2016年4月3日日曜日

経済低迷も農村消滅も根っこは同じ!

 下記メルマガから引用させて頂きました。
 私はこれを読んで、経済低迷も農村消滅も根っこは同じ、と思いました。
 特に日本独自の要因」には同感です。

『from 911/USAレポート』第713回
「日本経済低迷の主因は外部要因?それとも内部要因?」
 ■ 冷泉彰彦:作家(米国ニュージャージー州在住)


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■ 『from 911/USAレポート』               第713回
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 短い間ですが、日本に一時帰国していました。東京には雑踏があり、卒業式のシー
ズンとあって羽織袴姿の女子大生が行き来していたり、その一方で多くの外国人観光
客を目にしたり平和な光景には、特に何の問題もないように見えました。

 ですが、その一方で、安倍政権は「消費税率アップの先送り」を真剣に検討してい
るようですし、多くの経済指標は依然として「マイナス成長」が続き、もはや恒常化
しているということを示していました。そんな中、鴻海によるシャープの買収がよう
やくクロージングを迎えるなど、日本経済に取ってネガティブなニュースも、特に痛
みの感覚もなく報道されていたのに驚かされました。

 私は、そんな中で違和感を感じざるを得ませんでした。このまま「マイナス成長の
恒常化」ということは、要するに年率換算で1.4%なら1.4%で経済が縮小し続
けるということになります。要するに今年は、昨年のGDPの98.6%、つまり0.
986倍にしかならないということであり、仮に同じようなマイナス成長が来年も続
くのであれば、今年をはさんだ2年間で0.986×0.986≒0.972になり
ます。仮に10年このようなマイナス成長が続けば、その10乗となり、約0.86
8倍、つまり14%マイナスになるわけです。

 問題は、その原因です。

 日本がマイナス成長に陥っている原因としては、大きく2つに分けて考えることが
できると思います。外部要因か内部要因か、日本の外部に原因があって、日本にはコ
ントロールできない、つまり世界経済全体に共通のファクターか、あるいは日本一国
の問題かということです。まずは、外部要因、あるいは世界経済一般に共通の問題で
すが、これはカテゴリの(1)として(1−1)から(1−10)ぐらいに細分が可
能です。

(1−1)グローバルな流通・決済システムが完成したために、国際分業が進展し、
大量生産品は人件費の安い地域へ生産地がシフトし、全体としてはコスト安が実現さ
れた。

(1−2)主としてオバマ政権の密かな努力によって、エネルギー源の多様化が進み、
世界的なエネルギー価格が安値安定の時代を迎えた。

(1−3)世界的にIT化が更に新しい段階へと進む中で、事務コストの劇的な削減
が進んでいる。

(1−4)機械製品など、多くの製品ジャンルで生産技術の進展と共にコストが下落
している。食料の価格も、生産技術の進歩により安定している。

(1−5)生活必需品に関わるライフスタイルにおける世界での標準化が進み、低価
格の大量生産品が市場を席巻し、高付加価値の奢侈品のニーズが縮小した。

(1−6)電子機器は端末の多機能化と標準化が進む中で、ハードの市場と価格は全
体で縮小の方向が著しい。

(1−7)輸送用機器や運輸サービスも、LCC航空、自動運転車などの普及という
トレンドの中で付加価値が削ぎ落とされる傾向にある。

 ここまでは、構造的な変化ですが、その結果として出てきている現象としては、

(1−8)中国経済がスローダウンを迎えている。

(1−9)ブラジルやロシア、トルコなどの新興国経済も急速なスローダウンを迎え
ている。

(1−10)北米や欧州では、2008年から09年の大きな「底」からの景気回復
が続いてきたが、波動を繰り返してきた欧州だけでなく、北米にもスローダウンの兆
しがある。

 といった問題があるわけです。アメリカの大統領選で、バーニー・サンダースに引
きずられる格好でヒラリー・クリントンが「バラマキの大風呂敷」を広げたり、真偽
は不明ですが、ポール・クルーグマンに対して安倍首相が「財政余力のあるドイツに
財政出動を期待」と言ったとか、言わないという話はこの(1−8から10)に該当
します。

 ですが、因果関係としては、7番までの構造的な問題があって、その結果として8
から10のスローダウンがあるわけです。勿論、日本から見れば、8から10という
問題も日本経済への影響が大きいわけですが、重要なのは、あくまで1から7の変化
です。こうした変化のトレンドがある限り、例えばヒラリーやメルケルといった政治
家が「積極的な財政出動」を行ったとしても、効果は限定的であると思われるからで
す。

 このことは、それこそ、2009年にオバマが実施した「景気刺激策」の効果が限
定的であり、また90年代から日本が何度も投入した「積極策」もまた決して成功し
なかったということが証明しているように思います。

 一方で、日本独自の要因ですが、こちらはかなり特殊な事情があります。

(2−1)人口減による国内市場縮小の恐怖が、企業の国内向け設備投資も、個人の
消費意欲も減退させている。

(2−2)少子高齢化の進行は、全人口における就労人口比の更なる低下をもたらす
だけでなく、将来不安により実際に負担が拡大する以前に、投資や消費を減退させて
いる。

(2−3)新興国と比較すれば、まだまだ高人件費である日本は、改めて中付加価値
大量生産の拠点という地位を奪い返すほどの競争力はない。

(2−4)国家の累積債務は、国内の消費意欲を減退させるには十分だが、債務を円
建てで消化してしまっているために、何もしなければ「比較優位で」円高に振れてし
まうという苦しさがある。

(2−5)最初は国内の高人件費や為替変動を嫌ったり、貿易摩擦の結果の譲歩とし
てスタートした「現地生産化」が、現在では「国内からは世界の消費市場が見えな
く」なった結果、必然的な問題として加速、その結果として巨大な生産量と雇用が流
出し、しかもそのトレンドが止まらない。

(2−6)エレクトロニクス産業においては、世界の最終消費者市場を獲得する継続
的な努力が途切れてしまったために、重電による法人・公共需要という分野か、また
はハイテクのコモディティ化を受けた部品産業への逃避が起きた。結果として、産業
全体の収益が収縮し、特に利幅とキャッシュフローが大きく毀損した。

(2−7)エレクトロニクス産業にしても、例えば航空機産業にしても、長期的でリ
スクを選好する資金が国内に決定的に不足している一方で、長期的な自国通貨への信
頼が欠ける中で国際的な資金調達にも躊躇がされる中で、技術や人材に比べて「慢性
的な資金不足」のために産業が拡大できない。

(2−8)リスク選好資金の不足ということは、産業としての金融業の発展も阻害し
ている。英国が長期の「英国病」から蘇ったような金融業の貢献は、日本の場合は現
時点では期待できない。

(2−9)IT産業における主導権がハードからソフトに完全にシフトしている一方
で、日本ではプログラムやコーディングを担う人材の社会的・経済的地位が低く、従
って高付加価値を生み出すような人材育成ができていない。その一方で、「ハード製
造の夢よもう一度」といった懐古的で後ろ向きなセンチメントが根強い。

(2−10)小規模農業や、オフィスの間接事務部門、サービス業の多くなど、全産
業の中に局所的に「生産性が先進国で最低水準」の部分を抱えている。

(2−11)コスト負担を嫌って「上場を回避」する企業の増加、東芝やオリンパス
の問題には無力であった形式だけのコンプライアンス、哲学を理解せぬまま半身の構
えで導入が進むIFRSなど、資本主義の根幹にある制度インフラに実効性が伴わな
い。

(2−12)世界だけでなくアジアの公用語も英語となる中で、依然として実用的な
英語教育が実践できていない。これに加えて、ヒエラルキーの文化が捨てられない中
で、英語圏への劣等意識から、一種の植民地のような英語への態度が残っており、
「英語を導入してもコミュニケーションの生産性が上がらない」という独特の病を抱
えている。

(2−13)非就労人口の世論形成への関与が増大しており、以上のような問題の解
決への世論の後押しが期待できない。

 というような問題が指摘できるわけです。シャープが鴻海に買われ、東芝が粉飾決
算の結果として事業の多くを切り売りすることとなり、その一方で、自動運転車の登
場が「自動車の運転」という行為とそのための自動車の購入ということの「付加価値
を破壊」する危険がある、それでも危機感が社会全体に広がらない背景には、こうし
た根深い問題を指摘することができます。

 今回の消費税率先送り論議については、「先送り」が不可避という結論に関しては、
ことここに及んでは否定するのは難しいのかもしれません。

 ですが、昨今の「先送り論議」に関しては、やはり強い違和感を感じます。という
のは、主として(1)の、つまり外部環境が厳しいから、世界経済の需要後退がある
から日本がマイナス成長に陥っているという議論が主流だからです。

 そうではない、問題は(2)の日本独自の要素であり、そこを改革していかなくて
は「プラス成長」への復帰は難しいのです。プラス成長に復帰できなければ、当然の
ことですが「プラス2%」の消費増税を吸収はできません。

 勿論、増税をしなければいいというわけには行きません。国家財政の赤字体質は何
とか改善してゆかねばならないし、仮に更に悪化するようであれば、最後には自国通
貨の価値は大きく毀損され、エネルギーや食糧の自給のできない日本としては、国民
の生活水準の大幅な切り下げを余儀なくされるからです。

 また、今後もマイナス成長が続くようでは、やがて日本は先進国から脱落していく
危険があります。近代の歴史の中には、過去にも英国が「英国病」という長期の停滞
を余儀なくされたことや、一旦は先進国並みの経済力を誇ったアルゼンチンが畜産業
の競争力喪失により、経済的地位を大きく低下させたという先例はあります。

 ですが、これだけの規模の経済を誇り、これだけの成功を誇りながら、先進国の地
位から転落するという例はありません。具体的には一人あたりGDP3万ドルの水準
を大きく超えていたのが、改めてこのラインを割っていくようなストーリーを描いた
国というのは、ないと思います。そして、あってはならないことです。

 確かに(1)にあるように、グローバルな経済縮小の要因ということは大きいと思
います。そして、この問題への処方箋は描きにくいのも事実です。この(1)が世界
共通のスローダウン要因、あるいはグローバルなデフレ構造の要因として否定できな
いとして、日本経済の場合は、更にその上に(2)にあるような日本独自の要因が重
しのように乗っかってしまっているのが現実です。

 その克服のためには改革が必要です。改革というのは、多くの産業で、その資金配
分や個々人の行動様式を変えていくということです。ですから、当然に「痛み」を伴
います。ですから、改革か、衰退かという選択肢について、国を挙げての議論を起こ
す必要があるように思います。その議論が十分でない、いやそのような議論の気配も
ないということでは、本当に日本は先進国から脱落してしまいます。

 新しい年度のスタート、そして参院選などの政局の季節の本格化を前にして、改め
てこの問題の議論を深めていかねばならないと思います。

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冷泉彰彦(れいぜい・あきひこ)
作家(米国ニュージャージー州在住)
1959年東京生まれ。東京大学文学部、コロンビア大学大学院(修士)卒。
著書に『911 セプテンバーイレブンス』『メジャーリーグの愛され方』『「関係の空
気」「場の空気」』『アメリカは本当に「貧困大国」なのか?』『チェンジはどこへ
消えたか〜オーラをなくしたオバマの試練』。訳書に『チャター』がある。 最新作
は『場違いな人〜「空気」と「目線」に悩まないコミュニケーション』(大和書房)。
またNHKBS『クールジャパン』の準レギュラーを務める。
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