2017年10月3日火曜日

スマート・テロワール通信4


カルビー(株) 取締役相談役 松尾雅彦
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スマート・テロワールとは中核となる地方都市と農村からなる自給圏の構想である。 そのコンセプトはサステナビリティ(持続可能性)を目指し、 「田畑輪換を畑作輪作へ転換する」「地域に女性の職場の食品加工場をつくる」 「住民の地元愛で地元産の食品を応援する」という3つに取り組むこと。 実現すれば、21世紀の社会において農村が最も元気になる。

山形大学農学部「実証展示圃」で畑作と畜産の循環システムを検証中
山形大学農学部附属高坂農場に設けられた実証展示圃での検証は今年で2年目になる。今年はジャガイモ(トヨシロ)、大豆(里のほほえみ・エンレイ・シュウリュウ)、トウモロコシ(TX1334)、緑肥(ヘアリーベッチ・エンバク)を作付けしている。緑肥の後、秋以降に小麦(ゆきちから)を播種する。
現在、日本の畜肉消費は飼料や生肉で米国農業に依存している。実証展示圃では国内で飼料供給体制を開発し、米国と競争できることを実証する。そのために規格内品の収量目標数値を達成し、規格外品を畜産に提供し、畜産の堆肥を畑に投入する。
規格外品を畜産業に無料で提供することにより、従来の畜肉生産コストでは50~60%におよぶ飼料コストを現在の1/3に削減するという仮説を検証する。食品加工業との契約栽培の場合、一般的に収量全体の20~30%が規格外品になる。
また、規格内品の収量の目標数値を達成するため、穀物の輪作体系を組み、堆肥投入による土づくりをする栽培法を検証する。輪作体系はジャガイモ→緑肥→大豆、大豆→トウモロコシ、トウモロコシ→緑肥→小麦、緑肥→ジャガイモ。ポイントは3つ。(1)家畜の飼料にするトウモロコシの栽培経費をできる限り抑える。マメ科の根粒菌による窒素固定で地力を上げ、収穫残渣をすき込んで翌年のトウモロコシの減肥につなげる。(2)秋まき小麦の播種前に、土地の有効活用と土づくりのため緑肥を作付けする。マメ科のヘアリーベッチで窒素固定を、イネ科のエンバクで有機物を投入する。(3)緑肥の後の土壌リセットと有機物の投入としてジャガイモを栽培する。収穫後も緑肥を栽培してすき込む。こうして「畑作と畜産の循環システム」を実証していく。
11月28日に「収穫感謝祭」を開催し、市民にも取り組みを報告する。

北海道の放牧養豚を視察
スマート・テロワール協会×農村経営研究会
(株)アレフが運営する「えこりん村」(北海道恵庭市)では、畜産業を営んでおり、放牧した豚を出荷している。 
子豚のうちは平場で放牧している。春夏は生後約25~30日、秋冬の雪が積もる時期は屋内で肥育後、遅くとも生後3カ月後には放牧を始める。現在約100頭の子豚が駆け回りながら肥育されている。 
生後4カ月になると母豚候補は山林で放牧する。8カ月経つと母豚を決 
め、他は出荷される。母豚候補は電気柵で囲まれた山林で自由に動き回り 
ながら過ごしている。子豚と母豚は好きなときに自由に餌が食べられるように、放牧場の一角にそれぞれ濃厚飼料の給飼場が設けられている。 
このようにストレスが少ない環境で豚を肥育しているため健康状態が良好だという。

視点
【放牧養豚の意義】 

7月31日~8月1日、私は北海道の放牧養豚場や害獣対策の現場を視察しました。恵庭市にある「えこりん村」では、山林に電気柵で囲った放牧場を作り、ストレスの少ない環境で豚を肥育しています。 
畜産はスマート・テロワールの要になります。食料自給率を上げるには、飼料を作らなければなりません。日本人は、コメより肉を食べる欧米型の食生活になったからです。現在は、豚肉加工品のハムやソーセージの大部分は原料に安い輸入品が使用され、国産の肉も飼料の大部分が輸入品です。地域で畑作と畜産の循環型農業を成立させれば、飼料代が抑えられ、国産の豚で畜肉加工品を作ることができます。 
地域のなかで畑作と畜産の循環型農業を成立させるには、畑作穀物の加工場ができ、規格外の作物と加工残渣が飼料として活用されることが重要です。堆肥は、畑の土づくりに必要な有機物です。 
また、畜肉加工場、大豆や小麦、ジャガイモなどの加工食品の工場は、周年操業の作業場になり、女性の職場になります。 
畜産業を「放牧」で行なうことも重要なポイントです。地域の土地利用を考えるとき、平野には水田、傾斜地には畑、そして山際では畜産を営むのが理想的です。コメ余りのなかで、無理に傾斜地や山際の水田を維持する必要はありません。家畜を放牧すればよいのです。もともと畜産は放牧でした。山際の耕作放棄地も有効活用でき、獣害を防ぎ、さらに餌に抗生物質を混ぜなくても免疫力がつき病気になりにくくなります。

先般、EUとのEPA交渉で、動物福祉の観点から日本の豚肉のEUへの輸出が阻まれました。EUでは動物福祉に政策的に取り組んでおり、EU加盟国の最低基準として「EU法規」が設けられています。これは単に感情的な問題だけではなく、工業的な畜産への反発があります。家畜の病気や薬品の多用、環境汚染などの問題から、食品安全性や畜産物の品質に対する懸念からくるものです。 
放牧養豚に取り組む人々の話を聞くと、放牧している豚は病気になりにくく、ロスが少ないというメリットがあるそうです。放牧は、持続可能社会の機運の高まりのなかで動物福祉を支持する世界的な流れにも合致しています。 

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