2017年9月9日土曜日

スマート・テロワール通信 1

 この記事は月刊誌『農業経営者』7月号からのコピーです。毎月掲載されます。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「スマート・テロワール」ついに幕開け

カルビー(株) 取締役相談役 松尾雅彦
1 20170707

 スマート・テロワールとは地方都市を含む広域の農村自給圏の構想である。 そのコンセプトは食料のサステナビリティ(持続可能性)を目指し、 「田畑輪換を畑作輪作へ転換する」「地域に女性の職場の食品加工場をつくる」「住民の地元愛で地元産の食品を応援する」 という3つに取り組むこと。実現すれば、21世紀の社会において農村が最も元気になる。

山形大学、畜肉加工品の
アンケート調査を実施

 山形大学農学部は5月、鶴岡市と酒田市のスーパーマーケットにおいて、大学が肥育した豚を加工したウインナー、ロースハム、ベーコンの試食アンケート調査を実施した。これらの畜肉加工品は、大学や地域で収穫された加工用ジャガイモや大豆などの規格外品およびトウモロコシを餌として与えた豚を、地元の加工会社が試作したものである。アンケートは既存の市販品と大学の試作品との情報を与えず試食してもらい「どちらを購入するか」を問う。結果は左図のようにウインナーは市販品、ロースハムとベーコンは大学の試作品が優勢という結果が出た。
 大学では、このアンケート調査を元に塩分・水分・せん断力価および見た目・香り・食感・味・購入意欲などの分析をして加工会社とともに品質改良をしていく考えだ。
 アンケート実施日は休日で、主婦や家族連れ、若者、年配者など老若男女問わず多くの人が参加した。「いつから販売になるのか」「価格はいくらか」「非常に美味しかった」「地元の取り組みなので協力する」などの声が寄せられ、高い関心が見られた。

 山形大学のアンケート実施は、スマート・テロワールの取り組みの一環である。 
『スマート・テロワール』(松尾雅彦著著、2014年、学芸出版社)で語られている農村自給圏が16年、ついに実現化に向けて第一歩を踏み出した。日本で初めて挑戦したのが、山形大学農学部を中心とした山形県庄内地域である。大学では16年4月より松尾氏の寄附講座「食料自給圏『スマート・テロワール』形成講座」を開設し、5年間かけてモデルづくりに取り組む。 
 目標は、畑作と畜産の連携を図る耕畜連携、加工業者と一体となって厳選素材を利用した加工食品を製造する農工一体、地域内で販売・消費する地産地消によって地域内に循環型の経済圏を構築することだ。 

 16年度には山形大学農学部附属高坂農場で、ジャガイモと大豆、トウモロコシ、ソバ(17年度からは小麦)の畑作輪作と豚の肥育を始めた。収穫物は品質の高いものだけを食用にし、厳選素材だからこそ出せる味の加工食品を目指す。規格外品や加工残渣は豚の餌にし、豚の糞尿は畑の肥料として活用していく。こうして耕畜連携によって肥育された豚を加工し、地域内流通させることを目指している。 
この考え方の下で生まれた畜肉加工の試作品が、今回のアンケート調査で使用されたウインナーとロースハム、ベーコンである。地元住民に、輸入肉を加工した畜肉加工品ではなく、地元産の畜肉加工品を選んでもらうためには、高い品質のものを安い価格で提供しなければならない。それを実現するための挑戦が続いている。 
(文/スマート・テロワール協会事務局) 

視点

 いつもジャガイモの話をしている私だが、カルビーで「かっぱえびせん」に使うエビの調達で、じつは水産物の流通にも詳しい。エビは魚よりも鮮度が落ちやすい。海外から日本にエビを運ぶには、鮮度が良いうちに水揚げした浜ですぐに冷凍してしまうのがいちばんよい。 
 3月24日、私は長崎で講演をした。長崎といえば魚の県だが水産業は低迷している。私は講演のなかであるグラフを見せた。長崎県が出典の生鮮魚介と生鮮肉の購入量を比較するグラフである。それを見ると、魚の消費が肉に取られたと勘違いしてしまう。しかし事実は、国内の鮮魚が減って海外から冷凍した魚が増えているのだ。スーパーやコンビニの弁当にはどれも魚が入っている。あれは輸入品である。肉と魚が入れ替わったのではなく、国内の魚と海外の魚が入れ替わっているのである。
日本で加工される魚は、アジの干物のような尾頭付きのものが多い。これは漁の日も干す日も天気が良くなければできない。すなわち毎日つくることができない。しかし食べる側はどうだろう。毎日干物は食べないが、冷凍した魚は弁当や回転寿司などで毎日のように食べている。 
 一方、中国やベトナム、チリでは魚を3枚におろしてサクにして冷凍して日本に輸出している。それが日本人の弁当の食材になっている。 
 長崎も、大きな魚を獲って鮮度が高いうちに漁港で3枚におろして冷凍し、それを出荷すればよい。小さい魚だと手間賃を出せないが、大きな魚なら手間賃を出すことができる。漁港の近隣には長崎市や佐世保市など少なからず消費してくれる都市もある。輸入品ではなく近海の魚だというアピールもできる。 
 陸のものも海のものと同じ。加工が必要な小麦や大豆は輸入品である。それは農村から都市に出て行った女性たちがつくっている。そして当の女性たちは調理の手間がかからない加工品を求めている。コメを推奨する男性たちは、お菓子屋やパン屋になりたい女性、洋食が好きな女性、料理に時間をかけたくない女性が増えていることに気づくべきだろう。地元の食材を使い、地元の加工場で地元の女性が加工品をつくるのがスマート・テロワールの形である。 


0 件のコメント:

コメントを投稿