イチロウのバックキャスティングであり、
孫正義の「貧乏をなくしたい。家族も人々も幸福にしたい」という夢を叶えたのも
孫正義のバックキャスティングだと思います。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
2019.0315
オルタナ編集部 メルマガより
オルタナ総研所長・首席研究員 川村雅彦
サステナビリティ革命(その4)
~フォア・キャスティングか、それとも、バック・キャスティングか~
前回は、人類文明史上の「サステナビリティ革命」を認識するならば、企業経営においては2030年から2050年を見通した「自社のありたい姿」、つまり長期ビジョンないし長期目標を、自ら決めることが必要かつ必然であることを述べた。
その策定に当たっては、「フォア・キャスティング」と「バック・キャスティング」という考え方がある。併せて、「インサイド・アウト」と「アウトサイド・イン」の考え方も理解しておく必要がある。
■フォア・キャスティング(積上思考)か?バック・キャスティング(逆算思考)か?
フォア・キャスティング(FC)とバック・キャスティング(BC)については、前回の最後で簡単に説明したが、経営戦略上の目標設定に当たって、時間軸において「どこを起点とするか」という論点である。
フォア・キャスティング(FC)とバック・キャスティング(BC)については、前回の最後で簡単に説明したが、経営戦略上の目標設定に当たって、時間軸において「どこを起点とするか」という論点である。
FCとは現在を起点として、現時点で利用可能な諸資源を積み上げて、一定期間後に到達できる目標を立てることである(必達目標に近い)。高度成長期ならば、パイは時間とともに拡大し、外部環境の構造は中長期にわたり安定しているため、この「積上思考」でもそれほど問題はない。
このことから、FCでは既存のビジネスモデルは比較的小さな調整で済む。無意識ながら、今もなお多くの日本企業にはこの思考パターンが染みついているのではないか。
他方、BCとは将来のある時点を起点として、まず、その時点の経営環境(社会的課題を含む)を勘案して「ありたい姿=ビジョン・目標」を設定する。そして、その目標達成のために、そこから逆算して今後取り組むべき課題を明確にすることができる。
このBCは「逆算思考」に他ならないが、設定した目標は現時点の経営資源では達成が見通せないことも多い。しかし、そこにこそイノベーションが生まれる可能性がある。
■バック・キャスティングとフォア・キャスティングの併用
不確実と言われる現代にあっては、当然BCが望ましいということになるが、BCだけでは実践的な実施計画が作れないこともある。その場合には「中期目標」の設定が必要となる。
不確実と言われる現代にあっては、当然BCが望ましいということになるが、BCだけでは実践的な実施計画が作れないこともある。その場合には「中期目標」の設定が必要となる。
例えば、自社の生き残り戦略たる「2050年のありたい姿」として、長期目標をCO2排出ゼロと設定した場合、それに向かって今後何をすべきかが明確かつ具体的ならば、ロードマップ(工程表)を作成し、直ちに実行に移せば良い。
そうでない場合には、「中期目標」として2050年からのバック・キャスティングで、例えば「2030年のあるべき姿」を描くことになる。そして、現在から2030年までのロードマップの作成は、現在からのフォア・キャスティングが効果的である。そうすることで、現在と長期目標年がつながる(図参照)。
〔バック・キャスティングとフォア・キャスティングによる中長期目標の設定〕
■インサイド・アウト(企業基点)か?アウトサイド・イン(社会基点)か?
FCかBCかの論点と同時に、現在であれ、将来であれ、目標設定や戦略策定にあたり、外部の経営環境(社会的課題を含む)をどの視点から見るかという論点がある。
以前、本コラム「SDGsへのコミットメントとは何か(その2)」でも述べたが、要するに、「企業から社会を見るのか」それとも「社会から企業を見るのか」の違いである。
前者は「インサイド・アウト・アプローチ(企業基点)」と呼ばれ、企業内部の視点(過去の実績や既存のプロダクトやビジネスモデル)から外部環境として社会を見て判断することである。自社製品が顧客ニーズに合うかを考えるプロダクト・アウトの発想に近い。
このような発想では、将来の社会的課題を含む経営環境の構造的な変化に十分に対処することはできない。つまり、現在のビジネスモデルが将来も通用するかどうかは保証の限りではない。また、社内からのイノベーションも起きにくい。
これに対して、後者の「アウトサイド・イン・アプローチ(社会基点)」は、目標設定やビジネスモデルの検討にあたり、外部環境の構造的変化、特に解決すべき社会的課題は何かについて、企業外部の視点から「自社のありよう」を考えることである。これは、マーケット・インの発想に近い。
このアウトサイド・インは、自社の現在の到達度と将来求められる達成度のギャップを埋める作業でもある。なおSDGsは、地球社会のサステナビリティ実現のために、2030年までに達成したい目標群(優先課題とありたい姿)の国際合意である。
■不可欠な「アウトサイド・イン×バック・キャスティング」
前回も述べたように、中長期にわたり企業経営の基盤となる外部環境(社会的課題を含む)の構造的変化には、以下のような事項が想定される。
前回も述べたように、中長期にわたり企業経営の基盤となる外部環境(社会的課題を含む)の構造的変化には、以下のような事項が想定される。
すなわち、世界人口の増加の中で日本の少子高齢化、気候変動や生態系破壊など地球環境の劣化、パリ協定に基づく2023年から5年ごとのCO2削減目標の見直し、「脱」炭素経済の進展、さらにESG投資のメインストリーム化、あるいはAI、IoT、ロボティクス、再生医療などの画期的技術革新の進展などである。
このようなメガトレンドを背景に、グローバル・ローカルレベルで多様な社会的課題が顕在化する中で、それらを解決しうる近年の様々な分野のイノベーションにより、20世紀とは全く異なる21世紀型の新たな産業構造が形成されつつある。
それゆえ、これまでに成功した20世紀的なビジネスモデル、さらに産業・業種・業態の中には、それほど遠くない将来に衰退・消滅するところが出てくることは間違いない。
このように考えてくると、『サステナビリティ革命』を押し進め、社会と企業のサステナビリティの同時実現のためには、従来の「インサイド・アウト×フォア・キャスティング」から新たな「アウトサイド・イン×バック・キャスティング」の発想や思考が不可欠となる。いかがであろうか。
(完)
オルタナ総研所長・首席研究員 川村雅彦
前ニッセイ基礎研究所上席研究員・ESG研究室長。九州大学大学院工学研究科(修士課程:土木)修了後、三井海洋開発株式会社にて、中東・東南アジアにて海底石油関連のプロジェクト・マネジメントに従事。1988年にニッセイ基礎研究所入社。専門は環境経営、CSR経営、環境ビジネス、統合報告など。環境経営学会の副会長。著書は『カーボン・ディスクロージャー』『統合報告の新潮流』『CSR経営パーフェクトガイド』『統合思考とESG投資』など
0 件のコメント:
コメントを投稿