2012年7月4日水曜日

ニューアーバニズム

この記事は,住宅生産性研究会(理事長戸谷英世)の諸資料やWikipediaの記事などを集めて作成しました。


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20世紀初頭からのアーバニズム(後述)の失敗を反省して,20世紀に,お金を使わなくても、自らが自由な時間を使って、人間の絆を活かした生活環境を作るニュー・アーバニズムの計画理論が実践された。
ニューアーバニズム(New urbanism)とは、1980年代後半から1990年代にかけて、主 に北米で発生した都市設計の動き。ヨーロッパではコンパクトシティ、イギリスでは アーバンビレッジが同様の概念を打ち立てている。


(近年になって,このニュー・アーバニズムの考え方が農業(アグリカルチャー)と結びつき、アグリカルチュラル・アーバニズム(後述)が生まれた)


1980年代まで行われた「アーバニズム」の考えによる敷地の大きな郊外開発



チバリーヒルズに象徴される:
ワンハンドレッドヒルズ(One Hundred Hills)は、千葉県千葉市緑区あすみが丘で東急不動産が開発・分譲した高級住宅街の名称である。分譲開始は1989年(平成元年)であるが、2011年(平成23年)現在も販売中となっている。

バブル景気真っただ中の1989年(平成元年)に分譲を開始。この当時の一戸当たりの分譲価格は5億から15億円に上り、購入者の多くは節税対策を計る企業や、都心から離れていることから週末や来客用の別荘とするものであったと言われる。


ワイドショーでも広く取り上げられ、マスコミからはロサンゼルスの高級住宅街、「ビバリーヒルズ」をもじって、「チバリーヒルズ」とも揶揄された。報道の影響による来客が余りにも多いため、「家の見学お断り」の看板が立ち並んでいたこともある。
しかし都心から遠く交通の便が悪いことや、バブルの崩壊もあって、60件を予定していた分譲件数は38件程度に落ち込み、さらには家を手放す者も増えたため、一時はゴーストタウンの雰囲気をかもし出す場所となってしまった。


その後、暴走族などが勝手に入り込んで暴れまわるといった事態も発生したため、遂には住民以外の車両が進入禁止になった。
現在も分譲販売は継続されているものの、土地の分譲販売のみとなっている上、その分譲価格は実質半分程度となっている。その経緯から、「バブル経済の負の遺産の象徴」として取り上げられることも多い。

FTA時代という先進工業国に於いては、基本的に経済が右肩下がりに向かっていることを考えると、日本のバブルや米国のバブルで踊ったような都市の成長を続けることはありえなく、かつ、バブルで利益追求中心に考えた都市成長は、衰退又は調整局面を迎えてきているのである。


つまり、都市全体の中で、市民の地道な生活問題を捨象して、経済発展、利益追求を中心に取り組まれた都市は、これまでのような経済成長や利潤追求の都市空間であり続けられなくなっている。
それらの既存の都市空間を、都市住民にとって豊かな生活環境に編成しなおすことが求められるようになっている。その政治的な国民の意向を反映した取り組みが長期優良住宅地形成に対する政策である。

都市熟成の計画技法:ニュー・アーバニズム

ニュー・アーバニズムという都市の計画論は、このような社会経済的要求に応えることのできる計画論として1980年代から米国や英国やオランダやフランス、ドイツその他のヨーロッパの都市再編成にあたっての計画理論になっている。

それは、自動車を都市生活の場から排除して、基本的に徒歩による町を基礎単位として「人間の絆」で結ばれた自治団体を造り、その基礎単位にトランジットを使って「人々の徒歩のネット・ワークで構成された都市を繋いでいく」というと都市の編成が取り組まれている。

米国で始まったTOD(トランジット・オリエンティッド・デベロップメント)は、ポートランド(オレゴン)をモデルにしたトランジット(交通計画)による計画理論の実践である。

TODのベースとなっている都市の単位は、人びとの日常生活圏としての自治団体としてのコミュニティでなければならない。TODは,そのコミュニティを経済成長を推進する都市から、人々の豊かな生活を享受する都市へ転換するために、1980年代から日本以外の経済先進国で取り組まれた。

米国では、TND(トラデイショナル・ネイバーフッド・デベロップメント)、又は、ニュー・アーバニズムと呼ばれている。英国ではアーバン・ビレッジとも呼ばれているヒューマン・スケールの空間を人間の絆で繋ぐ生活を実現しようとする町づくりである。

宅地の区画には、見通しの利くフェンスや生け垣を原則とし、高さの低い塀を造るようにしている。そのことによって、隣との関係をお互いが「なんとなしに」分かり合って譲り合うといった「思いやりや、理解をしあう関係」として創りあげている。

このようなところが「人間の絆」を育てる計画の特色となっている。

ニュー・アーバニズムによるコミュニテイ計画は、そのコミュニテイの立地する土地の中心部(アーバン・コア)から、都心周辺部(アーバン・セントラル)、一般住宅地区(ジェネラル)、都市周辺部(エッジ)、郊外部(サバーブ)を経て、農村地帯(ルーラル、プリザーブ)へと遠隔化するに従い、その地価を反映して、都市開発密度により、住宅の建て方型式は変化していくことになる。

経済の成長に合わせて急成長し、スプロールしてきた都市を、もう一度、都市の人口密度や建築密度の高い中心部から、人口密度も建築密度も低い郊外部(サバーブ)へ、さらに、農村部(ルーラル)にかけて、夫々の都市の性格の違った部分ごとに、トランジット(LRT:ライト・レイル・ロード・トゥレイーンやシャトル・バス)の駅を中心に、夫々が独立した徒歩圏で造られたコミュニテイとして、その性格にあった都市整備が、ニューアーバニストたちによって提唱されてきた。


人々の絆を大切にしたトランセクトの考え方による近隣住区が形成された。

その都市再編成の取り組みの計画的整備手法・トランセクトは、都市の中心から農村部までの連続する市域を、都市又は農村的密度によって、不連続な上記6つの区域に分割して、夫々の区域の特性を考えた人々の生活を構想して、その構想に向けて熟成させる計画の考え方を示している。


この6つの都市・農村環境整備の一部が農業・農業保全地区(ルーラル、プリザーブ)の整備になる。

ニュー・アーバニズムの計画理論

住宅のファサード(正面)及び玄関及びリビング・ポーチは、歩道に面して設けられ、(歩行者と住宅のポーチにいる人との間で会話が出来るように計画し、「道路に目のある開発」「住民の注意が街並みに向けられ、よそ者に注意を払う町」とする。


各住宅は夫々個性を持ちながら、街並みとして歩道に連担する街並み景観(ストリート・スケープ)を街並みごとに「わが街」(アワー・ストリート)と感じることができるように、並木の選定、フェンスなど,街並みごとに一体性のある個性的な造りができるようにする。

この際の計画として重要な要素は、次の4点である。
イ.建築物の前面道路からの壁面後退の距離を遵守すること
ロ.外壁面の材料と工法、色彩及び様式の範囲
ハ.前庭の「芝・立木・花木等の植栽」及び標識
ニ.その他の工作物を街並み景観として調和するように定めること。

特に、農業を取り入れる観点からポーチや前庭で花卉・園芸・果実栽培を実施する場合には、農業と町並み景観との調和を考慮しなければならない。

同様に、各個性的な街並み景観が集合して、住宅地「ビレッジ」全体として、「わが町」,「アワー・ビレッジ」という帰属意識が持てるように計画する。この場合、もっとも重視しなければならない要素は、次の2点である。

イ.屋根の形態と屋根の材料、屋根葺材の材料、工法及び色彩の統一
ロ.煙突、塔その他高さのある工作物に関して波形感情の調和が乱されないように計画

ビレッジ・スケープは、町の遠隔からの眺望であるから、町全体としての一体性が表現されることが重要である。

街並み景観「ストリート・スケープ」と町並み景観「ビレッジ・スケープ」の担い手が各住宅不動産である。そこで各住宅不動産は、これらの景観計画を確実に実現するよう、敷地ごとに遵守するべき建築及び工作物の形態、意匠、材料、工法等に関する建築設計指針「アーキテクチュラル・ガイド・ライン」を制定する。


都市は長い時間をかけて造られ、時代の変化に合わせて変化するものである。長い時間かけても守らなければならないものと、拘らなければならないものをマスタープラン(都市開発基本計画)に、それに対応した建築物の遵守すべき形態・意匠規制をアーキテクチュラル・ガイド・ライン(建築設計指針)に定めなければならない。

住宅地のマスタープラン(基本計画)の計画理論

住宅開発敷地の歴史文化、気候風土、社会環境などの土地の性格と、そこに住むように計画している人のライフ・スタイルと、アイデンティティ(帰属意識)の持てる基本コンセプトで作られたストーリー(筋書き)とヴィジョニング(景観)に基づいて作られた土地利用基本計画のことをいう。

マスター・プランは、モザイク画にたとえると下絵のようなものである。開発の対象になる土地全体を有機的な人びとの生活の場として設計するものである。マスター・プラン自体は、開発する住宅地全体の完成した一つの絵柄を定める図面で、マスター・プランどおりの事業をする主体はいない。
 マスター・プランで定めた枠組みの中で、ここの宅地所有者は、モザイク画の中のモザイクの石を作り、それを並べるといった、一定の自由な工事をする。その指針がマスター・プランである。

アーキテクチュラル・ガイド・ライン(建築設計指針)で定める設計内容

マスター・プランを実現するために、個別の建築計画において遵守させるべき建築計画及び規制条件で、建築物の形態と配置に関する指針と、建築意匠に関する指針で構成されている。 
マスター・プランが都市計画とすれば、アーキテクチュラル・ガイド・ラインは建築基準法第3章に相当する建築規制である。それはモザイク画におけるモザイクの石をどの用に切断・加工し、どのように並べるかといった職人作業(クラフツマン・ワーク)の指針である。
アーキテクチュラル・ガイド・ラインは、マスター・プランとして定めた基本条件をここの建築設計・施工で護らせる指針である。

コミュニティ経営システム

イ.住宅資産価値の維持向上要求
 都市開発や住宅地開発は、開発事業者にとっては、開発事業期間しか関心はない。しかし、そこで住宅を購入する人達は、その人生の働ける期間全体に渡って購入した住宅ローンで縛られるわけであるから、その住宅資産が将来的に購入者の経済的支えとなってくれることを期待している。
 「いざというときに、経済的支え(換金又は担保)となってくれる住宅資産」であるから、住宅購入者が働ける間住宅ローンに縛られていても、その負担には我慢ができる。

住宅地経営管理には、専門的な技術が必要である。そのため健全な住宅地の経営管理を持続するためには、開発業者が開発を終了して一般の消費者に住宅が譲渡されて以降も、開発業者が、住宅地の経営管理の黒子として、住宅地経営管理支援機構として、「住宅に関し専門的知識敬遠のない居住者」を支援する体制が不可欠となる。
 住宅地開発として優れた開発が出来たとしても、一体どのようにしてその住宅地を健全に管理するかという専門家の知識と技術を必要とする問題は必ず発生する。

ロ.原点となる「ガーデン・シテイ」の都市経営
英国の「ガーデン・シテイ」における「リース・ホールドによる事業」の場合や、そのモデルになったランド・オーナーによるリース・ホールド事業の場合には、田園都市株式会社や、ランド・ロード自身が、開発事業に携わった開発業者を都市経営管理の専門家集団として雇用して、建設後の都市又は住宅地の経営管理を行った。

ハ。宅地分譲地での都市経営:デイード・リストリクション(土地・建築利用規制)
米国では最初開発業者が作成した「公正証書としてのデイード・リストリクション(土地・建築利用規制)」を、国家が保証する自由契約の原則に立った民事契約の履行で可能であると考えていた。
しかし、やがて、英国のガーデン・シテイ株式会社に相当する「統治機関」が必要であるということが確信持てたことから、コミュニティという概念を都市経営、又は、住宅地経営に持ち込むことになった。

(註:都市計画制度が生まれる以前には、英国には、デイード・レストリクション(Deed Restriction)といって、土地利用に関する形態規制を行い、それを公正証書にまとめ登記することで、土地の譲渡があっても、デイードは土地とともに離れることなく、一体的に土地利用を拘束する制度があった。そのため、「デイードは所有者とともに走る」とも言われ、デイードがあれば、それで土地利用規制が出来るため、都市計画法を制定しないでデイードだけで都市の空間規制をしている都市もある。)

住宅地経営管理協会(HOA:Homeowner association)

 住宅地管理協会は、本アグリカルチュラル・アーバニズムに基づく開発事業で定めた基本計画(マスター・プラン)と建築設計指針(アーキテクチュラル・ガイド・ライン)で定めたハードな計画を、同じく開発業者が住宅地経営管理基本契約約款で定めたルールを運営管理する自治団体である。


別の説明をすると、この開発地の住宅の資産価値を守るための経営管理法人である。この住宅地経営管理法人は、非営利活動法人として作ることだけではなく、社団法人、一般社団法人、組合法人、又は、株式会社として作ることも可能である。

住宅地経営管理協会の仕事は、居住者の生活基盤としての住宅地環境を維持管理する団体であることから、その性格は基本的に非営利活動であることから、ここでは非営利活動法人法に基づく住宅地経営管理協会としての標準定款を取りまとめた。


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