2014年12月7日日曜日

地方創生の問題提起

”田舎暮らし”のことを考えると必然的に「地方創生」に想いが及びます。そこで、政府がやろうとしている地方創生を知ろうと思い、ネットで「nippon.com」という日本財団の援助を受けているJETROの下部組織のブログを見つけました。

我々は、『”田舎暮らし”コミュニティづくり』で、地方創生の受け皿を創ろうと実行に入っています。 

「nippon.com」の2014.10.24下記ブログよりコピーさせて頂きました。
http://www.nippon.com/ja/behind/l00072/

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「地方創生」目指す安倍内閣
—地方の人口減少を克服できるかー


 政府は「地方創生」をスローガンに、地方の活性化と人口減対策のための総合戦略策定に乗り出した。若者にとって魅力ある町づくり、ひとづくり、仕事づくりを推進する。地方から東京圏への一極集中が続く中で、地方が成長する活力を取り戻し、人口減少を食い止めるのが狙いだ。

止まらない東京圏への人口流入

「地域が元気になれば、日本が元気になる」――。歴代政権はこうした掛け声で、地域活性化のための諸施策に知恵を絞ってきた。しかし、東京、名古 屋、大阪などの大都市圏と過疎化や高齢化に直面する地方との格差はなかなか縮まらない。とりわけヒト、モノ、カネが集中する東京首都圏には、日本が人口減 少社会に入った現在でも若者を中心に人口流入が続いている。
第2次安倍内閣発足後、安倍晋三首相が繰り返してきたのは「景気回復を全国津々浦々で実感できるようにする」ことである。しかし、経済再生を表看板に掲げ、デフレ経済からの脱却を目指す安倍政権は、必ずしも地方の問題に大きなウエートを置いてこなかった。

人口減による「消滅可能性都市」の公表

ところが、2014年5月、民間研究機関の「日本創生会議・人口減少問題検討分科会」(座長・増田寛也元総務相)が公表した、今後の人口減少予測を 基に消滅可能性のある自治体をリストアップした報告書が大きな反響を呼んだ。20歳~39歳の若年女性の人口をその地域の将来を決定づける指標と捉え、将 来推計を自治体別に試算したものだった。
「消滅可能性都市」の候補に挙げられた自治体からは異論や反論もあったが、危機意識は共有され、安倍内閣に軌道修正を迫る形となった。特に、来春に は統一地方選を控えた時期でもあり、霞が関や永田町が地方の人口問題への認識を変えるきっかけになった。政府はこうした認識の基で、「地方創生」を新たな キーワードに、中長期的な観点から総合的な地域対策の検討に着手した。

「地方創生国会」で本格論議

安倍首相は2014年9月29日、臨時国会開会の冒頭、この国会を「地方創生国会」と位置づけた。この中で、首相は地方が直面する人口減少や超高齢 化など構造的な課題に危機感を表明し、「若者が将来に夢や希望を持てる地方の創生に向けて、力強いスタートを切る」と力説した。基本的な目標は「地方が成 長する活力を取り戻し、人口減少を克服する」ことだ。
安倍内閣はそのための態勢づくりとして、前自民党幹事長の石破茂氏を新設ポストの地方創生担当相に任命し、内閣府に地方政策を担う「まち・ひと・し ごと創生本部」を創設した。石破担当相の下には各省の出向者を含め約70人を配置。この新設組織で、地方への新しいひとの流れをつくり、地方での仕事創出 や若い世代の結婚・出産・子育ての希望を実現できるような環境づくりに取り組む。

年内にも総合戦略を策定

政府は臨時国会に地方創生の関連法案として、①人口減対策の基本理念を定めた「まち・ひと・しごと創生法案」、②自治体支援の窓口を一本化する「地 域再生法改正案」の2本を提出し、審議を本格化させる。さらにアベノミクスの成果を地方に浸透させるため、1兆円超の予算措置を検討している。
ただ、地方創生に向けた課題には、多様な論点があり、一筋縄ではいかない。具体策や各論の議論はこれからだが、まち・ひと・しごと創生本部は早けれ ば年内にも長期ビジョンとともに、2015年度から5年間の総合戦略策定を目指す。政府は歴代政権の失敗を踏まえ、国主導のバラマキ政策ではなく、地方の 自主性を尊重する姿勢を強調している。

成果乏しい歴代政権の地方対策

歴代政権が取り組んだ地方活性化策はどのようなものだったか。主な施策を振り返ると――。
竹下登内閣(1988-89年)では「ふるさと創生事業」を打ち出し、全国の市区町村に対し資金1億円を交付した。使途は自由で、各自治体が創意工 夫してこの1億円を地域振興やまちづくりに活かそうというものだった。そのユニークな資金の使い方がニュースや話題になったが、政府によるその後の経済効 果測定はされていない。
小渕恵三内閣(1999年)では、15歳以下の子どもがいる家族と65歳以上の高齢者らに対し、2万円分の「地域振興券」を交付し、消費を刺激しよ うとした。しかし、配布対象を子供とお年寄りに限定したため、家計支出には目立った変化はなく、地域振興券発行が景気回復に結びついたとの評価は少ない。
第1次安倍内閣(2007年)では「頑張る地方応援プログラム」に取り組んだ。少子化対策や定住促進、若者の自立支援など地域活性化に意欲的な自治 体に地方交付税の一部を重点配分した。さらに民主党政権下の菅直人内閣(2011年)では、「地域自主戦略交付金」として、国が使途を特定する補助金の一 部を自治体が自由に使い方を決められる一括交付金に切り替えた。

政権の真価問われる「地方創生」

いずれの政策も地域活性化や少子化対策で十分な効果を上げたとは言えない。翻って、第2次安倍内閣は「地方創生」を旗印に、「従来の取り組みの延長 線上にはない次元の異なる大胆な政策を、中長期的な観点から、確かな結果が出るまで実行していく」(まち・ひと・しごと創生本部)と宣言した。
しかし、過疎化や人口減少に悩む地方が直面する構造的な問題の解決は容易ではない。これらの具体策は今後、国や自治体が一丸となり検討する。例え ば、①人口急減・超高齢化への対応、②若い世代の就業・結婚・子育て支援、③東京圏への人口の過度の集中是正、④地域特性に即した地域課題の解決などだ が、いずれも1~2年では成果の出ない難問ばかりだ。
とはいえ、日本が直面する人口減・超高齢化のスピードは諸外国と比べても際立って速い。10~20年をかけるほど悠長な話ではない。政府が一連の地 方活性化策の総合戦略とその政策の具体化にどこまで踏み出せるか。女性閣僚の辞任劇で揺れる安倍内閣は「地方創生」でも政権の実行力と信頼度が問われる。
カバー写真=地方の商店街の代名詞・シャッター通り(提供・時事)
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地方創生の「長期ビジョン」および「総合戦略」要約 

”田舎暮らし”のことを考えると必然的に「地方創生」に想いが及びます。そこで、政府がやろうとしている地方創生を知ろうと思い、ネットで「nippon.com」という日本財団の援助を受けているJETROの下部組織のブログを見つけました。

下記コピーは、『「地方創生」目指す安倍内閣——地方の人口減少を克服できるか』(2014.10.14)の中からです。 要点が判り易いです。

支援策がたくさん書かれていますが、問題は受け皿です。
我々は、『”田舎暮らし”コミュニティづくり』で受け皿を創ろうと実行に入っています。

新たな情報がございましたら、編集者(安江)の下記メールアドレスまでご一報頂けると幸いです。
takasuke@mitsuyakogyo.co.jp


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「長期ビジョン」および「総合戦略」に関する論点

まち・ひと・しごと創生本部が2014年9月に作成した「長期ビジョン」と「総合戦略」に関する論点の主なポイント(抜粋)。
「長期ビジョン」の趣旨
50年後に1億人程度の人口維持をめざし、日本の人口動向を分析し、将来展望を示す

<論点>

Ⅰ 人口の現状と将来展望
1、日本は2008年をピークに人口減少時代へ突入し、今後一貫して人口が減少し続けると推計されている。地域によって状況が異なり、地方では本格的な人口減少に直面している市町村が多い。
2、人口減少により、経済規模の縮小や国民生活の水準が低下する恐れがある。
3、 地方から東京圏への人口流入(東京一極集中)は続いており、特に若い世代が東京圏に流入している。
4、出生率の改善が早期であるほど、人口減少に歯止めをかける効果は大きい。

Ⅱ 目指すべき将来方向と今後の基本戦略
1、目指すべき「将来方向」…将来にわたり活力ある日本社会を維持することが基本方向。国民の地方移住や結婚・出産・子育てといった希望を実現する。
2、中長期的な政策目標…①若い世代の就労・結婚・子育ての希望実現、②東京圏への人口の過度の集中是正、③地域の特性に即した地域課題の解決
3、これらの問題への対応姿勢…▽国民的論議を喚起し、人口減少は国家の根本にかかわる問題であるとの基本認識を共有し、中長期的な目標を掲げ継続的に取り組む ▽地方の発意と自主的な取り組みを基本に、国がそれを支援していく。
「総合戦略」の趣旨
長期ビジョンを基に、今後5カ年の政府の施策の方向性を提示する

<論点>

Ⅰ 取り組みの基本姿勢
▽中長期を含めた政策目標を設定し、効果検証を厳格に実施 ▽「縦割り」を排除し、ワンストップ型の政策を展開 ▽地方の自主的な取り組みを基本とし、国はこれを支援

Ⅱ 政策分野ごとの取り組みの例
1、地方への新しい人の流れを作る…▽地方移住希望者の支援 ▽企業等の地方移転・地方債用・遠隔勤務 ▽地方大学等の活性化
2、地方に仕事をつくり、安心して働けるようにする…▽地域産業基盤の強化(人材、雇用事業基盤等) ▽個別産業の基盤強化(サービス業、製造業、農林漁業、観光、医療福祉等)
3、若い世代の結婚・出産・子育ての希望をかなえる…▽多子世帯・三世代同居の支援▽育児拡充など「働き方」の改革 ▽企業・業界の取り組み支援
4、時代に合った地域をつくり、安心な暮らしを守る…▽中山間地域等の地域の絆の中で、小さな拠点の生活サービス支援 ▽地方中枢拠点都市および近 隣市町村、定住自立圏における地域インフラ・サービスの集約・活性化 ▽大都市圏における高齢者医療・介護対策、国土形成計画の見直し
5、地域と地域の連携…地方中枢拠点都市および近隣市町村、定住自立圏における「地域連携」の推進

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2014年12月6日土曜日

日本版スローシティ [著]久繁哲之介

地方創生の”まちづくり”にピッタリの考え方だと思います。
スローフードの運動を生み出したイタリアが新たなスロームーブメントを起こした。
BOOKasahi.com に掲載されていた表題の本の書評をコピー・掲載させて頂きました。

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[評者]広井良典(千葉大学教授)  [掲載]2008年06月22日   [ジャンル]人文 
表紙画像 著者:久繁哲之介  出版社:学陽書房 価格:¥ 2,700
ひさしげ・てつのすけ 民間都市開発推進機構都市研究センター研究員。  

■人と人がつながる都市の構築を探る

 日本を訪れた外国人に対するアンケートで、「日本に来て 不便に感じたこと」の1位が「街にベンチが少ないこと」だったのを以前見たことがある。確かに日本の都市、特に大都市は、いかにも“生産者中心”にできて いて「ファスト」そのものだ。加えて個々の建物が、周囲の環境を顧慮することなくばらばらに作られ互いに“孤立”している点を合わせると、日本の都市は 「ファスト&クローズド(速く、かつ閉じている)」と言わざるをえない。

 こうした現在の日本の都市のあり方とは異なる“もう一つの道”を、「ス ローシティ」という概念を基本にすえて追求しているのが本書である。スローシティとは、イタリアの四つの小都市が「スローフードの精神をまちづくりに適用 しよう」という理念のもと、1999年に始めた都市の姿だ。著者は、こうしたスローシティの考え方を、人々のライフスタイルや消費構造などを含めた視点か ら吟味し、また「サードプレイス」(自宅と職場以外の、都市の中での居場所)の概念を併せて重視しながら、日本におけるスローシティ実現の可能性を様々な 事例の分析を通じて議論している。

 たとえば、(1)中心市街地再生に関するコンパクトシティ論で有名な富山市と青森市を対比的に分析したり、 (2)いくつかの地方都市における経済の地域内循環を検証し地域再生のための戦略を吟味したりするなど、「スロー」のための方策と同時に地域経済の活性化 などを総合的に検討している点が興味深い。そして著者の議論は「コミュニティ」に収斂(しゅうれん)し、「開放型コミュニティ」の構築こそがスローシティ 実現のための必須条件であるとのメッセージに至る。

 持続可能な都市、創造都市など都市論は新たな賑(にぎ)わいを見せているが、スローシティは 高齢者なども過ごしやすい“福祉都市”ともいえる。日本において重要なのは、スローという方向とならび、挨拶(あいさつ)などを含めた人と人との「関係 性」の再構築にあるだろう。それが著者のいう「開放型コミュニティ」と重なっているように思われる。

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2014年12月2日火曜日

「スローシティー」~小都市の連携が生み出す、住民主体のまちづくり


”まちづくり”の世界的ムーブメントの一つになっているスローシティについて、日経Bizアカデミーの ブログに、良い記事を見つけましたので、転載させて頂きました。

著者は、新語ウォッチャーのもり・ひろし氏。

1968年、鳥取県出身。電気通信大学を卒業後、CSK総合研究所で商品企画などを担当。1998年からフリーライターに。現在は新 語・流行語を専門とした執筆活動を展開中。辞書サイト・新聞・メルマガなどで、新語を紹介する記事を執筆している。NPO法人ユナイテッド・フィー チャー・プレス(ufp)理事。
  
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「スローシティー」~小都市の連携が生み出す、

住民主体のまちづくり

2009.08.21

20世紀は、世界各地でグローバリズムを背景にした都市の肥大化や画一化が進んだ。そこで近年、これを見直す「まちづくり」が 盛んになった。約10年前にイタリアで誕生したスローシティー運動(伊語でCittaslow, チッタズロー)もそのひとつ。地域性や持続可能性を重視して、住民が主体的にまちづくりにかかわろうとする運動だ。日本も近年、まちづくり行政の理念を縮 小均衡にシフトしている。したがってこの運動から学べる教訓も多いものと思われる。

 グローバル化や都市化を背景とする地方都市の衰退は、世界各国で共通する現象といえる。かつてはイタリアもこの問題に直面していた。1960年代 のイタリアでは、冷害や輸入農作物の影響で、農業が大きなダメージを受けた。そこで、職を失った農業従事者が都市に移住。地方都市の過疎化が進行した。
 ところが20世紀末のイタリアでは、逆に地方都市を見直す機運が高まった。具体的には、都市生活者や外国人による地方移住が盛んになったのだ。こ れには様々な要因がある。まず第1に地域社会に根ざした協同組合が大きな力を持っており、これが地方都市での雇用を下支えしたこと。また第2には中小企業 の連携的組織が、地方都市の産業力や情報発信力を高めていたことがある。

 この動きにうまく合致したのが、かの有名なスローフード運動だった。運動が生まれたのは1986年。創始者はイタリア北西部にある小都市ブラ (Bra)でジャーナリストとして活動していたカルロ・ペトリーニ(Carlo Petrini)氏。運動のきっかけは、マクドナルドによるスペイン広場(ローマ)への出店計画に抗議するキャンペーンだった。同運動ではファストフード を「グローバル化を象徴する存在」「地域の食文化を脅かす存在」として捉え、そのアンチテーゼとしてスローフードという造語を生み出した。この運動が地域 文化の見直しという大きな流れを作った。

 そしてスローフードに始まるスロームーブメントは、食以外の分野にも拡大していくことになる。つまり「地域文化に根ざした多様 で自律的な社会」を模索する運動について、スローの語が冠されるようになったのだ。日本で独自に定着したスローライフ概念も、この一種と捉えることもでき る。

 その意味でスローシティーは、まちづくり版のスロームーブメントだと言える。母体となったのは、ほかならぬスローフード運動だ。1998年にイタ リア中部の小都市オルビエト(Orvieto)でスローフード運動が年次総会を開催。そこに集まったオルビエト、ブラ、グレーベ・イン・キャンティ (Greve in Chianti)、ポジターノ(Positano)の各首長が意気投合したところから、組織的な運動が始まった。運動の中心となったのは、当時オルビエト の首長だったステファノ・チミッキ氏(Stefano Cimicchi)である。

 スローシティーの概念をひと言で説明するなら「住民にとって住み心地のよい小都市づくり」となる。地域における独自文化や伝統産業、さらには持続 可能性などを重視したうえで、住民が主体的に都市や産業の「舵取り」にかかわれる環境をつくる。その軸足になるのが、住民自身が考える「生活の質や楽し さ」だ。スローシティーは、住民の感性を重視した、ボトムアップ型のまちづくりとも言える。

 同運動の実体は、世界各国の小都市をネットワーク化した協会組織である。参加資格は人口5万人以下の都市であること、州の首都でないこと、スロー フードの加盟都市であることなどだ。またこのほかに大項目で6個(小項目で55個)ある指標についての評価も実施。これらをまとめたレポートで一定以上の スコアを満たすことが認証の条件となる。なおこの認証は3年毎に見直す。

 スローシティーに求められる55の指標とは次のようなものだ。まず必須項目として環境政策(代替エネルギーへの助成など)、社会資本政策(緑地整 備など)、生活の質(歴史的美観の保持など)といった指標が並ぶ。また推奨項目として地元生産物の活用(食育プランなど)、ホスピタリティー(多言語によ る標識の整備など)、住民意識の向上(啓蒙プログラムの実施など)といった指標も並んでいる。

 協会に参加する都市は、2008年10月時点で16カ国・100都市以上にのぼる。欧州の都市が多く、本家イタリアのほか、ドイツやイギリスなど にある小都市も参加している。また欧州以外にもオーストラリアや韓国の小都市も参加している。世界遺産である海岸や映画『アマルフィ~女神の報復~』など で知られるイタリアの小都市アマルフィ(Amalfi)も、スローシティーのひとつだ。

 では協会への参加によって、各都市ではどのような変化が生じたのだろう。例えば設立時の参加都市のひとつグレーベ・イン・キャ ンティでは、まず協会設立前の1980年代に外部からの移住が盛んになった。そこで税収が少ない同都市では「都市の規模を拡大せずに生活の質を高める」と いう政策を選択。その政策に合致したことからスローシティーに参加することになった。協会への参加後は、スローシティー憲章に基づくまちづくりを実践。住 民の意見を聞きながらゴミ収集のルール化、歩行者道路の整備、騒音防止対策、町並みの修復などの事業を行ったという。これは不動産価値の向上にも繋がっ た。

 これら一連の活動で注目すべきなのは、ネットワーク化した組織が相乗効果をもたらしている点だろう。スローフードもスローシティーも、互いに異な る文化を持った都市の対等な連携が活動の軸となっている。これにより大組織としての強い情報発信力と、各都市の強い個性とが共存可能になった。このことか ら画一化にも標準化にも頼らない「もうひとつのグローバル化」の可能性も感じさせる。

 さてスローシティーに似たトレンドは、日本にも存在する。そもそも日本の都市行政が近年では「均衡ある発展」から「縮小均衡的なコンパクトシ ティーの実現」に移行している。まちづくり三法(都市計画法、大店立地法、中心市街地活性化法)の2006年改正(一部指針改定)でも、歩ける範囲を生活 圏とする小都市の整備を志向している。都市の無秩序な拡大(スプロール現象)を防ぐ観点では、スローシティーとも共通する部分がある。

 一方、日本版スローシティーを提案する動きもある。都市問題の研究者、久繁哲之介氏は書著『日本版スローシティ』(学陽書房、1998年4月)な どでこれを提唱。対象都市の人口を5万人以下に制限しないこと、食文化に限らず独自文化を持つあらゆる都市を対象にすること……などの条件を掲げ、それら の振興可能性を論じている。同氏が提唱するスローシティーの条件にはヒューマニズム、スローフード、市民の主体的な関与、交流、持続性といった項目が含ま れる。この定義に従うと、地方都市のみならず都市に内在する過疎地区なども、議論の対象に含めることができる。

 世界のまちづくり手法を概観すると、そのトレンドが「似た方向に」変化していることが分かる。具体的には住民主体、縮小均衡、文化の尊重、差異を 内包できるネットワーク、持続可能性といった方向性だ。このうち日本のまちづくりで圧倒的に足りないと思われるのは、住民主体やネットワーク化などの観点 だと思われる。地方自治における財源や権限の問題のみならず、地域の精神的自立もこれまで以上に求められる時代であるようだ。


原文は下記URLです。

http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20090821/175702/


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