2014年9月11日木曜日

オランダとベルギーの街並みと住宅3

おなじみの住宅生産性研究会(戸谷英世理事長)のメルマガから転載させて頂きます。
一部、省略しているところがあります。今回はライデン市です。
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MM560号(2014年5月19日)
みなさんこんにちは
「オランダとベルギーの街並みと住宅」の学習研究報告,第3回として高密度市街地で豊かな空間をつくている「日本となじみの深い街ライデン」を確かめた報告をお送りいたします。


スペインとの戦いで大学を得たライデン
ライデン市の中央の新旧ライン運河の合流点に城砦跡がありました。その城砦は12世紀に建設された城砦ですが、そこはライデン市にとってその存在をかけた土地として重要なところでした。1574年スペインとの戦いにライデンの市民がここに立てこもって戦いで、最後にはダムを決壊させせて、自らの生命を掛けてスペインを撃退しました。ライデン市民が非常に大きな犠牲を払ったことでスペインを敗北に追い込んだ記念の場所として、その後も長く大切にされてきました。この市民の献身的な戦いに国王が感服し、オランダ国王はライデン市民の勇敢な戦いに感謝の気持ちを表して、この地にライデン大学を建設したといわれています。

王の誕生日を祝うお祭りは、現在においてもこの城砦の中でもその周辺まで広く賑やかに行われていました。都市の景観はこの城塞のように具体的な記念物があることもあれば、何もないこともあります。しかし、かつてこの地にスペインとの戦いがあった事実こそ、人がタイムスリップできたらそこで見ることができる時間軸を戻した景色です。わたくしたちは過去にそこに存在していた歴史の風景が現代の風景の下絵になっていることを感じているのです。そのため都市計画は過去からの歴史文化を現在の市民が想像できる4次元で計画しなければいけないのです。

多様な建築物による相乗効果のある街並み景観
町全体が細い路地がくもの巣のように張り巡らされていて、そこに隣地境界線に接して大小さまざまなレンガ造の住宅が立ち並んでいます。その街並みの中に立派な建築が建っているので良くみると、それらの立派な建築物は、ライデン大学の法学部の建築でした。大学の校舎は、運河周囲の建築とは違って階高も高く、左右対称の権威のあるデザインで立っています。しかし、建築物の高さも3~4階程度で周囲の民家の建築と高さではさほど大きな違いはありません。そのため、街並みは大学の立派な建築物で引き立てられても、大学の建築物に威圧されて街並み景観が壊されることはありません。特に大学の建築物には小さな広場公園や緑地がついているため、そこの樹木や空間が街並みに生命力を与えているように思われました。

屋内を通りを歩く人に開放する生活
細街路網に沿って形成されたライデンの住宅地は、1階部分が店舗になっている兼用住宅もあれば、専用住宅でも1階部分にはパーラー(応接間)が配置されています。それらの一般の住宅は、通りを通る人に家の中を見せているのではないかと思わせるほど、道路に面した大きな嵌め殺し窓(ピクチャーウインドウ)になっていて、そこにはカーテンもつるされていなく屋内が丸見えで、開放的に屋内を見せています。そのため、街並みを散策していると、通りを歩いている人には、その町が歓迎してくれているように感じられます。オランダで25年も住んでいる娘の話いよると、窓を閉鎖的にしている人は、むしろ、隠し事のある人ということで嫌がられるということでした。

オランダ人は平気で家の中をのぞき込んで目が合うと、ハーイと声をかけてきます。特に他人の家を覗こうとするのではなく、お隣さんは元気かなといった程度の関心の持ち方のように思われます。「相手のことをわかっていることが、相手に配慮をすること」になるからです。米国のTND(伝統的近隣住区)の考え方やニューアーバニズムの考え方も基本的に共通するものと思いました。レンガの住宅にはそれぞれ住宅で生活している人と同じように個性があって、建物の形やレンガの色、レンガ目地の種類のほかに、窓辺に植えられた潅木や草花によってもそれぞれの個性を演出しています。生活の仕方も、住宅のデザインもお互いの違いを理解しあうところにオランダの生活のしやすさがあると思いました。

限られた空間を大きく使う方法:共有地(コモン)の利用 
住宅の種類は、最初から連続住宅として建築されたものもありますが、戸建住宅を隣地境界線に接して建築されたものもあります。いずれも隣戸間に隣棟空地はなく、土地は中庭を取り入れて100%利用しています。建物や塀で囲われた屋外空間は、屋内空間の連続したプライベートな空間になっているものもあれば、コモン(共有地)になっていて、そこに面して倉庫や車庫を設けるようなことも行われています。隣戸間の空地と思われるところは必ず通り抜けの通路ができていて都市内の近道になっているようでした。連続住宅として建設されたものは、総建設費として大きなお金が必要とされることからそのデザインや構造からも、近世以降の建築のように思われました。後でわかったことは、その多くは、国庫補助金を受けたり、家賃補助を受けて入居する最近の社会住宅であるとのことでした。この細街路網こそ地域のコミュニテイを支えているネットワークなのです。

高密度な土地利用をしながらゆとりのある空間の演出
わが国の市街地にびっしり造られているまったく利用価値のない建築間の隙間空地は、街並み景観を醜くし、犯罪を隠す役割や市街地火災の引き起こす原因にしかならないのに引き比べ、オランダの都市は、貴重な都市空間を余すところなく使い切っていることに驚かされます。コモン(共有地)として経営管理することは、かえって共有地の管理主体と管理内容を明確にすることでコモンはより適正な管理がなされているようです。それは都市空間での生活を「一人なみんなのために、みんなは一人のために」というコーポラティヴの考え方が都市生活に浸み込んでいるためではないかと思われます。

都市の土地は私的に所有されていても、都市空間は社会全体で使っているという認識です。都市の空間利用として街並み景観や人々の移動空間がその代表的なものです。オランダで駆使されている共有地(コモン)の利用技術は、米国の計画技術として日本から1955年にロックフェラーの支援で吉村順三がMOMAに建てた松風荘から発展したオープンプランニングの屋外版と基本的に同じ技法だと思います。米国では「三種の神器」で空間の経営管理をしていますが、オランダでは地縁的コミュニテイがその管理を行っているのです。

レンガ住宅の多様性
ほとんどの住宅はレンガ建築ですが、それらのレンガ建築にはレンガを構造材料として利用するものもあれば、化粧材料として利用するものもある上、建築時代の建築傾向なども反映してその種類は驚くほど多種多様です。レンガの種類もレンガの目地の種類も違うだけではなく、レンガをに使っているものもあれば、その上に漆喰を塗って構造材として使っているものも、ペンキで化粧しているものもあります。レンガ建築では煉瓦の種類や大きさだけではなく、目地やレンガの化粧の方法や、、開口部の配置と開口部周りのデコレーションや、軒まわりや窓高さや階高さの壁面のトリムが建物の高さ方向のプロポーションを表現し、重要なデザイン要素になっていました。

レンガという材料は、圧縮力しか負担できない組積材料であるため、鉄や木材のように引張りや髷に耐える力は非常に少ないため、総2階建てや総3階建てのように、壁は直立に作ることが原則です。その上開口部を造ることもレンガだけではアーチを使うなど困難を伴います。そこでその制約を乗り越えての工夫が多くのデザインを生んでいると思います。試行錯誤のメソポタミアからの4000年を超すレンガの建築が素晴らしいデザインを生んできたのだと思います。

町並み景観を作るためのファサードの作り方
すべての住宅は個性的であるだけに、特に各建築物ごとに屋根の形には個性があって、その街並みとしての全体は、スカイラインを見るといずれの建築もそこに個性を主張しながら、同時に隣戸を意識していることがわかります。共通していることは道路に沿ってファサードが作られていることです。そのため道路に面して玄関があり、または路地の入口があります。そして敷地の区画は必ずしも道路に直角ではなく斜めになっていることも普通にあります。結果的に、住宅の棟が道路に対し斜めになっている住宅もたくさんありました。

連続する住宅のファサードが住宅の棟に直角ではなく、道路境界線に平行に作られて「わが町」と意識の持てる町並み景観の担い手になっているのです。町並み景観のデザインは「多様性の統一」といった「試行錯誤の繰り返し」により、街並みとして調和するデザインを実現する努力が無意識に働いているように思われました、それが、時間軸を持ち込んだ街並み景観を市民自身が吟味することにより、高度な街並みデザイン調和を実現しているように思われました。

ライデンの町から学ぶこと:コモン(共有地)の計画と管理
フォンシーボルトは日本に蘭学を教えてくれました。そして日本の多くの文化をオランダに伝えてくれました。それは現代のライデンを歩いてみるとライデン大学を中心に日本の文化がこの地に伝えられていることを知ることができます。日本は地価が世界中で最も高い国の一つです。それであるにもかかわらず、大都市を歩いていると、土地が細切れに分割されているため、建築物と敷地境界線との間に、全く利用されていない空地がたくさん放置されています。それだけではなく、その隙間が都市環境を貧しくしています。今回の調査をして、改めてオランダ人の合理主義というか、徹底した無駄をしないという良い意味での「ケチ」が都市空間を狭くても豊かにつくっていることを教えてくれました。

日本人がオランダに来て、フォンシーボルトが日本から素晴らしい文化をオランダに持ち帰ったように、わたくしたちはこの土地の少ない国で、土地の有効で効率的な利用をすることで豊かな環境を実現している技術を学び、日本の街づくりに役立てなければいけないと考えます。それは、空間が絶対量として少ないわけですから、「使えないと考えられる土地を集合して、それをみんなでコモン(共有地)として使うこと」だということです。共有地は多くの関係者が時間をずらして使うことで、関係者が大きな空間として理輸できるということです。また、みんなが一緒に使わなければならないときには、コミュニテイが育つという側面もあります。ライデンの街並みを見学し、今度は街の裏側に回って、バックアレーやコモンとしてつくられたバックヤードに足を踏み込むとその空間の作り方と使い方がわかります。そこで住民との会話ができれば、そこでの空間の使い方と管理のルールを知ることができます。

次回はオランダが、世界で最も進んでいる社会住宅を実際に「ライデン」で訪問したお話をいたします。
(NPO法人住宅生産性研究会 理事長戸谷英世)


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