが普及を阻む。水素を製鉄に使う場合、1キログラム1ドル(約109円)が実用化の目安とされるが、いまの生産コストはブルーが同2~3ドル、グリーンが同2~9ドルとまだ高い。日本で水素を発電に使うなら同2ドルで採算があうが、現状で豪州からの輸入液化水素は同17~18ドルと上回る。

炭素税の導入も課題だ。石炭を使う高炉の代わりに水素で鉄を還元する方法に切り替えると、鉄鋼製品は値上がりする。調査会社ブルームバーグNEF(BNEF)は水素が1キログラム1ドルに下がった場合、CO21トンあたり50ドル前後の炭素税をかけると長期的に水素製鉄が高炉より優位になると試算する。炭素税が高炉の鉄鋼価格を1~2割押し上げるとみられる。

日本は17年に世界初の水素戦略をまとめ、関連特許の出願数も首位。世界をリードできるはずが、日本企業関係者は外国政府との折衝で「日本は導入が遅くてイライラする」とよく言われる。

EUは50年までに官民で最大4700億ユーロを水素に投じ、米バイデン政権も研究開発を支援する。日本は脱炭素基金から3700億円をあてるが、迫力不足。BNEFによると国内総生産(GDP)に対する水素関連予算の比率は韓国や仏独が0.03%に対し、日本は3分の1の0.01%にとどまる。

大気汚染が深刻だった60年代、液化天然ガス(LNG)は硫黄や窒素をほぼ含まない「無公害燃料」と呼ばれた。リスクも大きかったが、東京ガスと東京電力が共同調達で手をむすび、旧通産省が後押しするオールジャパン体制を構築。世界に先駆けて供給網を整え、アジアに関連インフラを輸出するまでに成長した。

「夢の燃料」と呼ばれる水素。ブルーかグリーンか、輸入か国内生産か、炭素税はどうするのか。日本が初めてLNGを輸入してから約半世紀。カーボンゼロに向け、官民一体で再び見取り図を描くときだ。

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