2020年11月8日日曜日

「身土不二」の思想 は、真理=科学

■■ Japan On the Globe(1190)■■ 国際派日本人養成講座 ■■ より

      国柄探訪: 人間の身体と大地は繋がっている
          ~「身土不二(しんどふじ)」の思想

 日本人は、日本列島で採れる豊かな食材に合った身体を発達させてきた。

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■1.「身土不二」の思想

「身土不二」という言葉を聞かれたことがあるでしょうか。「身」すなわち人間の身体と、その人間が生まれ育った「土」つまり大地は「不二」、二つではなく一体だという思想です。西暦1300年頃、中国の仏教書に出てくるのが、文献としては最初のようです。[山下、p111]

 考えて見れば、私たちの身体は食べたものを分解し、そこから得られた栄養素から形成されています。そして、すべての食物はもともと、大地から育った植物か、それを食べて育った動物でした。したがって、我々の身体は食べ物を通じて大地と繋がっているのです。

 この認識の上で、身土不二は、生まれた場所から歩いて行ける範囲、3里(12km)ないし4里(16km)の範囲で育った食物を食べるのが良いという思想です。タイの養殖エビ、カリフォルニアのオレンジ、オーストラリアの牛肉を日常的に食べている我々の現代の生活から見れば、とんでもない暴論に聞こえます。

 しかし、この説には科学的根拠がないわけではありません。たとえば、日本人には牛乳を飲むとお腹を壊す人が少なくありません。これは牛乳が、もともと日本の土地で生み出された飲み物ではないからです。


■2.牛乳でお腹を壊さない方が少数派

 インドから独立したバングラデシュがたび重なる洪水と飢餓で苦しんでいるため、フランス政府が救援物資として粉ミルクを贈ったことがありました。ところが、それを飲んだバングラデシュの人たちが下痢と腹痛を訴え、死者まで出る騒ぎになったそうです。

 粉ミルクに毒が入っていたという噂まで広がって、国際問題にまで発展したのです。フランス政府は医師、看護婦、栄養士からなる調査団を派遣し、現地の水が問題だと見当をつけてミネラルウォーターも持っていったのですが、水が原因ではなかった事がわかりました。

 アメリカのケネディ政権の時代にも、ブラジルに送った粉ミルクで同様の事件が起こりました。ブラジルの水が良くないのだろうと、沸騰消毒するなどしてミルクを飲ませても、結果は同じでした。

 そこから始まった調査の結果、驚くべき発見がありました。まず、すべての人類は、生まれてから7歳ぐらいまでは乳に含まれる乳糖(ラクトーゼ)を消化吸収する酵素(ラクターゼ)をもっています。これがないと母乳を飲んでも下痢してしまうのです。

 ところが一部の人々では、7歳を過ぎるとラクターゼが消滅する事が判りました。バングラデシュの人たちもブラジルの人も、ラクターゼをもっていなかったことが症状の原因だったのです。

 当初、このラクターゼ欠乏症は一部の人々とみられていました。しかし、調査が進むにつれて、じつはそれが世界の多数派で、むしろ7歳以降もラクターゼを持っている人々の方が、世界全体で20%程度の少数派であるという事実が判明しました。[山下、p52]


■3.ヨーロッパの自然環境の貧しさから生まれた牛乳を飲む習慣

 成人してもラクターゼを持っているのは、スウェーデンやノルウェーでほぼ90%と、ヨーロッパ北部が中心でした。

 ヨーロッパ北部は寒冷のため濃緑色の葉物野菜は育たず、不足するカルシウムを摂取するために、6千年ほど前に牛や羊の家畜化を始めてから、その乳を飲むようになったのです。その過程で、離乳期が終わってもラクターゼを分泌し続ける体質が突然変異で現れ、適者生存でヨーロッパ人の主流となりました。[島田、p87]

 したがって、ヨーロッパ人が牛乳を飲むのは、厳しい気候のもとで野菜に恵まれない風土に、やむなく適応した結果なのです。言わば、彼らなりの「身土不二」の実践でした。

 明治時代に医学や栄養学の指導者としてやってきたのは、北ヨーロッパに住むドイツ人が中心でしたので、牛乳を飲むことを「文明的」な食事として推奨しました。この誤解が今も続いているようです。

 ヨーロッパ人のような体質の突然変異を経験せず、自然の豊かな国土に住む日本人は、わざわざ牛乳をカルシウム源として飲む必要はありませんでした。小松菜や大根の葉など濃緑色の葉物野菜、および味噌、豆腐、納豆など大豆を使った食品で十分にカルシウムを採れるからです。特に大根の葉は同じ重量の牛乳に比べて、2倍のカルシウムを含んでいます。

 島田彰夫・医学博士は、日本に輸入される欧州の食物に関して、こう感想を述べています。

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 近年になって、ヨ-ロッパからもいろいろな食品が輸入されるようになったが、小さな草や木の実から作られるジャムなどをみるとき、これほど小さな実まで、加工して保存しなければならなかった、ヨーロッパの自然環境の厳しさ、あるいは貧しさを意識しないわけにはゆかない。[島田、p155]
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■4.「まわりじゅう食べものだらけ」

 ヨーロッパに比べれば、日本列島の自然の豊かさは歴然としています。鹿児島に住んでいるあるアメリカ人女性は「日本の田舎の人は、食べものに囲まれて暮らしている」と言って、こう続けたそうです。

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 海に出れば魚、貝類、海草、山へ行けば木の実、草の実、山菜。季節ごとにいろんな食べものがとれる.こんな豊かな自然はほかにないわ。まわりじゅう食べものだらけ。[山下、p41]
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 我々の先祖は、代々、この恵まれた自然の中で得られる食べ物で生活していました。3里四方で採れる食材だけで栄養は十分でした。

 上の発言に「海草」が出てきますが、最近の研究では海草を分解できる腸内細菌を持っているのは、世界の中でも日本人だけだそうです。多くの外国人は寿司は好きでも、海苔は「ブラック・ペーパー」と言って嫌います。海苔の食物繊維を消化できず、そのまま排泄してしまうのですね。日本人は海草類を食べ続けた過程で、それに適した細菌を腸内に取り込んだようです。[大腸]

 日本の伝統食に関して、島田博士はこう結論づけています。
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 私たちの先祖が大事にしてきた米、粟、麦、ソバなどは、澱粉の供給源として非常に優れたものである。これで十分な炭水化物と若干の蛋白質は確保できるから、あとは蛋白質と脂肪の供給源があれば三大栄養素は大丈夫である。大豆はこの両方を満足させる食品である。日本人が穀類(米とは限らない)と大豆を核とした食生活を営んできたことは理にかなったことであった。
他にいくらかの野菜があればビタミンもミネラルも必要な量は確保できる。[島田、p47]
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■5.欧米人を驚かせた、かつての日本人の体力

 戦国時代に日本に上陸した最初のキリシタン宣教師フランシスコ・ザビエルは、日本人を観察して「彼らは時々魚を食膳に供し米や麦も食べるが少量である。ただし野菜や山菜は豊富だ。それでいてこの国の人達は不思議なほど達者であり、まれに高齢に達するものも多数いる」と書き残しています。

 明治初年に日本で動物学・生理学を教えたアメリカ人のエドワード・モースは、人力車の「車夫たちは長休みもしないで、三十哩(今でいうおよそ50km)を殆ど継続的に走った」と驚きを語っています。[アグリコ日記]

 これに比べれば、現代日本人は、かつてのご先祖様よりはるかに豊かな栄養をとっているのに、これほどの体力はありません。逆に国民病とも言われるスギ花粉症などに悩まされています。

 和歌山県の山村に住む医師の報告によれば、山林労働者は大量にスギ花粉を吸っているはずなのに、スギ花粉症の人はほとんどいないとの事です。原因を調べてみると、山林労働者の朝食は米飯が95%であるのに、スギ花粉症の人々は60%がパン食でした。そこでスギ花粉症の人々の朝食をパンから米飯に変えると、ほとんどの人の症状が楽になったそうです。

 この原因として、麦は米に比べるとほとんどが輸入のため収穫したあとに農薬をかける(ポストハーベスト農薬)ので残留農薬が多い、パンは米に比べ食品添加物が多い、などが考えられています。[山下、p210]


■6.「米を食べるとバカになる」

 現在の我が国の食糧自給率はカロリーベースで37%程度です。「身土不二」の3,4里をぐっと広くとって、日本人は日本列島で採れるものを食べるべきと解釈しても、63%の輸入食材はこれに適合しません。その一方で、昭和36(1961)年に609万ヘクタールあった国内の農地は、半世紀後の平成26(2014)年には、452ヘクタールと26%も減少しています。[東北農政局]

 すなわち、日本列島の豊かな農地の1/4も遊ばせておいて、食料の6割を海外から輸入している、という事態になっているのです。その主な原因は日本人の食生活がパンや肉などを中心とした欧米流の変わりつつあるからです。

 米飯食からパン食に変わったのは、それを促進した一大キャンペーンがあったからです。昭和30年代、日本は高度経済成長のためにアメリカへの工業製品輸出を増やす必要がありました。そのためには輸出入のバランスから、アメリカからの食料輸入を増やすことが求められました。食料輸入を増やせば、農村の労働力を大量に都市部に移して、工業化を促進することができます。

 アメリカとしても、農産物の対日輸出を増やすことは大歓迎です。こうして日本人の米飯食をやめさせ、パン食に切り替えることは、当時としては一石三鳥の政策だったのです。

 そこで日本人にパンを食べさせようというキャンペーンが大々的になされました。当時、大脳生理学の専門学者が米食を否定し、それをもとに製粉・製パン業界が「米を食べるとバカになる」というパンフレットを何十万部もばら撒きました。朝日新聞も昭和32年9月3日の『天声人語』で、こう述べています。

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胃拡張の腹一杯になるまで米ばかり食うので脚気や高血圧などで短命の者が多い。津軽地方にはシビガッチャキといって、めし粒を食ったコイや金魚のようにブヨブヨの皮層病になる奇病さえある。日本では米を主食というが、今の欧米人は畜産物が主食で穀物が副食物だ。
五十年前までアメリカの農民も穀物の方を多く摂ったが、今では肉、牛乳、卵などの畜産物を主食にするのが世界的な傾向だ。その点で日本は百年も遅れている。[山下、p70]
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 嘘っぱちの内容を、「上から目線」で自信たっぷりにお説教する姿勢は、「従軍慰安婦」虚報とそっくりですね。

 パン食推進の陰の仕掛け人であったと思われる米国の小麦協会の幹部は、こう発言したと伝えられています。

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「いまになって日本では『米を見直す』キャンペーンを始めていることは承知しています。しかし、すでに小麦は日本人、特に若い層の胃袋に確実に定着したものと私たちは理解しています。今後も消費はふえることはあっても減ることはないでしょう。私たちの関心はとっくに他のアジア諸国に移っています。
日本の経験で得た市場開拓のノウハウを生かして、この巨大な潜在市場に第二、第三の日本を作っていくのが今後の任務です。日本のケースは私たちに大きな確信をあたえてくれました。それは米食民族の食習慣を米から小麦に変えていくことは可能だということです。[山下、p72]
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■7.何百世代にもわたって追求してきた伝統的な食事

 目先の経済発展政策と、「日本は百年も遅れている」などという自虐マスコミによって、我々の食生活自体がねじ曲げられてしまったのです。こういう策略にまんまと載せられてしまうのは、根拠のない西洋崇拝によって、我々が先祖伝来の智慧を軽んじてきたからでしょう。

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 わが国民は、古来、飲む水、食う穀(こく)、木の芽も草の根も、すべて、ことごとく神である、という思想をもっていた。
 水は  美津波能売神(みつはのめのかみ)
 穀物は 大宣都比売神(おおげつひめのかみ)
 木は  久々能智神(くくのちのかみ)
 草は  鹿屋野比売神(かやのみめのかみ九
  などいろいろ
 われわれの遠き親たちにとって、いっさいは神であり、その神実(かみざね)を飲み、かつ食うことによって神々の機能を享(う)けつぎ、生命を作り、保つのであると信じていた。彼らにとっては、食うことは、すなわち神々の恩寵に浴し、神々の息吹きをうけ、神性に近づくことであると信じていた。[桜沢、398]
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 この自然観にしたがって、我々の先祖は縄文時代以来、1万数千年にわたって、日本列島の豊かな自然との「和」のもとで、我々の身体に最適な食事を追求してきました。島田博士は、こう結論づけています。

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「伝統的な食事は、それを満足するまで食べたときには栄養もちゃんととれている。適切な栄養の摂取ができたかどうかなど、いちいち考える必要がない。…中略… それはなぜかというと、伝統的な食事は、一つの民族が何世代もかけて、どうすれば適切な栄養の摂取ができるかを追求し到達した料理の体系に基づいているからだ。[島田、p205]
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 それでは、我々は、ねじ曲げられてしまった現代の食生活を、どうすれば正しい姿に戻せるのでしょうか? 2019年から始まった「国連 家族農業の10年」が重要なヒントを投げかけてくれます。次号でとりあげましょう。
                                       (文責 伊勢雅臣)


■リンク■

a. JOG(574) 和食で作ろう、健やかニッポン
 ビタミン、ミネラルの豊富な和食が、現代病を克服し、心身の健康を作る。
http://www2s.biglobe.ne.jp/~nippon/jogdb_h20/jog574.html

b. JOG(707) 農が引き出す自然の恵み
 農業はカネでは計れない価値を自然から引き出す。
http://blog.jog-net.jp/201107/article_3.html


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