2016年4月4日月曜日

サステイナブルコミュ二ティのルーツと課題


HICPM メールマガジン第658号(2016.04.04)から転載させて頂きました。
 サステイナブルコミュ二ティとは何か、が判りやすく簡潔に説明されています。

(HICPMは末尾に表示)
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「サ ステイナブル」という言葉の最初のきっかけ
 サステイナブルという言葉が日本社会で使われてから、20年近くなります。HICPMが2000年を迎えるに 当たって米国とカナダの最先端の住宅政策の取り組みを調査し、「サステイナブルハウス」を開発したことを思い出します。
 そのときのサステ イナブルハウスは、サステイナブルコミュニティを形成するための住宅という意味のサステイナブルハウスで、計画の思想としてはピーター・カルソープが、カリフォルニア大学バークレイ校で「サステイナブルコミュニティ」というセミナーを実施し、大きな街造りの考え方をコペルニ クス的に転換させていました。

新しい都市計画理論の模索
 既に旧聞になっていますので、もう一度、「サステイナブル」という考え方を原点に返って考えるという意味で用語としての「サステイナブル」についてご説明いたします。
 戦後世界の都市計画は戦後経済復興という大きな目標に向けて、産業主導の都市計 画が実施されていました。その結果、住環境が産業活動の犠牲となる都市が生まれ、それを住民の生活本位に組み替える都市計画を造れないかという考えが社会の中に強くなっていました。産業が重厚長大産業から軽薄短小産業に構造変革された結果、都市計画は港湾を中心にする産業 から自由な立地型産業に変質したこともあって、産業立地を自由に行うことができるようになった環境変化もありました。
 そこで豊かな国民生活の計画を産業立地と切り離して行う可能性が高まった状況を見て、国民生活を優先して考える都市計画の提案と実践が取り組まれました。米国での最初のハビタットがカーター大統領の指揮で行われた「ミラクル・オブ・ザ・ボーダー(米国とメキシコの国境に現れた奇跡)」と呼ば れた「ランチョベルナルド」開発(カリフォルニア州、サンディエゴ))の開発やアーバイン開発(カリフォルニア州ロサンジェルス)はその典型的な試みでした。

ラグナーウエスト
 それらの開発を理論化したものが、1980年カリフォルニア大学バークレイ校でピーター・カルソープがおこなっ た「サステイナブルコミュニテイの開発理論」のセミナーでした。元カリフォルニア州で開発行政を担当していたヒル・アンジェデリスは既に 行政担当者ではなくディベロッパーとして都市開発に取り組んでいましたが、カルソープのセミナーを聴き、その考え方に共鳴し、ピーター・カルソープをそれまでヒル・アンジェデリスが取り組んできたラグナーウエストの開発のプランナーに招聘し、サステイナブルコミュニティ—と してラグナーウエスト(カリフォルニア州、サクラメント・カウンティ)の計画を仕切り直すことにしました。
 その開発理論を聴いたアップル コンピューターは、そのグループを挙げてラグナーウエストに集団移動することを決定したことで大きな話題となり、その後ランチョベルナル ドました。

ハワードの「ガーデンシティ」の現代版理論
 サステイナブルコミュニティの計画理論は、豊かな生活環境が営まれる街は、優秀な人材が選ぶ街であるので、優秀な人材を雇用している企業や、優秀な人材を雇用しようとする企業はそこに集まってくるという考え方です。この考え方はエベネザー・ハワー ドのガーデンシティの考え方と基本的に共通するものです。
 「都市計画の目的は何か」と言えば豊かな都市生活の実現です。その意味で、カル ソープの都市計画の考え方は、ハワードの「都市はそこに住む人を豊かな生活をさせるところ」という考え方をIT時代に読み替えて発展させ たものでした。豊かな都市生活を実現する都市は、常に売り手市場であり続ける都市で、キャピタルゲインを実現し続ける都市です。

単なる営業販売上の言葉でしかない日本の「サステイナブル」
 日本で言われる「サステイナブル」という言葉は、開発業者が希望する販売を維持し続けるサステイナブル(持続可能性を有する)コミュニテイですが、ピーター・カルソープが提案するように都市が住民たちの生活を通して発展し、資産価値の上昇がサステイナブル(持続性を持っている)な訳ではありません。
 都市がサステイナブルの条件を求めるためにはそうしなければならないかということに関し、HICPMが2000年を前にアメリカとカナダを調査して回って明らかにしたことは、住宅を取得して人たちが、そこに持続的に住み続 けたいと願うコミュニテイであるとともに、何かの事情でそのコミュニテイから退去しなければならなくなったときには、その住宅は購入時よ り高い価格で、投資利益を回収する形で売却することができなくてはならないと考えました。

サ ステイナブル:生産コストを引き下げ、購入者の支払い能力の範囲で購入できること
 HICPMが当時提案し、全国で合計約1、000戸建設された住宅は、高断熱住宅(¥1,300万円)を20%以上カットして、1,000万円を切ってで供給することでした。その様な価格で供給できた住宅は、既存住宅市場で住宅地の熟成を反映して物価上昇分以上の価格で販売できると判断されたからです。実際HICPMで提案したサステイナブルハウス は、全て1,000万円以下で供給することができたわけではなく、2、000万円以上で販売されたものも沢山ありましたが、同一品質の住 宅と比較して割安であることもあって販売されました。
 私達の希望は、この住宅を使ってCMを実践していけば、住宅価格は20〜30%のコ ストカットを実現できるだろうという予測でした。しかし、それ以前に設計社の成瀬さんと建材と施工を扱う小汐さんがお亡くなりになりサステイナブルハウスを推進することが不可能になってしまいました。

今 一度、住宅所有者の資産形成を実現するプロジェクト
 サステイナブルハウスに続きの物語を行おうとその後再三試みましたが復活できませんでした。私は目下最小限規模のサステイナブルコミュニテイの実践モデルは作成し、それを実現することを通してサステ イナブルコミュニテイを実現しようと努力しています。
 夏休みごろまでにはHICPMビルダーズマガジンにその考え方をご披露したいと思っ ています。これは、現代の歪んだ固定資産税制度の中で、土地所有者(住宅と土地が一体となったホームオーナーズ)をまず大切にするという 欧米の考え方に立って、ハワードが、貴族の領地経営から住宅地経営のヒントを得た原点に立ち返った考え方を現代日本で生かそうとするもの です。

「サ ステイナブルなスマートタウン」の調査を行ってきます
 サステイナブルハウスやサステイナブルコミュニテイは、その言葉自身は「持続性のある」という意味で、資産価値が上昇するという直接的な意味はありませんが、言わずもがなのこととして、購入した住宅が既存住宅市場で物価上昇以上の比率で資産価値を上昇し続ける住宅のことをいうことは、少なくとも欧米では常識になっています。
 そのための条件は、既存住宅市場で常に売り手市場を維持し続けることを言います。それを日本ではそのような条件を有しないことが明らかな住宅に無批判に「サステイナブル」という言葉を関していることです。

(NPO法人住宅生産性研究会 理事長 戸谷 英世)

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