2017年9月9日土曜日

スマート・テロワール通信 2

この記事は月刊誌『農業経営者』8月号からのコピーです。毎月掲載されます。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
地域産業の基礎は農業だ
カルビー(株) 取締役相談役 松尾雅彦
2 20170802

スマート・テロワールとは中核となる地方都市と農村からなる自給圏の構想である。 そのコンセプトはサステナビリティ(持続可能性)を目指し、 「田畑輪換を畑作輪作へ転換する」「地域に女性の職場の食品加工場をつくる」 「住民の地元愛で地元産の食品を応援する」という3つに取り組むこと。 実現すれば、21世紀の社会において農村が最も元気になる。

向都離村を食い止め、
未利用資源がある場所の活用へ

国土を4250万人ずつ3つの層に分けた地図(図1)の説明を見ると、赤色の都市部の人口が増加し、緑色の農村部の人口が減少しているのがわかる。これは、若者たちが農村から都会へ向かう「向都離村」が起きているのを示している。
「向都離村」の問題のひとつが「少子高齢化」である。農村では農業従事者の出生率が高いが、都市部では非正規労働で働く人が多く出生率が低い。
もうひとつの問題は、人口の半数は農村部の資源の上に成り立っているにもかかわらず、若者たちが農村部の資源とは関わりがない場所で働いているということである。表1のように、都市化が進む地域ほど、耕地=資源が支える人口が多い。
本来、未利用資源が豊富な農山漁村は、日本の成長エリアである。図1の緑色の地域に日本の耕地の78%があり、赤色の地域にはたったの2%に過ぎない。全体の40%を占める休耕田や耕作放棄地を畑作や畜産に転換して活用すれば、自給率70%を実現できる。

愛知県は日本で最も元気に見える地域だが、30年先のビジョンは?

スマート・テロワール協会会長の松尾雅彦は講演で、5月に愛知県知多半島を訪問した。知多半島・渥美半島・三河湾地区の人口は297万人。市町村別に見ると、いずれも10年間で103%と増加している。さすがに世界一を誇るトヨタ自動車の周縁都市である。自動車産業の下請工場の操業度に支えられ、住宅地の開発が活発だったと推測できる。 
しかし、よく考えてみよう。現在はハイブリッド車で成功しているが、30年先のビジョンに焦点を当てれば、電気自動車のシェア上昇を考慮しないわけにはいかないはずだ。電気自動車は部品点数が1/5になると言われている。そのとき下請工場はどうなるか。現在も部品価格は毎年1%の割合で削減されている。大企業の下請工場が衰退するのは歴然としており、悲哀が感じられる。 
この状況は、現在の大阪市周縁地域の困難な状況と重なる。軽工業と電器産業で栄えた大阪府下の人々は、産業がアジア諸国に流出して将来のビジョンに「カジノ」の招致を期待するようになった。愛知県豊田市の周縁市町村は、大阪の周縁地域の体験を学習する必要がありそうだ。 
愛知県全体の農業出荷額は3000億円。約12000haの休耕地がある。国産原料に依存したカルビーは、7000haの耕地からスナック菓子1500億円の販売額を生んでいる。この計算を用いれば、休耕地で2500億円の食料出荷額が創出できる。 
三河湾周辺には特徴のある食品産業がある。この食産業を伸ばしていくことが鍵である。農水産業と連携しながら地産地消を活発にし、孫子に遺す地域社会を目指してオンリーワンの地域をつくってほしい。 

視点
松尾 雅彦
スマート・テロワール協会会長
元カルビー社長

【工業品輸出重視は日本の大阪化を招く】 

「日欧EPA交渉が大筋で合意」と報道され、全世界の30%で関税のかからない地域が出現すると、喜色満面でテレビのアナウンサーが報じていました。 
そのアナウンサーは、ついで影響を受ける業界に対してはそれなりの措置を講じるといっています。顧みれば、オレンジの自由化以来「適当な措置を講じる」というメッセージが絶えることはありません。この措置が「保護主義」で、日本の農村は保護主義の呪縛に呪われているのではありませんか? 
我が国は、資源のない工業製品の輸出で栄えようという国是「加工貿易立国論」を立てて、農産物の輸入を促進してきましたが、日本人口の1/2が居住する農村部の衰退は甚しく、人口が流入する都市部でも「課題先進国」と豪語しています。 

『農村がすたり、都市がすさぶ』状況に私は「大阪化」という言葉を当ててみました。大阪は明治維新の後、官製の「文明開化」を市民が受け止め享受して大都市化したところといっていいでしょう。金融業と流通業は「堂島」のベースがありました。また、軽工業が町場に広がり、家庭電化製品の工場では、日本で最大の集積地になりました。農地は、拡大する工業製品の工場に雇用される労働者の住まいや、都市化に必要な道路などの施設に転用されていったのです。 

【後背地に農地を持たない都市の悲哀】 

工業部門の盛りは30年といわれますが、大阪の主産業の家庭電化製品の工場がアジア各国に移っていきますと、まず、労働者の賃金カット(非正規工の蔓延)が進み、次に工場がなくなります。人々の見る世界が将来の明るい姿でなく、過去の栄光になります。 
食と農が、地域の産業の中でベースにできていれば、21世紀のサスティナブル社会に大きな期待を描くことができるはずです。 
政府が、TPPやEPAを急ぐように工業製品に肩入れした政策から脱皮できないとしたら、人口の1/2が住まう農村部は、自給圏というバリアを築いて守ることを急がねばなりません。その政策は保護主義ではありません。自給圏地域内でも自由な競争は確保されており、域外産品があることが貢献しているからです。 

ーーーーーーーーーーーーー
トップに戻る

0 件のコメント:

コメントを投稿