農業技術通信社の農業総合専門サイト「農業ビジネス」から 転載致しました
素人にとって、難しい、よく判らない、が現実。
日本の保険・医療制度が崩壊する。
農業が壊滅する。
ISD条項(投資家対策)でやたらと金をふんだくられる。
等々の恐怖論、日本破綻論が氾濫している。
一方で、そんなことはない、むしろ自由公正な貿易ルールのプラットフォームができて、
加盟国は発展の機会を掴むのだ。
日本の農業も世界に打って出る大きなチャンスとなる。
等々の期待論もある。
ここでは、その両方の主張を拾って 、比較検討の材料にします。
「来たれ!TPP【前編・基本講座】2016年02月04日」
http://agri-biz.jp/item/detail/4240
TPPは日本の将来にとってどんな意味があるのか。農業界にどんな影響があるのか。
そして、農業経営者はどう動くのか。その基本、活用法、実践法を3回連続特集で
お届けする。 構成/浅川芳裕
(掲載者註:全文を載せるには長過ぎますので、要点のみ掲載します)
PART1 TPP合意の意義と展望
国際通商交渉の第一人者が、TPP合意について10の疑問に答え、
その本質的メリットに迫る。
【TPP交渉の総合評価】
今回のTPP交渉をどう評価するべきか。2015年10月5日のTPP大筋合意で日本は何を獲得し、何を失ったのか。この問題は年明けの国会でも取り上げられており、いまや国民的関心事となっている。
昨年は終戦から70年の年であると同時に、日本の戦後国際社会への復帰の第一歩だったGATT(関税貿易一般協定)加入から60年、GATTの後継機関で あるWTO(世界貿易機関)設立から20年の節目の年だった。その年にTPP大筋合意ができたことは歴史的に重要だった。なぜなら、TPP合意により日本 の貿易自由化の歩みがいよいよ完成期に入ったといえるからである。
TPPが成立すれば日本は究極の貿易パートナーであるアメリカとFTA関係に入ることで「経済安保」を確立したことになる。TPPにより経済的安定とビジ ネスの予見性を獲得し、国際経済に内在する不確実性を減少させることができた意義は大きい。コメや麦、牛肉や豚肉などいわゆる「重要5品目」についても関 税撤廃の原則適用を逃れたわけで失ったものは何もないと筆者は考えている。その農業でさえ、筆者はTPPでさらに強くなれる基盤を国内外で整えていく機会 を得たと見ている。
Q1:TPPの日本経済への効果はどの程度のものか。
GDP1.6%との評価もあるが、それは妥当か。
A1 :TPP参加各国の関税撤廃による日本製輸出物品の関税負担額の軽減効果は一般的に「静態的効果」とされているが、それだけではなく、投資や競争、 SOE(State-owned Enterprise=国営企業)に関する規律などルール面での規律がTPPによって確立されたことが重要である。このような新たなルールはまだ完全なも のではないにせよ、今後アジア太平洋地域におけるルール策定の「ひな型」となるものであり、ビジネスを円滑に行なうための法的基盤を提供する。このような 新たなルール形成によるTPPの「動態的効果」は「静態的効果」を超えてその波及効果はさらに大きい。
Q2 :安倍政権の決定と交渉方針をどう評価するか。
A2 :12年12月の政権奪取後の安倍政権の取り組みは準備周到で効率的だった。まず13年2月に日米首脳会談を行ない、そこで日本にとっての農業とアメリカに とっての自動車を日米双方の「センシティビティ」(痛みを感じる部分)として特定し、その後3月に交渉参加を正式決定、4月に基本的には日米で「痛み分 け」の構造を作り上げ、いわば「センシティビティの交換」という形で「例外なき関税撤廃」というTPPの当初の大原則を修正し、このことをアメリカに認め させたのはその後の交渉を促進するうえでたいへん有益だった。
交渉態勢についても内閣府にTPP対策本部を設置し、従来のEPA交渉に比べてより首相権限に直結した形で交渉チームを構成したことは迅速な交渉とそのた めの国内環境づくりを効果的に促進した。TPP交渉は10年3月から始まっており、日本はそれから3年4カ月遅れての交渉参加だったが、この遅れは日本に とっては不利に働くどころか、むしろ日本が交渉参加してから関税撤廃の例外が認められることになるなど、日本が「ゲーム・チェンジャー」として存在感を発 揮したとさえ思われる。さらに、アトランタでの最終局面においては、甘利明TPP担当大臣が交渉決着に向けてマイケル・フロマンUSTRに強く迫るなど、 妥結に大きく貢献した形となった。
Q3 :市場アクセス(関税撤廃・削減)に関する交渉結果をどう見るべきか。
A3 :TPP交渉の結果、日本以外の11カ国の最終的な関税撤廃率は99%台であり、発効後ほぼ10年でTPP参加国の関税はなくなることになる。これは日本に とって大きなメリットがある。他方、日本の最終的な関税撤廃率は95.1%となっているが、これは工業製品では100%と完全な自由化になるものの、農林 水産品では81.2%と参加国中最低レベルにとどまっていることによる。ちなみに、日本以外の11カ国は農林水産品についても98.5%の関税撤廃率と なっている。(【表1】を参照)
日本の輸入農産品について見ると、センシティビティの高いいわゆる「重要5項目」については全体で586品目あるうち、輸入実績がないものや国内生産者へ の影響がないと判断された約3割に相当する174品目について関税を撤廃することとした。他方、それ以外の約7割については関税を維持することで合意して いる。(【表2】を参照)
たとえばコメについては、国家貿易により輸入するものについてはアメリカに当初5万tの数量枠を3年間維持した後、段階的に増加して発効後13年目以降は 7万tにすることで合意した。オーストラリアにも13年目以降8400tの枠を設定した。国家貿易以外によるコメの輸入については現行税率である1kg当 たり341円を維持することが合意され、これが日本側にとっての「最大の成果」となっている。
牛肉については、現行の38.5%から16年目以降に9%に下がり、豚肉については、現行4.3%の高価格帯のものについては発効後10年目でゼロになる が、低価格帯の豚肉にかかる従量税は現行の1kg当たり482円から10年目に同50円にまで削減されることになった。これらについては輸入急増に対応す るためのセーフガード措置(緊急輸入制限)も用意されている。
このように日本のセンシティビティに配慮した十分な例外措置が確保された一方で、他方では日本からの自動車・自動車部品輸出についてはアメリカ側のセンシ ティビティに配慮した形で関税撤廃は大幅に先延ばしになった。乗用車の場合、現行2.5%の関税は15年目から削減が始まり、25年目にようやく撤廃とな る。トラックは現行30%と高関税だが、これについては何と29年間関税を維持し、30年目でやっと撤廃となる。これは日本の自動車工業界にとっては必ず しも朗報ではないが、他方では自動車部品についてはその87%が即時関税撤廃されることには大きな意味がある。日本の自動車メーカーによるアメリカでの現 地生産台数は約250万台であり、日本からの輸出台数の約180万台を超えているからである。
このような「センシティビティの交換」とでも呼ぶべき市場アクセス交渉をどう評価するべきだろうか。従来の日本の農業保護主義に鑑みれば、TPP交渉にお いては大きな政治的決断がなされたと評価することができるが、他方では日米というTPPを代表する貿易大国が互いのセンシティビティを擁護する形で高関税 を維持したり撤廃を大幅に先延ばししたことは自由貿易という名の下に行なわれた「管理貿易」とのそしりを免れない。とくにコメについては日本での価格が1 俵(60kg)当たり約1.2万円程度まで下がってきた一方で、アメリカ産の高級米がドル高円安の影響もあって同水準にまで上がってきたことにより、コメ の内外価格差がなくなりつつあるときに、果たして高関税で国産米を保護する必要があったのかという根本的疑問は残っている。
Q4 :TPPについては、食の安全や日本の皆保険制度が脅かされるなどの(あまり根拠のない)懸念が抱かれた。何が原因か。
A4 :JA全中(農協)がTPP反対の「多数派工作」をしたもの。JAは医師会、弁護士会などを巧みに抱き込んで反対運動を組織化し、全国的に展開していった。
Q5 :TPPの「経済」を超えた重要性についての評価如何。戦略的な価値はあるか。
その中身はどうか。
A5 :市場経済、法の支配、人権、民主主義などの西洋型普遍的価値体系がTPPを通じて東アジア圏に広がる基本を形成したといえる。ASEAN(東南アジア諸国 連合)やRCEP(東アジア地域経済連携)などにも制度構築のうえで重要なインパクトがありうる。その意味でTPPは極めて「戦略的」といえる。
Q6:TPPのアメリカ議会での承認について。その可能性と時期はどうか。
A6 :TPPをめぐるアメリカ議会の動向は不透明である。批准のためには上下両院で多数派を擁している共和党の賛成が不可欠だが、バイオ医薬品のデータ保護期間 の12年から8年への短縮は党内ですこぶる評判が悪い。共和党の指名選挙の前哨戦でトップを走るトランプ氏は明確にTPPに反対している。また、自らが国 務長官時代には明示的にTPP推進派だったヒラリー・クリントン氏も「現在のTPP」には賛成できないと条件付き反対を表明している。したがって、TPP 承認の今後の展開はよくわからないし、決して楽観できない。
推察の域を出ないが、一つのシナリオとして蓋然性が高いのは、「本命」とされる民主党のクリントン候補が大統領選を制した場合、オバマ大統領の花道を飾る 形で今年11月の大統領選挙後に共和党と超党派で批准に合意、TPP実施法案を通過させ、発効に至るという流れが想定される。このシナリオでさえ相当楽観 的と思われるが、その場合でもTPPの発効は早くて2017年年初ということになる。
Q7:日米関係に及ぼす影響にはどのようなものがあるか。
A7 :日米経済関係は戦後1950年代の繊維に始まり、鉄鋼、造船、テレビ、ボールベアリング、半導体、自動車と日本の経済発展の花形的産品で常に「摩擦」を経 験してきた。その日米両国がFTA関係に入ることは極めて重要であり、画期的といえる。日米は政治軍事面での同盟関係である日米安保条約を1960年以来 有しているが、経済面ではこれまで包括的な法的枠組みを持っていなかった。その意味でTPPは日米間の「経済安全保障」の枠組みであり、日米間で将来にも 紛争は起こりうるが、TPPの紛争解決メカニズムがビルトインされたことで経済問題の「政治化」が起こりにくい。これは双方にとって大きなメリットであ り、経済関係の安定化に大きく寄与する。
Q8 :中国に与える影響。中国の参加についての展望。
A8 :中国が2、3年以内にTPPに参加することは難しいが、RCEP交渉の進展がはかばかしくなければTPPに中国が乗り換える可能性は十分にある。TPP入 りは中国にとって「第二の入世(WTO加盟)」ともいわれている。中国は従来RCEPにその軸足を置いてきた。しかし、RCEP交渉はインドやインドネシ アが貿易投資の自由化に積極的ではないことからスピード感をもって東アジア地域のコネクティビティを改善していくことができないことに中国自身がフラスト レーションを感じ始めている。以前から中国の識者の一部には「TPPは西洋医学、RCEPは漢方医学」と両者の違いを説明する向きがあったが、中国社会科 学院の永久会員である張愠琳氏はTPPとRCEPの「補完性」を指摘し、両者は対立するものではなく相互に補完しあう枠組みであると筆者と共に出演した NHK国際放送の番組などで述べている。
Q9:他のアジア太平洋諸国も次々と参加すると考えていいのか。
A9 :インドネシア、CLM(カンボジア、ラオス、ミャンマー)のASEAN4カ国は当面難しいだろう。インドネシアについてはアトランタ合意の後、オバマ大統 領と会談したジョコ・ウイドド大統領は自国もTPPに参加したいとの意向を表明したと報道されている。韓国、タイ、フィリピン、台湾などはすでに正式に参 加表明するなど積極的である。参加のためには現加盟国12カ国との交渉を経る必要があり、そのプロセスは決して容易ではないが、TPPがAPEC(アジア 太平洋経済協力)の自由貿易圏であるFTAAPの中核となることはほぼ確実である。
Q10:広く、世界の貿易秩序に与える影響はどうか。
米・EU間のFTAであるTTIPや日本・EUEPA交渉の動きを加速することになるか。
A10 :TTIP(環大西洋貿易投資パートナーシップ。アメリカとEU間の自由貿易協定)には「古くて新しい問題」、たとえばGI(地理的表示)やSPS(衛生検 疫措置)協定の「予防原則」をめぐる問題がくすぶっており、ISDS(投資にかかる投資家対国家の紛争処理)に見られるような欧州側の疑心暗鬼もあり、 「規制収斂・凝集性」の分野が難問となっている。しかし、TPP合意は全体として欧州に対してもやはりポジティブなメッセージといえる。日・EUについて は、EUが野心的になり過ぎなければまとまるが、現時点ではEUはTPP以上のMA(市場アクセス)を主張しており、難航している模様である。日本側も TPPの国会手続きとの関係で大胆な農産品関税撤廃・削減を提示できない国内事情があり、15年の年内妥結には至らなかった。
ASEANやAllianza del Pacifico(太平洋同盟=メキシコ・コロンビア・ペルー・チリ)等の穏健派途上国をlike-minded countries(政策や基本方針などにおいて思いを同じくする国々)としてCritical Mass(全体の方向性を決定するような多数派)を形成し、WTO・DDA(ドーハ開発アジェンダ。一般にドーハラウンド)をまとめ、日米欧加の「旧4 極」主導でWTOの再興を果たすことを目指すのが現実的なアプローチと考える。しかし、問題はブラジル、ロシア、そしてインドである。つまり、 「BRICsマイナス中国・南ア」の国々である。ロシアはまともな製造業がないことと、ユーラシア経済共同体という「似非関税同盟」が問題である。戦略的 には中国とロシアを分断し、中国をTPPに組み入れる一方、ロシアについては極東ロシアを「独立した関税地域」としてAPECの枠組みの中でRCEPに参 加させ、また日本とのEPAを締結する方向へリードするなど、戦略的に対応することが重要と思われる。
【TPPの日本経済にとってのメリットは何か?】
最大のメリットはアジア太平洋地域における生産ネットワークの「シームレス化」である。85年9月のプラザ合意以降、日本の製造業は円高ドル安への流れに 対応するために部品の製造拠点を東アジアの新興工業国(NIEs)や中国に移転させ、部品から最終製品まですべて日本で製造する「made all in Japan」方式から、部品は海外で生産し、それを日本ないしは海外のマザー工場で組み立てて欧米市場に輸出するパターンへ、つまり「made by Japan elsewhere」方式へ移行した。
その動きを加速したのがASEANのFTA(AFTA)形成だった。日本の製造業はASEAN域内で最適立地を模索し、各国に直接投資を活発に行なって部 品の現地生産を拡大した。その部品をAFTAのCEPT(包括的実効特恵関税)スキームに乗せて40%以上の付加価値を付けた場合には関税ゼロで ASEAN域内を動かすことができたため、次第に域内に工程間分業のメカニズムが構築されることになる。
このような産業内分業のメカニズムを確固たるものにしたのは日本のASEAN諸国との二国間EPA(経済連携協定)であり、2002年11月に発効した 日・シンガポールEPAを皮切りに次々と締結された。こうして日本からの投資を引き金としてスタートした生産ネットワークの構築による「事実上の統合」 (de-facto integration)はEPAという法的枠組みによって補強された「法律上の統合」(de-jure integration)に深化していったのである。そして、その延長線上にあるのがTPPである。
TPPは東アジアの生産ネットワークを太平洋を超えてアメリカ・カナダ・メキシコというNAFTA(北米自由貿易協定)の市場につなぎ、さらにペルーやチ リといった南米諸国、オーストラリアとニュージーランドのオセアニア諸国にリンクさせるものである。こうして世界のGDPの約38%をカバーする地域に継 ぎ目のない、つまりシームレスな自由貿易圏ができたことのメリットは日本にとっては計り知れない。(【図1】と【図2】を参照)
【TPPの利便性、その「しかけ」は原産地規則】
このようなシームレスな生産ネットワークをTPPにおいてさらにメリットのあるものとしているのは何か? その答えは「原産地規則」(rules of origin)でる。とくにTPPの原産地規則は「完全累積」(3・10条)にその特徴がある。これは、(1)他のTPPメンバー国で他の産品の生産に使 用される一または二以上のメンバー国の原産品・原産材料は他のメンバー国の原産品と見なす(モノの累積)、(2)メンバー国での非原産材料による生産は、 その生産が付加価値基準を満たしていなくても産品の原産コンテントに加えられる(生産行為の累積)ことを意味している。このような「寛容な」完全累積原則 の導入により、非TPP参加国を含めアジア太平洋地域に広く生産ネットワークを構築してきた日本の製造業にとっては既存のバリュー・チェーンを活用しやす くなる。
さらに、TPPではすべてのメンバー国を一つの領域と見なし、すべてのメンバー国の領域内を移動する限り原産性を維持することが認められており(3・18条)、第三国経由の場合の立証負担の緩和が図られている。
また、原産地証明の発行手続きも輸出者、生産者、輸入者による「自己証明制度」を採用しており、日本のEPAにおいてこれまで主流だった第三者証明制度に比べて利用者である企業の事務負担が大きく軽減された。
このようなTPPの原産地規則はこれを使用する企業にとって利便性が高まっており、いわゆる「ユーザー・フレンドリー」なものとなっている。
他方では自動車やその部品、繊維・衣類など、よりセンシティブな分野では原産地規則がより細かく規定されていることにも注意すべきだろう。たとえば自動車 の完成車については、控除方式の付加価値基準によるかまたは特定部品7品目の加工工程(14の金属加工)がTPP域内で行なわれれば原産性を付与すること になっている。また自動車部品については、関税番号変更基準と付加価値基準の選択制となっており、特定部品14品目は加工工程(14の金属加工)の一つを TPP域内で行なえば原産性が付与されると規定されている。
繊維・衣類については衣類(HS61類と同62類)および中古衣類等(同63類)は生地がメンバー国の領域で作られた糸から作られている場合のみ原産品と されるとあり、これはNAFTAにおける「ヤーンフォアード(yarn-forward)」と呼ばれる方式を踏襲している。
原産地規則以外にも投資規定、ビジネス関係者の一時入国、政府調達、国有企業などについても日本企業にとってメリットのある規定が随所に見られるが、紙幅の都合からこれらの論点については稿を改めたい。
著者:慶応義塾大学教授 渡邊頼純 (わたなべ・よりずみ)
元・日本・メキシコEPA首席交渉官。慶應義塾大学総合政策学部教授。上智大学大学院国際関係論専攻博士課程単位取得満期退学。南山大学助教授、大妻女子 大学教授、在ジュネーブ国際機関日本政府代表部、GATT事務局、欧州連合日本政府代表部、外務省経済局参事官、外務省参与などを経て現職。著書に 『GATT・WTO体制と日本』(北樹出版)、TPP関連では『TPP参加という決断』(ウェッジ)、『TPPと日本の決断』(編著、文眞堂)、『TPP 交渉の論点と日本』(同)などがある。
【参考文献】
渡邊頼純『TPP参加という決断』
ウェッジ、2011年
渡邊頼純『GATT・WTO体制と日本』
北樹出版、2012年
浅川芳裕『TPPで日本は世界一の農業大国になる』
KKベストセラーズ、2012年
石川幸一・馬田啓一・木村福成・渡邊頼純(編著)
『TPPと日本の決断』文眞堂、2013年
石川幸一・馬田啓一・渡邊頼純(編著)
『TPP交渉の論点と日本』文眞堂、2014年
石川幸一・馬田啓一・高橋俊樹(編著)
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素人にとって、難しい、よく判らない、が現実。
日本の保険・医療制度が崩壊する。
農業が壊滅する。
ISD条項(投資家対策)でやたらと金をふんだくられる。
等々の恐怖論、日本破綻論が氾濫している。
一方で、そんなことはない、むしろ自由公正な貿易ルールのプラットフォームができて、
加盟国は発展の機会を掴むのだ。
日本の農業も世界に打って出る大きなチャンスとなる。
等々の期待論もある。
ここでは、その両方の主張を拾って 、比較検討の材料にします。
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「来たれ!TPP【前編・基本講座】2016年02月04日」
http://agri-biz.jp/item/detail/4240
TPPは日本の将来にとってどんな意味があるのか。農業界にどんな影響があるのか。
そして、農業経営者はどう動くのか。その基本、活用法、実践法を3回連続特集で
お届けする。 構成/浅川芳裕
(掲載者註:全文を載せるには長過ぎますので、要点のみ掲載します)
PART1 TPP合意の意義と展望
国際通商交渉の第一人者が、TPP合意について10の疑問に答え、
その本質的メリットに迫る。
【TPP交渉の総合評価】
今回のTPP交渉をどう評価するべきか。2015年10月5日のTPP大筋合意で日本は何を獲得し、何を失ったのか。この問題は年明けの国会でも取り上げられており、いまや国民的関心事となっている。
昨年は終戦から70年の年であると同時に、日本の戦後国際社会への復帰の第一歩だったGATT(関税貿易一般協定)加入から60年、GATTの後継機関で あるWTO(世界貿易機関)設立から20年の節目の年だった。その年にTPP大筋合意ができたことは歴史的に重要だった。なぜなら、TPP合意により日本 の貿易自由化の歩みがいよいよ完成期に入ったといえるからである。
TPPが成立すれば日本は究極の貿易パートナーであるアメリカとFTA関係に入ることで「経済安保」を確立したことになる。TPPにより経済的安定とビジ ネスの予見性を獲得し、国際経済に内在する不確実性を減少させることができた意義は大きい。コメや麦、牛肉や豚肉などいわゆる「重要5品目」についても関 税撤廃の原則適用を逃れたわけで失ったものは何もないと筆者は考えている。その農業でさえ、筆者はTPPでさらに強くなれる基盤を国内外で整えていく機会 を得たと見ている。
Q1:TPPの日本経済への効果はどの程度のものか。
GDP1.6%との評価もあるが、それは妥当か。
A1 :TPP参加各国の関税撤廃による日本製輸出物品の関税負担額の軽減効果は一般的に「静態的効果」とされているが、それだけではなく、投資や競争、 SOE(State-owned Enterprise=国営企業)に関する規律などルール面での規律がTPPによって確立されたことが重要である。このような新たなルールはまだ完全なも のではないにせよ、今後アジア太平洋地域におけるルール策定の「ひな型」となるものであり、ビジネスを円滑に行なうための法的基盤を提供する。このような 新たなルール形成によるTPPの「動態的効果」は「静態的効果」を超えてその波及効果はさらに大きい。
Q2 :安倍政権の決定と交渉方針をどう評価するか。
A2 :12年12月の政権奪取後の安倍政権の取り組みは準備周到で効率的だった。まず13年2月に日米首脳会談を行ない、そこで日本にとっての農業とアメリカに とっての自動車を日米双方の「センシティビティ」(痛みを感じる部分)として特定し、その後3月に交渉参加を正式決定、4月に基本的には日米で「痛み分 け」の構造を作り上げ、いわば「センシティビティの交換」という形で「例外なき関税撤廃」というTPPの当初の大原則を修正し、このことをアメリカに認め させたのはその後の交渉を促進するうえでたいへん有益だった。
交渉態勢についても内閣府にTPP対策本部を設置し、従来のEPA交渉に比べてより首相権限に直結した形で交渉チームを構成したことは迅速な交渉とそのた めの国内環境づくりを効果的に促進した。TPP交渉は10年3月から始まっており、日本はそれから3年4カ月遅れての交渉参加だったが、この遅れは日本に とっては不利に働くどころか、むしろ日本が交渉参加してから関税撤廃の例外が認められることになるなど、日本が「ゲーム・チェンジャー」として存在感を発 揮したとさえ思われる。さらに、アトランタでの最終局面においては、甘利明TPP担当大臣が交渉決着に向けてマイケル・フロマンUSTRに強く迫るなど、 妥結に大きく貢献した形となった。
Q3 :市場アクセス(関税撤廃・削減)に関する交渉結果をどう見るべきか。
A3 :TPP交渉の結果、日本以外の11カ国の最終的な関税撤廃率は99%台であり、発効後ほぼ10年でTPP参加国の関税はなくなることになる。これは日本に とって大きなメリットがある。他方、日本の最終的な関税撤廃率は95.1%となっているが、これは工業製品では100%と完全な自由化になるものの、農林 水産品では81.2%と参加国中最低レベルにとどまっていることによる。ちなみに、日本以外の11カ国は農林水産品についても98.5%の関税撤廃率と なっている。(【表1】を参照)
日本の輸入農産品について見ると、センシティビティの高いいわゆる「重要5項目」については全体で586品目あるうち、輸入実績がないものや国内生産者へ の影響がないと判断された約3割に相当する174品目について関税を撤廃することとした。他方、それ以外の約7割については関税を維持することで合意して いる。(【表2】を参照)
たとえばコメについては、国家貿易により輸入するものについてはアメリカに当初5万tの数量枠を3年間維持した後、段階的に増加して発効後13年目以降は 7万tにすることで合意した。オーストラリアにも13年目以降8400tの枠を設定した。国家貿易以外によるコメの輸入については現行税率である1kg当 たり341円を維持することが合意され、これが日本側にとっての「最大の成果」となっている。
牛肉については、現行の38.5%から16年目以降に9%に下がり、豚肉については、現行4.3%の高価格帯のものについては発効後10年目でゼロになる が、低価格帯の豚肉にかかる従量税は現行の1kg当たり482円から10年目に同50円にまで削減されることになった。これらについては輸入急増に対応す るためのセーフガード措置(緊急輸入制限)も用意されている。
このように日本のセンシティビティに配慮した十分な例外措置が確保された一方で、他方では日本からの自動車・自動車部品輸出についてはアメリカ側のセンシ ティビティに配慮した形で関税撤廃は大幅に先延ばしになった。乗用車の場合、現行2.5%の関税は15年目から削減が始まり、25年目にようやく撤廃とな る。トラックは現行30%と高関税だが、これについては何と29年間関税を維持し、30年目でやっと撤廃となる。これは日本の自動車工業界にとっては必ず しも朗報ではないが、他方では自動車部品についてはその87%が即時関税撤廃されることには大きな意味がある。日本の自動車メーカーによるアメリカでの現 地生産台数は約250万台であり、日本からの輸出台数の約180万台を超えているからである。
このような「センシティビティの交換」とでも呼ぶべき市場アクセス交渉をどう評価するべきだろうか。従来の日本の農業保護主義に鑑みれば、TPP交渉にお いては大きな政治的決断がなされたと評価することができるが、他方では日米というTPPを代表する貿易大国が互いのセンシティビティを擁護する形で高関税 を維持したり撤廃を大幅に先延ばししたことは自由貿易という名の下に行なわれた「管理貿易」とのそしりを免れない。とくにコメについては日本での価格が1 俵(60kg)当たり約1.2万円程度まで下がってきた一方で、アメリカ産の高級米がドル高円安の影響もあって同水準にまで上がってきたことにより、コメ の内外価格差がなくなりつつあるときに、果たして高関税で国産米を保護する必要があったのかという根本的疑問は残っている。
Q4 :TPPについては、食の安全や日本の皆保険制度が脅かされるなどの(あまり根拠のない)懸念が抱かれた。何が原因か。
A4 :JA全中(農協)がTPP反対の「多数派工作」をしたもの。JAは医師会、弁護士会などを巧みに抱き込んで反対運動を組織化し、全国的に展開していった。
Q5 :TPPの「経済」を超えた重要性についての評価如何。戦略的な価値はあるか。
その中身はどうか。
A5 :市場経済、法の支配、人権、民主主義などの西洋型普遍的価値体系がTPPを通じて東アジア圏に広がる基本を形成したといえる。ASEAN(東南アジア諸国 連合)やRCEP(東アジア地域経済連携)などにも制度構築のうえで重要なインパクトがありうる。その意味でTPPは極めて「戦略的」といえる。
Q6:TPPのアメリカ議会での承認について。その可能性と時期はどうか。
A6 :TPPをめぐるアメリカ議会の動向は不透明である。批准のためには上下両院で多数派を擁している共和党の賛成が不可欠だが、バイオ医薬品のデータ保護期間 の12年から8年への短縮は党内ですこぶる評判が悪い。共和党の指名選挙の前哨戦でトップを走るトランプ氏は明確にTPPに反対している。また、自らが国 務長官時代には明示的にTPP推進派だったヒラリー・クリントン氏も「現在のTPP」には賛成できないと条件付き反対を表明している。したがって、TPP 承認の今後の展開はよくわからないし、決して楽観できない。
推察の域を出ないが、一つのシナリオとして蓋然性が高いのは、「本命」とされる民主党のクリントン候補が大統領選を制した場合、オバマ大統領の花道を飾る 形で今年11月の大統領選挙後に共和党と超党派で批准に合意、TPP実施法案を通過させ、発効に至るという流れが想定される。このシナリオでさえ相当楽観 的と思われるが、その場合でもTPPの発効は早くて2017年年初ということになる。
Q7:日米関係に及ぼす影響にはどのようなものがあるか。
A7 :日米経済関係は戦後1950年代の繊維に始まり、鉄鋼、造船、テレビ、ボールベアリング、半導体、自動車と日本の経済発展の花形的産品で常に「摩擦」を経 験してきた。その日米両国がFTA関係に入ることは極めて重要であり、画期的といえる。日米は政治軍事面での同盟関係である日米安保条約を1960年以来 有しているが、経済面ではこれまで包括的な法的枠組みを持っていなかった。その意味でTPPは日米間の「経済安全保障」の枠組みであり、日米間で将来にも 紛争は起こりうるが、TPPの紛争解決メカニズムがビルトインされたことで経済問題の「政治化」が起こりにくい。これは双方にとって大きなメリットであ り、経済関係の安定化に大きく寄与する。
Q8 :中国に与える影響。中国の参加についての展望。
A8 :中国が2、3年以内にTPPに参加することは難しいが、RCEP交渉の進展がはかばかしくなければTPPに中国が乗り換える可能性は十分にある。TPP入 りは中国にとって「第二の入世(WTO加盟)」ともいわれている。中国は従来RCEPにその軸足を置いてきた。しかし、RCEP交渉はインドやインドネシ アが貿易投資の自由化に積極的ではないことからスピード感をもって東アジア地域のコネクティビティを改善していくことができないことに中国自身がフラスト レーションを感じ始めている。以前から中国の識者の一部には「TPPは西洋医学、RCEPは漢方医学」と両者の違いを説明する向きがあったが、中国社会科 学院の永久会員である張愠琳氏はTPPとRCEPの「補完性」を指摘し、両者は対立するものではなく相互に補完しあう枠組みであると筆者と共に出演した NHK国際放送の番組などで述べている。
Q9:他のアジア太平洋諸国も次々と参加すると考えていいのか。
A9 :インドネシア、CLM(カンボジア、ラオス、ミャンマー)のASEAN4カ国は当面難しいだろう。インドネシアについてはアトランタ合意の後、オバマ大統 領と会談したジョコ・ウイドド大統領は自国もTPPに参加したいとの意向を表明したと報道されている。韓国、タイ、フィリピン、台湾などはすでに正式に参 加表明するなど積極的である。参加のためには現加盟国12カ国との交渉を経る必要があり、そのプロセスは決して容易ではないが、TPPがAPEC(アジア 太平洋経済協力)の自由貿易圏であるFTAAPの中核となることはほぼ確実である。
Q10:広く、世界の貿易秩序に与える影響はどうか。
米・EU間のFTAであるTTIPや日本・EUEPA交渉の動きを加速することになるか。
A10 :TTIP(環大西洋貿易投資パートナーシップ。アメリカとEU間の自由貿易協定)には「古くて新しい問題」、たとえばGI(地理的表示)やSPS(衛生検 疫措置)協定の「予防原則」をめぐる問題がくすぶっており、ISDS(投資にかかる投資家対国家の紛争処理)に見られるような欧州側の疑心暗鬼もあり、 「規制収斂・凝集性」の分野が難問となっている。しかし、TPP合意は全体として欧州に対してもやはりポジティブなメッセージといえる。日・EUについて は、EUが野心的になり過ぎなければまとまるが、現時点ではEUはTPP以上のMA(市場アクセス)を主張しており、難航している模様である。日本側も TPPの国会手続きとの関係で大胆な農産品関税撤廃・削減を提示できない国内事情があり、15年の年内妥結には至らなかった。
ASEANやAllianza del Pacifico(太平洋同盟=メキシコ・コロンビア・ペルー・チリ)等の穏健派途上国をlike-minded countries(政策や基本方針などにおいて思いを同じくする国々)としてCritical Mass(全体の方向性を決定するような多数派)を形成し、WTO・DDA(ドーハ開発アジェンダ。一般にドーハラウンド)をまとめ、日米欧加の「旧4 極」主導でWTOの再興を果たすことを目指すのが現実的なアプローチと考える。しかし、問題はブラジル、ロシア、そしてインドである。つまり、 「BRICsマイナス中国・南ア」の国々である。ロシアはまともな製造業がないことと、ユーラシア経済共同体という「似非関税同盟」が問題である。戦略的 には中国とロシアを分断し、中国をTPPに組み入れる一方、ロシアについては極東ロシアを「独立した関税地域」としてAPECの枠組みの中でRCEPに参 加させ、また日本とのEPAを締結する方向へリードするなど、戦略的に対応することが重要と思われる。
【TPPの日本経済にとってのメリットは何か?】
最大のメリットはアジア太平洋地域における生産ネットワークの「シームレス化」である。85年9月のプラザ合意以降、日本の製造業は円高ドル安への流れに 対応するために部品の製造拠点を東アジアの新興工業国(NIEs)や中国に移転させ、部品から最終製品まですべて日本で製造する「made all in Japan」方式から、部品は海外で生産し、それを日本ないしは海外のマザー工場で組み立てて欧米市場に輸出するパターンへ、つまり「made by Japan elsewhere」方式へ移行した。
その動きを加速したのがASEANのFTA(AFTA)形成だった。日本の製造業はASEAN域内で最適立地を模索し、各国に直接投資を活発に行なって部 品の現地生産を拡大した。その部品をAFTAのCEPT(包括的実効特恵関税)スキームに乗せて40%以上の付加価値を付けた場合には関税ゼロで ASEAN域内を動かすことができたため、次第に域内に工程間分業のメカニズムが構築されることになる。
このような産業内分業のメカニズムを確固たるものにしたのは日本のASEAN諸国との二国間EPA(経済連携協定)であり、2002年11月に発効した 日・シンガポールEPAを皮切りに次々と締結された。こうして日本からの投資を引き金としてスタートした生産ネットワークの構築による「事実上の統合」 (de-facto integration)はEPAという法的枠組みによって補強された「法律上の統合」(de-jure integration)に深化していったのである。そして、その延長線上にあるのがTPPである。
TPPは東アジアの生産ネットワークを太平洋を超えてアメリカ・カナダ・メキシコというNAFTA(北米自由貿易協定)の市場につなぎ、さらにペルーやチ リといった南米諸国、オーストラリアとニュージーランドのオセアニア諸国にリンクさせるものである。こうして世界のGDPの約38%をカバーする地域に継 ぎ目のない、つまりシームレスな自由貿易圏ができたことのメリットは日本にとっては計り知れない。(【図1】と【図2】を参照)
【TPPの利便性、その「しかけ」は原産地規則】
このようなシームレスな生産ネットワークをTPPにおいてさらにメリットのあるものとしているのは何か? その答えは「原産地規則」(rules of origin)でる。とくにTPPの原産地規則は「完全累積」(3・10条)にその特徴がある。これは、(1)他のTPPメンバー国で他の産品の生産に使 用される一または二以上のメンバー国の原産品・原産材料は他のメンバー国の原産品と見なす(モノの累積)、(2)メンバー国での非原産材料による生産は、 その生産が付加価値基準を満たしていなくても産品の原産コンテントに加えられる(生産行為の累積)ことを意味している。このような「寛容な」完全累積原則 の導入により、非TPP参加国を含めアジア太平洋地域に広く生産ネットワークを構築してきた日本の製造業にとっては既存のバリュー・チェーンを活用しやす くなる。
さらに、TPPではすべてのメンバー国を一つの領域と見なし、すべてのメンバー国の領域内を移動する限り原産性を維持することが認められており(3・18条)、第三国経由の場合の立証負担の緩和が図られている。
また、原産地証明の発行手続きも輸出者、生産者、輸入者による「自己証明制度」を採用しており、日本のEPAにおいてこれまで主流だった第三者証明制度に比べて利用者である企業の事務負担が大きく軽減された。
このようなTPPの原産地規則はこれを使用する企業にとって利便性が高まっており、いわゆる「ユーザー・フレンドリー」なものとなっている。
他方では自動車やその部品、繊維・衣類など、よりセンシティブな分野では原産地規則がより細かく規定されていることにも注意すべきだろう。たとえば自動車 の完成車については、控除方式の付加価値基準によるかまたは特定部品7品目の加工工程(14の金属加工)がTPP域内で行なわれれば原産性を付与すること になっている。また自動車部品については、関税番号変更基準と付加価値基準の選択制となっており、特定部品14品目は加工工程(14の金属加工)の一つを TPP域内で行なえば原産性が付与されると規定されている。
繊維・衣類については衣類(HS61類と同62類)および中古衣類等(同63類)は生地がメンバー国の領域で作られた糸から作られている場合のみ原産品と されるとあり、これはNAFTAにおける「ヤーンフォアード(yarn-forward)」と呼ばれる方式を踏襲している。
原産地規則以外にも投資規定、ビジネス関係者の一時入国、政府調達、国有企業などについても日本企業にとってメリットのある規定が随所に見られるが、紙幅の都合からこれらの論点については稿を改めたい。
著者:慶応義塾大学教授 渡邊頼純 (わたなべ・よりずみ)
元・日本・メキシコEPA首席交渉官。慶應義塾大学総合政策学部教授。上智大学大学院国際関係論専攻博士課程単位取得満期退学。南山大学助教授、大妻女子 大学教授、在ジュネーブ国際機関日本政府代表部、GATT事務局、欧州連合日本政府代表部、外務省経済局参事官、外務省参与などを経て現職。著書に 『GATT・WTO体制と日本』(北樹出版)、TPP関連では『TPP参加という決断』(ウェッジ)、『TPPと日本の決断』(編著、文眞堂)、『TPP 交渉の論点と日本』(同)などがある。
【参考文献】
渡邊頼純『TPP参加という決断』
ウェッジ、2011年
渡邊頼純『GATT・WTO体制と日本』
北樹出版、2012年
浅川芳裕『TPPで日本は世界一の農業大国になる』
KKベストセラーズ、2012年
石川幸一・馬田啓一・木村福成・渡邊頼純(編著)
『TPPと日本の決断』文眞堂、2013年
石川幸一・馬田啓一・渡邊頼純(編著)
『TPP交渉の論点と日本』文眞堂、2014年
石川幸一・馬田啓一・高橋俊樹(編著)
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