2017年8月7日月曜日

長野県の自給圏構築への挑戦


ついにベールを脱いだ長野県の自給圏構築への挑戦!
リポートしました。

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「地域食料自給圏実証実験」事業への取り組み 長野県農政部が初公開

松尾雅彦アドバイザー
 長野県の阿部守一知事は昨年4月、「地域食料自給圏構築」の実証実験事業を始めるに当たり、カルビー株式会社元代表取締役現相談役松尾雅彦氏を「食の地消地産アドバイザー」に委嘱した。   
 
 同時に県農政部は構想の実証試験を始めると発表した。しかし、信濃毎日新聞の記事によると、昨年9月時点では「準備を進めている段階」とのコメントに留まり、開始時期については危ぶまれていたが、去る7月14日、長野県野菜花き試験場佐久支場(小諸市大字山浦:長野県農業 大学校小諸キャンパスに併設)において見学会が開催され、計画の全容と現状が明らかにされた。主催は長野県農政部だが、主催者は松尾雅彦アドバイザーである。


 佐久支場は、しなの鉄道小諸駅から車で10分もかからない御牧ケ原(みまきがはら)地域にある。御牧ケ原は標高約800メートル、東に浅間連峰、南に蓼科山と八ヶ岳を望む風光明媚で緩やかな起伏が広がる台地である。台地ゆえに水が乏しく昔より畑作が多く行われてきた。松尾氏が、日本一美しい農村風景と評される北海道美瑛町と同じになれる可能性があると説く所以である。
  見学会は、昨年夏まで草地だっというほとんど平坦で北側には雑木林がある実験圃場の前で行われた。
 参加者は50名ほど。農業関係者と見られる人々が多かったが、若い人が半数近くいたのにも驚かされた。農業に若い人たちの関心が高まっているのが伺える。

 開会に続いて、主催者である松尾アドバイザーの挨拶と説明があった。配布されたレジュメを見ながら10分ほど。以下に内容を箇条書きする。

[松尾雅彦アドバイザー説明要旨]

・阿部知事は「地消地産」を県政の重要課題としている。この計画はその実現を目指すもの。
・日本全体の食料自給率が73%から39%に下がり、危機的な状況である。
・日本人の主食が肉になり、米国から買う餌で肉を作るようになった。これが根本問題である。
・穀物(小麦、大豆、トウモロコシ等)の大半が輸入である。これが家畜の餌にもなるので、せ めて50%の地域内自給としたい。
・穀物が採れると、加工場が農村にでき、働く人々が増えると農村が一番豊かな地域になる。
・それを実証するため、この試験場で穀物栽培の実証を始めたが、まず慣行栽培から始め、先進国で実証されている理想の栽培形態を5年かけて確立していく。


・野菜の馬鈴薯と穀物の馬鈴薯があるが、根本が違う。この違いも検証する。カルビー株式会社 は1500億円の馬鈴薯製品を作っているが、全部穀物の馬鈴薯である。
・現在一般には米と野菜と果物の農業をやっている。これからはこれらに加えて、畑作穀物と畜 産を行う。これをやると循環型になる。
・私たちが目指しているのはこの循環型農産業構造を東信地域で実現しようということ。

・今までは作ったものを市場に出して終わっていたが、これからは加工業者や畜産業者と手を結 んで循環型の仕組みにしなければならない。この団体戦となる農工連携と耕畜連携を実証するのが今回の実証実験の目的である。
・日本の農家は手の結び方が判らない。手を結ぶということは団体戦を闘うということ。そのた めには契約が大事なのだがそれを守るのが難しい。しかし、やっていかなければならない。
 ・王・長嶋が活躍できたのは、ジャイアンツがあり、セ・リーグがあり、日本野球機構があって、団体戦の仕組みがあったからでである。
・農産業による地域内団体戦の仕組みを作らなければならない。
・そのためには、従事する人々を育て、情報を与え、問題解決をしてくれるプラットフォームが必要である。それが農業試験場であり、大学の農学部などである。
・この試験場で4種類の穀物を作っている。それらが地域の加工業者と契約栽培により規格内品は加工食品になるが、規格外品は飼料として畜産側に無料で提供されます。反対に畜産農家から耕種農家には無料で堆肥が供給されます。この循環体系の成立がこのシステムの焦点です。規格外品と加工残滓を飼料にすることで現状50%以上の飼料コストを1/3に削減し、地元産のハム・ソーセージ・ベーコンになり、畑作穀物は厳選されることで優れた品質の加工食品になり、ウィン・ウィンの関係が構築できる。
・作物栽培は地域性が大切。地域の特性や気候・風土等から長野県を分けてみると、7つとなり、ここは東信地区として一体感を持った地域として考えることができる。人口約42万人で程よい人口である。 
・東信地域は日本でも最も恵まれた地域と言って良い。パッチワークの丘と呼ばれる北海道美瑛町と同じ美しい景観を作ることができる。こういうビジョンをもって、この実証実験事業を進めて頂きたい。
・長野県に先立って、山形大学農学部で平成28年度から実証展示圃の実験が行われており、豚肉の加工品ができ、試食会も行われた。この情報は「農業経営者」という農業月刊誌に毎月リポートされている。

[農政部担当者による実証実験の概要説明]

・平成29年度に新設された事業で、地域内自給圏の実現に向けて、畑作と畜産、農業と食品加工業との連携による地域内循環システムの実証を行うため、次の2つの実証実験を行う。
・実証1:畑作輪作・耕畜連携実証:ジャガイモ・小麦・トウモロコシ・大豆の畑作輪作試験。
・実証2:農産物加工・地域内消費実証:民間業者と連携して畑作物の加工試験、豚肉の加工試験を行う。(加工業者は選定中)更に、消費に結びつける実証も行う。
・この事業は5年計画である。


[山下亨支場長による圃場の実験内容説明] 

山下亨支場長
 下図にあるように、圃場面積は7,500平方メートル。土質は粘土で畑作には適地とは言えないが、粘土地が多いこの地域の実験場とすればむしろ良いのかもと思い選択したとの説明があった。ジャガイモ⇨小麦⇨子実トウモロコシ⇨大    豆の輪作区と連作区に分割さ れ、更に 輪作区が夫々堆肥区と無堆肥区に分割されている。全12区画。これなら、連作区と輪作区、堆肥区と無堆肥区の完璧な比較ができる。それぞれの優位性と有利性を比較する計画。 
 この作付け計画図を読むと、区画割、比較対象、品種、植付け・播種日等が判る。
 この圃場は昨年まで牧草地だった。ある程度の堆肥は入れていたとのこと。
 無堆肥区というのは化学肥料を使うということ。
 子実トウモロコシというのは飼料用のトウモロコシで、北海道で作られているだけで本州では試作段階である。

 更に、この実験事業は県営の他の3つの試験場でも分担して行われているとの説明。
 その分担は次の通りである。
・大豆・麦:長野県農業試験場 須坂市
・トウモロコシ:長野県畜産試験場 塩尻市
・ジャガイモ:長野県野菜花き試験場佐久支場 小諸市

 この他にも、この近くの北御牧試験場で、小麦だけ昨年秋種まきし、現在収穫が済んでこれから加工に回る予定という。

 管理面であるが、それぞれの区画の土壌分析を物理性だけでなくバクテリア等の生物性もバイオロムを使用して計測し、土作りの変化を観測しているという。
 長野県と民間企業が共同開発したクロップナビを圃場に設置し、気温、地温、降水量、濡れ時間等を定時観測している。土壌水分センサーも設置されている。
 電牧柵は、協和テクノ株式会社が開発したトラクターの出入りのために脱着できるシステムを設置している。

 以上で山下支場長の説明が終わり、自由見学となった。生育の様子やジャガイモの試掘も行われ、皆試験場が行う農業の実際を興味深く観察していた。
 圃場の中で、2~3のメーカーによるGPS機能を備えたドローンを使った薬剤散布や葉色観察の説明・実演が行われた。AI能力のすごさが判り、農業の合理化には欠かせないものと実感した。

 素晴らしい取組である。松尾アドバイザーの指導力と現場の職員の意気込みが実感できた見学会でした。
 「東信自給圏をつくる会」を立上げようと「東信自給圏を考える会」を展開している我々にとって大きな励みとなりました。以上、リポート致します。

平成29年7月20日

NPO法人信州まちづくり研究会
〒384-2305 長野県北佐久郡立科町芦田2076-1
副理事長・事務局 安江高亮
090-3148-0217

yasue@smk2001.com

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