2017年9月9日土曜日

スマート・テロワール通信 3

この記事は月刊誌『農業経営者』8月号からのコピーです。毎月掲載されます。


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長野も発進 スマート・テロワール構築に本腰
カルビー(株) 取締役相談役 松尾雅彦
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スマート・テロワールとは中核となる地方都市と農村からなる自給圏の構想である。 そのコンセプトはサステナビリティ(持続可能性)を目指し、 「田畑輪換を畑作輪作へ転換する」「地域に女性の職場の食品加工場をつくる」 「住民の地元愛で地元産の食品を応援する」という3つに取り組むこと。 実現すれば、21世紀の社会において農村が最も元気になる。

長野も発進
スマート・テロワール構築に本腰

山形県に続き、長野県がスマート・テロワール構築に挑む。長野県は2017年度新設事業「地域食料自給圏構築」(5カ年計画)を開始した。阿部守一知事は重要政策課題に「地消地産」を掲げ、松尾雅彦を「食の地消地産アドバイザー」に委嘱した。今年7月14日、長野県農政部(主催)と松尾雅彦(主催者)は長野県野菜花き試験場佐久支場(小諸市)の見学会を開催し、計画の全容と現状を初公開した。
【実証実験計画】
地域内自給圏の実現に向け、地域内循環システムの実証実験を行なう。
1)畑作輪作・耕畜連携実証。ジャガイモ・小麦・トウモロコシ・大豆の畑作輪作試験。
2)農産物加工・地域内消費実証。民間業者と連携した畑作物・豚肉の加工試験。消費に結びつける実証。
【作付計画】
全7500平方m12区画に分割し、4作物を連作区・無堆肥区・堆肥区で作付けし比較する。4作物は、小麦(ゆめかおり)・大豆(ナカセンナリ)・ジャガイモ(トヨシロ・男爵薯)・子実トウモロコシ(スノーデント108)。
1)連作区:4作物をそれぞれ連作。化学肥料のみ使用。
2)無堆肥区:4作物をそれぞれ輪作。化学肥料のみ使用。
3)堆肥区:4作物をそれぞれ輪作。堆肥・緑肥・化学肥料を使用。

山形大学農学部、
自給飼料で豚を肥育

山形大学農学部で進行中の豚の肥育試験は、現在2回目の出荷を間近に控えている。前回の肥育試験と試作加工の結果を踏まえ、より美味しい加工品として9月中を目標にロースハム、ソーセージ、ベーコンとして市販される。現在、肥育豚数は18頭。110kgを出荷の目処としている。7月中旬現在80kg前後で発育は順調だ。 
飼料の組成は9割以上が自給生産のトウモロコシと大豆、ジャガイモで、特にジャガイモはフスマと混合してサイレージ(発酵飼料)に調製して給与している。なお、今年から栽培を始める小麦を収穫後、自給のフスマを利用する。 
今回の肥育試験では、主にジャガイモサイレージの配合割合を0%、15%、30%に3段階に設定し、ジャガイモの配合割合の違いによる発育速度の評価および肉の品質評価を行なう。 
将来的に庄内地域の生産者が自給飼料を主体に肥育する場合、作物の収穫時期や収穫量によって飼料組成を変えざるを得ないことを想定してのことだ。大学ではエネルギーとたんぱく質を一定に維持すれば組成を変えても発育に差はないと仮定している。現在までにジャガイモの配合割合の違いによる発育の差は出ていないという。 

視点

松尾 雅彦(スマート・テロワール協会会長 元カルビー社長) 

長野県の阿部知事は、1982年に農水省が提唱した地産地消の政策を否定して、「地消地産」を経済政策に据えています。私は昨年、阿部知事から食の“地消地産”アドバイザーの委嘱を受けました。拙著『スマート・テロワール』の仮説の通り、長野県でもまず実証展示圃づくりに取りかかりました。 
農山漁村を蘇生するには「地消地産」が原則です。地域再興の原資を国家の財政に依存するのではなく、地域の消費活動をベースにすることが「地消地産」です。農業に限らず、林業でも水産業でも共通の原則です。国家の財政に期待しても、全国すべての地域の要望に応えようとすれば、スズメの涙ほどの配分にしかならず役に立ちません。政治家の選挙の具になるだけです。一方、住民の消費活動は、住民がいるかぎり途絶えることがありません。 
「地消地産」はかつて社会システムとして存在していました。しかし、19世紀の産業革命以降に盛んになった分業が海を渡って拡大し、それに伴って仲立ちする商社の事業も増大すると「地消地産」は崩壊しました。そして、現代は「重商主義」全盛の時代になっています。農山漁村の再興を図るには、「重農主義」の旗を立て、地消地産から復活の槌音を響かせること。それ以外に道はありません。

これは復古趣味ではありません。たとえば、山の手入れが行き届いていたころを懐かしんでも無駄です。昔は人々の多くが農村に住み、人手があったからであって、現代は事情が異なります。 
今の時代に合った山や農地や海などの資源の活かし方を開発しながら「地消地産」で需要を掘り起こすこと。この作戦は現代だからこそ有効です。21世紀は「サステナビリティ」が重視される時代だからです。人は皆、生態系の中で生かされています。農山漁村を捨てた人にお金で地域の蘇生を依頼すると、生態系を壊しかねません。地域の人々が手間のかかることを厭わずに、地域の生態系を起点に「地消地産」のシステムを創れば、地域社会の「サステナビリティ」が可能になります。 
このとき地域の基本の単位となるのが「テロワール」です。農業も林業も水産業も、テロワールで成功することができるはずです。「地消地産」は「地産地消」ではありません。念のため。 

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