2012年11月11日日曜日

今後の日中関係について(その1)!

 ”まちづくり”には直接関係ない内容ですが,感銘を受けた「日中関係論」を頂きましたので披露させて頂きます。
 このNPOには,国あっての地域・まちという考え方が基本にあります。

 この著者は,(株)アクアビジネスコンサルティングの代表取締役高田勝巳氏です。
 我々の理事長斎藤兵治が,「鹿教湯温泉振興計画」を練るに当り,講師としてお招きしたのが縁でした。
 氏は,中国と日本の大学で勉強した後,’93より三菱東京UFJ上海支店を立ち上げ,98 に退社以来,上海を拠点に20年以上,日中の架け橋になろうとして経営コンサルタントの事業を続けておられます。

 このホームページ詳細が掲載されています。尚,「高田勝巳のブログ」もリンクされています。尖閣問題へも言及しています。

 私は,このようなまさに中庸を得ていると思える説得力のある日中関係論を初めて読ませて頂きました。深い感動を覚えました。是非広く皆さんにお伝えしたいと思い,ご許可を頂いたので,このブログに掲載致します。 

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 2012年10月4日 

お客様各位、そして これまでお世話になりました皆さまへ 

今後の日中関係についてのレポート送付の件 
株式会社アクアビジネスコンサルティング 代表取締役社長 高田勝巳 

 平素は大変お世話になっております。最近の尖閣問題を取り巻く状況を見ておりますと、日中国交回復40年、残念ながら、まだまだ日中の相互理解はこの程度であると改めて認識し直しております。
 皆さま方におかれましても、ご自身のビジネスの行方にも直接的、間接的に影響を及ぼす問題と思いますので、日頃メディアなどを通じ情報収集されておられることと思います。
 私も、メディアを通じ様々な専門家、ジャーナリスト、政治家たちの意見を見ておりますが、どうも、専門家たちが唱える、国際法とか、軍事のバランスとか、外交手腕からの視点からだけでは、どうしても釈然としない部分が残ってしまう感触をもっております。

 私として色々と思いを巡らせました結果、この問題を本質的に解決し、発展的な両国関係に昇華させるには、まず、歴史認識を始めとした、両国民の日中関係に対する心持を整える必要があるのではないかという結論に達しました。そして、両国政府とも、そうした点を踏まえて今後の国家戦略と外交方針を定めていかなければならないと考えております。 

 以下、これまでセミナーなどでお話させて参りました内容を加筆修正して、日中両国が如何に心持を整えるかというポイントについて整理してみました。今後皆さま方が、日中関係、そして対中ビジネスをお考えになる上での参考になればと考え、弊社のお客様とこれまでお世話になった皆さまに送付させて頂く次第です。 
 又、私一人の考えで、思慮の足りないところ、独りよがりのところもあるかもしれませんので、できましたら、できるだけ多くの皆さまからのご意見をたまわることができればと考えております。この点も、併せてお願いたします。 
 尚、私が本稿を執筆させて頂くに当たり、領土問題の歴的経緯、外交、国際法分野において参考にさせていただいた文献は、孫崎享「日本の国境問題」と保坂正康、東郷和彦「日本の領土問題」です。とても参考になる本ですので、興味ある方は、是非お読み頂ければと思います。 


今後の日中関係について 

(歴史問題、領土問題を乗り越えて、日本人と中国人が心持を整えて歩むべきか) 

 私と中国との縁は、1981 年に大学で中国語を専攻したことから始まりました。1984 年から86 年までの中国留学を経て、中国人の女性と結婚し、3 人の子供も授かりました。1993 年からは日本の銀行の派遣で上海に駐在し、上海支店の開設に汗を流しました。1998 年に銀行を辞職して、上海に骨をうずめる決意をし、本日まで14 年余り上海在住のコンサルタントとして、多くの日系企業と中国企業のビジネスのサポートをしてまいりました。 

 日本と中国が相互理解を深め、良好な関係を維持するということは、私のビジネスの利益にも直接結びつきますし、又、何といっても、日中両国の両親を持つ子供たちの為にも良好な日中関係を築く為の一助になりたいという気持ちが、私の行動を支える動機の原点であると考えております。
 そして、何時からか、私は、ビジネスを通して日本と中国が良好な関係を維持するように働きかけることが、私のライフワークであると考えるようになりました。従いまして、如何に日本と中国の良好は関係を維持、発展させ、両国民の幸せに寄与するかということが、この意見を述べる上での、私の基本的な立場であると考えております。 

 それでは、以下、いくつかの論点について、私の意見を述べさせていただきます。 

1.日清戦争による日中の立場の逆転現象と現在の両国の立ち位置 

(1)日本の劣等感が優越感に、中国の優越感が屈辱感に。 
 今回の尖閣問題を考える上で、現在につながる日本人と中国人の心持を考えるには、取りあえず日清戦争まで遡る必要があると思います。それは、日清戦争によって、日中の立場と両国民の心持の逆転が起きたのではないかと考えるからです。
 私は、日清戦争における日本の戦勝により、それまでの日本人の中国に対する尊敬と劣等感が、軽蔑と優越感に変わり、反対に中国人にとっては、それまでの優越感が、劣等感とか、してやられたという屈辱感に変化したのではないかと考えるからです。
 又、この点は、中国にとっても尖閣問題を考える上での大事なポイントになっているのだと思います。日本側がどのように説明しても、中国にとっては、屈辱の始まりとほぼ同じ時期に、日本が領土として宣言した島であるからです。

(2)最近の中国の台頭で先の逆転が、再逆転の危機に。焦る日本と勢いづく中国。 
 ところが、90年代初頭からのバブル経済の破たんで、日本の経済が長い間低迷するなかで、最近の中国の経済、軍事的な台頭により、日清戦争による日中両国の立場と心持の逆転の再逆転がみられようとしているのではないでしょうか。
 従って、日本人にとっては、穏やかではない精神状態、中国にとっては、さーこれからは俺らの時代だという高揚感におかれております。 
 又は、日本人にとっては、靖国問題に対する中国の過剰とも思える反応や反日デモ、更には、これまで首相や天皇までもが謝罪しているにも拘わらず、日本人は過去の戦争を反省していないと謝罪を求める中国に対する反感も相まって、日本人として、どのように心持を整えればいいのか、その落とし所がなかなか見つからないところなのではないでしょうか。
 私にとっても、日頃の業務のなかで日本と中国の懸け橋として力を尽くしながら、日中双方の誤解を防ぐための情報提供を双方向に対してしてまいりましたので、中国のデモ隊が日本の国旗を焼いたり、日系企業の工場が焼かれたりする風景を見るのは、感情的な怒りを感じるとともに、自分がこれまでしてきた仕事が全否定されるような虚しさも感じております。 

 一方、中国にとっては、GDPで日本を超え、更には、中長期的な趨勢としては、今後米国と肩を並べる超大国になると世界から期待と警戒を示される立場にあります。日本との関係でいえば、これまで中国の発展に寄与した対中経済支援もほぼ終了し、より対等な関係として言いたいことを言える状況になったともいえます。同時に、国内問題に目を向ければ共産党員の腐敗、貧富の格差、少数民族問題など、不安定要因も多い状態にあります。 

2.中国にとって「過去を反省していない日本」と「積年の怨み」

 又、日本に対しては、日本は敗戦国として、過去の軍国主義からの決別を誓い再出発を誓い、中国との国交も回復したはずなのに(周恩来:「日本人民と中国人民はともに日本の軍国主義の被害者である」)、政治家の発言や靖国参拝を通して、日本人は、過去を反省していないのではと感じ、不信感が強く残っていると思われます。
 今回の尖閣国有化の問題も、中国側は、国交回復時に両国首脳が約束したと言われる「棚上げ」を日本側が一方的に破棄したととらえているようですが、日本が過去を反省していないということと「棚上げ」の破棄は、中国側にとっては、表裏一体ととらえているものと考えられます。 
 日本では、国内問題への目をそらせるために反日教育をしているのとの意見が根強いですが、確かに、そうした一面もあるなかで、日清戦争で受けた屈辱、その後の満州事変から日中戦争で受けた屈辱を忘れない、更にはそれを晴らそうとする民族感情が並立しているような状況でないかと、私は考えております。

 ちなみに、日本人にとっては、先の戦争では、米国に負けたという意識はあっても、中国に負けたという意識がない人が多いのではないかと感じていますが、皆さまご自身はいかがでしょうか。そのような気持ちは相手にも伝わるもので、この点も中国にとって、より反日的な気分を盛り上げていると思います。
 要するに中国は、日本に負けを認めさせたい、そのような意識があるように、私は感じています。すべての中国人とはいえませんが、中国人の民族感情のなかに、いつかは日本をぎゃふんと言わせてやりたいという気持ちがあっても不思議ではないと、私は考えております。
 この点について、私の感触ばかりで話を進めても仕方ないので、日本に留学した経験があり、現在は日系企業の幹部として働く中国人の友人に聞きましたところ、以下の回答がありました。
 「過去の恨みを晴らすとかそのような考えは、多くの中国人は持っていないと思いますが、一部日本に対してそのような感情を強く持っている中国人がいても不思議ではないでしょう。軍部の急進的な人の中にもそのような人もいるかもしれない。」とのことでした。(今後、私のこの文書を中国語に訳して複数の中国人の友人にも見てもらう予定ですので、彼らの意見は別途ご報告いたします。) 

 考えますに、中国人に限らず、人は、過去において他人に傷つけられた記憶はなかなか消えないものだと思います。当然復讐したいという本能も持ち合わせています。ただ人は同時に、復讐は誰の為にもならない、仕返しすればそれは必ず自分に返ってくる、人を怨んではならない、人を赦さなければならないという、仏心のような本能も同時に持っているのではないでしょうか。
 ですから、多くの場合、我々はそうした二つの本能の葛藤の中にいるのではないかと思います。ですから、多くの中国人も、過去において自己の親族又は民族が傷つけられた記憶を持ちながらも、多くの人はそれが復讐とか恨みに転嫁するのはよくないと自分の気持ちを抑えながら、日中国交回復後の日中関係を見守ってきたのではないでしょうか。
 ですから、日本のメディアが言っているように「反日的保守派」と「親日的グループ」もあるのかもしれませんが、一人の人間単位で見た場合でも、「反日」と「親日」に揺れ動く気持ちが中国人の中にあるのではないかと考えております。 

3.日中国交正常化時における中国人の心持

 1972年の日中国交正常化の時、中国は文化大革命(1966年から1976年)という政治、経済の大混乱時期にありました。一方、日本は、高度成長の真っ只中で、中国にしてみれば、戦勝国の中国が経済的に困窮しているときに、敗戦国の日本が奇跡的な経済的成長を遂げている、どれだけまぶしく見えたことでしょうか。
 当時、両国の目先の懸案事項としては、中国は日本の経済援助を必要とし、日本は中国からの賠償の放棄を必要としていたなかで、中国においては、過去において日本に傷つけられた民族感情が障害となっていたようです。

 ここで、周恩来の「日本人民と中国人民はともに日本の軍国主義の被害者である。」発言が出てくるわけですが、この発言は、ある意味現在にも通じる周恩来の智慧の結晶であると思います。 
 これには、そもそも過去において戦争を戦った両国が、短期間において、歴史認識で共感を得ることはほぼ不可能、できたとしても何代か何十代か先の話という半ばあきらめに似た気持ちがあったのではないかと思います。
 厳密にいって、日本人を軍国主義者とそれ以外にはっきり分けられるはずがありませんし、できたとしても程度の問題ではないでしょうか。中国にとっても、中国共産党が、抗日戦争に勝った事が、共産党一党独裁制の正統性の根拠の一つになっているわけですから、この議論おいそれと納めるわけにもいきません。 

 従って、周恩来が言いたかったのは、日本人と中国人が、正面から歴史論争をした場合、相当混乱し、お互いの気持ちを更に逆なですることにもあるでしょうから、今はそんなことはせずに、過去の戦争の罪を取りあえず軍国主義者になすりつけることにより、この問題を棚上げにしようという事なのではないでしょうか。
 この意味では、鄧小平の「尖閣問題棚上げ論」も、この周恩来の智慧の延長線上にあるのだと思います。中国にとっては、今つき合っている日本人は軍国主義者でなく善良な日本人であるという説明がつきますし、日本人にとっても、自分は軍国主義者であると見られない限り、善良且つ、友好的な日本人であることを便宜的に示す事ができ、中国と普通につきあう事ができたのだと思います。 

4.本音と棚上げ論(「言うべきことを言わない」、のではなく「言う場をわきまえる」) 

 こうした考えに対し、中国は、経済援助を得るために、本心を仕舞い込んで黙っていただけではないか、ずるいではないかとか、なぜ、中国にそんなに遠慮して本音を、そして言うべきことを言わないのか、永遠に棚上げと言うのは無理で、いつかは本音で語り合わなければならないのではないかとの意見もあるかと思います。これに対する、私の考えは以下の通りです。 

 まず、中国が経済援助を得るためにというポイントですが、これは中国にとっても国交正常化の目的は、日本から経済と技術の支援を受け中国経済を立て直すことにありますので、「経済援助を得るために」という部分は正しいですが、「本心を仕舞い込んで黙っていた」というわけではないと思います。
 周恩来の発言も、中国国内ばかりでなく日本側に対して釘をさしていたということともいえますし、鄧小平の「尖閣問題棚上げ論」も明確に自己の権利は留保する形での発言になっています。(この点に関しては、日本政府は、中国に対しては棚上げを約束しておいて、日本国内には自国に都合のよい説明しかしていないのではないかと、疑っています。)
 色々言いたいこともあるだろうけど、今は自国の経済が疲弊しているので、じっと我慢しようという態度ともいえますし、よくいえば、中国人民に対して、ある意味日本人だって被害者であり、復讐の気持ちを捨てて日本人と仲良くして、日本のいいところは学ぼうではないか、と中国人の仏心に訴えているところもあるのではないかと思います。 
 一方、日本人が「中国に遠慮して本音を、そして言うべきことを言わない」と言うポイントですが、私は、この点は本音とか、言うべきことを言わないのではなく、言う場をわきまえるという事が必要なのではないかと思います。
 私は、公の場では日中の歴史問題について意見を表明しませんが、お互いに信頼関係のある中国人の友人とは本音で語ります。ただ、私は、歴史学者ではありませんので、日本ではこのような見方もあるとか、日本の研究の成果の中にはこのような意見もあるとかそのようないい方になりますけど。 

 例えば、靖国問題については、私は、出雲大社の例を引いてこのように説明しています。
 「出雲大社に祭られているのは、大国主といって、大和武の尊に征服され殺された土着の王で、神社とは、その人が怨霊となって出てこないように、怨霊を鎮めるために作られたもの。
 中国が気にしているA級戦犯の東条英機に対する日本人の評価は、日本を無為な戦争に引きずり込んで日本とアジアで多くの犠牲者を出した責任者といったことで、肯定的に評価する日本人はほとんどいないと思う。というかほとんど否定であると思います。肯定しないけれど、その人だって自分なりに国の為を考えて間違いを起こした結果、絞首刑で死んでいったので、それ自体十分怨霊になる資格があるのですね。
 だから、中国の歴史に出てくるような、死んだ人の墓を暴いて更に鞭を打ったりしないのね、日本人は。そこは中国と全然違うでしょう。だから、日本人にとっては、靖国に東条英機さんの魂を祭っているということは、中国が考えているように、軍国主義の肯定にはならないのですけどね。」(出雲大社の怨霊信仰については井沢元彦「逆説の日本史」の受け売りですが。)と、ここまで説明するとほとんどの中国人は、そんなこともあるのかとそれなりには理解を示してくれます。 
 
 ただこれを私がいきなり、中国のテレビかなんかで話したら大騒ぎになるでしょう。高田は、日本の軍国主義を肯定しようとしているとか。
 残念ながら、日本と中国、それぞれ、大多数の国民が相当相手の事を詳しく知っているという状況にはありません。どんな国でもそこまでの隣国関係というのは存在しないかもしれませんが。このような微妙な問題は、お互いに個人的な信頼関係を構築し、冷静に、それから言葉を選んでじっくり話し合わないとまず通じ合わないのではないかと思います。
 ですから、本音のいい方も、言う場もわきまえる必要がまだまだあるのだと思います。これは外交交渉でも同じだと察します。政府首脳が、記者会見や国連で発言する公的な発言と、外交官と外交官、首脳と首脳が内内に話す言葉はおのずと違うと思います。
 最近の日本政府の対応を見ていると、メディアでも指摘されている通り、民主党政権になってから日中の政治家同士の個人的なパイプが断絶してしまったみたいですね。
 私の周辺でも、日本が尖閣の国営化の発表をする直前に北京を訪問した、日本に外交に影響力を有する某学者先生も、私に対するメールのなかで、以下の通りこぼしておりました。「北京で日本の外交官と面談し、信頼関係に基づいて意見交換する日中のメカニズムが崩壊したと知って愕然とした。」。 

5.日本人に求められる器量と度量 

 又、日本人の気持ちの中には、中国の歴史観は、被害者意識と戦勝国の論理に則っており受け入れられないとか、一体日本は何回謝罪すればいいのか、なぜ日本にだけの謝罪を求めて、アヘン戦争を起こした英国には謝罪を求めないのかとか、又、中国側が主張する南京虐殺の被害者数が年々増えているとか、そのような不信感やモヤモヤ感もあるのではないかと思います。 
 私は、まず、日本人のなかで、明治維新から第二次世界大戦における日本の敗戦に至る歴史的な認識がなかなか定まらないことに日本人の不信感、モヤモヤ感の原因があるのではないかと考えております。
 その歴史は近代化と戦勝と敗戦の歴史なわけでありますから、当然最後に敗戦に至る失敗の原因究明が日本人からも外国人からも求められているのだと思います。
 仕事でも同じだと思います。弊社に対するお客様からのクレームがあった場合、一番誠意のある対応は、謝罪するだけでなく、問題が発生した原因を冷静に分析して今後の対応策をお客様に説明、約束することだと思います。
 それをせずにただ謝罪しても、冷静なお客様はそれ以上責めることをやめても弊社を使う事は二度となくなるのではないでしょうか。 

 日本も同じことであると思います。戦勝国の歴史観をすべて受け入れる必要ないでしょう。日本は加害者であるとともに、元はと言えば西欧列強の植民地化を受ける被害者でもあったわけですから。
 ただ、戦勝国の歴史観を否定する前に、日本はなぜ失敗したのか、冷静に分析し、これから日本は平和国家としてどのようにして進もうとしているのか、世界に表明する位の行動が求められているのではないでしょうか。
 南京問題で何人が犠牲になったとか、感情がぶつかりそうな問題は敢えて触れなくてもいいかもしれません。周恩来、鄧小平の棚上げ論でいいのではないでしょうか。それよりも、より分かり易いところでは、アジアの人々にも理解されやすい行動をとったらいいのだと思います。 

 日中国交回復時には、経済的に苦しい中国がじっと我慢した局面もありました。40年経った今、経済的には日本の方が苦しい状況にあるかもしれません。もしかしたら今度は、日本がじっと我慢する番かもしれません。40年前中国はじっと我慢したからこそ、今日の経済的な繁栄があったともいえるのだと思います。 

 靖国問題は、いい先例になると思います。A級戦犯がいるから参拝=軍国主義とみられるのであれば、A級戦犯を受け入れてくれるという東郷神社に移すことも一案ではあると思います。
 先に私が紹介した怨霊論を公的な場で話しても理解されにくいのではないでしょうか。日本は、その歴史観を認めようか否かに拘わらず、東京裁判の結果を受け入れて、サンフランシスコ条約を締結したわけですから。
 それにより、無条件降伏で何をされても文句を言えない状態から再度独立を獲得し、天皇陛下の存続性を守ることもできたのですから。日本とアジアの平和の為に東郷神社に移されるのでしたら、東条英機の魂も文句はないと思います。私は、私がこのような発言をしても、東条英機の怨霊に恨まれるとは到底思えません。 

 もちろん、中国の為になんでそこまでする必要があるのかという意見も日本では多いのではないかと思います。私が申し上げたいのは、靖国でなく他の手法でもいいのですが、これから平和共存してしかなければならないアジアの諸国、同時に日本製品のお客様でのあるアジア諸国に対して、彼らにも分かりやすい行動をとるくらいの器量と度量が日本にあってもいいのではないかということです。
 米国は、ハワイ併合に当たり原住民との衝突など負の歴史を歴史として文章にまとめ議会で承認決議をしたそうです。これにより原住民との和解を図っているわけです。日本の国会も、日本の近現代の歴史を総括し、国際社会に向けてアピールする位の事があってもいいのではないかと考えます。 

 ただ、日本が本当にこのようにアジアの人々の気持ちにも配慮する行動をとったとしたら、困るのは、悪意をもって反日活動をしてきた人たちかもしれません。もし、本当に中国が、一部日本のマスコミが伝えるように、自国への不満をそらすために反日教育を強化しているのでしたら、中国は困りますよね。反日しづらくなるのですから、国民の不満の矛先は自分に向いてくるのですから。
 そうだとしたら、中国は自国の国民の不満を解消するために、もっともっと住みやすい国にしないといけませんね。それはそれで中国人民の幸せには寄与できるかもしれませんが。 

 私が申し上げたいのは、中国をはじめとした、アジアの諸国が力をつけて来る中で、日本人は、歴史観の面でも、国家戦略の面でも、以下のアジアの人々の共感も得ながら進んで行く必要があるということです。
 それには、感情的になかなか接点を見出しにくい問題は棚上げしても、中国からの歴史問題に関する挑発的な言葉に一一過剰反応せずに、できることから一つ一つ整理していく器量と度量が必要なのではないかと考えるのです。 

 今回の日中間の衝突を欧米企業は大きなチャンスとしてとらえています。本日、私の上海の自宅のマンションのエレベーターにあるキャデラックの広告を見て驚きました。
 写真の後ろの方にホンダアコードと思わしき車の写真、前にキャデラックの写真でキャッチコピーが、「その車を購入価格で買い取ります。」。明らかにアコードをやめてキャデラックに乗り換えなさいという主旨です。
 日本の政府と日本国内で熱くなっている「愛国者」たちにこの現実を知ってもらいたいです。中国市場を挟んで欧米と日本の利害関係は、戦前となんら変わってないかもしれません。

 日本は日米安保条約を通じて米国と同盟関係にありながらも、経済的にはライバルなのです。どちらとも、上手に付き合って行く必要があります。中国が嫌いだからといって、中国との関係強化を放棄すれば、それだけ自国の経済力が想定的に低下する結果を生み出すだけであることを認識する必要があるのだと思います。悔しくても、それを受け入れる、器量と度量が求められているのだと思います。

6.日中両国に望むこと 

 こうして論点を整理してみますと、両国の争点は、日中国交回復時に両国首脳が約束した二つの棚上げ論(周恩来の「日本人民と中国人民はともに日本の軍国主義の被害者である」=歴史問題の棚上げと鄧小平の尖閣問題に対する棚上げ論)に対し、相手側が違反した結果、自国が行動に出たという言い分なのだと思います。 
 どちらが先に違反したかという問題は、なかなか難しい問題なので、今の私には判断できませんが、現状の結果だけをみると、両国とも二つの棚上げ論に違反しているように見えております。私が両国にも望むことは、一日も早く元の状況に戻る努力をして頂きたいということに尽きるかと思います。 

 私が日本に望むことは前項5に述べた通りです。日本では、今回、2010年の漁船の衝突事件で、中国側が一方的に挑発をして来たという意見も根強いようですね。仮に本当にそうだとしら、それは反日的な保守的な勢力の仕業かもしれませんし、本流のリーダーたちが、日本に対して報復したい衝動を抑えられなかったのかもしれません。
 だとしたら、何なのでしょうか、挑発されたらすぐに反撃するのが唯一の毅然として態度なのでしょうか。挑発したい勢力をうまくいなすのも、同じく毅然とした態度ではないでしょうか。
 日本は、過去の日米開戦において、米国に挑発されて真珠湾で仕掛けた結果、米国の思うつぼになったのでないのでしょうか。二度と同じ過ちを起こすことのない様に肝に銘じたいと思います。 

 一方、中国に望むことは、中国はもはや超大国であるのだから、もっと大きく構えてもらいたいという事に尽きます。日本側が、棚上げ論に違反したと考えるのであれば、中国は日本に抗議し、報復する手段はいくらでもあると思います。それを行使するかしないかは中国の自由です。
 ただそれは、必要以上に反日教育を強化したり、暴力的なデモを放置したりする事でないと思います。中国の経済的、軍事的なプレゼンスが大きくなればなるほど、それに応じた大国の風格を世界は求めているのだと思います。

7.尖閣国有化問題の落とし所について 

 実は、私は、尖閣諸島購入に関し、石原都知事が率いる東京都が購入するよりも、国が買った方がこれまでの棚上げ論を維持できるので中国にとっても都合がいいのではないかと考えておりましたので、ここまでの反発が来るとは考えておりませんでした。
 ところが最近の報道でも紹介されております通り、中国側にとっては、これは日本がこれまでの棚上げ論を切り崩す為の第一歩ととらえているとのこと、外交と言うのは本当に難しいものだと改めて痛感いたしました。 
 又、一部報道によりますと、8月の北戴河会議(首脳9名と元首脳たちが集まる会議)では、日本が国営化しても実効支配を強めなければよしとするとの考えが主流であったとの見方もありますが、その後、権力闘争の中で主流の考え方に変化があったのか、最終的に、中国側で主流となったのは国営化に断固反対するという主張でした。 

 中国外交部は、野田政権に対し「尖閣諸島を国有化すれば中国の反日感情に歯止めが利かなくなる」と日本側に警告してきたそうですが、野田政権は、不感症であったのか、十分知っていたけれど、摩擦、衝突を覚悟で国営化を推進したのでしょうか。
 ただ、先に紹介しました最近北京を訪問した学者先生のコメント「北京で日本の外交官と面談し、信頼関係に基づいて意見交換する日中のメカニズムが崩壊したと知って愕然とした。」の通りだとしますと、うまく意思疎通できていなかった可能性が高かったのではないかと推測しております。 
 とはいいましても、すでに購入してしまったもの、元所有者に売り戻すというわけにもいかないでしょうから、今後、両国がどこに落とし所を持ってゆくのでしょうか。専門家の意見を知ってみたいと思い、先に挙げました、孫崎享「日本の国境問題」と保坂正康、東郷和彦「日本の領土問題」を読んでみました。

 いずれの専門家も、「日本が領土問題は存在しないことを押し通すのは国際的に見ても支持されない。認めた上で正面から議論し解決策を模索するべき。」との意見をお持ちのようです。
 元外交官で北方領土の交渉に当たってきた東郷和彦氏にいたっては、「日本は、領土問題について思考停止状態になっている。」とまで言っておられます。すなわち、北方領土については、「四島一括返還」で、尖閣問題については、「領土問題は存在しない」で、思考が停止してしまっており、それは、福島原発事故を引き起こしたの「原発安全神話」にも通じる点があるのではないかとの指摘です。
 又、日本側としては、今後いずれの妥協策をとるにしても、中国に恫喝されてしたという形はとりたくはないでしょうから、どのような形で結論を導き出すかも大事になってくるのだと思います。それとも、このまま長期戦に入り、最終的に、日本側がこれまで通りの実行支配を維持し、それ以上の実効支配を進めないという事を何らかの形で約束することにより、棚上げ論にもどすのでしょうか。

 今のところ私の立場からは何とも言いようがありません。ただ、はっきり言えることは、民主党政権、そして次期政権を目される自民党におかれても、私が今回指摘させていただきました、両国民の心持を今一度見直して、まずは、ご自身の心持と戦略をはっきりさせてから中国側の実権者と、表向けの批判と牽制の応酬ではなく、膝を交えてまずは、信頼関係を気付くための雰囲気作りが必要なのではないでしょうか。 
 又、次回政権を取り戻すと目されている自民党については、対外的に強硬的な姿勢が予想されていますが、「いざというときは自分の国を、命を掛けて守るぞと言う覚悟」と私が申し上げた「日本の器量と度量」というものは必ず両立するものと思います。
 ですから、是非、そのような方向性で日本そしてアジアをよい方向に導いて頂ければと期待しております。 

 最後に、日本の皆さまにご理解いただきたい事があります。それは、東日本大震災の日本人の勇気ある行動を見て、多くの心ある中国の人たちはすでに十分日本人の芯の強さを認識し、尊敬しているということです。
 強い日本を再認識した、だからこそ、日本が誤った方向に進んでしまうと大変なことになると誤解して、過剰反応してしまうところもあるのだと思います。
 どんなに中国が経済、軍事大国になろうとも。ですから日本人も絶対に焦ってはいけないと思います。真の強さとは何かを考え、もっと自信をもっていきたいものです。 
以 上 

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