住宅生産性研究会(HICPM:理事長戸谷英世)が発行しているメルマガを転載させて頂きました。
建設省で都市・住宅開発を研究・経験された戸谷理事長ならではの視点で,日本の進むべき道が示されていると思います。
日本の都市開発,住宅地開発,まちづくりのあり方を客観的に考えることができます。
できる限り,専門用語は関連サイトにリンクさせました。
尚,下記HICPMのホームページから,まちづくり,都市開発,住宅づくりに関する多種多様な情報を見ることができます。また,メルマガの配信を申込むこともできます。
http://www.hicpm.com/
日本の都市計画とまちづくり,そして住宅造りはこのような考え方でいくべきだと考えております。ご活用下さい。
青の小文字は補足説明です。アンダーライン部分はリンクしています。
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みなさんこんにちは
先週は「三種の神器」関係の小規模な個人セミナーを3回も実施し、住宅地経営をめぐってニューアーバニズムによる住宅地計画の技術と、リースホールドにする場合の土地管理団体の設立のための相談など、住宅地経営管理関係の仕事が目白押しに続きました。
その中で重要な問題に関し、なぜ、HICPMに技術を学びにくるのかという理由は、欧米の住宅地開発を紹介して来たこれまでの努力が一定の具体的成果が表れてきたからだと思います。それは私の住宅地開発との取り組みと不可分の関係があると思います。そこで、これまでの私の個人史を含む「HICPMによる都市開発に対する取り組みの概要」をご説明いたします。
『リースホールド』借地で事業をするとき政府が進めている定期借地権制度によらないで、㈱大建は何故、欧米のリースホールドにしたのか。それは、日本の借地借家法による定期借地制度では、50年の定期借地期限がきたとき、住宅所有者は建てられた住宅は取り壊し、更地にし、地主に土地を返還することを義務付けています。つまり、50年後には建設廃棄物になる住宅不動産をつくっているのが定期借地制度です。そのため、定期借地権つき住宅は、住宅を建設したときから50年後に住宅を取壊すときまで一貫して資産価値は減少し続け、最後は、住宅の取り壊し費用の負担という損失が残ります。
一方、㈱大建でやっているリースホールドは、民法で定められた「契約自由の規定」を根拠に、日本の定期借地制度と喧嘩をしないで、契約を優先して実施するものですから、政府もいちゃもんをつけられません。99年の定期借地権が切れたとき、住宅は㈱大建のものになりますが、居住者はその後も同じ住宅に継続的に借家人として住み続けることができます。勿論、地主の財産になった住宅を借地人が買い戻すことも可能です。リースホールドによる住宅地は、居住者によるコミュニティが半永久的に育ていき熟成し続けます。
都市開発と私の個人史
私は建設省に入省してから、当時日本の最先端として都市開発を推進してきた日本住宅公団の技術者から団地開発の近隣住区理論と実践を学び、全国の市町に区画整理事業との合併事業を含む住宅地区改良事業(スラムクリアランス)での再開発(札幌:光星、広島:元町、京都:崇仁、下関;竹崎、神戸:番町、大阪:愛隣、東京:堤方等)を、国庫補助事業の指導を通して全国100弱の改良地区で実践したことに始まります。
インドネシアで3年間、日本住宅公団で検証された「施設計画論」を、日本住宅公団から派遣された石黒さん(高蔵寺ニュータウンの設計者:津端さん、つくばニュータウンの設計者:土肥さんの系列の経験を継承した設計者で、つくばニュータウンでがんばっていた)を中心に、建設省から派遣された長谷川さんと私が協力して、インドネシアの状況に読み替えて適用する大規模住宅団地開発計画に参加しました。
また、宅地開発公団と日本住宅公団との合併後の住宅都市整備公団で、創設以降5年間都市開発調査課長として合併公団の矛盾した事業手法の間で、都市計画に関し住宅都市公団がやってきたことと並んで世界の住宅地開発を調査研究する立場にありました。この時代に、英国の過去から現在までの住宅地開発を体系的に学ぶことができました。
その間、日本の都市開発を直接推進する立場で住宅地を計画し、建設し、それらはものづくりに偏重していることを感じてきました。そこでは都市の生活文化を創造するのではなく、住宅の量的供給中心に開発の目的がおかれてきた間違った開発のやり方であると感じていました。そこで私が実際に取り組んだ事業は、既存の計画理論や計画基準に適合しない前例に縛られないで、そこで生活している人びとの絆を育てることや、社会・経済的利益を優先して、敷地条件に合わせて「住宅棟北面配置」、「中廊下住宅」、「低層高密度開発」などの事業をしてきました。
HICPMの街づくりの取り組み
「住宅を取得することにより国民が資産を失い、不幸になっている」日本に比べ、欧米工業先進国では、「住宅を取得することで、住宅が経済的な後ろ盾となり、生活の基盤が守られている」ことを再確認し、住宅生産生研究会を設立し、欧米で実現している必然的理由を発見して、それを日本の住宅産業に技術移転をしようと考えました。
そこで15年ほど前(1995年)、プラザ合意後の輸入住宅促進で米国の日本への関心が高まったころペンシルベニア大学MBA資格のある千田さんと一緒になり、HICPMの事務局長を担当してもらい、そのコミュニケーション技術を生かし、NAHBとの外交をしてくれることになりました。そこに、私の著書を読んで住宅問題の関心を高めいた近藤鉄夫元大臣が、一緒にHICPMの運動をすることになり、急遽、理事長に就任してもらい、NAHB(全米ホームビルダー協会)と相互協力協定を締結することになりました。
HICPMが技術移転を受ける直接の対象としては、世界最大の住宅産業規模と、多様な需要層に対した多様な取り組みを創造的に実施してきた米国から学ぶことが、最も分かりやすく、優れた技術移転を可能にできると考えました。
米国では「住宅を取得することは、長期預金をするよりも有利な資産形成の方法」であるという現実を見せつけられて、「資産形成のできる住宅はどのような条件にある住宅か」ということを研究することになりました。
その鍵は、米国の住宅金融が住宅の資産(不動産)評価をベースに行っていること(モーゲージ:住宅ローンはローン借受人が返済不能になることを条件に,差し押さえた住宅が一般の住宅市場で売却できる際の売却益を上限にしてしか融資しないという金融)にあり、その住宅資産は、住宅地経営にその鍵があるということが分かりました。
『住宅ローン』ノン・リコースローンです。融資に伴う求償権(right of indemnity)の範囲を物的担保に限定するため担 保物件以外は遡及されないローンで,担保物件を売却して債権額に満たない場合でも,それに対す る一切の債務から免責される。保証人の必要も,残債の請求もありません。
TNDとサステイナブルコミュニティー
米国において、1980年代が大きな時代の転機となり、ニューアーバニズムによる住宅地経営がなされていない住宅地の住宅は、資産価値を維持向上することができないことを見せつけられました。
HICPMの取り組みは、住宅の資産価値を維持向上するためには、TNDが米国で受け入れられた社会経済関係を背景にしたメカニズムを勉強し、それをわが国に技術移転することをしなければいけないと考えるようになりました。
DPZ(アンドレス・ドゥアーニー、エリザベス・プラター・ザイバーグ建築家夫妻)によるTND(伝統的近隣住区開発)の理論と実際(シーサイド、ケントランド、ウインザー、ハーバーランド、セレブレーション)やピーターカルソープによるサスティナブルコミュニティの理論を書籍で学び、実際(ラグナーウエスト、ノースウエストランディング、ザクロッシング)等の開発現場を多数見学して回りました。
その結論は、現代でも人びとが生活したくなるような過去の人類の優れた住宅地の計画理論とその実績を学び、それを現代の社会経済環境に生かしたものであることが分かりました。
それらの調査研究成果はHICPMビルダーズマガジンに掲載してきたほか、「アメリカの住宅地開発」(学芸出版)のほか、HICPM作成の「米国における最新住宅地開発」「米国における伝統的近隣住区開発(TND)」、「住宅地開発のデザインガイドライン」等として利用可能な資料として纏められています。
ニューアーバニズムに基づく住宅地計画
第2次世界大戦終了後、世界の先進工業国の経済は右肩上がりを基調に成長し、都市はその内部で処理できない問題を郊外へスプロールしていくことで解決してきました。
しかし、それは問題の正しい解決ではなく、内部問題を外部化させただけで、環境・安全・経済・社会問題(「都市内部の空洞化」と「郊外住宅のセキュリテイの悪化」及び都市の自然環境の悪化)の破綻という付けを市民にもたらす結果になりました。
しかし、それは問題の正しい解決ではなく、内部問題を外部化させただけで、環境・安全・経済・社会問題(「都市内部の空洞化」と「郊外住宅のセキュリテイの悪化」及び都市の自然環境の悪化)の破綻という付けを市民にもたらす結果になりました。
ニューアーバニズムの計画理論は、ハワードが、過去の住宅地経営の経験を総括して、近代社会でその経験を計画理論・都市経営理論として纏めたガーデンシティ理論の中で明らかにした基本を、「重厚長大産業から、軽薄短小産業へ」という現代社会の中に読み替えて理論化したものであることが分かりました。
私が中央政府の技術官僚や、住都公団の計画技術管理職として疑問に思っていたことを、米国における戦後の住宅地開発の見直しは、分かりやすい形で、日本の都市開発の欠陥を明らかにする結果になりました。
米国で取り組まれた新しい都市開発は、そこで対象にされる人のライフスタイルを生かし、経済力と生活ニーズに応える街づくりとして取り組まれなければならないという当然の前提に立つ街づくりでした。
生活者のライフスタイルが見えない住宅地や、家計支出から逸脱した住宅を建設して住宅ローン返済のために生活が破壊されるような住宅など、住宅地開発としては問題外の開発です。
ニューアーバニズムとは、ハワードの住宅地経営論に戻れということであったのです。その調査研究の成果は、できるだけ多くの人達に知らせるべく、「アメリカの住宅地開発」(学芸出版)及び「アメリカの住宅生産」(住まいの図書館)として公刊されています。
サスティナブルハウスから街並み景観作りによる住宅地開発
HICPMは、1999年に常滑(愛知県)で名古屋国際木工機械展に合わせて「サステイナブルハウス」事業として実施しましたが、不十分な結果しか実現できませんでした。その後、浅井(滋賀県長浜)で最初の3次元の街並み計画を取り入れた住宅地計画が実施されましたが、この計画はモデルホームとしてサスティナブルハウスを建設したところで、開発計画とモデルホームは高い評価を受けたにも拘らず、事業主が計画を中断して、計画は実現しませんでした。
東宮花の森グラチア
その後、宮崎県でHICPMの会員であるアービスホームがニッポ(旧日本土地開発)の大規模区画整理開発地で、その一部に日本で初めて三次元で街並み計画をした開発「東宮花の森:グラチア」が実現しました。
この計画は谷口さん(アービスホーム社長)がサウスキャロライナの多くのTNDプロジェクトを見学し、それに倣った事業をしようと考えました。新しいTNDの考え方を事業計画に取り入れるため、HICPMとカナダのトレードワークスが依頼を請け、そこで纏めた基本計画で実施しました。
この事業は基本計画面でもサスティナブルハウスで追及したCMによる高生産性を実現し、アービスホームに高い利潤を齎しました。現在、既に建設後10年経過していますが、この開発地はニッポの東宮花の森の中で最も美しい住宅地に育っています。
当初ニッポの住宅地は非常に売れ足の悪い住宅地でしたが、グラチアを見て「すばらしい住宅地が出来る」と考えた人達は、土地を購入し、自分の思いをこめて住宅を建築しました。しかし、そこでできた住宅は以前の貧しい住宅地にしかなりませんでした。
グラチアがTNDの考え方で実施したことは、この住宅地に住む人が協力して「セットバック」、「アースカラーの中からの色彩の選択」といった共通のルールを守って「人の和(絆)による環境形成をした「相乗効果の発揮できる」街並み景観を築いたことにあります。その結果、経年するにつれ人びとの絆の強まりが町を熟成させてきました。
ランドロードの利益を中心においたムカサガーデン
100年定期借地権事業としてレンガによる住宅を建設していたロッキーハウス(大熊社長:税理士)は、新しい住宅地を提供していました。この事業を見て、私は英国のランドロードによる街づくりと共通したものを感じ、大熊さんに英国のハワードによるレッチワースガーデンシティを見学するようにお勧めしました。
英国のリースホールドで造られた住宅地のレンガによる住宅を大熊さん以下事業関係者がご覧になって、私がお話していることが現実の住宅地開発で行われていることを確信されたようでした。
そこでムカサガーデンのマスタープランの作成の協力を依頼され、これまでの浅井の住宅地計画の経験から、HICPMで取りまとめたサスティナブルハウスを基本とした計画条件をカナダのトレードワークスの協力を得て纏めることにしました。
その計画は期待通りの内容になっていましたが、当時定期借地事業に対して住宅ローンがつかないということもあり、大熊さんのほうでは事業を進めたくても進められないという時期が続きました。また、開発許可の関係で、行政がこの地区の開発に便乗して地域の連絡道路を造らせようとしたことも事業を妨害していました。
結局、カナダで作成されたマスタープランはそのとおり利用されないで、全体のイメージを参考にしたというだけになってしまいました。モデルホームの設計もカナダでなされたのですが、総て使われないままで、ロッキーホームで実施設計を行って実現しました。しかし、この計画はレンガの使い方は、これまでの「レンガタイルの使い方」ではなく、
「レンガとしてのデザインをした」ことで大きな成功を齎しました。セットバックをすることで大きなみどりの道路空間に街並みを構成することになった住宅は、同じ窓を同じリズムで使った結果、全体の街並みが「街並み(ストリートスケープ)は唄(ポエム)である」という言葉のとおり、相乗効果を発揮することが出来たことにあります。
工藤建設によるガーデンヒルズ
この事業に啓発されて、横浜の工藤建設がレンガによる英国のコートハウスをイメージした100年的借地権事業が実施されました。この事業は「マークスプリング」の設計者HICPM理事の渋谷理事がデザインを提案し、ムカサガーデンを推進したHICPMの大熊監事の指導で100年定期借地権事業に倣って進められました。
レンガに関しては、黒瀬さんの指導によるレンガのデザインが採り入れられました。HICPMに対しては長期優良モデル事業にするためのシステムの支援を求められ、「三種の神器」のシステムを提案に取り入れてもらいました。(結果として第1回長期優良モデル事業の街並み部門で採択されました)
この事業は計画面では、TNDの考え方を取り入れたものですが、ニューアーバニズムの計画理論どおり実践したものではありませんし、リースホールドによる住宅地経営としても、「三種の神器」自体も、工藤建設内部の諸事情で、実行段階でHICPMが指導した基本とはかなりずれたものになっています。
ニューアーバニズムによる日本最初の事業:泊山崎ガーデンテラス
この計画をさらに飛躍的に進めた事業が四日市市のアサヒグローバル(久保川社長)による「泊山崎ガーデンテラス」です。久保川さんとは、フロリダにあるTNDのメッカとも言うべきシーサイドを一緒に訪問し、その計画理論もよく理解しておられたということで、コンサルタントとして取りまとめたHICPMの欧米の経験を下にした提案を基本的に守って事業に取り組んでくださいました。
その計画は、目下、約半分の住宅が完成又は工事中になり、全体のイメージを十分想像できる段階になっています。この住宅地を訪問した人は異口同音にこの開発規模(約3000平方メートル)で、このような開発許可基準の8倍もある(800平方メートル)ビオトープ(水の流れる自然公園)のある住宅地に驚きの声を上げています。
久保川さんは、全体が完成するまでは公式な見学会は行わないといっておられますが、私はできるかぎり多くの人達にこの開発を見学し、ニューアーバニズムによる計画を「三種の神器」の住宅地経営管理の技術で実践してもらいたいと願っています。
自動車を見ることのない住宅地の前面には各住宅が夫々の個性を生かしたガーデニングの競演した公園が広がり、そこでは水が流れ蛍が舞い、花が咲き乱れることになります。幅15メートル長さ50メートルを超すこの公園は、総ての住宅居住者の誇りにすることの出来る宝で、個人の力では得られない住環境となっています。
ビオトープを採り入れた英国型リースホールドによる荻の浦ガーデンサバーブ
この開発で取り組めなかった問題を含んで、本格的なリースホールドによる「三種の神器」を生かした取り組みを、今福岡県の大建(松尾社長)の元で取り組んでもらっています。
松尾社長には、居住者の資産となる住宅を居住者の家計支出の範囲で供給することがなければ工務店としての意味はないと考えて、そのモデルとなる英国、米国、ドイツなどをわたくしと一緒に見学してもらいました。
そのうえで、HICPMの過去の取り組みを考えたうえで、目下大建の顧問として事業支援をすることに合意し、事業計画は双方が完全に了解しあう内容の事業をするという年間契約を締結しました。
目下、わたくしはこのプロジェクトを自分自身の事業と考えて、大建の松尾社長以下社員の皆さんと同じ船に乗ったつもりで実現に尽力しています。
既に計画の基本方針はまとまり、開発許可を得たという段階で、年内に着工という運びにあります。この計画に関し、HICPMホームページで紹介したいと思っています。
以上
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