2018年8月11日土曜日

「松枯れ対策の農薬空中散布の中止」申入れ


 この活動を続けている皆さんは、
偏った考えで行動している人たちではないと思います。
 これを書かれたご本人も
これは思想信条・イデオロギーの違いが問題ではなくて、
”事実と道理”の問題なのです」と仰っています。
知事には、更なる信任の獲得のために、本気で取り組んで頂きたいと思います。
「もし、散布する側に正当な論理があるのであれば、
この皆さんを説得するべきです。」

(残念ですが、写真がコピーできませんでした)
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隔月刊『まほろばニュース』(信州の教育と自治研究所発行)依頼原稿2018715
〔最近報告〕
県知事に「松枯れ対策の農薬空中散布の中止」申し入れ
~薬剤散布による防除効果をめぐる考察~
長野県空中散布廃止連絡協議会(愛称コウノトリの会)
      副会長 村山 隆(ヤマンバの会事務局長)

1.はじめに
今年、県内では里山への「松枯れ対策の農薬空中散布」が、多くの問題を内包しながらも9自治体で実施されました。昨年来、松本市を始めとする市民運動により県内世論が若干は高まりましたが、事の本質が未だ理解されているとはとても言えない現状です。
こういう状態で迎えた今年度の定期総会で、私は環境部会方針に「松枯れ対策の農薬空中散布を廃止し、代替方法を駆使した総合的な里山づくりを目指します!」を追加提案し、それが受け入れられました。これで全県的な拡大条件がより前進しました。
ここでは活動方針に採用されましたので、松枯れ対策の農薬空中散布をめぐる問題状況と、最近に私たち「空散廃止連絡協議会」(愛称コウノトリの会/河原田和夫会長)が総力を挙げて取り組んだ活動内容を報告します。

2.空散「防除効果」分野の重要性
 里山空散には多面的分野(人間健康・自然生態系・防除効果・進め方など)の問題点があります。全てが大問題ですが、今回は「防除効果」分野を強調します。
私たちの辛い体験ですが、里山の松枯れ激化を前に「健康被害」を訴え反対しますと、必ず「松枯れをどうするのだ?」「山崩れが発生する!」「松茸が出なくなる!」等々の強力な反論が出され、地域の声が孤立し潰されるのが常です。詰まり林業関係者と反対者との分断が発生し、不幸な対立関係になってしまいます。これは「空散の防除効果が確かに存在する!」との思い込み・洗脳に支えられているからなのです。それを補強する学者・行政関係者の責任が極めて大きいのですが、マスコミ界も、チェックせずに垂れ流して「空散翼賛体制」に加担してきた深刻さがあります。

上田市塩田平東山の有人ヘリ散布模様 現在は「予防原則」を尊重して中止10年目

こういう中で、《もし防除効果が存在しない》ならば、推進側の前提根拠が総崩れします。効果が期待できないとすれば、実施の必要性(税金の無駄)は無くなり、健康被害や生態系破壊もあり得ません。ですから、防除効果問題を明確にすることは、事実に即して幻想を解き(洗脳から解放)、地域分断を解消することでもあるのです。
そういう位置に「防除効果分野」があるので、今回の県知事宛の『申し入れ』(7月6日)は、「防除効果分野」と「行政の進め方分野」に絞って行いました。以下、その三つの問題状況と要望を紹介します。

3.市町村を規定する『あり方報告書』の「防除効果写真と防除効果図表」の不適切性
上田市が平成21年に「予防原則」を尊重して松枯れ農薬空中散布を中止した後、県は母親グループの要望を受け入れて「有人ヘリ松くい虫防除検討部会」を設置し、時間を費やして検討した末、虫害原因説を絶対化して農薬空中散布を定式化した『松くい虫防除のための農薬の空中散布の今後のあり方』(平成2311)を取りまとめました。この『あり方報告書』が、今現在の市町村における松枯れ対策のマニュアル指針として機能しています。
およそ信じられない事に、この『あり方報告書』の「防除効果写真と効果図表」に重大ミスがあるのです。先ず、『中間報告書』に引用された「効果写真」(茨城県旭村)は伐倒駆除が入った推進団体出典の不適切写真でした。また、長崎県総合農林業試験場の「効果データ」には2ケ所の引用誤記、それと伐倒駆除の加わったデータなのに、それを空中散布だけの効果だと恣意的に紹介しました。これを「公開質問状」で指摘したところ、削除して差し替えたのが『あり方報告書』の「岩井堂山の効果比較写真」でした。

岩井堂山・千曲市側の伐倒駆除現場を現地調査 コウノトリの会主催 20111211

現地調査で判明したことは、坂城町側(3年間空散中止)は当年に限り伐倒駆除が実施されず、千曲市側(空散継続)は伐倒駆除が完璧の下での「比較カラー写真」でした。また、千曲市側写真は8割以上が空散未実施区と広葉樹林帯でありながら、その様な説明無しの写真でした。更に、岩井堂山の北側(千曲市)と南側(坂城町)という位置関係にあって、条件が違い過ぎて科学的ではありません。それを「比較カラー写真」で説明しているのですから極めて意図的です。それに輪をかけて、引用した「効果図表」も研究機関と調査場所・調査日の記載の無い代物で、これまた伐倒駆除を隠蔽した不適切資料でした。
一般的に通用し、根拠とする松枯れ空散効果データが極めて曖昧です。事実、公開質問状への回答では「現場における予防散布の効果は歴然としているが、それ故に解析できるデータとして残っているものが少ない。即ち、実験的に必要な対照区のデータが無い事例が殆どである」(H2377回答)と支離滅裂でした。
こんな不適切写真や恣意的根拠資料を絶対化して松枯れ農薬空散が実施されているのですから、即刻、『あり方報告書』を凍結・破棄するのが当然です。併せ、それを根拠にして実施されている市町村に対しては、松枯れ農薬空中散布を保留・中止するように勧告・指導すべきではないでしょうか。

4.防除効果が実証されない「枯損木調査(行政実施)」の判定(植村解析)
 県が松枯れ対策の農薬空散を開始したのが昭和60年の坂城町でした。以後、拡大の一途をたどりましたが、空散の防除効果の点検・検証を全く行ってきませんでした。その理由として、「空散開始が遅かった県内では、既に空散の有効性についての知見が得られていたため、効果を対照比較する県内データの収集の必要性がなく、研究報告がないため、既存の県外での事例を紹介させて頂きました」(H2377回答書)としました。その既存の県外データが殆ど信用に足るものが無いのですから、将に架空の上に空散を実施してきたと言えます。
 この不正常な実態を把握した私たちは再三再四、松枯れ農薬空散の「防除効果の検証調査」を要求しました。それを受け入れた県森林づくり推進課は、「特別防除の枯損木調査の実施について」(平成26526)を、市町村に対して指導・通知しました。この点検・検証活動の実施は全国的には余り例がなくて、一定の誠意を感じさせます。
 県が市町村に指導し実施した3年間の集積データ(10箇所)が回収された頃、私たちは「枯損木調査の情報公開のお願い」(平成2961)を提出しました。この中で、実施市町村の調査野帳・実施場所の地図・調査地の詳細表の開示を求めました。併せ、県としての早急な「結果解析」をお願いし、「共同検討会」の開催を要望しました。しかしながら、催促しても未だ実現しておりません。
 一方、予想もしない事態が発生しました。元大阪大学大学院理学研究科の植村振作先生(公害環境研究者/天草市在住)が、県内実施市町村から独自でデータ類を取り寄せて、詳細な検討・解析を行なって、論文『長野県松枯れ農薬空中散布効果調査結果についての検討』(『月刊むすぶ』№566ロシナンテ社201831発行)を公表されました。

『月刊むすぶ』(№566ロシナンテ社201831発行)58頁・植村論文引用

 この解析内容は、行政が調査したデータに基づく専門家による分析ですので、非常に説得力があり、万人を納得させるに十分です。
一見すると、実施市町村が「防除効果あり」と結論されている比較試験ですが、統計学的に極めて杜撰な調査方法(比較場所の条件が違い過ぎて比較困難/10調査地のうち判定不能が6箇所)でした。更に4箇所の判定可能地のうち、統計学的に「効果あり」は一箇所のみでした。これでは客観的に判断して、「空散防除効果が証明された!」とは、とても言えるものではありません。謙虚な対応が求められます。

5.林野庁『運用基準』に違反して進められた県空散策定計画
 私たちが、「平成29年長野県松くい虫防除対策協議会」(H30・2・19県庁)を傍聴した際に多くの疑問点を感じました。驚くべきは「無人ヘリ防除」が対象から除外されていたことでした。終了後、担当職員に「松枯れ対策協議会の俎上に無人ヘリ防除を外しておいて、如何なものか?」と質したら、「その様に決まっている‼」の一点張りでした。松枯れ対策を論議する年1回の協議会ですが、この有り様は非常に疑問に思いました。
 それが的を射た「疑問」であったことが、植村振作先生の調査によって明白になりました。問題を指摘しますと、《長野県における平成30年度策定の松枯れ対策の空中散布(有人・無人ヘリ)防除の進め方が、『林野庁の運用基準』(長官通達H2841改正)に違反していた》からです。
前述の如く、無人ヘリについては論議の俎上に載らず、ましてや公開が義務化されている対象区域「図面」の公示も無いのです。県担当者は知ってか知らず、「公開は不必要」と断言したので、委員個々の知る権利が著しく奪われました。国の運用基準に逸脱・違反したのですから事は重大で、対応措置が厳しく問われます。

6.先ずは、農薬空中散布を中止し、『総合的な里山づくり』の推進を!


愛称コウノトリの会・総会記念「空散の代替方法を考える」シンポ 松本市四賀支所201643

以上、《4・5・6の問題》指摘から結論付けられることは、【先ずは、農薬空中散布を中止して代替方法を駆使した「総合的な里山づくり」を推進すべき!】です。ここにこそ山林県である信州の専門的力量と財政を傾倒・発揮すべきです。勿論、私たち環境市民団体も「提言」がありますので、率先して協力を惜しみません。里山への空散をめぐる見解の相違は、事実の前に謙虚になり、冷静で客観的な対応に因って克服可能です。
私たちの見解は「空散を実施してもしなくても、残念ながら松は枯れて行く!」のですから、有害無益の空散を即刻中止して、他の方法を駆使して里山再生をすべきです。

7.現段階での県担当者の返答に関して
県議会最終日の慌ただしい最中の7月6日の「申し入れ行動」は、森林づくり推進課の3名(課長・担当者)と私たち9名で行いました。既に県内各地で空散実施中でしたので、「申し入れ書」として提出。敢えて「質問状・要望書」としなかったのは、私たちの指摘・主張は事実に基づいていますので、話し合って決まるものではないからです。
当日は相手をリスペクトしつつ、率直な論議が弾み、次の確認がなされました。
❶例の岩井堂山の効果写真の件については、説明不足であり、市町村に修正説明を加えて伝え、併せHPにて県民に公開する。
❷防除効果の検証については、研究機関とも協議して、解析結果を今年度中に出す。
❸林野庁運用基準違反の件は、通達の有無の認識がないので、今月中に見解を出す。
❹県が市町村担当者を対象に開催する「農薬学習会」(以前は有機リン剤のみ)には、今後はネオニコチノイド系農薬の負の面も含めて説明する。

「申し入れ」後に懇談する県担当者と愛称コウノトリの会役員 県庁西庁舎303号室 201876

勿論、到達点は低く(中止に至らず)不満ですが、今後は約束事項の点検を強めることが重要です。担当課長は、報告書写真の誤りを認めつつも「一度検討委で決まった以上、廃棄・凍結はできない」との官僚答弁を繰り返しました。また、県が関係市町村に通知した枯損木調査については「3年間のデータだけでは乱暴だ」と自己否定し、「これからはリモートセンシング(人工衛星遠隔探査)で判断したい」と、問題をすり替えました。
事実と道理に向き合う長野県公務員としての矜持を貫いて欲しいものです。

8.何故、薬剤による防除効果が認められないのか?
ここでは少し理屈っぽくなりますが、防除効果が期待できない原因を述べてみます。
一つは、松枯れ農薬空中散布の発端が「捏造事件」から開始しましたから当然のことです。空散推進のために作られた法律「松くい虫防除特別措置法」の根拠資料の全てに捏造・改ざん・隠蔽が発覚して大臣が陳謝し、林務官僚が処分された事件(昭5291281国会農林水産委)がありました。しかし、法律は無傷で継続して引き継がれています。以後、この「伝統的捏造体質」が全国を覆って、実施県でも同様に頻発しているのが松枯れ農薬空中散布問題なのです。
二つには、期待する効果が得られないのは「自然界の複雑性」の理由があります。確かに実験室内では媒介虫マツノマダラカミキリの完全殺虫は可能ですが、自然界では散布適期(羽化時期)などの難しさがあります。更に最近では「土壌伝染」が確認され、「潜在感染」(伐倒駆除不可能)も報告されていますので、所詮空散による防除効果は期待できません。推進側は「撒きムラ」と主張しますが、これは苦しい言い逃れです。
三つは、松枯れの原因を「虫害説」(⇒薬剤散布)に特定していますから、原因が異なれば全くのお手上げ状態です。現実の松枯れ原因は虫害説以外に、他病害、大気汚染、酸性雨、土壌の酸性化などがあります。例えれば「癌に風邪薬で対処」しているが如くです。
四つに、松樹事態の「抵抗力の低下」が決定的です。今の裏山は一昔前の人出の入った山とは違い、鉛筆状の松、雑木に覆われた藪、落葉の蓄積した林床となり、松の抵抗力が著しく低下しています。そこに止めの一撃で、病害虫が取り憑いて枯死させるのです。
ですから、松樹自体の抵抗力を回復させることなしに、松枯れ防止対策は無理です。将に「栄養失調の児童に医療を施す」が如くです。本来的に松樹は肥料分の少ない(富栄養化に弱い)乾燥気味土壌が適地ですので、頻繁な手入れ作業が必要です。清々した松山にはその御褒美として松茸も生えるのです。松枯れ防止には「里山作業」が絶対に必要で、それを怠った結果として現在の惨状があるのですから、先人の知恵から学ぶべきです。

9.おわりに
今年度も各地で空散反対の市民運動が興り一定の成果を得ました。駒ケ根市・東伊那区内では署名活動・申し入れによって拡大を阻止。松本市は弁護士・市民の激烈な闘いの結果、本郷区と里山辺区への計画を断念させ、四賀地区では散布面積を減少させました。また、安曇野市・明科区では、絶滅危惧種の生息発見によって中止に追い込みました。
更に特筆すべきは、空散中止10年目の上田市で今年5月、「薬剤散布の効果が薄い」(担当者)との理由で、地上散布も止めました。この快挙は、県内の見本でもあります。
やはり地域に依拠して当該住民自身が声を挙げて運動を起こせば、確実に展望が開けます。私たちは、諦めないで粘り強く、事実と道理を掲げ続けて運動するならば、信州の里山への農薬空中散布の廃止実現が可能となります。その日は遠くない予感が致します。
(信州上田塩田平住民/2018715)

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