2016年12月28日水曜日

Why! なぜ日本人は住宅ローンに大金を払う?

日経ビジネスオンライン2016.02.22からです。http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/021800009/021900002/?P=1
(お断り:写真がコピーできなくて、解説だけが残っています)



ドイツから見えた日本の家の異常さ


 「どう考えても異常な状況だよ。どうして日本人は誰もおかしいと思わないの!?」
 日本の住宅制度について説明すると、ドイツ人のアストリット・マイヤーさんとアンドレアス・デレスケさんは目を大きく見開き、記者に対し次々と疑問点をぶつけてきた。そして最後には到底理解できないという様子で、両手を広げたまま固まってしまった。そのさまは、さながらお笑いタレント・厚切りジェイソンのネタのようだ。
 “Why Japanese people!”多くの日本人は当たり前のこととして受け入れているが、海外から見れば「異常な状況」として映る。それが日本の住宅政策の実態だ。
 2月22日号特集「家の寿命は20年~消えた500兆円のワケ」では、日本の住宅制度に内在する根源的な問題を取り上げた。多くの国民にとって「一生の買い物」と形容される高額取引であるが故に、「買い手と売り手との間の圧倒的な情報格差」「建物の完成前に購入する青田売り」などの不条理を、こういうものなのだと渋々受け入れるしかない。消費者が複数回の買い物を通じて“賢くなる”機会を得られないからだ。不動産を巡る数々の不条理が長年の間、問題視されることがなかったのもこの点にある。
 特集では、新築戸建ての購入から売却までの流れを描き、そこに潜むいくつもの不条理を指摘した。このうち最も深刻な問題の一つが「木造住宅の場合、20年で建物の価値がゼロになる」という慣例だ。
色とりどりの瀟洒な住宅が並ぶドイツ南西部・フライブルク郊外の街。ドイツでは家を「資産」として評価する制度が整っている
 「家なのだから住み続けるうちに価値が下がるのは当然だ」と、この慣例を受け入れている日本人は多い。だが、待ってほしい。「住宅は資産」と言うが、メンテナンス状況が正当に評価されず、価値が維持されないような商品を本当に「資産」と呼べるのだろうか。それは単なる「消費財」に過ぎないのではないか――。
 海外の多くの国では日本とまったく状況が異なっている。冒頭、2人のドイツ人が示した驚きはそうした彼我のギャップから派生しているのだ。
 ドイツ南西部の街フライブルク。中央駅から路面電車で20分ほど郊外へと走れば、赤や青、黄色など色鮮やかな家々が連なる住宅街が見えてくる。ここはマイヤーさんとデレスケさんが住むボーバン地区だ。街に足を踏み入れると、すぐに2つの「違和感」に気付いた。
 住宅街なのに通りを車がまったく走っていないのが一つ。街の入り口2カ所に大きな立体式の駐車場があり、多くの住民はそこに車を置き、歩いて家路につく。だから家の前には駐車場はなく、ベビーカーや自転車を置くスペースがあるだけだ。
住宅街の入り口に作られた立体式の駐車場。脇には車の進入を禁止する標識が立っている
家の前にあるのは駐車場ではなくベビーカー置き場
 もう一つの違和感は屋根にある。ほぼすべての住宅の屋根全面に太陽光パネルが敷かれているのだ。マイヤーさんは説明する。

「家は金融商品と一緒。投資するものでしょ」

 「駐車場のスペース確保を考えなければ、家の設計の自由度は断然大きくなる。もちろん家の近くで子供が遊んでいても危険が少ないという点も魅力よ。それに太陽光パネルを設置したおかげで、月々の光熱費よりも太陽光発電による売電収入の方が大きいのよ」
 カーポートフリーと太陽光パネル。どちらもエコロジカルな生活を追求するのが主目的のように映るが、マイヤーさんの狙いはそれだけではない。「家は資産。金融商品と一緒。住み心地という質の追求と同時に、将来の価値を考えて投資するのは当たり前のことでしょ」。実際のところ、マイヤーさんの家の単価は今、16年前の購入時の2.5~3倍に上昇している。
自宅の屋根に設置した太陽光パネルを示しながら資産価値について説明するマイヤーさん
 ボーバン地区がユニークなのは、家の資産価値を高めるために、住民主体で街づくりを進めてきた点にある。住民らでつくる協同組合がデベロッパーよりも優先的に土地を取得。居住エリアごとに建築グループを作り、議論を交わしながら家や街の設計を固めていった。エリア内への車の乗り入れ禁止などはこうした議論の中から生まれた。
 現在、協同組合の代表を務めているのがデレスケさんだ。地下にコジェネレーションの発電機を設置することで、エネルギー消費量を大きく抑えることができる「パッシブハウス」に住んでいる。デレスケさんは「家づくりや街づくりの話し合いのために多くの時間を費やしたが、まったく後悔はない。こんな素晴らしい環境と資産を手に入れることができたのだからね」と胸を張る。
 ボーバン地区は先進的なモデルケースだが、前提となる「家は資産」という考え方はドイツ全土に浸透している。
 「我々は家を長く利用することについて、とても良い経験と伝統を持っていると思います。建築当時の寛容な雰囲気をそのまま漂わせている街のたたずまいに、そこに住む人々が強い愛着を持っていますよ」
 ドイツ最大のバイエルン州で内務大臣を務めるゲアハルト・エック議員はこう説明する。
 ドイツでは不動産市場のうち7割以上を中古住宅が占めている。十数%台にとどまる日本とは対照的だ。第二次世界大戦前の建物が今も住まいとして使われている。それどころか、天井までの高さが3m50cm以上の広々とした部屋の構造を採用した築50年超の物件が多いことから、戦前に建てられた住宅が、新築より高値で取り引きされているケースも少なくない。こうした日本とドイツの不動産市場の違いは建築物の構造問題に加え、土地政策に依るところが大きい。

住民も自由に家を建てられない!?

 ドイツは、自治体ごとに20年先までの大まかな土地利用計画「Fプラン」を策定することが義務付けられている。その上で、住宅や産業、交通など土地の用途ごとの詳細な建設計画を「Bプラン」として練り上げる。将来の人口動態などの予測を踏まえ、行政だけでなく、建設・建築業者や住民などの利害関係者が参加してプランを決めるのが特徴的だ。
 商業地域や工業地域でも家を建てることができる緩やかな日本の土地区分制度と異なり、「Fプラン」と「Bプラン」の拘束力は強い。
 ドイツの住宅事情に詳しいジャーナリストの村上敦氏は「たとえ地価が上がってもプランに記載されていなければ、住宅建設のための土地売買はできないことになっている。厳格に運用されるため、家の価値がきっちりと保証されることになる」と指摘する。 
 住民だけではない。行政や建設・建築業者もプランの内容に縛られるため、無計画に住宅地が広がることはない。この10年間の新築着工件数は年15万~25万戸。総住宅数は総世帯数とほぼ同水準の4000万戸超で推移している。需給がバランスしているため、最低でもインフレ上昇分は自動的に家の資産価値が高まるメカニズムになっている。
 翻って日本。新築住宅に関する制約がないため、不動産会社や建設会社は収益力が高く、投資回収が確実な新築ばかりを作り続けている。「20年で家の価値ゼロ」との慣習が幅を利かしているため、スクラップ&ビルドのサイクルが早く、それでも一定の新築供給量は消費されてきた。
 だが、総務省の調査では、2013年の総住宅数は6063万戸に上っている。すでに総世帯数の5245万戸を大幅に上回っているのにも関わらず、今でも年90万戸の住宅が新たに作られている。その結果、500兆円もの巨大資産が消失することになったのだ。

エネルギー問題から住宅政策を大転換

 ドイツが取り組んでいるのは、新築抑制だけではない。2000年前後から中古住宅の流通活性化にも力を入れ始めた。背景にあったのは、エネルギー政策の転換だった。エネルギー資源の9割を輸入に頼っていたドイツにとって自立は重要課題。将来的に原子力発電所をゼロにする目標を掲げる一方、太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーの導入を積極的に推進。同時に、エネルギー消費全体の4割を占める住宅の省エネ化に本腰を入れることになった。
「すでに建てられている家を取り壊して新たに建てるより、省エネ設備を入れるための改修・補修をすることで、コストを節約できる」(エック内務大臣)。こうした狙いから、ドイツでは新築向けに出していた補助金を廃止。その代わりとして、中古の改修・補修向けに手厚い補助金を付けることにした。住宅政策の大転換がうまく機能した陰には、EUで義務化された「エネルギー・パス」と呼ばれる住宅の省エネ評価制度の存在があった。
 同制度では、寒暖を防ぐ三重構造の窓ガラスなど家の改修によって生まれた省エネ効果を点数化。評価は不動産広告への記載が義務付けられている。点数の高低は家の資産価値に直結するため、住民らがこぞって中古住宅のリフォームに乗り出すことになったのだ。その結果、多くの建設会社や工務店がリフォーム・リノベーションへと業態を変えることになった。
ドイツ南西部の工務店で働く従業員ら。「最近は大半の仕事が中古リフォーム関連に変わった」と打ち明ける
 中古住宅を正当に評価する制度は日本にない。日本でのエネルギー・パス導入を呼びかけている日本エネルギー機関代表の中谷哲郎氏は「評価されないから、省エネ目的の改修・補修という形で中古住宅に投資するインセンティブが働きにくい。建物の価値を評価せず、中古向けにお金を出し渋る金融機関のスタンスにも問題がある」と訴える。

中古重視で示した実利

 ドイツでは当初、中古重視への住宅政策の転換に不動産・建設業界が反発した。が、その動きはすぐに鎮静化した。「中古に厚い補助金制度が意味のある経済政策だと認知された」(ジャーナリストの村上氏)点が大きかったとみられている。  
 村上氏によると、ドイツは2011年までの6年間で改修・補修関連の補助金として68億ユーロを支出。それに対し、消費税に当たる付加価値税として支出額の2倍以上の144億ユーロがリフォーム絡みで国に戻ってきた計算になるという。さらに大きな経済波及効果が不動産・建設業界に及ぶことになった。いわばドイツは実利を示すことで政策誘導に成功したのだ。
 「20年で価値ゼロ」との慣例によって、「資産」が資産にならない奇妙な国ニッポン。新築で家を買うということは極言すれば、大金を払ってわざわざ「借金」を背負っているようなもの。“Why Japanese people!”とドイツ人が指摘するところの真意に目を向ければ、我々を取り巻くまやかしの正体がおのずから見えてくる。
残念ながら子供の代まで資産として残すことができる家は日本には少ない

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