2019年6月9日日曜日

「ラウンドアップの風評を正す」

月刊『農業経営者』のメルマガからです。

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安江 高亮様

『農業経営者』編集長の昆吉則です。
6月号の「ラウンドアップの風評を正す」という特集のご案内です。
https://agri-biz.jp/item/detail/27724

編集意図を正しく伝えたいと思い長い文章になっておりますがお許しください。

今、ネットにはラウンドアップ(成分名:グリホサート)に関する”風評“が
飛び交っています。
曰く、「IARC(国際がん研究機関)がグリホサートには発がん性があると認定
した」「カリフォルニア州の裁判でラウンドアップの発がん性が認められた」
「EU各国でグリホサートが使用禁止になった」等々。

これらは全てフェイクニュースです。

常識的に考えれば、ラウンドアップはもっとも安心して使うことのできる除草
剤の一つと言えます。なぜなら、ラウンドアップは様々に批判を浴びてきたか
らこそ世界中の試験研究機関によって、通常では考えられないほど何度も試験
を繰り返されてきており、その安全性について最も多くの検証がなされてきた
除草剤だからです。それにもかかわらず、ネット上で怪しげな情報が拡散され、
人々を不安にさせているのです。

ラウンドアップに対する反対運動が盛んな理由は遺伝子組み換え作物(ラウン
ドアップレディー)への反発が背景にあります。遺伝子組み換えに関する安全
性を否定できないならその栽培を保証するラウンドアップを潰せという反対運
動家の「戦略」があるのでしょう。

上に書いた一番目のフェイクニュースのきっかけは、2015年にWHO(世界保健
機関)の外部組織であるIARC(国際がん研究機関)がグリホサートを「おそら
く人に発がん性がある」とされる「グループ2A」に分類したことにあります。
しかし、IARCによるグループ分類とは「発がん性の強さの程度」を示すもので
はなく、疫学的調査を基にして「発がん性があると評価する可能性の程度」を
示すものなのです。IARCがグリホサートを「グループ2A」に分類したからと言
ってそれは「発がん性の認定」などではないのです。ちなみに、「発がん性が
ある」とされる「グループ1」の中には酒やタバコはもとよりベーコン、ハム、
ソーセージなどの肉加工品なども含まれています。ラウンドアップはベーコン、
ハム、ソーセージなどと比べても「発がん性があると評価する可能性」は低い
ということです。

このIARCによるグリホサートの「グループ2A」への分類には当初から多くの批
判があり、その後、IARCの上部機関であるWHOとFAO(国際連合食糧農業機関)
が合同で組織したJMPR(合同残留農薬専門家会議)において「(グリホサート
は)予想される接触による暴露量では遺伝毒性を示す可能性は低く、食事を介
した暴露によるヒト発がんリスクの可能性は低い」と結論付けています。日本
の食品安全委員会を含めて米国のEPA(米国環境保護庁)、EUのECHA(欧州化
学品庁)など世界の公的機関がグリホサートの安全性を認め、発がん性を否定
しています。

二つ目の「カリフォルニアの裁判…」というのはメディアの見出しが人々の誤
解を生み出しているようです。

例えば、2019年5月14日17時30分のデジタル版朝日新聞では、ロイター電とし
て『モンサント除草剤でガンに、加州陪審が2200億円の保障命じる』との見出
しを付けて配信しています。本文の中には「陪審団はバイエルがラウンドアッ
プの発がん性リスクについて警告を怠った」として説明されていますが、見出
しを見る限りではラウンドアップがその発がん性ゆえに2200億円の保障命じら
れたと読者は誤解するでしょう。この裁判で問われているのは発がん性に関す
る「警告」の有無です。もとよりバイエル(モンサントを2018年6月に買収)
はその発がん性を否定しています。その根拠として前述のEPAをはじめECHAな
ど世界の公的機関によって発がん性が否定されているからです。従って製品に
発がん性の警告をする根拠がないからです。ところが、カリフォルニア州の環
境保健有害性評価局(OEHHA)が2017年6月に「グリホサートを発がん性物質に
加える」との声明を出し、商品にその表示を義務付け(プロポジション65の物
質リスト)たのです。それが今回の評決の背景にあるのです。この評決はカリ
フォルニア州で行われた裁判だからであり、同じ米国でも他の州なら別の評決
になっていたと考えられます。科学的評価を政治的立場によって否定されてし
まったとも言えます。

さらに「EU諸国ではグリホサートが使用禁止になった」というのも事実とは違
います。

EU諸国ではグリーンピースなどの農薬や遺伝組み換えに反対する環境保護運動
家や緑の党などの活動が活発で、彼らはEU議会をはじめ各国政府や自治体行政
に様々な形で圧力をかけています。その一方で人々の情緒に訴える反グリホ
サートのキャンペーンを活発に展開しているのです。EUの機関だけでなく各国
の公的機関がグリホサートの発がん性を否定する見解を示していても、彼らの
キャンペーンはかなりの効果を上げてきています。EU議会をはじめ各国の議会
や自治体でもグリホサートの利用を禁じる様々な議案を提出してきました。欧
州議会あるいは各国の議会でも科学的根拠によってではなく、各政党の政治的
思惑によって科学的理性が否定されかねない状況が続いています。しかし、現
在のところでは国レベルでラウンドアップの利用を禁じる議決など出てはいな
いのです。

今回、執筆をお願いした唐木英明氏(公益財団法人食の安全・安心財団理事
長)には、リスクコミュニケーションの観点から「なぜラウンドアップはこう
した風評に曝され続けるのか」を解説願い、原田孝則氏(一般財団法人農薬残
留研究所理事長)にはともに日本を代表する研究者です。そして、原田氏には
各種の試験結果の厳密な検証を含めてなされているグリホサートの発がん性や
安全性に関するリスク評価について解説を願った。

多分わが国では、そんなことにはならないと思うが風評が飛び交うネットの社
会の中にいる我々が、EU諸国に見られるような危うい状況に陥らないことを願
って今回の特集を企画しました。
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『農業経営者』2019年6月号(279号)

■特集
<ラウンドアップの風評を正す>
・ラウンドアップはなぜ風評被害に遭っているのか?
 公益財団法人食の安全・安心財団理事長東京大学名誉教授 唐木英明
・グリホサートの安全性に関する所感
 一般財団法人残留農薬研究所理事長 原田孝則

■経営者
[新・農業経営者ルポ]
牛島謹爾シリーズ(3)
進取の気性で開園した自然植物公園に島の人口の200倍を呼び込む
(株)能古島 のこのしまアイランドパーク
代表取締役社長 久保田晋平(福岡県福岡市)

戦前のアメリカはカリフォルニア州で大成功を収めた日本人農業経営者という
と、ワイナリーの長澤鼎やコメの国府田敬三郎が思い浮かぶだろう。ここにも
う一人知ってほしい人物がいる。その二人と同時代を生き、「ポテト・キン
グ」や「馬鈴薯王」と称された牛島謹爾(きんじ)だ。2024年度から1万円札
の新紙幣の顔になることが決まった渋沢栄一が日本工業倶楽部で追悼会を主催
したほどの人物でもある。手間のかかるポテトの生産を3万エーカー(1万2240
ha)で行ない、全米の市場を左右したといわれた。彼の農場では監督者のよう
な立場で働く同郷出身者がいたが、そのうち井上藤蔵という男の子孫だけがい
まも福岡県各地で農業に携わっている。3回シリーズで取り上げる第三弾は福
岡市西区能古島の「のこのしまアイランドパーク」に焦点を当てたい。なお、
第一弾は2019年3月号に、第二弾は同5月号にそれぞれ掲載した。

■提言
専門家インタビュー]
土壌学者(ペドロジスト)に聞く農地の土壌との付き合い方
前編~土壌断面調査から読み解く土づくり~

土壌の種類や分布を示す土壌図は、いまやデジタル版が公開され、モバイル端
末で閲覧できるアプリ「e-土壌図II」によってさらに気軽に閲覧できるように
なった。 土壌学者(ペドロジスト)はその礎となる土壌調査を行なう土壌の
プロフェッショナルだ。土壌に向き合い、その場に人を集めて、その価値を広
めるために現場での土壌調査にこだわり続ける大倉利明氏に話を聞いた。
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