2020年5月8日金曜日

実践5年目を迎えたスマート・テロワール

月間『農業経営者』5月号 より

スマート・テロワール通信

実践5年目を迎えたスマート・テロワール

  • 第31回 2020年04月27日
松尾雅彦氏の著書『スマート・テロワール』の理論の実証実験が始まってから5年目を迎えた。現在、4県でスマート・テロワール論に賛同する取り組みが進行中だ。新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、残念ながらスマート・テロワール協会の総会や各地の報告会の中止や延期が続いている。
しかし、この状況下でも食料供給のために生産活動は続けられており、実証実験も続けられている。今回は、スマート・テロワールに関わる各地の動きを紹介する。

庄内スマート・テロワール

山形県では、2016年4月に始まった山形大学農学部寄附講座食料自給圏「スマート・テロワール」形成講座を機に取り組みを始めた。
現在、庄内スマート・テロワール推進協議会(以下、協議会)が山形大学農学部内に事務局を置いて推進活動の運営をしている。役員には山形大学農学部長、皆川治鶴岡市長、東北ハムの帯屋伸一社長、主婦の店鶴岡店の大川奈津子社長、ト一屋の荒木洋一社長、顧問に中田康雄が就いている。

現場では、農学部がハブの役目を担いながら、生産者、加工事業者、小売事業者、飲食店、(一社)山形県農業会議、鶴岡高専、鶴岡市などが5年目の実証実験を続けている。今後、市民を巻き込んだ社会実装にもつながりつつある。これまで水田の畑地化、耕作放棄地の活用、飼料の豚への給与、畜肉加工品や味噌の加工・販売、学校給食や飲食店への食材提供などを展開してきた。昨年19年は市民の間で「スマート・テロワール」が広く知られるようになった。
今年20年は、特に小麦の加工や販路拡大に力を入れている。昨年に続きラーメン店や、ピザを提供するレストラン、うどんづくりをする庄内農業高校などに小麦粉を提供するなどしながら、地域内に関わる人々を増やしている。実証実験の様子などはFacebook(「山形大学農学部スマート・テロワール」で検索)で日々伝えている。また、19年に立ち上げたウェブサイトでは、市民を対象にスマート・テロワールの意義や活動のニュースを伝えている。ぜひ参照してほしい。
【庄内スマート・テロワール協議会URL】
https://shonai-smartterroir.com/

長野県農政部・東信・北信

長野県では、行政と長野大学、2つの民間団体が活動中だ。長野県農政部と試験場は17年に地域食料自給圏実証実験事業をスタートし、今年4年目に入った。畑輪作の実証実験のほか、豚への給与試験を行ないながら、地域の食品事業者らと一緒に加工試験を続けている。長野大学は消費実態と意識調査を行ない、市民の意識改革の必要性を提唱した。

東信地域では、NPO法人信州まちづくり研究会が東信スマート・テロワール研究会を開催し、市民の機運醸成に努めている。今年は、研究会の会員でもある立科町で焼き肉店「蓼科いっとう」を経営する角田大徳氏が、子実用トウモロコシの栽培を始める。作業は、研究会や機械メーカー、地域の生産者の協力で進めているところだ。収穫した子実は父の敏明氏が経営する牛舎で肥育牛に給与し、その肉は焼き肉店で提供される予定である。
北信地方では、前回号で紹介したように、小布施町を拠点に活動が始まった。スマート・テロワール協会と北信地域の産官学が協働する取り組みで、食料自給圏のほか、インフラや人材育成にも取り組んでいる。

山口県・鹿児島県

山口県では、『スマート・テロワール』の共著者でもある浅川芳裕氏の提案で、山口市がスマート・テロワール論をもとにした取り組みを展開している。また、各地で取り組む人々にとって、鹿児島県志布志市にある(株)さかうえの坂上隆社長の経営そのものが、スマート・テロワールのモデルになっている。

スマート・テロワール協会

非営利一般社団法人スマート・テロワール協会は、全国に100のスマート・テロワールをつくることをビジョンに掲げている。先行して始まった山形県と長野県の実証実験や、各地の取り組みを支援するための団体だ。事務局は農業技術通信社内に置いている。スマート・テロワールと協会の活動はウェブサイトで公開している。会員は随時募集中。
【スマート・テロワール協会URL】
https://www.smart-terroir.com/

中田康雄の気づき

【新型コロナウイルス大流行による国民国家回帰】
「このウイルスの世界的な大流行が終息すれば、極端な移動制限は解除されるだろう。しかし国民国家が復活しつつあり、ウイルス発生前のグローバルな世界に完全に戻る可能性は低い」(3月30日日本経済新聞朝刊)
この理由として次の3つが挙げられている。
「緊急事態下では人々は国民国家に頼ろうとする」「グローバルなサプライチェーンが脆弱だとわかった」「危機の発生前から顕著だった保護主義や生産の自国回帰、国境管理の厳格化を求める声がより高まった」
家電や自動車、衣料品、マスク、人工呼吸器までもが中国のサプライチェーンの寸断によって供給量の減少に追い込まれた。そして人の命に関わる医薬品の大半を輸入に頼らざるを得ない状況が赤裸々になりつつある。このような状況がこのまま放置されるとは考えにくい。

【食糧・エネルギー資源の自給率向上に本腰を入れるとき】
各国が雪崩を打って自給自足を求め保護主義に走ったとき、日本の国民は窮地に追い込まれることになる。食糧資源とエネルギー資源を海外に依存し続けることが困難になるからだ。いまこそ、食料資源とエネルギー資源の自給率向上に本腰を入れるときだ。
2025年までの農業政策の方向性を示す「食料・農業・農村基本計画」で、食料自給率の目標は50%から45%に引き下げられた。米粉需要と大豆生産の目標達成が困難だったからだ。
しかし、いまあえて50%の食料自給率を目指そうと言いたい。自給率を上げるにはどうするか。もちろん米飯食に戻すのが近道だ。しかし、食生活の回帰が起きるかと言えばそれは考えにくい。自粛生活のなか家庭で食事することが増えたにもかかわらず、「巣ごもり需要」ではパンや即席麺や麺類が伸びている。終息後も食生活は変わらないだろう。
自給率を上げるには輸入依存の穀物を生産することが必要だ。小麦や大豆と飼料用トウモロコシの耕作地の拡大と単収を上げ、増産体勢をつくることが自給率向上への道である。

(参考)
下記から「庄内スマート・テロワール」のことが判ります。
山形大学農学部寄付講座「スマート・テロワール」形成講座

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